インフィニット・ソード
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
SCENE3「IS学園」
前書き
自分、色塗りだけは大の苦手なんです。
主人公機のハイペリオン・ソード。相変わらず下手ですが、色を塗ったらもっとひどくなるので^_^;
朝起きると、二度目の二日酔いに苛まされていた。そんな二日酔いに苦しむ自分をとは対照的に酒を飲んだとは思えないほどにピンピンしているキースには驚かされる。
キースとは長年付き合いが長いネイナは、彼が無理やり彩夏を飲みに突き合わしたんだなという予想を当てたようだ。
「うぅ……」
「准尉、その程度じゃまだまだだな?」
滑走路をふらつきながら歩く彩夏に余裕の笑みを見せるキースであるが、
「何を言ってるのよ! どうせ、うまい口車に乗せて織部准尉を飲みに誘ったんでしょ?」
そんなキースの後ろから呆れた顔をしてネイナが突っ込んだ。
「あ、バレた?」
「まったく、何件もはしごを続けた挙句に泥酔状態になった貴方を准尉が寮まで送り届けてあげたっていうのに、日常で迷惑かけているのだけは変わらないのね!」
「あはは……」
そう思うと、少なからずに彩夏に対して罪悪感を持つキースであった。確かに昨夜は誰かに担がれたような感覚を覚えている。
「ところで、大尉が乗る機体は?」
「おお、それならあれだ――」
といってキースは目の前に立ち聳える白い機体を見つけた。
その白い機体
「これって!?」
白騎士事件で活躍し、後に自分の命を救ってくれたあの機体――
青と白で彩られ、後方にはブースター兼SEジェネレーター式ビームカノンを取り付けたソードのプロトタイプ機「タイラント」ではないか!
「す、すごい――本物のタイラント・ソードだ!」
はしゃぎながらタイラントの足元まで駆けよると、あとから歩み寄るネイナたちが彼にこの機体についての解説を聞かせた。
「この機体は『タイラント改』っていって、旧タイラントにハイペリオンの最新機能を取り付けた、いわゆるバージョンアップ機ってところよ?」
と、嬉しそうに説明するネイナに無我夢中で彼女の話に耳を傾ける彩夏を見て、キースは熱の出た二人の会話についていけなくなった。
「パイロットはもちろんキース大尉よ」
「大尉が、この機体を?」
「ほかに誰がいるのさ」
そんな苦笑いするキースを見て彩夏は、
――もしかして、大尉があのときの……?
白騎士事件で雄々しい初陣を飾り、後に空港襲撃時に自分を助けてくれた、あのタイラントのパイロットが――?
「……」
――しかし、正直言うとあまりイメージがわかない。それに大尉は自分と同じテストパイロットなんだし、きっと当時は違うパイロットがこの機体に乗っていたんだろう。
「さて、二人の機体も準備が整ったことだし、そろそろ動かしてちょうだい」
そういうと、ネイナは格納庫から彩夏が乗るハイペリオンの青い機体を運ばせるよう整備班へ指示を送った。
「えーっと――」
タイラントの隣に立ち並ぶハイペリオンのコックピットの球状内部にて彩夏は、ハイペリオンの操縦マニュアルに目を通しておさらいをしていた。マニュアルの内容は全部空いた時間に覚えてしまった。よっぽどソードが大好きでなければできない集中力だろう。
「坊主!」
すると、コックピットのハッチからひょっこりと中年の男が顔を出した。
「ボブ整備長?」
トリントン基地から整備班の班長としてネオファリアに加わっている中高年の整備士、ボブはハイペリオンのパイロットがキースよりも若いパイロットになったと知って、すぐにも顔を覗きに来たのだ。
「操縦に関してわからんところはないか?」
「特に今のところは――あ、この出力の調整とかなんですけど」
「おうおう、ここはなぁ」
ボブは親身になって彩夏に細かい操縦部分を教えた。そんな二人のやり取りを見て親子のようだと地上で待っている整備班達が微笑んでいた。
