インフィニット・ソード
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SCENE11「再開」
ネオファリア仮設部署に置いて、一夏はネイナにある物を渡していた。
「じゃあ、お願いしますネイナ博士」
「ええ、任せて!」
一夏は、自身の待機状態であるユニコーンをネイナへ手渡したではないか。
ここだけの話し、ソードの待機状態はパイロットのDNAと繋がっているため、パイロットが念じれば待機状態のソードは何処だろうとテレポートしてパイロットの手元へ戻ってくるという仕組みだ。
最初は慌てていた彼も、ネイナから説明を受けたことで一安心し、今後は二度と姉貴から取られないよう厳重にネイナに保管してもらう事にしなというわけだ。
「それにしても、一夏軍曹もあんな暴君姉さんに振り回されて本当にタジタジよねぇ?」
「もう慣れましたからいいんですけど……」
「それよりも、軍曹?」
すると、ネイナは少しだけ真顔になった。
「確か……今日から、貴方のいるクラスに転校生が来るっていう話よね?」
「そうみたいですよ」
「その名前がね『シャルル・デュノア』って名前なの」
「へぇ……」
興味ないような感じでいる一夏だが、その続きをネイナはずれた眼鏡を上げ直してから淡々と続けた。
「出身地はフランス、そもそもフランスにはデュノアという大手企業が存在するのよ。フランスでデュノアっていうと、``ルノー``の次にフランスを支えるISの大企業。その企業が貴方や他のソードのパイロットたちがいる一組の教室へ入ってくるっていうのはどうも怪しいのよね……」
「考え過ぎじゃないですか?」
姓が被っただけでは? と一夏は思った。
「いいえ、私自身でいうのもなんだけど……SWORDって予想以上に世界で評判が半端な異らしいのよ。昨日なんてISを主力期間を短縮してソードへ乗り換えようとする各国が増えているの。イギリスだって、SWORDの量産機種が売り出されれば真っ先に買うっていう予約もしてあるし、アメリカなんてなおさらよ。性別関係なく使えて、核の脅威にも対抗できる、それがSWORD。
私もそういった驚異の防衛力に手向けた兵器を前提にSWORDを開発したまでは良いけど、ここまで影響が強いだなんて考えもしなかったわ……ちなみに、東側各国は未だにISを使っているらしいけど、IS学園で見たブルーティアーズ戦や甲龍戦も兼ねて、ISからSWORDへって考えを持つ国々が出てきて少し驚いたわ」
自画自賛というわけじゃない。むしろ、予想をはるかに超えてしまい、ネイナ本人は困っているように見えた。
「核やISに対しての国家防衛のためにSWORDを作ったはずが、こんなことになるなんてね……」
「博士……」
一夏は、そんなネイナの後ろが寂しく見えた。彼女だって、大量破壊のためにSWORDを開発したわけじゃなく、国を守るためにという前提でSWORDを開発したはずが、これ以上に兵器として大量に買われてしまっていることに戸惑いを隠せないのだろう。
「さ、朝のホームルームが始まっちゃいそうだし、軍曹もはやく准尉たちと行きなさいな」
いつもの笑顔に戻るネイナに、一夏も心を切り替えて学園へ向かうことにした。ネオファリアの面々はそれぞれ椅子や席について、千冬が教室へ入ってくるまでの間を待ち続けていた。
千冬も千冬で、国連軍のお偉いさん方にこっぴどく言われただろう。何せ、ユニコーンを窃盗したという行為に走ったことは言うまでもない。一様、一夏の姉という立場と彼女が篠ノ之束の関係者という位置づけから、警察へ通報するのは控えたという。
千冬が教卓へついたころには、昨日のような気の強さは少しばかり失せているように見えた。
「えっと……」
千冬の表情をはじめ、どんよりした空気が一組の教室に漂うも、気を取り直して山田はこれから転校してくる新しいクラスメイトのことを紹介し始めた。
「今日は、転校生を紹介しますね」
「転校生?」
一夏や他の生徒たちはその言葉に首を傾げた。何せ、この時期に転校生とはどうも珍しすぎるからだ。
すると、転校生と思わしき生徒が教室へ入り、教卓の前に立った。それは……一人の男子だ。
「男――?」
背後から、彩夏はそんな転校生の少年? を目に疑問交じりな一言を発する。
「ああ、そう――なのか?」
「フランスから来ました、シャルル・デュノアです!」
「名前からして、男の子――のようだな」
フランスでシャルルというのは男性名である。キースはともかく日本人の彩夏には聞きなれない名前であった。
だが、そんな疑問などそっちのけでシャルルに対する周囲の反応は黄色い歓声で帰ってくる。
「すっごい! イケメン」
「守ってあげたい系!」
「でも、私には織斑君が……」
「織部様がいる側で、どうしよう――!」
――どうでもいいわ……!
