灰色の獅子【完結】   作:えのき

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最終章【天秤の行方part1】
プロローグ


 

 

雪が激しく大地へ降り注いでいる。地面は白く染まり、風は荒れてた。まるで頬へ叩きつけるように冷たく刺さる。

 

校舎から離れて凍りついた湖の岸辺を男女が歩いていた。1人は黒いローブに黒髪をなびかせ茶色の瞳は鷹のように鋭い。そばの子は栗毛でマフラーに顔の半分以上を埋めている。

 

前へ前へと雪を諸共せず進む青年と身体を小さくして震えている少女、立ち姿は対照的だ

 

「これは人に初めて話す事だ。僕は君に協力して欲しいと思ってる。」

 

ウィルは正面を向いたままそう呟いた。雪から身を守ることも、縮こまることもない。

 

「ハーマイオニー、僕には四つの夢があってね。一つ目を語るには前提がいる。」

 

彼は立ち止まり、ハーマイオニーの瞳をジッと捉える。白い息を吐きながら語り出した

 

「僕は戦争孤児だ。そしてルシウス・マルフォイに才能を見出されて救われた。」

 

ウィルはなんの躊躇もなく過去を話した。まるで自分の好物を話すかのように言った。あまりに自然だった為にハーマイオニーは気を使うことを忘れていた。

 

戦争とは“闇の帝王”の勢力が全盛期の時に騎士団陣営と起きた戦争だ。

 

「一つ目はマルフォイ家を守ることね。」

 

「そう、恩返しだよ。僕はあのままでは死んでただろうね。“ノクターン横丁”の孤児院でいて・・・」

 

彼は少し言葉に詰まり、口を小さく開けたまま時が止まる。

 

「いつも殺されかけてた(・・・・・・・)。親を知らない子供は“穢れた血(マグル)”扱いなんだ。」

 

彼の告白にハーマイオニーは唖然とする。あの天才ウィリアム・マルフォイが殺されかけてた過去があったなんて信じられなかった。少なくとも一度や二度ではないのだ。

 

信じられなかった。今の彼は傲岸不遜、自分の力で這い上がったからこその態度なのだと気がついた。自信家なのは当然だ。

 

そうでなければこんなに強い瞳で自分を見つめられない。

 

「2番目は?」

 

「これは簡単だ。魔法界の存続だよ、途絶えないようにする。」

 

ウィルは少し表情を柔らかくして言った。

 

「3番目は実力主義。不当な差別をなくしたい。生まれや育ち、種族ではなく各個人が評価されるようにしたいんだ。」

 

ウィルはそう言った。彼の過去が関係してるのだろう。どれほど計り知れない才能があろうと、それを伸ばす環境や示す機会がなければ存在しないも同然だ。

 

「同意ね、ただ・・・があるわ。」

 

ハーマイオニーは知っている。血統主義が少ないマグルの世界でも差別はある、有史以来から平等だった時代があるのだろうか。

 

ウィルは彼女の指摘にうなづいた。

 

「どこまで平等にするのかということ、そしてどこまで範囲を広げるのか、その基準を誰が決めるのか。」

 

「その通りよ。」

 

無論、ウィルは長年の思考の過程で答えにたどり着いている。そして彼はこれまでにないほど強い意志を秘めた瞳で言った。

 

「これが最後だ、君は反発するだろうな。僕は“世界を整えたい”。」

 

「どういう意味?」

 

「数多くのバラバラの存在を整えるんだ。つまり“価値観の統一”だ。」

 

彼は最後の野望を話し終えた。するとウィルはさらにハーマイオニーを驚かせる一言を言い放った。

 

「最悪の場合、僕は魔法界の支配も視野に入れてる。」

 

 

 

 

***

 

 

 

数ヶ月後

 

 

 

 

ハーマイオニー達は新学期が始まり汽車で揺られていた。もうこの汽車にウィルは乗っていない、誰も話題にしないようにしてる。それもそうだ、学校で一番才能ある生徒が指名手配されて未だに捕まっていないのだから

 

彼女はバッグから小さな手帳を取り出した。表紙の下の方に金の刺繍でハーマイオニー・グレンジャーと縫われている。

 

それをパラパラとめくるとカレンダーや日程などが描かれている。そして後ろの方にある真っ白なページにたどり着く。

 

 

羽ペンを取り出してサラサラと文書を書いた

 

 

 

 

 

《もうすぐホグワーツに着くわ。そっちはどう?前にビクトールには寒いところにあるって聞いたけど》

 

 

 

 

彼女がインクが乾く前に日記を閉じる。すると先ほどあったはずのハーマイオニー・グレンジャーという金の刺繍が消えてる。

 

 

 