「あのおやっさんがねぇ~?」
「おやっさん、独り身だから嬉しいんだろうなぁ」
その後、最終確認を終えると、ネイナの合図でタイラント改から先にその巨大な足をズンと滑走路へ一歩踏み込んだ。
『機体の状況はどうかしら?』
コックピット周辺を囲う球状内部の全面スクリーンからモニター枠が表示されて、ネイナの画面がパイロットのキースへ訊ねると、
「どこも異常はない。いつも以上にピーキーで俺好みの馴染んみが残っていて助かるぜ」
『久しぶりの機体だからって無理はしないでね』
「おう、それより彩夏の方はどうだ?」
すると、彩夏の球状スクリーンにもネイナからの通信画面が入った。
『彩夏准尉、二度目の操縦になるけどわからないところはないかしら?』
「マニュアルの基本操作は全部覚えましたので、今のところは――」
『あら、あのマニュアルを全部覚えたの?」
半分独学で覚えたキースとは違ってマニュアルの大半を記憶した彩夏にはさすがのネイナも驚いた。
『ならあとは、実際に操縦して経験を積むだけね』
「はい、よろしくお願いします!」
そして、タイラント改に続いてハイペリオンも前に一歩足を踏み出した。目の前を行くタイラント改はネイナの指示で上空へ浮上していった。
『准尉、次は貴方の番よ』
「は、はい! ――織部彩夏准尉、飛びます」
スラスターを上げてゆっくり足の両フットレバーを踏み込んで、キース機よりかはいかなくとも、少しゆっくりな動作で上空へ浮上していき、上空で待機しているタイラント改の後ろに出た。
――しかし、本当に驚いた。
彩夏は、シミュレーションも受けないままぶっつけ本番で二度目のソードを操縦させて貰ているのだ。それも、始めてから今に至るまで操縦桿が自身の体と馴染んでしまっているようにも思える。不思議な事だが、次にどうすればいいのかが次々に頭の中から浮かび上がってくる。マニュアルを読んでイメージトレーニングをするよりもスムーズ過ぎて、逆に怖かった。
「初めてにしては中々だな。やはり、コイツが例の――?」
コックピットの全面スクリーンにうつるハイペリオンを見て、キースはふとそう呟いた。
『准尉、今のところ分からないとことか不安な面はないかしら?』
「はい、大丈夫です。えっと――機体状況両行、SEシステム可動状況も異常なし」
「うん丁寧ね、どっかの誰かさんと違って雑じゃないから立派立派♪」
「おいおい、そこは雑じゃなくてベテランって言ってもらいたいな~?」
上空へ上がった二機のソードは、ネイナの指示に従って上空を飛び交った。垂直上昇から降下まで、限られた飛行範囲の中で飛行を続ける二機であった。
そして、最後の課題としてISに似せた無人ドローン機を地上から飛ばしての模擬戦闘を行うことになった。
「いいか准尉、ISとソードの大きさは目に見えているだろうが、ソードがサイズで不利なわけでは決してない。音速を超える高機動で小さい目標をロックオンすることが十分に可能だ。ダメージもSEフィールドで十分に防げるが、システムに頼っていてはパイロットは務まらん。極力、敵のダメージを回避しながら無傷で目標を仕留めることに専念しろ」
「りょ、了解!」
確かに、SEフィールドで外部からの攻撃を完全に防がれるが、そればかりに頼ってばかりいてはパイロットとしての腕が上達しない。
「敵は小回りが利くが、俺たちはそれ以上に早い速度をもって飛行できる」
「よし――やってやるッ」
訓練開始の合図と共に、二機は目の前十機の小型の無人ドローンとのドッグファイトを行った。
ドローンの速度はISの最高速度と同じで小回りもIS同様だ。ソード二機に対してレーザーライトを照射してくるため、それをソーダが掻い潜るように避けて無人機にロックオンしなくてはならない。
「す、すごい早さだ――!」
