一番大事なのは自分らが好きであること。なぜなら好きやからって、それが一番
MCバトル日本一のラッパーR-指定と、ターンテーブリスト&トラックメーカーDJ 松永によるヒップホップユニットCreepy Nutsが、ミニアルバム『よふかしのうた』をリリース。聴けば聴くほど掘り起こされていくトラック、そして紐説かれていくリリック――音が鳴った瞬間に確固たるCreepy Nutsの世界が現れる全6曲。今作についてはもちろんのこと、一小節にかける想い、そしてヒップホップへの想いを2人にたっぷり話してもらった。
■今回のミニアルバムのイメージは何かありましたか?
R-指定 イメージというよりは、出来ていく曲をひとつのパッケージにするならば、というところから、足りない要素を足していって、それが自然とうまくつながっていった感じですね。去年フルアルバムを作り終えてから作り溜めていたんですけど、その曲たちに内容やテイストが近くて、糸でつながっているような色というか、ひとつの作品に収まるべくして出来た曲たちやなって。
■なるほど。
R-指定 “よふかしのうた”は夜を人に例えているし、“阿婆擦れ”はヒップホップを女性に例えているし、“生業”もヒップホップや自分のラップスタイルのことを歌っていたり、何かしら共通点みたいなものがあって、それがひとつにまとまったなという感じではありますね。
■ミニアルバムのタイトルを“よふかしのうた”にしたのは?
DJ松永 タイトルは結構考えたんですよ。
R-指定 この曲はオードリーさんのツアーのテーマ曲で、10周年のテーマということで依頼を受けて。「オードリーの『オールナイトニッポン』に出てくるようなワードが入っていたら楽しいかも」、みたいなことを言われて、自分でもラジオのことは歌いたいと思っていたんですけど、結果、超マジな曲になってしまって。
DJ松永 気合いが入り過ぎた結果、俺たちにとっても一生背負いたいと思える曲にしなければなって。
R-指定 企画的な感じで終わりたくないというか、企画のノリみたいな、そういうものにするよりかは、もっと芯の部分で書いたっていうのがデカいかな。
■超本気の1曲ですよね。
R-指定 ちょっとマジになっちゃって。端的にラジオのことを言っちゃえば済むんですけど、それを言わずにあの世界観と、俺たちが受けてきた影響と、俺たちが今やっていること、そういうのを全部踏まえたうえで、どの塩梅がいいかを考えたとき、これはもう“夜更かし”やなって。ラジオやったり、ヒップホップやったり、今の自分を構成しているものって全部夜更かしをしたときに受けたものばかりだし、夜更かしをすることの背徳感やわくわく感、そこでしか見せない人の側面っていうところにも魅力を感じているんで。“よふかしのうた”が一番しっくりきたかなって。
DJ松永 ヒップホップ的に“よふかしのうた”的なところがすごくあるんですよね。中学の頃、不良の文化の音楽を聴いてヒリヒリ感を感じたり、クラブに行ったり、深夜ラジオを聴いたりして、危ないものに接している感じにわくわくたり。そういうところがヒップホップに通じるというか、ヒップホップ自体が“よふかしのうた”だから、“よふかしのうた”っていう冠が背骨になった感じですね。
R-指定 思春期の頃からずっと聴いてきましたからね。
DJ松永 中2からですね、ラジオを本格的に聴き始めたのは。
■中2くらいですよね。学校とか大嫌いで楽しくないし。だから深夜のラジオだけが楽しみだったし、救われていました。
DJ松永 そうそう、深夜ラジオって現実世界と離れていて、別世界なんだけどドキュメントというか、世界がふたつ出来る感じだから、片方の世界でうまくいかなくても拠り所が出来るんですよね。家に帰ってからまた別の世界にいけるんだと思うと、学校しんどいけどラクになれたりもするし。
■ほんとそれです。
R-指定 この曲の書き出し、すごい迷ったんですよね。1回書いたラップも全部書き直したくらいで。最終的に決まった「ガキの頃から夜が好きだった/9時に寝るのは何か嫌だった/なんと無くただ勿体無かった」っていうのは、俺の夜に対してのマジなイメージで。俺、めっちゃ夜が好きなんです、ほんまに。超夜型やし、子どもの頃から夜に対する何かがあって。
