原発事故を利用して「国営化」された電力業界

 敗北した経産省が逆転する千載一遇のチャンスが、2011年の福島第一原発事故だった。このとき経産省は民主党政権を利用して東電を国営化し、原子力損害賠償支援機構の子会社として支配下に置いた。

 これは再エネ派にとっても大勝利だった。彼らは事故後のどさくさまぎれに、政治家を利用して世界一高価な固定価格買い取り制度(FIT)を創設させた。当時、経産省はこれを役所の人気取りに利用して「グリーンな官庁」に変身をはかった。

 経産省は反原発派と再エネ派を利用して電力業界の「長男」だった東電を支配下に置き、長年実現できなかった発送電分離を火事場泥棒的に実現したのだ。

 発送電分離のもとでは、基本的に発電会社は供給責任を負わない。責任を負うのは発電会社と分離された「電力広域的運営推進機関」だが、彼らには発電の設備投資はできない。

 電力は再エネ優先で買い取られるので、火力の操業率は落ちて採算が悪化し、廃止に追い込まれる発電所が増えた。電力会社は構造不況業種になり、毎年300万~400万キロワットの火力が廃止されている。設備は余っているが、電力買い取り価格が下がったため、固定費が回収できなくなったのだ。

 電力業界はエネ庁の裁量で経営が大きく左右される「国営産業」になり、その非効率なインフラのコストは、すべて電力利用者が負担する。FIT賦課金だけでも2030年までに40兆円を超え、原発の停止で累計30兆円以上の損害が出た。

 おまけにエネ庁は脱炭素化のため、2030年までに石炭火力を100基廃止しろと指導した。それがここに来て「火力再稼働の公募」だ。このようにエネルギー問題を政治利用する場当たり的なエネルギー政策が、電力危機の元凶である。

 今必要なのは、誰も供給に責任を負わない無責任な電力供給体制を改め、発電業者に供給責任を負わせることだ。特に大事なのは一時的な発電量だけでなく、長期的な設備投資計画である。

 今のままでは原子力に投資する電力会社はなく、メーカーも撤退し始めている。大学にも原子力工学科はなくなり、人材も集まらない。

 中国は2030年までに原発を100基建設し、売電価格はキロワット時3円にする計画だが、そのころ日本の電気料金は30円以上になる見通しだ。このままでは、日本に製造業は残らないだろう。

 国営化された日本の電力業界を救う道は、電力自由化の仕切り直ししかない。FITなどの再エネ偏重政策をやめ、原子力部門を切り離して東電を「民営化」し、長期的な設備投資に責任を持つ業界にしないと、日本の製造業は没落する。