SEシステムのおかげでGは感じないが、それでも疑似IS型のドローン数機がこちらをしつこく追い回している。
『准尉、もっと速度を上げろ!』
通信から大尉の叫びが聞こえた。
「了解ッ!」
もっと早く、恐れずに機体を信じて速度をさらに上げた。
「ッ――!」
途端、後方のドローンは一斉にこちらから遠ざかっていくではないか。そのまま速度を保ちつつ旋回してドローン五機の後方へ回り込み、五機のうち二機をロックオンした。
すると、残り三機は小回りの利く身のこなしでこちらの後方へ周りこみ、レーザーライトを機種の半球レンズから照射を始めるのだが、
そのレーザーの閃光を寸前で交わしたハイペリオンは、先ほどと同じように速度を上げて次は急上昇で上空へと駆け上った。成層圏に出た俺は、その降下しつつ旋回をして、まだ上空へ上り続けているドローン三機の後方を取った。
二機をロックオンして、残り一機を追い回してロックオン、まるで相手が止まっているように見えたのは言うまでもない。
「こちら織部、ドローン五機撃墜完了しました」
『お疲れ様、結構派手に飛んだわね』
帰投中、ネイナ主任の通信画面が入った。
「申し訳ございません」
少し勝手すぎただろうか――
『別にいいわよ。それよりも、成層圏は綺麗だったでしょ?』
「はい、とても絶景でした」
『成層圏到達までわずか4秒――良いデータが取れたわ。さ、帰ってきなさい』
「了解」
ハイペリオンが地上へ降り立ったころには、すでにタイラント改が戻っており、キースが地上へ降りてい来るハイペリオンを見上げていた。
――でも、大尉は怒ってるかな?
パイロトっとして厳しいことを言われるのを覚悟でハイペリオンを地上へ着地させてリフトから降りてきた彩夏はこちらへ歩み寄ってくるキースへ敬礼して待っていた。
「准尉!」
「ハッ!」
「最初に二機撃を墜したのはよかったが、最後の成層圏まで垂直上昇という手段に関しては少し派手過ぎだ。序盤のように必要最低限の動きと限られた範囲でターゲットのロックオンに徹底したほうがいい。ネイナは喜んでいたが、指示がない限りパイロットたるもの無駄な動きは避けるようにな」
「注意しますッ!」
怒鳴られずには済んだが、口調を替えどもその言葉は身に染みてくる。
「まぁ、先輩の言葉を親身に受け取ってくれるのならこちらも嬉しいからな」
注意というよりもアドバイスのように、こちらの性質に合わせて口調を変えたのかもしれない。ああ見えて、面倒見のいいひとなのだろう。
その後、休憩をはさんでは対IS級サイズとの模擬ドッグファイトを夕暮れ時までに続けた。
彩夏は無我夢中でハイペリオンと共に空を飛んで、気づけば勤務の終了時間を告げられていた。
『お疲れ様。今日はここらにしておいて、明日の本番に備えて体を休めてね』
ネイナ主任の通信画面に「了解」と返して、ハイペリオンは地上へと降り立った。
「お疲れだな准尉!」
「はい、お疲れ様です大尉」
「意外とやるじゃないか。この調子だと俺もうかうかとしておれんな」
「いえ、自分なんてまだまだ未熟者ですよ」
今日のフライトを終えて、シャワーを浴びに向かおうとした矢先、
「ご苦労だ二人とも」
慈司令が二人の前に現れ、歩み寄ってきた。
「し、司令!」
今日も来たのかと、突然の来訪に彩夏はピシッと敬礼して再びあの時のきんちゅが蘇ってきた。
「固くならずに休め」
「ハッ!」
二人は両手を後ろにつけると、慈は彼らにソードの状況を尋ねた。
「どうだ、ソードの状況は?」
「ハッ、すこぶる快調であります!」
と、キースが答えると、次に司令は彩夏へ振り向いた。
「貴様の機体も中々のものだな准尉」
「あ、ありがとうございます!」
「ふふっ」
そして、あの笑顔が彩夏に微笑みかけた。
――やっぱり綺麗だな、司令は……
赤くなる彩夏と彼に微笑む指令を見て、キースは確信した。
――慈の奴、本気か?
