今やフジテレビ「昼の顔」として君臨する坂上。だが、当の「バイキング」幹部は上層部に「このままでは社員が持ちません」と直訴、聞き取り調査も行われた。アナウンサーやスタッフへのイビリ、長時間説教、2カ月出入り禁止、“消された”共演者…。坂上を直撃すると90分にわたって持論を――。
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東京・お台場にあるフジテレビ本社屋。6階にある第7スタジオでは、MCの坂上忍(53)の甲高い声が響き渡るのは日常の風景となっていた。
「なんでできねえんだよ!」
「打ち合わせと全然違うじゃん!」
「お前はちゃんと番組と向き合っているのか」
大学時代、アメフト部で鍛えた身体をひたすら小さくする中堅社員に容赦なく罵声が浴びせられる。声の主は「自分は正しい」と確信するだけに声量は増す。
「笑っていいとも!」の後継番組として14年4月からスタートした昼の情報番組「バイキング」。
9月末のリニューアルに先立ち、この中堅社員の名前はエンドロールからひっそりと消えた――。
番組関係者が明かす。
「現場での振舞いはまるで昭和の大スター。周囲にスタッフを立たせたまま、椅子にふんぞり返り、禁煙区域でも平気でタバコを吸い、本番前から缶チューハイを呷っている。楽屋へ挨拶に来るタレントやスタッフにも酒を勧めるが、咎める人はいません」
9月末のリニューアルでは、5年前から番組進行を務めてきた榎並大二郎アナが番組を去る。
「局内では彼に対する態度がパワハラだと指摘されている。生放送中に『鼾(いびき)』という漢字を読めなかった榎並を延々といじり倒し『漢字があまり好きじゃないの?』、『読めないのは大問題だよ』としつこく責め続けたことも。榎並は、勤務中に坂上さんに酒を飲まされて赤い顔をしてフロアを駆け回っていたこともあった。10月から榎並は『バイキング』を外れますが、本人の強い希望だったといいます。彼は同期入社でフリーアナの加藤綾子がMCを務める『Live News it!』に出演が決まりましたが、通常、同期がMCの番組に出ることは異例の人事といえるでしょう」(同前)
「バイキング」で今何が起きているのか。同番組は、6年前に「お昼維新、始めるぜよ。」というキャッチコピーで始まった。
「現在のように時事ネタを議論する内容ではなく生活情報に特化したトークバラエティでした。曜日ごとにテーマを設け、毎日、違うMCが進行。裏番組の『ヒルナンデス!』(日テレ系)を強く意識した内容でしたが、視聴率は振るわない。翌年のテコ入れで全曜日の総合司会に抜擢されたのが坂上さんで、内容が一新されると数字も上向いていったのです」(フジ社員)
そして9月末から「バイキング」の放送時間は1時間拡大することとなった。
しかし――。
「もう限界です。このままだと社員がもちません」
今年5月頃、ある幹部スタッフが、制作局の局長らに対し、冒頭の中堅社員の例をあげ、坂上の行状を訴えた。他にも坂上の言動を苦痛に感じたと訴えるスタッフは少なくない。
ガミガミうるさいことから、一部のスタッフは陰で坂上を「ガミさん」と呼ぶ。気に入らないことがあれば怒鳴りちらし、人前で面罵することから、プロデューサーやディレクターは常に神経をすり減らしているという。
「事前に打ち合わせの内容をLINEで送ると『全然違う!』とつき返されて台本の書き直しを命じられる。ミスでもしようものなら罵詈雑言を浴びせられ、楽屋できついお叱りを受ける」(前出・番組関係者)
本番前の打ち合わせや、オンエア後の反省会、スタッフとの飲み会の席など、あらゆる場面で坂上の叱責は常態化しており、年々激しさは増す一方だという。
「必死に作ったVTRを簡単にお蔵入りさせ、かと思えば突然、別の番組で見つけた犬の企画をやりたいと言い出したりする。散々振り回された挙句、後輩の前で吊し上げられたディレクターが『ぶん殴ってやりたい』と愚痴をこぼしていたこともありました」(同前)
「心、折れてきますよ」
出演者にも容赦はない。
一昨年9月までレギュラーだった小籔千豊が番組を降板したのは、坂上の高圧的な態度に嫌気が差したからだと言われる。