彩夏と一夏はそう突っ込みたかった。
その後、シャルルの席は一夏の隣に決まり、そのことで周囲から謎の視線がそそがれることになる。
「どうしてこうなった……」
どうも気が進まないが、一様お隣の席同士なのであいさつはしないといけない。
「よろしくな。俺は一夏だ」
「よろしく! シャルルだよ」
「――?」
そのときだ。一夏はそんなシャルルの声と風格が妙に誰かと重なってしまった。
――あれ? こいつ、どっかで見た覚えが……
しかし、妙に思い出せない。フランスでの一件から彼は軍隊で無我夢中になってソードの訓練に明け暮れていたことで、先々でおきた記憶はあまり覚えていなかった。
ホームルームは終わり、一時間目からISの模擬試験である。
「更衣室までは一緒か。行くぞシャルル」
と、一夏は急がねばと咄嗟にシャルルの手を握りしめた。
「えっ……!」
急に赤くなるシャルルだが、そんな彼のことなど構わずに一夏は教室から出てここか駆け足で更衣室へ向かいだした。
「行くぞ!」
「え? どうしたの急に……」
「一夏、遅れるなよ!」
すると、そんな二人の前を彩夏が追い越していく。
「お先にな!」
と、次にキースだ。
「やっべ、やっぱ二人とも生粋の軍人だから体力半端ねぇよな……」
「ね、ねぇ――どうして急いでるの?」
「だって、もたもたしてっと……」
突如、走っている通路の向こう側や左右から多くの女子生徒が集まってきた。
「あの子よ! 二人も男性操縦者って」
「本当だぁ~!」
「織斑君~!!」
こんなことが日常茶飯事だ。だから、先に言った彩夏やキースも野次馬化した女子勢から逃れるために廊下を猛ダッシュで移動していったのだ。
二人は、どうにか野次馬の突撃から逃れて無事に更衣室へたどり着けた。
「えっと、あっち向いててくれる?」
更衣室に就くと早々にシャルルは赤くなった様子で一夏へ恥ずかしそうに言いだした。そんな発言に一夏は首をかしげる。
「は? どうしてだよ」
「その、は、恥ずかしいらか……」
「シャイな奴だな。まぁいいけど」
そういうと、一夏は待機状態のブレスレットを操作して、一瞬の間にパイロットスーツの姿へと変わった。
「そ、それが一夏のスーツなんだ……」
シャルルは、ロッカーの裏側から半顔を出して一夏の姿を見た。
自分が着ているように短パン半袖で、腹部を露出しているようなスーツではなく、衝撃や真空管でも耐えきれるために全身を覆う耐Gスーツであった。
「SWORDのね。それより、先に言ってるぞ?」
「う、うん! 僕も後から行くから」
そういって、シャルルも一夏の後に続いた。
「では、これよりペアを組んでもらう!」
千冬の指示のもと、クラス全員は二組のペアを組もうとし始めるが……
「織部さん!」
「織斑君!」
「シャルル君!」
「キースさん!」
と、何故か男子勢へと猛烈に誘いのアピールをしてくる。
その中でも、
「一夏ッ!」
箒が一夏の両腕を引っ張ると、
「一夏ァ!!」
凰が一夏のもう片方の腕を引っ張りだした。
「ちょ、やめろって!」
アリーナでは常にこの有様だ。
「いい加減にしないか! SWORD側の俺たちはいつものように君たちの相手をする側だ。織斑先生も言ってただろ?」
彩夏が、そう説得させるも生徒たちは「えぇ~!?」と言い出す。
「いいや、今度ばかしは少しだけ違う」
と、その一言と共にアリーナに慈が入ってきた。当然、彼女がアリーナにいると千冬は良い顔をしない。
――あいつが、私の弟を軍へ引きずり込んだのか!