本当にこの先変な展開にならなければいいのだがと、キースはまたもや不安を抱えたのであった。
「ベテランのキース大尉は大丈夫だが、まだソードに不慣れた准尉はパイロットとして馴染めぬことも多いだろう。無理はしないようにな」
「はい!」
慈は、最後まで彩夏に微笑んでいた。
その夜、寮のベッドで天井を見上げている彩夏は、今日も微笑んでくれた慈司令について余計気になり始めてしまった。
「司令、厳格に見えるけど――本当は``寂しい``人なのかな?」
何故か確信はないのに、そう思えてしまう。いや、今日彼がハイペリオンに搭乗した際にも操縦桿を握りしめた途端に、まるでハイペリオンが自分が乗り込んだことにとても喜んでいるように感じてしまった。飛んでいるときでもハイペリオンは上機嫌にもっと飛ばしてくれと言っているようにも思えてしまう。そして、機械以外にも今回慈司令といった人間からはオーラのような気配を感じた。とても寂しい故に、優しくしてくれる、そんな感じがした。
「おかしいな、最近は――」
ソードに出会うまでそんな第六感的センスはなかったのに、トリントンでソードに乗って以降に薄々と微かに、確信はないがそんな気になってしまった。
「疲れてるんだよ、きっと……」
今は明日に備えてもう寝ようとし、彼は瞼を閉じた。
*
翌朝、国連軍の艦艇でネオファリアの隊員たちはIS学園の人工島へと向かった。
艦艇の甲板から波に揺られている彩夏は、手すりから学園周辺を囲い停泊、警護している海上自衛隊の護衛艦の群れを見渡していた。
「すげぇ――」
甲板に吹き荒れる潮風に前髪を揺らしながら、その艦隊景色を宥めた。
IS学園という軍事組織が警護に着くほどに、世界で最も警備の固い施設である。もちろんその防衛費は各国からの支援金で賄っているのだ。
「大尉! すごい光景ですよ」
と、船内にいるキースへ顔を除いたが、
「うぷっ―――うぅ……」
あいにく、大尉は船の揺れには弱いようであり、しばらくは声をかけない方がいいようだ。
「まったく、めったに見られない光景かもしれないのに、もったいないわね?」
そう言って、ネイナが隣の手すりを持って一緒に学園を警護しているイージス艦が浮かぶ海上風景を見渡した。
「いよいよこの時が来たわね。私達の苦労が試される時が――」
「主任、その……」
しかし、今更であるが彩夏には一つ不安があった。
ソードでISに敵うどうかの不安である。彼は、そう思いながら手首につけられたブレスレットを見つめる。これは、ソードの待機状態である。皮肉にも、このアイデアだけはISの収納技術を流用させてもらっているのだ。
「大丈夫よ! 貴方とハイペリオンの腕なら、きっと上手く行くわ」
ウインクを向ける彼女を見て、何故か自然と自信がわいてきた。
「主任、ひとつよろしいですか?」
なら、ここらで彼女に相談があった。
「何かしら?」
「……自分、思い込みだろうと思うんですけど――ハイペリオンに意思があるんじゃないかって昨日何となく感じたような気がするんです」
「ハイペリオンの?」
興味深そうな顔で彼女は准尉の言葉に耳を傾けた。
「最近疲れているんでしょうか――」
「ねぇ、准尉?」
「はい?」
「君、『ネクストワン』って聞いたことある?」
「いいえ」
「宇宙開拓時代にね、まだISが宇宙開発に携わっていた頃の話よ」
白騎士事件が起こるまで、ISは宇宙開発に向けて開発される予定であった作業用パワードスーツだったのだ。それがどうやって白騎士事件後にこのような展開に変わってしまったのかが謎である。
「人類が、長年も宇宙での開拓生活を続けていくうちに何人かの人間が後に『ニュータイプ』と呼ばれる優れた直観能力と洞察力を持った、明確には公表されなかったけど、そういったエスパー的な能力を持ったクルーが発見されたのよ。そして、当時白騎士事件に参戦した元タイラント・ソードのパイロットでニュータイプの素質を持っていた彼はその戦闘でソードとかかわるにつれてニュータイプの変種・亜種ともいえる『ネクストワン』の力に目覚めてしまったの」