「女子レスリングのパワハラ問題について意見を述べた際、坂上から『報道のあり方に疑問を呈する前に、どうお考えなんですかって聞いてんだよ!』と突然キレられた。また財務次官のセクハラ問題で決定的な証拠がないことを指摘すると『罪もクソも財務省が認めてんだよ?』『また振る相手を間違えたかなオレ……』と露骨に嫌味を言われていた。小籔はネット番組で番組の状況を暴露。坂上の意向に沿わない意見を言うと、嫌な顔をされたり、強制的にCMに入られたと語り、『心、折れてきますよ』と明かしていた」(芸能記者)
だが、「フジにも落ち度はあった」と語るのは、別の番組関係者だ。
「ガミさんが一番キレるポイントは、放送内容に制限がかかること。たとえば芸能スキャンダルを扱う際、局とプロダクションの関係でボツになると激昂し、プロデューサーを怒鳴りつける。あるディレクターは打ち合わせの場で露骨に無視され、2カ月近くガミさんの楽屋に入ることを許されなかった。ただ、そもそもバラエティをつくる制作局に情報番組を担当させること自体、無理がある。ガミさんだけでなく、社内からもそうした声が上がっていましたが、フジの上層部は放置し続けてきたのです」
5月から6月にかけて、スタッフに対するヒアリングが行われると、坂上の言動への不満が噴出。パワハラについての調査結果は、編成局をはじめフジ上層部にも報告された。
「調査の経緯は文書にまとめられ、6月中旬には坂上さん本人にも事情聴取が行なわれたが、彼は『時事ネタを扱う態勢が整えられないフジに問題がある』などと反論。同時に番組側と編成の協議が行なわれ、『9月末で打ち切り』という方向で話が進んでいました」(別のフジ社員)
ところが――。
蓋を開けてみると、9月末で終了するのは「バイキング」ではなく、安藤優子(61)がキャスターを務める「直撃LIVE グッディ!」だった。「バイキング」はバラエティ番組をつくる第2制作室からワイドショーの情報制作局に移管され、「グッディ!」を飲み込む形となった。
フジ社内で一体何が起きていたのか。
「今回、フジの将来を左右する重要な改編のため、話し合いが重ねられ、方針は二転三転。坂上さんを外して別のアナをMCに起用する案や、坂上さんにコメンテーターみたいなポジションに座ってもらうという案も浮上しました。局上層部が坂上さんを問題視したのはパワハラ問題だけではない。編成幹部は、過度な安倍政権批判についても煙たがっていた。安倍首相と親しい日枝久相談役も苦言を呈していたと聞きました」(同前)
「バイキング」が延命し、「グッディ!」が打ち切られた理由は、ギャラと数字の問題が大きいという。
「安藤は、年間1億円はくだらないと言われる高額なギャラがネックだった。一方、坂上は安藤の半分程度のギャラで、1%台にまで落ち込んだ視聴率を底上げした大功労者であり、局にとっては軽視できない存在です」
結局、坂上のMC残留は決まったが、大きな変更点もあるという。
「上層部が問題視する『政権批判』の対策で、5月の連休前から、編成は政権寄りの平井文夫解説委員を番組に送り込んだ。またお目付け役としてフジのエース、伊藤利尋アナを番組進行役に据えます。番組で扱うテーマの選定については、情報制作局のスタッフが主導権を握ることになりそうです」(前出・フジ社員)
ただパワハラ問題については何の対策も取られず、「グッディ!」から加入するスタッフのなかには、不安を覚える向きも多い。
長年「グッディ!」の制作に携わってきた番組関係者が打ち明ける。
「7月上旬、100名以上のスタッフが本社屋の大会議室に招集された。チーフプロデューサーが壇上に立ち、9月末の番組終了が告げられ、『バイキング』に移ってほしいという提案があった。あまりに唐突な展開に会議室は静まり返りました」
15年から5年半続いた「グッディ!」は独自取材が売りのワイドショー。スタジオトークが中心でバラエティ班が制作する「バイキング」とは仕事の内容もスタンスもまったく異なる。
この場でチーフプロデューサーはスタッフに対し、こう言うだけだった。
「坂上さんのパワハラを心配している方もいらっしゃると思いますが、私が話した限りは妥協を許さない方だという印象を受けました。パワハラで不安があれば、いつでも聞いてください」
番組関係者が続ける。
「7月の説明会でチーフプロデューサーから坂上さんのパワハラを否定する言葉は、最後までなかった。こうしたフジの姿勢にも疑問を抱き、『バイキング』への異動を断った人も少なからずいたといいます」
「バイキング」を離れる榎並を直撃すると……
当事者たちはパワハラ疑惑について何を語るのか。
9月末で「バイキング」を離れる榎並を直撃すると、
――バイキング卒業は榎並さんご自身の希望だった?
