インフィニット・ソード
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SCENE4「二人の彩夏」
前書き
慈司令は、千冬姉よりも笑う人なんですよ。
「ネオファリアのソード開発主任のネイナ・ラフィット・ファルムです。趣味は機械いじりかしら」
「タイラント改・ソードのテストパイロットをしているキース・マクレガーだ。趣味はラグビーだ」
突然目の前に現れた鏡写しのように現れたもう一人の彩夏、しかし彼は織斑千冬の弟であり、名を織斑一夏というらしく、そんなそっくりさん登場による騒ぎも徐々に引いたところで彼らネオファリアの自己紹介が始まり、最後に彩夏の番が回ってきた。
「ハイペリオン・ソードのテストパイロットをしている織部彩夏です。趣味はバイクです」
すると、彩夏の自己紹介で再び周囲が盛り上がった。
「織部さんっていうんだ! 所々織斑君の名前と被ってる」
「趣味がバイクなんだ――」
「かっこいい~!」
そんな生徒たちはまた千冬が叫んで静めさせたところで一時間目に向けて休憩時間が入った。
「あの――」
「――?」
ホームルームの説明を後ろで聞いていたネオファリアの彩夏は休憩中に後ろから自分よりも年下と思われる青年の声に呼び止められた。
「どうも! 俺、織斑一夏っていいます」
「ああ、織部彩夏だ」
「なんだか……すみません」
「何で謝るんだい?」
「だってそれは――」
チラリと一夏が後方を見た途端、教室の入り口から女子生徒たちの黄色い歓声が飛び交ってきた。
「あの子よ! 世界で始めてISを動かしたっていう」
「ねぇねぇ、織部さんもいっしょだよ」
「織斑君もカッコいいけど、あっちの織部さんも超イケメ~ン!」
つづいて、クラス内の子達に二人は瞬く間に包囲されてしまった。一夏だけにかまわず、彩夏まで質問攻めにされる羽目になる。
「織斑君~!」
「織部さん~!」
一方、彩夏にも一夏に負けないぐらいに大勢の女子が群がってきた。
「え、いや――その」
生徒たちからして、彩夏は年上のお兄さんキャラっていう位置づけで多くの生徒たちが魅了されてしまった。
さらに、来ている制服も軍服からして一軍人である彼の姿に多くの女子がノックアウトだ。特に彼の腰につけてあるホルダーに納らえた拳銃を見てはキュンキュンである。
「――すまない、道を通してくれないか? 自分は遊びで来ている訳じゃないんだ」
慈司令に言われたことを思い出して、真剣な眼差しで口調を強めで発言したのだが、それが逆に軍人らしい~! と逆効果に繋がった。
「ほんとうに織部さんって織斑君のそっくりさんだ! もっと、その軍人らしい威厳ある美声を聞かせてくださ~い」
「そんな私達にもっと厳格な声で怒ってぇ!」
――な、何なんだこの子たちは!?
「い、いい加減にしろ! 俺は君たちと慣れ合うつもりはない」
「織部さん、自分の一人称が『俺』なんですねッ!」
「それよりも、今度織部さんのバイクみせてください!!」
「なんのオートバイのってるんですか!?」
「そんなクールで強がっているところがステキぃ!!!」
――何なんだ此処……
「……」
顔を青ざめて、彩夏は兎に角もと両手で女子の人ごみを掻き分けて外へ出ようとするも、
「キャーッ! 私の肩を触ってくれた~!!」
「ずる~い! 私もボディータッチされたい~!!」
大声でどなれば逆効果、乱暴に振りほどくとさらに逆効果になるかもしれない――
「准尉! お前そこで何してんだ!?」
さっきから帰りが遅いと思ってきてみたらと、キースが呆れて一組の教室へ入って行った。
「仮設部署からメモパネルを持って一組に戻っていろってネイナからの指示を聞かなかったのか?」
「そうですけど、この子たちに引き留められて身動きがとれないんです!」