「ネクストワン――」
「ネクストワンは、ニュータイプのような人間同士と心を通わせる能力とは対照的に、機械と心を通わすことのできる特殊能力を持っているの。ネクストワンは、ソードと共に戦えば恐ろしいほどの力を発揮できるとデータに出たわ。
―――どうか彼が、その道を踏み外さないためにも私がついていてあげなくちゃね……」
「その、彼というのが元タイラントのパイロットなんですか?」
「そうよ、それは――」
しかし、その続きを話そうとする前に一行を乗せる船はイージス艦が停泊している学園の港施設に到着した。
「あら、もう着いたようね。キースを起こしてちょうだい。っていうか、一緒に彼を担ぐのを手伝ってもらえるかしら?」
船内で酔いバテているキースを見て彩夏は苦笑いした。
二人でキースの両肩を担ぎながらえっちらと船から港へ降りると、先に来ていた慈司令が彼らの到着を待っていた。
「うむ、移動中苦労であったな。特に大尉は」
「ね、ネオファリア部隊ただいま到着いたし――うっ」
キースの酷い酔い様に慈はあきれて、
「誰も見ていないうちに海面へ戻しておけ」
ため息をついて言った直後にキースはすぐさま港の海面へドバっという水しぶきと激しいうめき声を轟かせた。
そんな彼を後ろに、慈は代わりに彩夏へ指示を出した。
「今日からネオファリアには約三週間をこの学園施設で実技試験を行ってもらう。勤務に至っては、一日をこの学園内で務めてもらうことになる。年頃の娘たちが大勢いるが、変に誤解を招くような行動は慎め、軍人たるもの常に厳格かつ冷徹を貫いて小娘共をづけさせるな!」
そう険しい表情で言い終えた後に、「わかったな? 准尉」と彩夏に向けて彼女はそう念を押して問う。
「ハッ! 承知いたしました」
――相変わらず殺意むんむんね……
余程ISか同性が嫌いなのかしらないが、妙に近寄りがたいとネイナは思った。
「以上、質問はないか?」
そういう指令に、
「あの、篠ノ之司令?」
と、ネイナが片手を上げた。
「どうしました、ネイナ女史」
「その、そろそろあちら側の教員が訪ねに来られると思うのですが――ネオファリアの代表として、入校前に許可証を見せるようにと言われまして」
「妙だな、ネオファリアに関しては軍の申請書に含めてあることを私が承諾させたのだが――」
顎を抱えて、何かの手違いかと思ったのだが、
「すみませ~ん!」
すると、後方から黄色いワンピースを来た眼鏡の女性が豊かな胸元を揺らしながら息を荒くして駆け寄ってきた。
「貴女は?」
おそらく、教員だと思われるが風格的に事務員の女性かもしれないと慈は思ったのだろう。
「遅れてすみません! 予定では皆さんの元へ来ることになっていました織斑先生は少し遅れるとのことで代わりに着ました。副担任の山田と申します」
「副担任? あぁ、それで一つ聞きたいことがあるのですが」
鋭い視線を向けて、慈は山田教員へネオファリアに関しての入校関連を尋ねた。
「申請書に含めておいたはずですが?」
ゴゴゴ――と、背後から迫りくるオーラを前に、山田は蛇に睨まれた蛙状態になった。
「ももも、申し訳ありません! 織斑先生からの指示でして……」
――う~この人、織斑先生より厳つそう……
「織斑――やはり奴かッ」
「――?」
本当に呆れるという顔で、不愉快な顔をした慈を目に彩夏は何となく、彼女が誰かを酷く嫌っているように感じ取れた。
「じゃあ、コレ」
そういって、ネイナはひょいっと首にかけた許可証を山田に見せた。
「あ、はい! 確かに」
「では、代わりに貴女が案内をするのですね?」
「はい、それでは皆さんを校内へご案内しまーす♪」
