検 索 番組表

ザ!世界仰天ニュース

毎週火曜 よる9時00分~9時54分 放送

1500億円 かぼちゃの馬車の真実

2022.06.07 公開

2億円もの借金を背負ったごく普通の会社員。自己破産するか、死んで家族に金を残すか悩み、あるベテラン弁護士が救った実話を再現ドラマで紹介した。

2016年8月、都内に住む冨谷皐介(とみたにこうすけ)氏は大手家電メーカーで働き、妻と2人の娘をもつ、ごく普通の会社員だった。 

ある日、古くからの友人から小さな不動産会社をやっているという男性を紹介され、「実は今、シェアハウスって結構流行ってるんですね。女性専用のシェアハウスを建てて、その家賃で副収入を得るっていう方が増えてるんですよ」と持ちかけられた。

それは、女性向けのシェアハウスとして何部屋かある大型の家を建設し、オーナーになりその家賃収入を家計の足しにしてみては、という内容だった。
 
シェアハウスとは一つの住宅で複数人が暮らす賃貸物件。自分の部屋はあるが、キッチンやリビングなどが共有となることで、通常の賃貸物件より安く借りられるものだ。冨谷氏は娘の進学を控え老後の心配もあったが、いきなり大きな家を建てて大家になることは考えられなかった。

そのことを伝えると不動産屋の男は「わかります。でも今サブリースというものがありまして入居者の募集や管理も全て不動産がやってくれるんですよ」と、サブリースと呼ばれるオーナーから物件を一括で借り上げ、それを入居者に貸し出す仕組みについて説明。

サブリースを使えば不動産業者への費用は差し引かれるものの、毎月サブリース料として一定金額が保証され、オーナーは物件の管理や空室の心配をすることがなくなるという。

確かにそれなら手間やリスクは少ないが、冨谷氏は「なによりそんなお金がないよ」と断ろうとする。が、不動産屋は「この投資、自己資金が0円でも銀行から融資が受けられるんです。もちろん銀行から融資を受けるという事ですから借金にはなります。ですが頭金はいりませんしローンはリース代から支払えば問題はない」と言う。

説明によれば、ローンを組んだとしても毎月の返済額はサブリース料で賄え、プラス収益も望めるという。 不動産屋が言うにはシェアハウスは30年の家賃保証がつき、30年後には返済が終わり、シェアハウスはそのまま自分のものになるという話だった。

そのシェアハウスを運営するスマートライフという会社は急成長を遂げており、この女性用のシェアハウスも社会貢献に向けた事業と謳っていたという。

その内容は地方などから上京してきた女性入居者と企業を結び付けるサービスがあり、入居者には提携企業への就職の斡旋を行い、逆に企業には人材や顧客を紹介し、その仲介役をスマートライフがするというものだった。さらにすでに都内にはシェアハウスが何棟もあり、その9割の部屋が埋まっている状態だというのだ。

冨谷氏は資料を読むうちに「本当にいい話なのでは?」と思い、スマートライフのオフィスへ説明を聞きに出向く。

説明では、シェアハウスのブランド名は「かぼちゃの馬車」という名前で、世田谷区祖師ヶ谷大蔵に建築予定の1憶8700万の物件を紹介してきた。

完成後、運営が始まるとサブリース料として毎月100万円ほど入金され、ローンを月に80万ほど返済したとしても毎月20万円くらいがプラスになるとのこと。

後日、2億円の融資の審査が通ったと連絡をもらう冨谷氏。

普通の会社員でありながら2億円もの融資が下りたことを冨谷氏は疑問に思いながらも、「きっと、この投資は家族の為になる…」と、融資を受けるためある地方銀行へ赴いた。

当時、その地方銀行は個人投資に力を入れており、業績を伸ばしていたという。融資には様々な契約書があり冨谷氏にとってどれもが初めて聞くものばかりで、思ったより量も多く、とにかくサインに必死だったという。

実はシェアハウスが完成するまでのローンの返済は、融資とは別に同じ地銀で組んだ1000万円のローンで賄うことになっていた。冨谷氏は合計2億円近い融資を受けそれを支払ったことで建設が始まったが、サブリース料は完成してからしか入金されないので、その間のローンの返済のためにさらに1000万円を借りることになっていたのだ。

