減り続ける消防団員 統合・廃止のいま、求められる役割とは

小川聡仁
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 地域防災を支える消防団員が減り続けている。高齢化もあり体制を維持できず、統合や廃止となる分団も新潟県内で相次ぐ。存続に向けた試みも行われる中、役割や意義が問い直されている。(小川聡仁)

 「維持していけるのか」。妙高市の新井方面隊第13分団長の古川要一さん(49)は消防団の存続に危機感を抱いている。

 旧新井市の南部地区を担当する13分団に古川さんが入ったのは16年前。当時約40人いた団員はいま31人。高齢化も進んでいる。4月には、団員減がより深刻な二つの分団が合流する。団員は20人ほど増えるが、管轄する地区は4から26になり、面積は倍以上になる。

 平時の業務は、夜間の見回りや年数回実施する高齢者施設の防災訓練のほか、冬季には消防倉庫の雪下ろしもある。同分団は昨年、団員減で当番の頻度を増やしたばかり。団員からは今でも「負担が重い」との声があるうえ、統合先ではこれを機に「辞めたい」と複数のベテラン団員が漏らしているという。古川さんは、団員の説得や負担軽減の方法がないか考えているが「負担は大きくなるばかり。頭が痛い」。

 統合で拠点が少なくなれば初動が遅れ、救える命が救えなくなるおそれもある。管内の除戸地区では2019年10月の台風19号災害で国道が冠水、多くの団員が出動し、地元住民の誘導などにあたった。勧誘され、知人もいるからと入団したという古川さん。いまは地域防災を支える消防団の活動に使命感を抱いている。「何とか次世代の団員につなげたい。投げ出すわけにはいかない」

 3市町村が合併した現在の妙高市。05年4月に1101人いた団員は、21年4月には855人に減少。特に直近5年間で100人以上減り、平均年齢も40代に上がった。今春にはさらに約50人が減る見通しだ。一部の分団では活動継続が難しくなっているため、市は隣接地域の統合を進め、今年4月から現状の33分団25部の体制を見直し、29分団14部に再編する。

 同様に団員減に悩む三条市は20年4月に22分団98部を再編し、13分団に統合、部を廃止した。それまで部の3割以上で欠員があり、半分以上が欠員の部もあったという。同様の動きは長岡市柏崎市などでもある。

 県内の消防団員は計3万4323人(21年4月時点)。前年比1139人減で減少幅3・2%は全国最大だった。県消防課の担当者は、高齢化や人口減のほか、地域への帰属意識が薄れていることなど複合的な要因が背景にあるとみる。「仕事の融通がききやすい農家などの自営業が減っていることも影響している可能性がある」とする。

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 団員確保や負担軽減のための取り組みも進む。

 団員数が定員の約75%にとどまる三条市は、21年春に市立大学が開校したのを機に「学生消防隊」を発足させた。市消防本部を中心に学生への広報活動などを行い、男子13人、女子3人が入隊した。物資輸送訓練や心肺蘇生法を学んでいる。1年以上の活動実績があれば、就職活動にも使える証明証が発行される。

 工学部1年の菊田大亮(だいすけ)隊長(20)は福島市出身。11年の東日本大震災では、自宅近くで懸命に働く消防団員らの姿を見て、「かっこいい」と感じた。活動は月1回の半日~1日程度で、学業との両立も出来ている。「いざという時に救命や救助に動ける人になりたい」と話す。

 長岡市は21年1月から消防団員の定年を60歳から70歳に引き上げた。同年3月末に退団予定だった11人が残り、定年で退団した1人が再入団したという。柏崎市では19年、引退した消防士を対象に、大規模災害時などに出動する隊を発足。21年度は60~67歳の元消防士17人が所属している。

 京都府綾部市には、重機やアマチュア無線資格など特殊技能を持つ団員を集めた「ハイパー消防団」がある。阪神・淡路大震災や、04年の台風23号による由良川氾濫(はんらん)の被害での教訓を生かそうと発足。これまで出動実績はないが、分団員を兼務する形で68人が所属する。移動式クレーンなどを扱う「重機隊」、アマチュア無線などを活用する「偵察隊」、応急処置ができる「救護隊」、大型船舶免許などを持つ「水難救助隊」など5部隊がある。

 東京消防庁は、消防団用のスマホアプリを導入している。団員への出動要請や写真の位置情報の共有のほか、出動報告書の自動作成もでき、事務作業の負担も減らせるという。アプリを提供するタヌキテック(京都市)によると、22年度中に全国20の消防や自治体で導入される予定だ。

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 消防団に期待される役割は、「消火」から「災害」への対応に変化している。消防団に詳しい関西大の永田尚三教授(消防行政)はこう指摘する。

 永田教授によると、1960年代後半から全国に消防本部が設置されるようになり、それまで消防団が担っていた消火活動は消防本部が中心となった。一時は「不要」と言われることもあったが、再評価のきっかけとなったのが、95年の阪神・淡路大震災。早朝に地震が発生し、多くの住人が倒壊した住宅の下敷きになった。地元住人からなる消防団員が、住人の就寝場所を知っていたことで救助につながった事例が多かったという。2011年の東日本大震災では、避難誘導など住民を守ろうとした多くの消防団員が死亡・行方不明となった。

 永田教授は「担い手不足の問題は数十年議論が続いているが、根本的な解決には至っていない」とする。背景には、遠方へ通勤する会社員が増えたことや、少子高齢化などがある。また、昔ながらの上下関係といった閉鎖的な体質や、競技化された厳しい訓練などを若者が敬遠していることも挙げる。

 ハードルを下げ、学生や女性にも担い手を広げようとする取り組みは「裾野を広げるという意義があるが、災害時の対応という点では役割は限定的にならざるを得ない」。多くの市町村の団員の定数は、消防団が消火の主要な担い手だった頃に作られたもの。役割が変わった今の時代にあっておらず、見直す余地があるという。

 「無理して人を集めるよりも、士気の高い団員の専門知識を高めるべきだ。専門性を高めることで、団員自身が巻きこまれるリスクも減らせる」

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 〈消防団〉 消防組織法に基づき、ほぼ全市町村に設置されている。地域住民が本業の傍ら団員を担うことが多く、市町村の非常勤公務員となる。平時は訓練などを積み、消火活動や災害時の避難誘導、地域の見回りなどにあたる。団員には市町村から年額報酬(全国平均約3万円)が支払われ、出動報酬も支給される。

 江戸時代の町火消しが起源とされる。1954年度に約202万人いた団員は、21年4月時点で計80万4877人となり、過去最少となっている。