馬上槍試合 槍、メイス、魔力
白と黒の騎士たちの他に、八名の従者たちも残っている。
それどころか、クラスメイトらしき数名が駆け込んできた。スタッフ的な要員のようだ。
二名の騎士がそれぞれ馬首を
その間に、残りの従者たちと追加スタッフたちは観客席のほうへダッシュして来る。そして、観客からは死角になるところへ置いてあった物を、二人一組で持って馬場の中央へ運んでいった。
それは高さと長さのある柵で、何度も往復していくつも繋げた結果、馬場をその柵で観客席と平行に両断するような状態になる。サッカーコートで
その間に、騎士たちは槍と、盾を手にしていた。白の騎士は白い槍と盾、黒の騎士は黒い槍と盾である。槍は三メートルはありそうな長さだが、盾は小振りだ。馬上で扱いやすいようにだろうか。
「お嬢様、あの槍は試合用のもので、木製です。大きな負傷を防ぐため、折れやすく作られております」
ノヴァクが横から解説してくれて、エカテリーナはなるほどとうなずく。
そういえば前世の剣道で使っていた竹刀は、木刀での稽古でしばしば死傷者が出るのを憂いて、
なんちゃって歴女的に、信綱様は実在の剣豪の中では最推しだったので、フルネームばっちり覚えております。
あれは戦国時代にあたるのか、安土桃山時代なのだったか。ともあれ同じ近世のこの世界、こういう安全対策が考えられていてもおかしくない。
「そしてあの柵も、安全対策です。馬上槍試合と言っても使用する武器は様々ですが、槍で戦う場合、騎士は槍を掲げて馬を駆けさせ対戦相手と激突します。正面から衝突してしまうと生命の危険もありますので、皇国では槍で対戦する場合は、あのような柵を設けることを義務付けております」
「お教えありがとう存じますわ、ノヴァク伯。かつては馬上槍試合で多くの騎士が亡くなったと、本に書かれておりました。この学園でそのような事故が起こるなど、あってはならないことですもの。対策は大切ですわね」
うなずきながらも、柵で隔てられて闘う槍での試合がどういうことになるのか、見当がつかないエカテリーナである。
それを見て取ったのか、ノヴァクは言った。
「騎士たちはあの柵の別々の側を全力で駆け、槍で相手を突くのです。勝負は一瞬で決します」
……え。
馬で全力疾走して槍で突くの?人間を?
結局、危険行為ではないでしょうか!
エカテリーナが心で叫んだまさにその時、角笛の音が鳴り響いた。
馬場の端と端で、白の騎士と黒の騎士が、柵近くに馬を進ませる。白の騎士は観客席から見て手前、黒の騎士は向こう側だ。
白と黒の従者たちが旗を持って、柵の中央、どちらの騎士からも同じ距離の位置へ駆けてきた。
緊張が満ちてくる。
従者たちが柵を隔てて背中合わせになり、白と黒の旗を掲げた。
しん、と沈黙が落ちる。心臓の音が聞こえるような。
従者たちが、大きく旗を振り下ろした。
そして全速で走って離脱した。
騎士たちが馬に拍車を入れ、
白と黒が交錯する。
炸裂音が響き渡った。
一拍置いて、悲鳴と、怒号に似た歓声が湧き起こる。白騎士の盾が黒騎士の槍に粉砕され、白騎士が馬上から落下していた。
エカテリーナも、こらえきれず悲鳴を上げている。フローラも。
二人の少女は、思わずひしと手を握り合っていた。
ひ……ひええええー!
危ない、充分危ない!安全対策はとられているといっても、やっぱり近世ヨーロッパ風世界と二十一世紀日本では、安全のレベルが段違いだったー!
勝者である黒騎士は、砕けた槍を掲げている。馬場の柵外にいる男子たちは、勝者に喝采を贈っている。観客席の女子たちも、胸に手を当てて動悸を抑えている者も多いものの、勝者に拍手を贈る者もいた。
落馬した騎士の元には、白の従者と、スタッフ要員たちが駆け寄っている。ほっとしたことに、騎士はすぐに立ち上がった。思えばそもそもの安全対策として、騎士たちは甲冑で防御しているのだった。
安堵して、エカテリーナはフローラと共に、勝者と敗者双方に健闘を称える拍手を送った。
次も同じく槍の試合があり、黄の騎士と紫の騎士が闘って、黄の騎士が勝利した。
すると従者たちとスタッフ一同が再びダッシュして、柵を撤収し始める。
それを見て、ノヴァクの向こうにいるアーロンが、エカテリーナに声をかけてきた。
「お嬢様、次は魔力も使った闘いが見られるようですよ」
「まあ!」
そ、そうか。この世界、魔力での戦闘こそが、貴族の本分。存在意義とさえ言える。
さっきみたいな疾走しながらの一瞬の攻防だと、魔力に意識を向ける余地がないから肉弾戦になるけれど、別の武器なら魔力も使っての闘いになるのか。
緑の騎士と
どちらも、武器は
おおー、騎士らしい武器が!
そして試合が始まると、アーロンの言った通り、魔力と武術を取り混ぜた闘いとなった。
朱の騎士は風属性の魔力の使い手。突風を起こして相手の動きを妨害し、
対する緑の騎士は、水属性の魔力の持ち主だった。
しかし段々、朱の騎士の動きが鈍ってきた。ぐらりと馬上で身体が揺れたところへ、緑の騎士の
落ちると共に甲冑の継ぎ目から、バシャッ!と水が流れ出た。兜からも。
あ……緑の騎士、相手の甲冑の「中」に水を流し込むのが狙いだったのか。
継ぎ目からすぐ流れ出るとしても、兜の中に水が入り込んできたら、さぞ息苦しいだろう。
クレバーな闘い方だわー……ルールとか、騎士道とか的に、いいのかしら。
「見事な制御です。武術の実力も魔力量も敗者のほうが上だったようですが、魔力は使い方次第という好例ですね」
アーロンが感心していた。卑怯とかでは全然ないらしい。
なんなら、土属性の魔力でゴーレムを作って闘わせて、自分は隅っこに逃げていても全然OKだそうな。
……そういえばアーロンさん、土属性ですよね。経験者……?
ともあれ、エカテリーナは周囲の生徒たちと共に、健闘を称えて拍手を贈った、
そして。
最終戦。
腰に長剣を佩いた、アレクセイとニコライが現れた。
予約投稿の設定を間違って、書きかけの次回更新分を同時に投稿してしまいましたので、いったん削除しました。すみません!
ちゃんと書き上げてから投稿し直します。