灰色の獅子【完結】 作:えのき
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とても薄暗くどんよりした墓地の中にウィルはひとりぼっちだった。カラスの鳴き声が不気味に響き渡るも彼は何も感じていない。なぜなら今の彼は心がスッキリとしているからだろう。
敷地は余裕があるはずなのに墓の間隔はあまりにも狭く密集している。ここは身寄りのない魔法使いが埋葬されているからだ。“夜の闇横町”は犯罪者や複雑な事情のある者が隠れるように生きている。だから身寄りや信頼関係は薄く。埋葬は実に乱雑で、供養ではなく人として最低限のモラルを保つ為だけの作業として並べられているのである。
事実、数多く並ぶ墓の前に供え物は何一つない。墓石はひび割れていたり、一部が欠けていたり、そして雑に名前が刻まれている。
ウィルはある墓の後ろにもたれかかり、黒い手帳を膝にのせて何か書き込んでいる。側に年季の入った酒の瓶が並んでいる。
《やぁ君達と話がしたくなった。
今、どこにいる?》
ウィルはそう書いて手帳を閉じる。そして彼はぼーっと空を見上げていた。数年前なら考えられない事だ。だがウィルは時間を無駄にするという行動を楽しめるようになった。
すると彼はふと手帳に目を落とすと、再びページを開く。
《それは言えないわ。だってまだ貴方の口からどちらの味方をするか聞いてないもの》
彼は一度ページを閉じて、すぐにまた文章を書き込んだ。
《実はまだわからない。だが自分の
彼は自分のルーツを知った。ずっとまとわりついて離れない霧のようだった。害はないが目の前の道を突き進むには得体の知れぬ不安が付き纏う。
《そう、なら一度会うのも悪くないかもね。
私達は今、ホグワーツにいるわ。》
ウィルはその文章を眺めると目を見開いて驚く。そして彼はゆっくりとホグワーツのある方角を向く。
「・・・戻るか。」
ウィルはつぶやくようにそう言った。そして彼は立ち上がり酒瓶を指で掴む。
「僕の口にはまだ合いませんね。それではまた来ます。」
彼は背中にもたれかかっていた墓の正面に回る。そして彼は綺麗に整えられた墓石の上から瓶の中身を流した。
《ジェニス・マクミラン》
墓地にはそう刻まれていた
***
〜ホグワーツ魔法魔術学校〜
かつて、アルバス・ダンブルドアが生きていた頃は校内が活気溢れていた。だが彼が死に、月日が流れてから不気味でどんよりとした雰囲気が漂う。
「なぜこんな時間に呼ばれたのか、不思議に思うものもいよう。」
ねっとりとした声が大広間に響き渡る。新たに校長に就任した死喰い人だ。
まるで軍隊のように整列させられた大半の生徒たちは下を向いている。
「聞くところによるとさきほど、ポッターがホグズミードに現れた。」
“ポッター”の名を聞いて生徒たちはざわざわと騒がしくなる。しかし校長はそれを上からかぶせるように続ける。
「もしそこで生徒でも教員でもポッターを助けようとすれば、その者は罪の重さに応じて相応の罰を与える。」
校長はそう言い放つ。だがその瞬間に1人の生徒が列からはみ出た。
ボサボサの黒髪に丸メガネ、そしてレンズから覗くのは母親譲りの瞳をした青年だ。
「ここは徹底的に警備を固めてますが、警備に穴があるようですね。」
かつての“生き残った男の子”ではなく、“選ばれし者”ハリー・ポッターは校長であるセブルス・スネイプを睨みつける。
彼の宣言と共に勢いよく大広間の扉が開いた、それは不死鳥の騎士団のメンバー達だ。彼らは杖先をスネイプへ向けている。
「よくものうのうと校長の座に!あの夜、お前はなにをしたッ!?」
ハリーは激昂する。
「お前を信じていた先生を裏切りそして殺したんだッ!!!」
スネイプは何を考えているのか読めない表情を浮かべると、少しして素早く杖をハリーに向けた。巻き添えになるのを恐れた生徒達はさっと離れて避難する。
そして間髪入れずにマクゴナガルが割って入りスネイプに杖を向ける。
その様子を見たスネイプは杖を向けるのを一瞬だけ躊躇するものの、すぐに戦闘態勢に入った。
マクゴナガルは素早く数発の炎をスネイプに向けて放つ。それに対して彼は防ぐことしかできない。