「ちがっ……普通に番組改編のなかの話として捉えておりますけども」
――パワハラに関して内部調査が行なわれた。
「そういうことはまあ……『バイキング』で文春さんを散々取り上げさせていただいているのですが、お答えできずに申し訳ないです。坂上さんにはお世話になって、ご指導を頂いていてとしか言えないんです」
――坂上さんが夏休み中は活き活きとしていた。
「それは、はい。すみません!」
冒頭の中堅社員に取材を申し込んだが、「坂上さんとはお互いに信頼した関係だと思っています。番組は8月に離れましたけど、坂上さんとのことは関係ありません」と答えるのみだった。
坂上を直撃「相手がパワハラだと言ったらパワハラ。それは暴論」
8月30日朝5時。愛犬を散歩させるため、自宅を出た坂上は、小誌記者の声がけに足を止め、穏やかな口調で直撃取材に応じた。
「一応、僕も人間なんでね。文春さんがこうしていらっしゃったんで、いまそこの道を一周しながら自分の悪行の数々を振り返ってみたんですけど(笑)。僕、何か悪いことしましたか?」
単刀直入にパワハラ疑惑を聞くと、坂上はタバコの煙をくゆらせ、こう言った。
「今の時代、相手がパワハラだと言ったらパワハラなんだと。僕はそれ、暴論だと思っているんですけどね。それは僕に聞くより、ダメなのかそうじゃないかを判断するのはフジテレビさん。OKだからこそ今の僕があるし、(改編後の)10月以降も番組に出られるんじゃないですか」
――楽屋に出入り禁止になったスタッフがいる。
「ひとりいらっしゃいますよ。理由を言ったら、その人が可哀相。ただ文春さんもそうだと思うけど、どこかの圧力との戦いがあるんですよ。たとえばあるネタに『いけますよ』と言われて動いているのに、翌朝になって台本が上がる頃に無理ですとなり、代替案もない。こうしたときに『申し訳ないけどもこの表情が出てはいけないので、しばらく距離を置きましょう』というやり方はありました」
――本番前から酒を飲んでいた?
「時事ネタを扱う前までは毎朝飲んでいました。初日はベロベロでした。ただ3年目から時事ネタとなって、身体を大事にしないとということで、さすがに今はもう(飲んでいない)」
――榎並アナへのいびりについて。
「いや、鼾くらい読めないとダメでしょう。若干頼りないですけど、フジを背負っていかないといけない人だし、彼とは一蓮托生という思いもある。『バイキング』は長すぎるし居場所が確立されているから他所へ行った方がいいと思います。(卒業まで)あと1カ月くらいしかないから、よりキツめのイジリをもって見送ってあげたいなと思ってます」
――フジからパワハラについて注意はあった?
「それがあるんだったら分かりやすいんですよ。どこの局でも同じですけど、ミスを繰り返す子を注意してフォローすると、その子の上司から『育てていただいてありがとうございます』と言われるんです。そこで僕が言うのは『あなたたちが育てる作業をしないといけない』と。若い子より、その上の人たちに問題があると思っているんです。
あと実際、僕に注意された子に『注意じゃない、怒鳴られた』と言われたら、そうなるんだろうし。だからと言って一つ一つ説明する体力もないし、僕らの年代が共通して抱えている悩みとしか言いようがないですよ。生放送は“戦争”ですから、現場で至らないところがあれば怒ることもありますし」
「辞める覚悟はできています」
スタッフの告発やフジによる内部調査の有無について尋ねると、それには答えずこう語った。
「僕はスタッフさんに負担をかけたっていう思いはあるし、一方で何年も言い続けてきたことが改善されないことへの不満もある。僕にとってスタッフは戦友みたいな存在。『彼らに申し訳ないと思うことはありませんか?』と聞かれたら『いくらでもあります』と答えるし、向こうだって同じことを言うかもしれない。
バラエティのお仕事をさせてもらって驚いたのが、ゴールなきゴールに向かって延々と走り続けないとならないこと。ただバラエティのスタッフで時事ネタを扱うことがいかにハードルが高いか知らなかった。そういう問題を抱えながら、スタッフが奔走することになった。果たして(番組を)延命することがよかったのか悪かったのかは、僕にも分からなくなってる」
フジの企業広報室は、次のように回答した。
「『バイキング』の制作過程においてパワハラにあたる行為はなかったものと認識しております」
取材の最後、坂上は「バイキング」降板の可能性にも言及した。
「僕もそこまで鈍感じゃないんで、仕事をやる意味が見つけられなくなったら自分から身を引く。忘れられないのが、小倉智昭さんがゲストで来て下さった時、『坂上君が生番組で口にしてることはすごい。ただそれがいつまで出来るかという問題があると思う』って言われたこと。今の僕は多分、そういうところに差し掛かってるという気がする。言いたいことが言えなくなったら、いつだって辞める覚悟はできていますよ」
10月からのリニューアルによって、坂上と「バイキング」はどう変わるのか。
source : 週刊文春 2020年9月10日号