安倍晋三元首相の後援会が主催した「桜を見る会」前日の夕食会費補填(ほてん)問題は、政治資金規正法違反で略式命令を受けた元公設第1秘書の刑事確定記録から新たな問題が次々と明らかになっている。
サントリーが3年間で計約45万円分の酒類を夕食会に提供していた。公職選挙法の違法献金に相当する可能性がある。検察は、参加者に寄付を受けた認識がなかったとして立件を見送った。そのような判断でよかったのか。
立件されなくても、安倍元首相にとっては、政治家としての進退に関わる重大な問題だ。政治責任を踏まえて国民にきちんと説明すべきだ。
元秘書は、2016~19年の合計3022万円についての政治資金収支報告書への不記載の罪で略式起訴された。4月にも、安倍氏の不起訴に疑問を抱かせる事実が報じられた。確定記録によると、補填は13年、安倍氏が2度目の首相になって最初の開催の時に始まった。この時、秘書らは差額負担が公選法上の寄付になるとの認識を持っていた。夕食会は毎年開催されてきた。安倍氏は本当に知らなかったのだろうか。
酒類提供はなぜサントリーだったのか。14年にサントリーホールディングス社長に就任した新浪剛史氏は、安倍氏と会食やゴルフをする間柄として知られていた。無償提供を安倍氏が知らないということがあり得るだろうか。
この問題が明らかになり、弁護士らの刑事告発を受けて東京地検特捜部が捜査した。特捜部は20人超から聞き取りを行い、寄付の認識がなかったとして公選法違反の立件を見送った。検察審査会が「不起訴不当」を議決したが、検察は聞き取りを追加しただけで同じ結論とし、捜査は終結した。かつてうちわやカレンダーを配っても大問題になった。検察の判断に改めて疑問を呈したい。
何よりも問題は安倍氏の政治責任だ。安倍氏はこの問題について国会で118回もの事実と異なる答弁をした。国有地が8億円余りも値引きされた森友問題でも139回の虚偽答弁があった。参院選広島選挙区の買収事件での自民党本部の関与も明らかにされていない。健康上の理由で首相を退陣した安倍氏だが、国会での追及を逃れるためだったとの見方も否定できない。
安倍政権と次の菅義偉政権は、官僚などの人事に介入して行政をゆがめてきた。内閣法制局長官を代えての憲法解釈変更、日本学術会議に対する任命拒否などがその例だ。当時の黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題が示すように、検察も例外ではない。人事で検察の判断がゆがめられていないか懸念を拭えない。
岸田文雄首相も、安倍・菅政権からの問題を棚上げして不誠実な姿勢を踏襲している。参院選を前に論戦が行われている国会で、これらの未解明の問題の追及にも力を注いでもらいたい。