山田を先頭にネオファリアの面々はさっそくIS学園の敷地内へ足を踏み入れた。
敷地内は広大で、歩道にはホログラムの立体表示版は看板がああり、主役の校舎は、先端の鋭い渦を描くようなの巨大な塔をオブジェが中央に聳えたつ、近未来な芸術的建築デザインが広がる校舎施設が出迎えてくれた。
校舎に飾られた、白い四枚の翼を持つ校章が実に印象的である。
校舎に続く低い段差を登っていくと、ふと校舎一体を囲うリング状の巨大なモニターからは「招かれざる来客」と表示されたデジタルが移し流れていた。
「大層な御歓迎の仕方だな」
皮肉を言うキースの隣を行く彩夏は、周囲を行き交う生徒たちから様々なオーラを拾い続けた。物珍しそうに見る人以外にも歓迎しない人や敵視を持つ人も中にはちらりほらりと見える。とはいえ、ソードに関しては無知な人が多いだろうから、そこまで歓迎されていないわけではない。
――苦労しそうだな……
とはいえ、今後自分もいろんなことに巻き込まれそうでならない予感がしてしまう。
「えっと、ここは……それで……」
校舎に入ってからは山田がいろいろと学園に関して詳しく説明を続けながら学園長室に向かった。当然この学園は約99パーセントが女性で締めくくられているため、学園長も女性であった。
「生徒たちにもよい経験ができるでしょう。私共はネオファリアの皆様を心より歓迎いたします」
学園長は若い女性であった。推定二十代後半ほどだろうか、若さゆえか口では言いうも、内心では歓迎していない様に見られた。彩夏以外の面々も彼女の不愛想な顔を見ればわかる。
「――それでは、学園の敷地内に専用の勤務施設を設けましたので後の御準備等の方はよろしくお願いします」
「失礼します!」
慈司令の言葉を最後に、ネオファリアを代表するキースと彩夏、ネイナの四名は学園長室を出ていった。
彼らが出ていったあと、学園長の彼女はようやく本音を吐き出した。
「厄介連中が来たものね――」
「IS委員会の指示に従われますか?」
隣から若い教頭の女性が訊ねた。
「そうね、仮施設には初めから監視カメラが仕掛けられているから、滞在期間まで気づかれなければいいけれどね――」
「ソード――かつて、あの白騎士を撃墜寸前までに追い詰めた驚異の人型機動兵器、その悪夢が再びこのIS学園に現れるなんて……」
「そうならないためにも、我々がどうにかするよりほかあるまい?」
頬杖をついて、学園長は深くため息をついた。
*
「なるほどなるほど~」
ネイナは二手三手も先を呼んでいたのだ。小型のマイクロドローンをあらかじめ学園長室の外部へ取り付けて、室内の会話を盗聴したのである。
「どうやら歓迎されていないようね……」
外の勤務施設へ行く途中、通路を歩きながらネイナはふと呟いた。後で、部署内部に忍ばせているという監視カメラにハッキングしてダミーの映像でも流して誤魔化そう。
校舎の隣に建てられた仮設部署には他のネオファリア隊員がPCや他の荷物を次々に運んでおり、彩夏達が戻ってきたころにはいつでも作業を行える環境に整えられていた。
そして、ネイナの支持の元仕掛けられたカメラの数を書いたメモを主任の彼女へ手渡すと、ネイナはニヤニヤと良からぬ悪だくみを考え出す。
――コイツも慈のことを言えないな……
そんなキースに彩夏は、
「すみません大尉」
「おう?」
「お手洗いに行ってもよろしいですか?」
「ああ、行ってこいよ。仮設トイレの場所とかわかるか?」
「はい、此処に来るまでの途中に見つけましたので」
「十五分で済ませられるか?」
「はい、それだけあれば」
そういうと、彩夏は部署を後にしてトイレへ駆け足で向かった。
「えっと――このあたりだったよな?」
どうして部署の隣に仮設トイレを設置してくれないのだろうか、これはある意味で意図的にとしか思えない。
「あ、あった!」
急いで仮設トイレへかけよってドアへ手を付けようとした途端、
バシンッ!