「あのなぁ、ガキなんてたかが――」
すると、
「あ、キースさんだ!!」
「近くで見ると超ワイルド系!!」
「あの~お名前教えてくださ~い!」
と、隣のクラスからも群がってきた。
すると、彩夏と一夏を囲っていた女子の半数はキースの所へ集中した。
――占めた! 大半の日本人女子は白人に弱いんだッ
その弱点を突いて、彩夏は素早くその場から突破して仮設部署へと駆け足で戻ろうとしたとき、
「准尉?」
すると、運悪くネイナ主任とバッタリ会ってしまった。
「は、ハッ!」
主任に敬礼すると、彼女は帰りの遅い彩夏のために持ってきたメモパネルを彼に手渡した。
そして主任はメガホンを片手に――
「何やっとぅるじゃ己ぁ~ッ!!!」
キーンという響きで生徒とキース、そして隣の彩夏は必死に両耳を塞いだ。
「は、はい……」
低姿勢で、ペコペコしながら怖気づいた女子たちの間を潜ってネイナの元へ行ったキースは、彼女の表情を恐る恐る見た。
「大尉、慈司令の指示をお忘れですか?」
そういうと、彼女は静かに眼鏡をかけた。
「はい――い、いいえ……」
その後、一時間目の授業は早々に開始しされ、ネオファリアを代表するキースと彩夏、ネイナの三名は教室の後ろからパイプ椅子に座りながらメモパッドを片手に織斑教員や山田副担任の説明をメモすることになった。
二人の教員の説明を次から次へとメモする彼らであるが、そんな中で、
「えっと、今のところわからないところなどはありますか?」
と、山田が生徒たちへ言うと、気まずそうに手を上げた織斑一夏が一人、
「どうしました? 織斑君」
「その――全部わかりません!」
その一言に教室中は呆気にとられた。
「織斑! 入学前に呼んでおけと言っておいた教本はどうした?」
姉の千冬担任が問うと、
「教本……あ、ひょっとして捨てたかも――」
返答の代わりに出席簿の角っこが彼の頭上へ振り落とされた。なるほど、仮設トイレへ向かう際に彩夏の後頭部を押さったのもあの出席簿の角っこだったのか。
「あとで発行してある。一日で覚えろ!」
「だ、だってあんな分厚いの――ぐへっ!」
再び角っこが振り下ろされる。
「私に意見するな! そもそも貴様が教本を間違えて捨てたのが悪いんだろ!!」
――ま、そうだろうな。
確かに捨てるべきじゃなかったと思う彩夏は、次にふたたび山田先生の「ほかに居ませんか?」
という声に手を上げさせてもらった。
「あら、へっと――織部さん」
「唐突に訊ねますが、ISの弱点や戦闘中に気を付けなくてはならない個所などいあったら教えていただきたいんですが――」
「あ、ISの?」
「従来は防衛フィールドで守られているISでありますが、それを一発で貫かれたらの場合や、ましてや一撃でフィールドを破られる術などはございますか?」
「えっと――申し訳ありませんが、私は競技用専属なので定められた仕様火器の範囲しか、ちょっと……」
「ええ、それでもかまいませんので教えてきただけますか?」
「でしたら……」
と、彩夏はメモを取る中でもっとも思い切った質問をしたことで目立ってしまうかとおもったが、彼の質問に対して生徒たちは特に気にするようなそぶりを見せることはしなかったので、 、ネイナやキースはホッと胸をなでおろすのだ。
一時間目の授業を終え、メモでまとめ上げた文章をパッドで書き直していると、
「彩夏、かなり思い切った質問をしたようだな。幸い生徒の子達から険しい顔をされずに済んだようだが、今後は気を付けた方がいい」
そんな大尉からの中尉についつい口が滑ったと赤くなる彩夏だが、
「この私を知らないのですか? イギリス代表候補性のセシリア・オルコットを!?」
――なんだ?
すると、何の騒ぎだと一夏の席へ視線を移してみれば、一人の女子生徒が一夏に何か訴えているのか?