そういった見方をするため、千冬は彼女を目の敵にしているのだ。
「主任!」
彩夏と他二名は一斉に敬礼した。
「うむ、休め。今回はSWORD同士の防衛戦が主な訓練だ」
「防衛戦?」
一夏は首を傾げた。
「それぞれのSWORDにISをつかせ、互いについてるISできるだけ多く落としたもの、またはつかしているISを多く守り切った方が勝利という内容だ。SWORDの防衛性能を検証するための訓練である」
そう慈は説明しきった。
そのこともあってか、生徒たちは目を光らせてそれぞれの好きな男性たちの元へ駆け寄っていくではないか。
それぞれ同じ人数に調節した後、SWORD三機はそれぞれのISと共に低空へと上がった。
「これは、自機の被弾もだが何よりも仲間側につけたISの護衛を主に行動しろ」
慈の指示のもと、いざ訓練は開始された。
SWORDはそれぞれ派手な動きができないためにシールドで防御しつつ自機側につけているISの数機を時間内に守り切れることが試される。
しかし、護衛と言えども後ろに控えているISがどうにかカッコいい自分をソードのパイロットたちに見せて自己アピールしたいというのか、勝手にSWORDから離れてIS同士のドッグファイトになってしまう始末だ。
「こ、こら! 勝手に前へ出るな!!」
彩夏が呼び止めるも、生徒たちは聞かぬ耳。
「箒ッ――!」
「凰ッ――!」
同じグループ同士なのも構わず箒と凰は、一夏が乗るユニコーンの前で私闘しだした。
「こ、こら! お前達――」
一夏が止めようとするが、二人は授業の内容なんてそっちのけで互いの近接武器が火花を散らしている。
「見ておれんな……」
静かにキレた慈は、メガホンを片手に深く息を吸い込んだ。
「こら! みんな戻れ!」
「お前ら! いい加減に……」
彩夏やキースも同じように自分たち側につく生徒たちを呼び戻そうと口調を強めるが、そんな二人よりも強烈な怒号が飛び上がった。
「静まれえぇッー!!!!!!」
慈の一喝に周囲はSWORD勢もろとも静まり返った。低空にいる一声が慈へと視線を向けた。
そして、呆れた口調でネイナへ通信を取った。
「――博士、訓練は中止だ。子供たちがこちらの言う事を聞かずに困る」
「了解、タイラント、ハイペリオン、ユニコーンの三機は直ちにドックへ帰還しなさい」
管制室よりネイナも、ISの生徒がSWORDのパイロットたちに自分たちをアピールしてもらいたいがために好き勝手に前に出て私闘を繰り広げてしまったことには苛立ちを通り越して呆れてしまった。
「IS学園の生徒達って、自己中な子が多いのね……」
SWORDのディフェンス性能を試したかったが、協力側があれでは話にならない。
「織斑先生、次からはもっと厳しく生徒たちを指導してもらわなければ困ります!」
慈は、できるだけ怒りを押さえつけて千冬と山田の元へ文句を言いに来た。
「そうだな、申し訳ない。次からは心がけよう……」
めんどくさそうに、聞き流した感じの千冬はすぐにも慈から目を背けてから、上空の生徒たちに「お前たち! とっとと降りてこい!!」と怒鳴り上げた。
唯一SWORDのそばにいたのはシャルルと彼の専用機「ラファール・リヴァイブカスタム」だけであった。
「あはは……みんなやっぱり夢中になっちゃったみたいだね」
苦笑いするシャルルに一夏も同感と頷いた。
「そうだなって――あれ?」
ふと、ユニコーンの背後スクリーンから見えたリヴァイブカスタムの映像に違和感を覚えた。
「……シャルル、お前の機体からカメラ機能の作動反応が出ているぞ?」
「え――あ! ご、ごめん! つい緊張しちゃって間違えちゃったよ」
「ふぅん……」
しかし、明らかにシャルルの機体からはそんな誤操作ではなく、意図的な感覚がしてならなかった。訓練中にも薄々感じていたが、ずっとリヴァイブカスタムはカメラ機能を作動し続けていた。
その後、生徒たちは千冬からみっちり怒られ、訓練からアリーナのトラック100週というトレーニングの罰を与えられてしまった。それは昼飯なし・昼休憩なしというスパルタペナルティーである。
「――ねぇ、一夏軍曹」
一方の昼休み中、一夏は通路脇でネイナに声をかけられた。
「博士?」
「確か……シャルル君だったかしら? あの子、今日から軍曹のルームメイトになるよていよね?」
「そういたいですけど……」
「ちょっと気になるのよねぇ~」
顎に片手を添えて俯くネイナに、一夏も同じような疑問を彼女に伝えた。
「訓練中、ユニコーンの背後をアイツが撮影していたんですよ」
「ああ、そのことなら意図的な可能性が高いわね。ユニコーンの全面度ドライブレコーダーにそれはぴったり映ってたの。訓練が始まったと同時に撮影機能が作動しだしたのには怪しいわね」
「……もしかして、シャルルはユニコーンの背面を盗撮していた?」