勢いよく何かの角っこが後頭部を直撃した。その激しい激痛に頭を抱えて呻く彩夏の後方から慈とは似つかない厳格過ぎる女の声が聞こえた。
「一夏! 貴様という奴は、もうじきホームルームが始まろうとしているというのにこんなところで何をしている!?」
「い、いちか――?」
また聞きおぼのある名前だ。咄嗟に彼は人違いだと訴えるが、
「人違いです! 自分は織部といいまして――」
「ふざけるな! まったく、随分と見ないうちに図体だけはデカくても頭の中はまだまだ未熟なままだな」
「ッ!」
見ず知らずの他人にそこまで言われると、さすがの彩夏も頭にきて慈に教わった通りの態度を取り出した。
「いい加減にしろ! 自分は貴様などは知らんと言っているだろうが!!」
「姉に対してなんだその口の利き方は――」
と、さらに喧嘩が激しくなりそうなところで、
「いい加減にするのはお前だ千冬!」
「ッ!?
次に気づくと、千冬と呼ばれる彩夏の後頭部を殴りつけた女は草原の地面に頬を押し付けられたまま、片手を背中の後ろ手に回されて激しく抑え込まれていた。
「な、なに――貴様は!」
自分を押さえつけているのは、己のと同じ風格をした幼馴染の女性であった。
「篠ノ之慈……お前かッ?」
「私の部下に蛮行を振るうとはいい度胸だな、教員風情め」
「お前の部下だと?」
「自分の身内と私の部下の見分けもつかないほど単細胞なのか貴様は!」
「わかった――すまない、とりあえずその手を放せ」
「フンッ!」
千冬を拘束しているその両手を話して、彼女を解いてやった。
「……確かに、人違いのようだったな」
「だったら言うべきことがあるのではないか?」
「――すまない、人違いだった許してくれ」
「本当に偉そうな態度だけは昔から変わらんな」
「ッ!」
千冬はキリッと慈を睨みつけると、そそくさと校舎へ戻って行った。
「怪我はないか?」
と、口調をやわらげて問う慈に、
「少し腫れてしまいましたが任務に支障はありません」
「いいや、部署へ戻って手当しよう。内部出血とかあったら大変だ」
そういうと、彼女はなんと彩夏の手を引いて共に部署へ入っていくではないか。この至近距離で彼女の温もりと香りが漂う中、興奮を紛らわすように彩夏は先ほどの件について尋ねた。
「――あの、先ほど自分を人違いしていた方をご存じなのですか?」
「ああ……奴とは幼馴染というか、単なる腐れ縁だ。まったく、天下のブリュンヒルデとやらが聞いてあきれる!」
――ブリュンヒルデ?