「誰あの娘?」
キースがネイナに問うと、彼女も首を横に振った。
「さっき、代表だか候補とかって聞きましたけど――」
彩夏は、その代表だか候補だかと言っている金髪に縦ロールの横髪をした少女とのやり取りをしていると、困った顔をしている一夏が心配になり、その場を離れて彼らの元へ行ってみることにした。
「彩夏、あまり面倒なことを起こすな」
と不安になるキースも下手に割り込むことなんで出来なかった。
「どうした、一夏?」
「あ、えっと――」
助け船に振り返った一夏はまだ、彼の名前を聞いていなかった。
「織部彩夏だ」
といって、この場を仲裁しようと彼は金髪立てロールの少女へ視線を向けた。
「何かあったのか?」
両腕を組んで、慈から教えられた態度を向ける彩夏に、後のキースたちはハラハラしだした。
「ちょっとあなた! そっちこそ何様のつもりですの!?」
「軍人様だ」
「っ――!」
堂々言い張ってくる姿勢に少女は言葉が詰まるも、それでも自身のプライドで突き通した。
「軍人ごときが何ですの! この私を、イギリスの代表候補性であるセシリア・オルコットとしってのことで!?」
「あの~織部さん」
と、そこで一夏が聞いてきた。
「その、この人が言っている『代表候補』ってなんですか?」
そんな一夏の質問に、彩夏は場の空気も読めずに即答してしまった。
「何なんだ? 代表候補っていうのは。知らんな」
その一声に周囲の生徒たちはぎゃふんと滑り落ちた。
「あいつ――もっとマシな言い回しができねぇのかよ」
片手を額を当ててため息をつくキースの隣で、
「代表候補って何よ、キース?」
と、ネイナ。
そんな代表候補という名前は知らんと言い捨てた彩夏にセシリアはわなわなと両手を震わせて二人を愚民と見下すような目つきで説明に入った。
「いいですか? 代表候補というのは、国家の代表生の候補に選ばれたエリート中のエリートのことですわよ!?」
「――つまり、『代表生(仮)』というわけか?」
「か、かっこ……」
そのたとえに、セシリアの思考は一時停止した。それくらいに、自分に対する蔑称だったのだろう。そんなこともしらずに、天然極まりない彩夏は気にせずに続ける。
「それで、その『仮代表生』の貴様が一夏に何の用だったんだ。もし邪魔したようだったならすぐにも引くが――」
「か、かりだいひょう……」
ついに、怒りの頂点を超えて放心状態に陥ってしまった。その後、その場に立ち止まり続ける彼女の頭上に千冬の出席簿の角っこが振り下ろされたのは言うまでもない。
「彩夏、お前は相手を精神的に陥れることに関しては天才的だな」
教室のパイプ椅子で次の授業に備えてメモパッドを抱えているキースは、そう彩夏に呟いた。
「自分、何か言ったでしょうか?」
そうこうしているまに、千冬の説明が入った――が、どうやらこちらには関係ないらしい。
彼女は今後のクラス代表に関する説明をしているようだ。クラス代表、話を聞く限り学級委員のようなものだろう。
――まぁ、こちらには関係ないか……
そう思いつつ、千冬の説明を聞き流していた。
「――と、自薦他薦は問わん。自ら志願してくれたら助かる」
という千冬にこたえて、一人の女子生徒が、
「はい! 織斑君を推薦します」
「はい! 私も」
「じゃあ私は織部さんを推薦します」
――って、俺は関係ないだろ!?
アホか! と突っ込みたいほど俺は呆気にとられた。
「この人たちは関係ないだろ! いい加減にせんか」
という千冬にたいし、
「千冬様―! もっとお叱り下さい~!!」
「そしての、その瞳で私たちにしつけの御言葉を~!!」
一部の千冬ファンが発狂する。
「やれやれ、まったく毎回こういう奴らが来るんだから本当に呆れる」
ため息をつく千冬にだが、そんな彼の視界に一人の女子生徒が席から立ち上がった。
「納得が行きませんわッ!!」
それは、先ほど彩夏から精神的にコテンパンにされたセシリアという代表候補の生徒だった。
「男がクラスの代表なんていい恥さらしですわ! そもそも、文化共に後進的な島国でISの授業を学びに来ること自体、イギリスの代表候補生であるこの私にとって耐えがたい苦痛だちうのに!!」
――なんだ、コイツ?