後ずさりしながらスネイプはマクゴナガルの炎を凌ぎ続ける。盾の呪文で弾く弾みにスネイプの背後にいた死喰い人へ命中する。
すると突然スネイプは黒い煙となり、背後にあったガラスを割って姿を眩ませた。
「臆病者ォォッッ!!!!」
彼女はそう叫ぶ。それに応じるように抑圧されていた生徒達は歓声をあげる。
彼女は暗い大広間に炎を灯す。暗いホグワーツが終わりだということを示したのだろう。
だがすぐに校舎全体に戦慄が走る。一瞬で希望が絶望へ変わってしまった。これが“闇の帝王”の影響なのだと理解せざるを得なかった。
『戦いたがっている者が大勢いるな。戦うのが賢いと考えているものもいよう。愚かなことだ。』
静まり返った室内で血の気のない声が響き渡る。慈悲や容赦のない声だ。誰一人として顔色の良いものはいない。
『ポッターを差し出せ、そうすれば危害は加えぬ。』
彼は冷徹に要求を突きつける。
『ポッターを差し出せばホグワーツには手を出さぬ。ポッターを差し出せばお前達は報われる。1時間だけ待ってやろう。』
そう言い終えると冷気は消え去り、微かに温もりを感じる。部屋が暖かくなったのではないのは明白だった。
「なにをグズグズしているの!アイツを捕まえて。」
スリザリンの上級生がハリーを指差してそう叫んだ。しかし彼を庇うように次々と生徒達が立ちふさがる。その行動はそのスリザリン生を静かにさせるには充分だったらしい。
マクゴナガルはフィルチに命じてスリザリンの生徒を連れ出して地下牢へ閉じ込めておくよう言いつける。それは彼らにとって実に好都合だった。彼らの中には親が死喰い人に属する者がいる、後々にヴォルデモートにより自分達に反抗したという意思がないと見なされれば困るからだ。
フィルチによりスリザリン生が連れられているのを横目にハリーは恩師であるマクゴナガルに駆け寄る。
「戻ったのは訳があるはずです。なにが必要ですか?」
マクゴナガルは状況を素早く理解すると共に最も重要となる質問を選択する。
「時間です。できるだけ長く」
「為すべきことをなさい、城は私が守ります。」
マクゴナガルの瞳にはダンブルドアから受け継いだ強い意志が秘められている。ハリーが頼もしいと思って、彼女に背を向けて立ち去ろうとした時、呼び止められる。
「ポッター、会えてよかった。」
「僕もです。先生。」
2人はにやりと笑みを浮かべた
***
〜マルフォイ家屋敷〜
魔法界でも有数の名家に姿をくらましていた御曹司が現れる。だが迎えの者は誰一人としてなく、かつて豪華で上品だったはずの庭は人の手が加わることがなく無造作に生い茂っている。室内の明かりは全て消され人気のない。まるでお伽話に出てくる呪われた屋敷のようだ。自分がこの家を離れてから転落の一途を辿っているのだと彼は理解する。
ウィリアム・マルフォイはかつて自分が青春時代を過ごした屋敷の扉の前に来ていた。彼はなんの躊躇もなく自然に扉をこじ開ける。限りなく施された防衛策を軽々と突破して中に入ると、彼が戻るのを待っていたかのように壁一面に均等に並ぶ蝋燭に火が灯る。
「誰もいないとはな・・・、ここは死喰い人のアジトとなったはずだが。」
ウィルは不穏な空気を感じつつも、かつての自分の部屋へと向かっていた。
彼が部屋に入るとカビ臭いが鼻を突き刺す。しかし動じる事なく見回す。自分やルシウスに頼んで入手した魔法薬や材料、そして彼の本棚に並ぶことを許された重要な書物。
それらは、まるで化石のように誰の手にも触れられることなく静かに眠っていた。ウィルは軽く一瞥して懐かしむ。
だが彼の机の上になにやら見覚えのない小さな箱が置いてある。黒くてコインケース程の大きさだ。魔力を感じる。ウィルは奇妙に思えた。これらの理由からではない。
その箱の上には“カラスの羽”がのせられている。すぐに誰から送られたものかウィルは理解した。
「自分探しの旅はお仕舞い。落としたものは全て辿った。あとはこの記憶だけだ。」
ウィルはそう呟くと杖で己の頭から記憶を引き出して自分の部屋に置いてある“憂いの篩”の中へ落とした。
これは彼が一生の中で最も苦痛で最も幸福だった時の記憶だ。
彼がまだマルフォイの名前をもらう以前のこと・・・
彼が自分の成すべき事だと確信した頃だ
次回から最終章の最終パートとなります。
過去編と戦争にて完結です。