どこかで聞いたことのある響きだが、IS関連に至っては全くの無知である彩夏にはどうでもいい事である。
その後、慈と共に部署へ戻った彩夏を見てキースは慈から事情を聴かされた。
「ああ、そういう事か――」
さすがはブリュンヒルデ、誰に対しても容赦しない徹底ぶりにはあきれる。
「いちよう大した怪我はないようね?」
スキャン装置でネイナは彩夏の状態を見てホッとした。
「いいや、腫れが目立つ手当をしよう。准尉、こっちに顔を向けろ」
そういうと、救急箱を膝にのせて、慈は彩夏の額周りにシップと包帯を巻きつけて聞く。
「し、司令?」
急にそんな事をされるのでまたもや顔を赤くする彩夏だが、
「これでもあ奴から蛮行を受けたのだ。ケガを負わしたという罪悪感を与えてやらなくては私の気が済まん!」
「は、はい……」
――慈と千冬は犬猿の仲だからなぁ……
そんなやり取りを見ていてキースは改めて慈と千冬が水と油だという事を知った。
「まぁ、なにはともかく今後の訓練に協力してくれる一年一組の教室へ挨拶へ行く予があるから准尉も来いよ。気分が好かんかもしれんが、一様建前としてでもな――もちろんネイナ主任も頼む」
「え、どうして?」
「ソードを作った人が女性だっていう事を公表すればこちらに向けられる生徒たちの敵視の数が幾分減るだろ」
「そうまでしないといけないの? 本当、同性の女ってめんどくさいわよね~」
「まぁ、そういうことだから――いいな」
「はいはい」
「では私も――」
と、同行を求む慈だったが、
「おっと、お前は此処にいろ」
そうキースが止めに入った。
「何故だ?」
「まーた千冬と喧嘩したいのか?」
「うむ……わかった」
中学生のころから千冬とは顔を合わすとよく喧嘩したものだ。その癖は今も治っていないらしい。下手に出れば学園側の迷惑につながるか。
「じゃあ、行こうぜ」
キースは彩夏とネイナを引き連れて教室へ向かった。
再び校内に入ってハイテクかつ小娘達には贅沢過ぎるつくりの校舎を歩いて一年一組の教室へ教室の前まで行くと、外には事前に山田が彼らが来るのを待っており、彼女はさっそく教卓に立っている千冬へ知らせた。
一組の教室から突然軍人らしき大人たちが入ってきたことで生徒一同は騒めきだした。
「静かにしろ! 今日から三週間――あっ……」
そのとき、千冬の視界にはキースの姿が映った。
――キース!?
「……」
しかし、驚く彼女を見ているキースは何も動じなかった。そんな彼を前に我に返った彼女は慌てて言い直した。
「――失礼。今日から三週間、我が一組と共同で実技に当たることになった国連軍のソード開発部署『ネオファリア』の皆様方だ」
「――?」
すると、教室の中からあの時の夜に出会った慈司令そっくりの少女の姿を見つけ、彼女と一瞬目が合った。
「あ――!」
しかし、少女は顔を赤くしてこちらから目をそらした。
――あの子も、この学園の生徒だったのか。
……そのときであった。
「――あぁ~! お、織斑君!?」
一人の生徒が立ち上がって、仰天しながらキースの隣に立つ彩夏へ指を向けた。
「本当だ――あの人、織斑君に凄いそっくりじゃない!!」
「すごい! まるで双子みたいに滅茶苦茶似てる!!」
そんな突然参りこんだ騒ぎように彩夏はたじろいでしまった。
「な、なんだ?」
「ええい、静かにせんかッ!」
騒ぎを静めさせる千冬に徐々に騒めきは途絶えていったが、
「さ、彩夏ッ! 准尉、あの生徒を見ろ」
キースは突然顔を青ざめたかのように彩夏の肩を激しく叩きながら女子生徒たちの中にいる中で黒一点の存在へ指をさした。
「な、なんですか!?」
そこには、もう一人の彩夏が前側の席について此方を驚いた様子で見つめていた。
目つきや風格はやや異なるも、まるでお互い生き写しのように瓜二つの青年を前に、キースやネイナは混乱しだした。
「そんな――彩夏が、二人!?」
後書き
次回
「二人の彩夏」
ページ上へ戻る