最近海外のネットで見かける、日本に対してマウントを取りたがっている白人連中かと思って、そんな小者は無視に限ると彩夏は放っておいた。
しかし、そんなセシリアに対して思春期の若さゆえで一夏は席から立ち上がった。
「イギリスにだって、大したお国自慢は無いじゃないか? まずい料理で何年の覇者だよ」
男子である一夏が立ち上がったことでセシリアも怒りの感情に火が付いた。
「イギリスにだって美味しい料理はありますわ! 貴方、私の国を侮辱したわね!?」
「そっちだって人の国をバカにしたくせに何言ってんだよ!」
すると、セシリアはピシッと指先を彼に向けて、
「決闘ですわ! もし負けたら私の奴隷、小間使いにしてさしあげますわよ!!」
「ああいいぜ。四の五の言うよりわかりやすい!」
そんなやり取りを見て騒然となるクラスだが、何よりも教卓に立つ千冬は面白いと口元を緩ませてこういいだす。
「では、一週間後のアリーナで決着を付けろ。織斑とオルコットは各自準備だ」
――だが、
「はーい! ちょっとまってください!!」
教室の後ろでネイナの片手が上がった。
「博士、どうしたのですか?」
千冬が問うと、
「ここは、断然ソードとオルコットさんの機体を戦わせたいのですが」
「許可できん。いきなり調整も打ち合わせも――」
だが、首を横に振った。ネイナからして、彼女は自分の弟を優先させたい考えにあるのだろう。しかし、優先されるべきはこちら側だ。私闘なんていう学校としては理不尽極まりない行為を公式で行わせるよりも、もとから訓練シナリオにあるソードとの模擬戦闘の方が筋が通るはず。
「調整と打ち合わせなんて一週間もあれば大体終わらせることができると思いますけど?」
「ISとそちらのソードとやらでは互いに異なる面がある」
「調べましたが、そこまで対照的な違いはありませんよ。遅くても五日もすれば間に合いますし。それに決闘なんて、いわゆる『私闘』ですよね? それを学園側が公式的に認めさせてしまってよろしいのですか? 世間の目もありますよ。それならいっそのことソードとの模擬戦に変更すれば幾らかマシかと思いますが」
「……」
やはり、二十代半の彼女と三十路半のネイナとでは考え方は違ったようだ。もちろん、副担任の山田も、ネイナの言っていることの方が正しいと口にしてしまう。
「織斑先生、最近だとマスコミも敏感になっておりますので――」
「うむ――」
本来なら、一夏を決闘でセシリアと戦わせてやりたかったが――ここで反対を突き通せば教員としての品格も堕ちかねない。仕方なく、千冬はネイナに従おうとしたが、
「待ってください! 私は、織斑一夏と戦いたいのです!!」
セシリアの方は一向に聞く耳を持たないようだ。そんな彼女にも千冬は「聞いての通りだぞ」というも、頭に血が上った彼女からして周りが見えていなかった。
「しかたないわねぇ――じゃあ、うちの准尉が相手ならいかがかしら?」
ネイナがそう言いだすと、近くの彩夏は、
「じ、自分がですか!?」
「当たり前でしょ~? あの生徒さんに向かって結構なこと言ってたし」
「そうでしたっけ?」
キョトンと首を傾げる彩夏にキースが何度目かのため息をついた。
「お前、どんだけ天然なんだよ」
キースも彼の天然っぷりには呆れてしまう。
「その方――ええ、それでしたら構いませんでしてよ! 男が何人掛かってこようと、私の敵ではありませんもの」
「あっそう――」
面倒くさそうな顔をする彩夏に、セシリアは堂々と涼しい顔をしながらこう続けた。
「そもそも、男なんて女性の足元で『働きアリ』のようにせっせと地を這いつくばっていればいいものを。そんな暇があれば、剣を意味するくだらない玩具なんて乗り回さずに女性のために尽くしたらどうですの?」
「今、何て言った……」
働きアリ? ソードが玩具だって? 幾ら年下の民間人とはいえそれだけは聞き捨てならない。
「兵器を、玩具呼ばわりか? それに加えてISは何なんだよ」
「ISは競技、スポーツが主流でしてよ。おわかりかしら?」
「どこの世にレーザーや実弾、ミサイルを用いた競技スポーツがあるっていうんだ!」
「はぁ?」
民間人である彼女は、兵器がどれほどの威力を持ち、それを使って生じる代償について精神が追いついていないんだ。
こんな子に、武器を持たすのは危ない。いつか、必ずいつしか過ちを犯すぞ。
「そこの見習い代表生さん」
「み、見習いって――あなた! つくづく重ね重ねに!!」
「いいよ、決闘を受けて立とうじゃないか。けど、勝敗後の約束も受け入れてくれるのなら君の私闘を受け入れるよ。どうだい?」