「可能性はありうるわ。それに……フランスからのIS男性操縦者なんてそもそも胡散臭いわよ。国連軍の情報だとフランスに男性操縦者が居たなんて情報これっぽっちも伝わってこないんだし、フランス政府が隠し通していたなんてこともありえない。最近経済が危ういフランスの現状今日からして、仮に男性操縦者がいたとすればすぐさま派手にアピールしてくるに違いないの」
「その……もしかして?」
今朝彼に彼女が話していたことを思い出した。
「シャルルが――デュノア社の?」
「そう考えた方が妥当かもしれない。今夜――寮のルームで一緒になったところで聞いてみて。場合によっては尋問という手段も仕方ないわ」
「お、俺がシャルルを?」
「近くに彩夏准尉とキース大尉も待機させておくから」
「は、はい……」
いきなり強硬手段に乗り出すのはどうも気が進まないが――それでも、SWORDの情報が危ういというのなら一夏とて仕方のないことだと考えた。
――その夜、一夏は彩夏とキースと共に寮の室内に盗聴器とビデオカメラを仕掛けて、一夏以外の二人はシャワールームに身を潜めた。
しばらくした後、シャルルが室内へ入ってくると、彼は何事もなかったかのように汗だくの姿で疲れたようにベッドの上へ腰を下ろした。
「ふぅ~すっごい疲れたよ。連帯責任で僕もアリーナを100週は知らされるんだからたまったものじゃないね」
「シャルル……」
同じようにベッドへ腰を下ろしている一夏は、少し緊張気味だが意を決して口を開いた。
「あ、僕先にシャワー浴びてきても――」
「シャルル、話があるんだ」
「え、なに?」
真顔で問う一夏に、シャルルの表情からも苦笑いの笑みが消え失せた。
「……何か、俺に隠し事とかしちゃいないか?」
「え、別に……どうして、そんなこと聞くの? 僕たち、今日あったばかりだよね」
「ああ、そうさ。俺たちは今日初めて会った。でも、お前の姓がデュノアっていうのが少し気になってな」
「別に、デュノアなんて言う姓を持った人はフランスだといくらでもいるよ?」
「お前――デュノア社の人間じゃないのか?」
「ち、ちがうよ!」
――?
突然口調を強めた。その隙を盗聴器とビデオで確認しているネイナはこれに鋭く反応した。
「本当に、デュノア社の人間じゃないっていうんだな?」
「本当だよ! どうして、そんなこと聞くの!?」
感情的になって、シャルルの表情は怒りを表した。
「何で怒るんだ?」
「え――」
一夏のその問いにシャルルは一瞬黙った。
「俺は別に、デュノア社のことやお前のことを悪くいっているつもりはないぞ。そもそも、怒るまでのことじゃないだろ?」
「だ、だって! 一夏がそんな真剣な顔して言うから……」
「――デュノア社にはシャルル・デュノアという同姓同名の人物はないけど、『シャルロット・デュノア』っていう名前の女性がいるらしいよ」
「だ、だ――だからなに?」
シャルルの額から大量の汗が浮かんできた。まるで焦っているかのように。
「お前……シャルロット・デュノアだろ?」
「ち、ちがう!」
ベッドから立ち上がって、シャルルはとっさに否定した。
「からかうのはやめてよ! 僕、そういう悪い冗談言う人とか嫌いだよ」
「じゃあもう一つ質問だ。俺たち、前に『パリ』で会わなかったか?」
「ぱ、パリに――?」
シャルルはその質問に目を丸くした。それを見た一夏は立ち上がると、寮の室内に設けられた台所の流しに行くと、水を出して頭を濡らし始めた。
天井へ顎を傾けながら、濡れた髪を前髪ごと両手で後ろへ撫でおろし、久方のオールバックをシャルルに見せた。
「あっ……!」
シャルルは驚いたように、オールバック姿の一夏に反応した。
「この髪形に見覚えはないか?」
「……!」
しかし、シャルルはそんな彼の姿から目をそらしだす。
「なら――」
そういうと、彼は懐からある物を握りしめて、それを最後にシャルルへ見せつけた。
「これは、お前の私物じゃないんだな?」
「それは!」
若い母親と幼い娘の写真がはいったロケットに、シャルルはつい体が反応してしまう。
「い、一夏が……持ってたの?」
「やっぱり、お前――あの時の女か」
当時、パリで助けた大人しそうな少女、それは彼……彼女だったのだ。
「ッ!」
動揺するシャルルに、一夏はさらに言う。
「なるほどな。どういう理由かは知らないけど、お前がこの写真に写る子供――シャルロット・デュノアだったのか」
事前に写真はネイナに渡して調べてもらった。国連軍の情報操作の結果、この写真に写っている幼い少女はシャルロット・デュノア、デュノア社長と不倫相手の間にできた子供、隠し子であったのだ……
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