DJ松永 Rさんの生活リズムは、夜が一番ホットな状態になるように整えられてるからね。(笑)
R-指定 18歳くらいの頃からそうなったんだよね。子どもの頃は9時に寝なさいって親にずっと言われていて、「黙っとけ、おまえらまだ起きてんねやろ、ズルいわ」って。(笑)
DJ松永 好きなテレビ観てるしな。
R-指定 そう、「好きなテレビ観ててズルッ!」って。それから小学2年くらいのときに自分の部屋にテレビを置いてもらって、「寝るわ、おやすみ」って言ってから、真っ暗な部屋で隠れてテレビを観るということを覚え始め、10時とか11時に眠たくなって寝てしまうんですけど、なんとか11時まで起きてたときは「ちょっと俺大人ちゃうん?」みたいな。
■すっごいわかります。
R-指定 初めて12時またいだのが中2のときで、それはオールしたとき、初めて朝5時まで起きてたときなんですけど、めちゃめちゃ達成感があったし、そのまま寝不足で学校行ったとき、俺めちゃくちゃ男前やなって。(笑) それを俺は思い出したんですよ、この曲を書くときに。
■なるほど。
R-指定 オードリーさんから話が始まって、自分らもラジオやっているし、だから今のことを書こうとしたんですけど、いや、ちょっと待てよ、「夜更かし」っていったら俺がこんだけ夜が好きになって、夜型になってしまった元の元を正さないとって。(笑) ほんまに9時に寝るの嫌やったし、それで結局は夜が好きになったし、全部夜に起こってるなって。音楽もエロいことも、初めてたばこを吸ったのも、今につながることは全部夜に起こってるなって、だから今、我が物顔で昼夜逆転の生活が出来るってほんまうれしいんですよ。(笑)
■ふふふ。“よふかしのうた”って、ひらがななのは何か理由があるんでしょうか。
R-指定 最初ひらがなで書いてて、別に漢字でもよかったんですけど、なんかひらがながよかったんですよ。自分の中で据わりがよかったというか。
■YouTubeのコメントを見てたら、みなさんいろいろ深読みされていて、その中で「ふかし」は「不可視」で、=ラジオのことなんじゃないかって、それがすごくおもしろいなって。
R-指定 なるほどー!(笑)
DJ松永 え、じゃあ「よ」は?
■「よ」は、「夜」か「世」?
R-指定 あー、なるほどー。
DJ松永 深読みだなー。(笑) でもそれくらいのことは結構やってるんですよね、実は。
■そうですよね。
DJ松永 だから、そういう深読みをされてもおかしくはないんですけど。
R-指定 でも深読みされるのいいっすね。気持ちいいっす。(笑)
DJ松永 深読みされるってことは、そういう人たちに認められたってことでもあるしね。
R-指定 うん。逆に読み取ってほしいところはまったくスルーとかね。
DJ松永 全然あるね、おまえそこわかれよって!(笑)
R-指定 そこわかれよ!っていうのは全然あるんですけど、いいっすね「よふかし(夜、世、不可視)」って。
■いいですよね。そういう意味でいうと“阿婆擦れ”の出だしの「俺はキープかアッシーか?/所詮はSucker MCか?メッシーか?」の部分の“Sucker MC”と“メッシー”も“Sucker MC=未熟なMC”と“メッシーくん”、“サッカー”と“メッシ”をかけているのかなって。
R-指定 そうです!そうです!うれしい、気持ちいい!
DJ松永 気持ちいいね!
R-指定 もうひとつ言うと、ある人がフリースタイルラップが上手いっていうのは、リフティングが上手いのと同じで、試合が上手いってことではないって言っていて。だからフリースタイル上手い奴が、曲がいいとは限らへんっていう例えでもあって。そういう意味でも“Sucker”は使えるかなって。
■なるほど。ここまでいろんな意味を持たせるとなると、歌詞を書くのに相当な時間がかかりますよね?
R-指定 かかりますね。言い回しとかパッと思いついたりするときもあるんですけど、それをひとつにつなげるとか一番いい場所にハメるとか、これが大変なんですよ。
DJ松永 ちゃんと韻も踏みつつ、ラップの歌唱法として演奏も上手くしなくてはいけないっていう足枷もすごいんですよね。
R-指定 だからこそハマったときはすごく気持ちいい、快感なんですけどね。