「あら、面白そうじゃありませんこと? いいでしてよ、でも私がかったら――」
「ああ、好きにすればいい」
「二言は無くて?」
「けど、俺が勝ったら……代表候補を辞退してもらう」
「なっ!?」
さすがの予想外な条件にセシリアは目を丸くして驚いた。自分がどれほどの努力をもってして代表候補まで上り詰めたことか、この軍人はわかっていないようだと、感情的になって非難しだした。
「非常識ですわ! この私に対して名誉を捨てろと!?」
「そればかりじゃない。君が負けたら、金輪際ISから手を引くんだ」
「な、何故そこまで――!」
ひどい仕打ちだと言うようにセシリアの顔からは焦りが見え始めた。
「代わりに俺が負けたら、君に命を差し出す覚悟を約束するよ」
「ッ!?」
本気の目をしていた彩夏の気迫に、セシリアは圧倒されてしまった。
つねに死と隣り合わせで生きてきた彩夏からして、命をかけて戦う事に躊躇なんてものはない。
「そ、そこまでするなんて――」
たかが、喧嘩というレベルだったはずが、こんな代償を求められる果し合いに変わってしまったことに、セシリアは反面後悔してしまうことに。
「どうだ、オルコット。今ならこの決闘を取りやめても構わんぞ?」
静まり変えった教室で、千冬はそうセシリアへ問いかけた。
彼女も、彩夏が何を言いたいかは十分理解している。それゆえにセシリアへもう一度選択を呼びかけたのだ。
しかし、セシリアの心境は決闘を取りやめようとする意志を己がプライドが邪魔をして、言葉が言うことを聞いてくれなかった。
「い――いいですわ! 織部彩夏、彼方からの決闘を受けて立ちましょう!!」
「本当に、いいんだな?」
「わ、私は本気でしてよ! それよりも、自分の身を心配することね!!」
「……いいだろう、わかったよ」
「では、そうと決まれば一週間後、アリーナでオルコットと織部の決闘を始める。各自、万全の準備をしておくように!」
その後、休憩時間に大勢の女子が織部を心配する目で囲いだした。
「また、君達か――!」
呆れる顔をする織部に女子の一人が、
「ねぇ織部さん、今からでも遅くないからセシリアさんにあやまりなよ!」
「どうして?」
「だって、代表候補だよ? いくら軍人の織部さんでもISが相手なら勝てないよ?」
「それに、男が強かったのって随分昔の話だよ。男と女が戦ったら百パーセント女が勝つんだから――」
――こいつら、とんだ馬鹿か無知だな?
本当にIS学園の子達にはあきれてものが言えない。本当に倍率最高のIS学園を、よくそのオツムで入学できたものだ。
「君たちが言う女性が強いっていうのは、ISがあったらの話だろ? 仮にISを所持していない女性が男性と戦ったらどうなるか知っているの?」
「それでも、女性が強いよ? 権力とか法の力とかで」
「そんなの関係ないよ。殺すか殺されるかの瀬戸際で法だの何だのって関係ないって」
「そんな、大げさだよ~!」
そういって、周囲は冗談が過ぎると笑い飛ばしたが、一名だけ――当のセシリア本人は浮かない顔をしていた。
――やっぱり、後悔してんだな……
その後、これ以上IS関連の座学は終了し、一般学級の13教科が始まるとのこと。関係ないためにネオファリアの面々は仮設部署へ戻って各自の勤務につくことになった。
「あ、あの――?」
「――?」
通路の移動中に、あのポニーテールを揺らしながら、あの時の子が声をかけてきた。
「ああ、君はあの時の」
「その都度は失礼しました」
「ああ、別に皆同じ反応だったし君だけじゃないよ」
「ところでその――織部さんはよろしかったのですか? あのような……」
「そうだね、常に命を懸けて働いているからそういうのが当たり前みたいになっているからさ」
「しかし、命までって――!」
「まぁ、そこまで気にしないでもいいよ。セシリアっていうあの子だって本気じゃないんだしね」
「織部さーん!」
すると、彼の元へもう一人。箒の隣まで駆け寄ってきたその人物は、
「たしか、織斑君だったね?」
「はい、その――」
一夏は緊張したようすでこういう。
「もし、昼休みににそちらもお暇でしたらいいんですけど――ソードについてお聞きしたいと思って!」
すると、そんな彼とは反射的になった箒が、
「な、ならん! お前は私と道場で共に竹刀を振るう約束をしているはずだぞ」
「え、えぇ!?」
したはずないのに――そんな彼女をみる一夏を見て、隣にいたネイナは、
「だったら、あなたも一夏君と一緒にお昼休み私達の所へ行ってみない?」
「え、い――いや! 私は……」
赤くなる箒を見て、ネイナは直ぐに見抜いた。彼女は一夏に対してとても拘束の激しい少女であるようで、空いた時間は好きな一夏と二人きりでいたいという願望が強いのだ。