この契約から約7ヶ月後の7月1日。シェアハウス完成の2か月前、耳を疑う出来事が起きる。

建築関係の仕事をしている友人とシェアハウスを見に行くと、友人は建設途中の家を見るなり「率直に言って高すぎると思う。土地が仮に1憶だとして建物は高くても3000万、おそらく合計で1憶2、3000万が妥当だと」と冨谷氏に伝えた。

その時冨谷氏は不安を感じたそうだが「サブリースが始まればマイナスになるわけじゃないし、きっと大丈夫…」と言い聞かせたという。

そして2017年9月、シェアハウスが完成。これでようやく収入が見込めると考えていた頃冨谷氏のもとに2通の手紙がスマートライフから届く。

一通目は社名をスマートライフからスマートデイズに変えるというもので、3週間後に届いたもう一通には一回目の支払いからサブリース料の入金額が減らされるというものだった。

冨谷氏は妻にも事情を話し、すぐにスマートデイズに説明を求めると「かぼちゃの馬車」のオーナー全て10月からリース料が減額となっているという。

その大きな原因は入居率にあり、実は9割の入居率と謳っていた「かぼちゃの馬車」には実際には4割ほどしか入居者がいなかった。

冨谷氏はすぐにネットなどで詳しく調べると、同様にシェアハウスのサブリースを行っていた業者が倒産し、オーナーが多額の借金を抱えている事例がいくつもあったという。

もしも、スマートデイズが倒産した場合、約2億円の借金を背負う事になるかもしれない。そう思った冨谷氏は物件価格が下がる前にシェアハウスを売らなければと知り合いの不動産業者に相談。すると、購入したシェアハウスは友人が言った通り1億円ほどの価値しかないと言われた。

融資を受けた時の金利は年3.5%。30年のローンを組んだ冨谷氏には毎月84万円もの支払いがあった。冨谷氏は銀行に対してローンの金利を下げてもらおうと交渉するも、明確な回答は得られず。

冨谷氏は次第に「自己破産しかないかもしれない」と思い始め、さらには「自分が死んで保険金を」とまで考え始めたという。

しかし、「どうせ死ぬなら戦ってからにするか」という思いが芽生えた。同じ境遇の仲間を集め、団結しようと考えたのだった。

そして年が明けて2018年1月、スマートデイズがオーナーに向け説明会を行ったが、そこで告げられたのはサブリース料が下がるどころかゼロになるということだった。つまり、オーナーはただただ億単位のローンの返済をしなければならない。冨谷氏は被害者となったオーナーたち120人ほどに連絡先を渡した。

そして80人近いオーナーで情報の共有が行われ、平均1憶3000万円もの融資を受けていることが判明。さらに、ほとんどの人が同じ地銀から融資を受けていたことがわかった。

冨谷氏はすぐに弁護士に相談。しかし、証拠もなく銀行を相手に戦うのは難しく、弁護士も見つからず苦戦していた。

と、そこにバブル時代に敏腕のビジネス弁護士として名を馳せ、数々の大事件を手がけた河合弘之弁護士が現れた!河合弁護士は、娘の婿が同じくこのシェアハウスに投資していたため、冨谷氏たちの訴えを聞き、弁護を引き受けることに。

そして河合弁護士は、まさに奇策とも言える作戦を次々に提案。

河合弁護士の作戦は不動産業者と戦うのではなく融資を行った地銀と戦うというものだった。冨谷氏らが買わされたシェアハウスを地銀に引き取ってもらい、借金を帳消しにするという作戦を提案。「民事訴訟はしない。裁判に持ち込まれると長期戦になり、その間に我々の方が耐えられなくなってしまう。直接交渉で行く。だから皆さん、同じ被害に遭った仲間を集めて数で戦いましょう」と鼓舞した。

そして河合弁護士は「銀行との間で何らかの不正があったでしょう?その証拠を出してください。協力してくれないと、あなたたちを訴えることになりますよ」と、スマートデイズに直接、不正を行った証拠提出を求めることに。

一方、冨谷氏達もこの投資にかかわる契約書類を建築会社などから回収。

そして、重大な不正を発見!