「お茶とか出すけど、どうかしら?」
「あぁ……では、御言葉に甘えて」
その後、昼休みに一夏と箒がすぐにも仮設部署へと向かって足を運ばせていた。
「あ、あれだ! 箒、早く早く!!」
一夏は大はしゃぎでネオファリアの仮設部署にむかって駆け出した。
「全く、ソードのどこがいいのだ……」
自分を一向に見てくれない彼にボソボソと愚痴りながら彼の後に続いて仮設部署の玄関前まで歩きつくと、
「ああ、いらっしゃい」
と、キースが出迎えてくれた。
「あぁ! 確か、彼方もソードのパイロトで――キースさんでしたっけ?」
「ああ、彩夏から聞いたが、ソードが好きなんだって?」
「だって、あんなカッコいい人型兵器に乗って戦うって時点で惚れ惚れするっていうか、主役っていうか、ヒーローっていうか――」
そんな憧れで興奮する少年を見て、キースも悪い気はしないし、むしろ誇らしくなる。
「それなら、近いうちに実技講習でソードの実物を見せてやろう。今日は生憎だが、一通りのデータなら見せてやるよ」
「い、いいんですか!? ありがとうございます!!」
「一夏――」
早いところ終わらせろというような目で彼を見る箒だが、キースのは「あがれあがれ!」っていう言葉に、
「んじゃ、お邪魔します!」
箒の片手を引っ張って、一緒に部署の室内へ入ったのだ。
「一夏、他の方々の邪魔にならない様はしゃぐんじゃない」
困った奴だと子供をあやす母のように、箒は興奮する一夏の後ろからため息を漏らした。
「あら来た来た! 彩夏、ファンの子達が来てくれたわよ」
デスクから顔を覗かしたネイナは、彩夏がいる休憩室の方へ振り返って彼を呼び出した。
「あ、よく来たね」
「お忙しい時間帯に招待してもらってすみません」
と、箒がネイナに頭を下げるが、
「ああ、別に気にしなくてもいいのよ! これも好きでやってる仕事なんだし、それよりもお目当てのソードのデータだったら――」
そういって、彼女は携帯端末を手に取ると、その画面からホログラム映像が表示され、二体の人型機動兵器が表示されたではないか。
白と青で彩られた機体と、青で統一された機体、どれもヒロイック的デザインで一夏からすればドツボにハマったことだろう。
「すっげぇ! 本当にかっこいいな? あ、これってパラメーターと武装一覧のデータも表示されている!!」
ホログラムのデータにアップで迫る一夏を見て、純粋にソードが好きなんだとネイナは思った。
「ハイペリオンとタイラント改――このタイラントっていう機体は確か白騎士事件で、あの白騎士をあと一歩まで追い込ませたっていう有名な機体ですよね!?」
「まぁ、あと少しってところで機体とパイロットに異常が出ちゃったけどね」
「凄い、ISとは比べ物にならないくらいのエネルギーゲインだ! ハイペリオンっていうこの機体、タイラント改と比べて量産計画の試作機でしたよね? エネルギーもタイラント改と比べて約3,6倍、両肩にあるSEジェネレーター式ビームガトリングカノン――ネイナさん、そういえばハイペリオンの主要兵装ってもうそろそろできるんですよね?」
「主要兵装――ああ! SE式ビームアックスのことかしら?」
SE式ビームアックス、それはハイペリオンの真の主要武器である。ハイペリオンは試作機とはいえ後方支援から、強襲、局地戦まであらゆる戦術に適した量産型試作機ならではの機体であり、特に接近戦を主要とする機体でもある。
よって、ビームサーベルが副兵装となり、後に装備されるSE式ビームアックスこそがハイペリオン本来の主要武装であるのだ。
「やけに、賑やかだな?」
すると、二階から此方へ階段を下りてくる篠ノ之慈司令の姿が見えた。先ほど、ようやく苦手なデスクでの書類整理を終えたところで一息つきに休憩室へ赴こうとしたところ、下から聞こえてくる声に反応して様子を窺いに来たのだが――
「あぁ! ほ、箒――こっちにいる箒よりも、でっかい箒が……」
と、一夏は慈のきつそうに張りつめた制服越しの胸元を見ながら、意味の分からないことを言うと、
「なんだ一夏! その訳の分からん言い回しは――あっ」
「ほ、箒――か?」
目を丸くして、自分とそっくりな容子の少女を見つめると、暫くして表情を険しくさせて、
「箒ぃ~?」
ゴゴゴゴゴゴゴ――と、どす黒いオーラと共に慈は両手の指をヴォキヴォキ! っと鳴らしては彼女を蛇に睨まれた蛙状態にしてしまった。
後書き
次回
「蒼い霧」
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