それは契約の際に提出した自分の通帳の預金額が大幅に書き換えられていたこと。当時、冨谷氏は3万円しかないはずの口座を銀行に提出していたのにもかかわらず、それがなんと3000万円台に書き換えられていたのだ。

そしてシェアハウス投資で起きていた一連のことが見えてくる。

当時、スマートデイズは実際の相場よりもかなり高い賃料や入居率を設定したシェアハウスをオーナーに建てさせ利益を得ていたが、実際には入居者が集まらず、サブリース料を支払うために自転車操業のような状態となっていたという。

そのため、通常では融資の審査が通らないようなオーナーの預金残高などの書類を偽装し、融資を進め、実際の相場よりかなり割高なシェアハウスをオーナーに建てさせ利益を得ていたのだ。

一方で地銀は、その不正に多くの行員が気が付きながら黙認し融資を実行、中には行員が業者に能動的に書類の改ざんなどをはたらきかけたり、自ら改ざんするケースもあったという。

こうして2018年3月弁護団と地銀との直接交渉が始まった。

しかし、交渉はまとまらない。河合弁護士の次なる作戦はデモを行って世論を味方につけること。オーナーたちが街角に立ちデモ活動を行う矢先、別の団体にいたオーナーの一人が借金を苦に自ら命を絶ったと河合弁護士に連絡が入る。

河合弁護士は地銀にさらなる交渉を求めるが、地銀側からは1通の書類を見せられた。それは自己資金確認資料に相違がないことを確約する書類で、オーナーは契約の時にサインをしていたという。

いつ終わるかわからない戦いにくじけそうになる中、粘り強く訴え続けるしかなかったオーナーたち。

その矢先、新聞に1つの見出しが。

それは『通帳改ざん複数行員認識 投資トラブル 金融庁が処分検討』というもので、ついに金融庁もこうした被害に向けて動き始めたのだった。

そして2018年5月15日、問題が発覚して半年、地銀は改ざんを認識していたと認め謝罪。さらに第三者委員会による徹底した調査も行われ、その地銀はノルマ達成のプレッシャーなどから、問題はあると知りつつも業者に依存していたこと、数字第一主義という当時の企業風土が不正をまん延させていたことなどが今回の原因となったと指摘している。

これを受けその地銀の会長ら5人が辞任。金融庁から半年間の一部業務停止命令を受けることになり、組織的な不正行為への関与が認められた。

これで解決となると思っていた冨谷氏たちだったが、被害者オーナーたちへの代物弁済には地銀は応じていなかった。このままでは億単位の借金は残ってしまう。

そこで、冨谷氏は当時一株、約500円だったその地銀の株を1人100株5万円ほどで買い、株主となって株主総会に出るという作戦に出る。これにはオーナー200人が賛同し株券を購入。

オーナーたちは、1か月かけ株主総会で発言するルールや拍手の方法、さらには質問の仕方などを練習した。

そして本番では河合弁護士が立ち上がり、「自殺した仲間がいます。それくらい深刻なことなんです。自分の息子や娘がそんなことになったらどうかと考えてください」と発言。すると一般の株主たちからも
『やり過ごして、それで終わりという事ではやっぱり今後この銀行の将来は危ういと感じる』『被害者ではないが決して他人事ではないというか非常に悲しく感じている』などの声が上がった。


株主総会から1か月後。代物弁済での和解を前向きに考えるという返答が地銀から河合弁護士の元へ入る。ついに2020年3月、オーナー団体257人分の借金約440憶円を地銀が帳消しに。

さらに今年3月、冨谷氏以外のオーナーたちの借金に対しても代物弁済が認められ、総額約1500憶円もの借金が帳消しとなったのだ。

一時は死を覚悟しながら仲間たちと闘いぬいた冨谷氏は今、消費者問題をサポートする団体を設立。同じような被害にあう人を少しでも減らしたいと活動している。

さらに、当番組より今回の不正融資問題について地銀に対し取材を申し込んだところ「当社からのシェアハウス向け融資に際し不正行為により損害を被られた債務者の皆様には大変申し訳ないと考えております。現場にもコンプライアンスの尊重、再発防止を徹底して二度とこのような事件が起きないように適切な業務運営を行っていく所存です」という回答が。また現在は経営陣も入れ替わり再生に向け努力しています、とのことだ。

この記事を
シェアする