そして少しの時が経つと、再び金の刺繍が現れている。彼女が先ほど書いたはずのページのインクが消えており、彼女のものでない滑らかな字だ。

 

 

 

 

《こっちはもう校舎の中だよ。場所は秘密でなければならないんだ。》

 

 

彼女がそれを読み終えるとサラッと消えた。そして彼女はすらすらと書く。

 

 

《友達はできた?》

 

《友達ね、まぁ・・・できたは、できた。》

 

 

そのまま2人は素早く交換ノートで会話をするかのように羽ペンを動かし続けた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

数時間後

 

 

 

 

《新しい先生がきたの。闇の防衛術はアンブリッジ先生よ。魔法省から来たわ、学校に干渉するかもしれない》

 

 

《こっちは・・・想像以上に荒れてた。だが実力主義であるのが有難いくらいだ。アンブリッジは魔法省の役人だな。悪いが父上の権力は頼れない。まぁ僕のせいだが》

 

 

 

 

***

 

 

 

 

次の日

 

 

 

 

《学校の様子はどうだ?》

 

 

 

《ハリーが何人かに距離を置かれてるわ。“例のあの人”が復活したのがハリーの嘘って新聞が書いてるのよ》

 

 

《印象操作だな、耐えるしかない。こっちは面倒な事態になった。》

 

 

 

***

 

 

 

1ヶ月後

 

 

 

《あの意地悪女!自分を守る方法を覚えさせないの!魔法省は学校を乗っ取る気よ!》

 

 

《今日は荒れてるな、監視と戦闘力の低下が狙いだな。》

 

 

《戦闘訓練をさせないの、ダンブルドアが軍を集めて反乱をするって思ってる。以前みたいに行方不明者が増えているのよ》

 

 

《君のことだ、自分達で学ぶのだろう?》

 

 

《もちろんよ!先生がいるわ、アンブリッジ以外の》

 

 

《スネイプ先生だな。》

 

 

《それは不可能よ、ハリーを中心とした組織をつくるの。校則破るのってワクワクするのね》

 

 

《場所の心当たりはあるか?》

 

 

《・・・これから探すわ。》

 

 

 

***

 

 

 

次の日

 

 

 

 

《“必要の部屋”が現れたの、“あったりなかったり部屋”。本当に必要としているときに現れるのよ》

 

 

《それは知らなかった》

 

 

《名前は“ダンブルドア・アーミー(DA)”よ。そっちの状況はどう?》

 

 

《そうか。あぁ、全員叩きのめした。》

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数週間後

 

 

 

 

 

《ハリーが夢を見たの、ロンのお父様が襲われている夢よ。まるでハリー自身が襲っているみたいで、2人の間に絆があるらしいの》

 

 

《Mr.ウィーズリーは無事なのか?絆か・・・、例の傷の痛みもその絆によるものか?》

 

 

《えぇ、アーサーさんは無事よ。ハリーはスネイプ先生に閉心術を教わるわ》

 

 

《あの人は素晴らしい才能がある、まぁ性格に少々難はあるが・・・》

 

 

 

***

 

 

 

数週間後

 

 

《アズカバンが襲撃されて“例のあの人”の部下が脱獄したわ》

 

 

《あぁこっちにも届いてる。彼が動き出したんだな。》

 

 

 

***

 

 

 

数週間後

 

 

 

 

 

《今日は守護霊を学んだの、私は出来たわ、ジニー、ルーナも》

 

 

《流石だね、たしかにルーナは得意そうだね。》

 

 

 

***

 

 

 

次の日

 

 

 

 

《DAが見つかったけど校長先生は逃げ延びたわ。アンブリッジが校長になったの。最悪よ、男女が20センチ近づいただけで違反なんて》

 

 

《そうか、だがあの人のことだ。君らの事は気にかけてくれるさ。》

 

 

 

***

 

 

 

 

《“例のあの人”にシリウスが捕まったわ、神秘部の中よ。途中でアンブリッジに捕まったけど、何とか逃げたわ。これから彼を助けに行かなくちゃ!》

 

 

《なに?》

 

 

《ねぇお願い!助けに来て欲しいの!どう考えても罠だわ!私達だけじゃ勝てない!》

 

 

《・・・すまない。》

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜ダームストラング魔法魔術学校〜

 

 

 

 

暗く澱んだ校舎は四階建てで一筋の光すら差し込まない。山に囲まれており外界とは関わりを持たないようだ。ホグワーツより広い校庭で屈強な男達がクディッチを楽しんでいる

 

 

そしてとても広い空き教室の中に数名の生徒がたむろしている。

 

暗く光の差さない室内でウィルはランプに火を灯していた。そして手帳をゆっくりと閉じると頭を抱え始める。彼の中で激しい葛藤が巡っていた。

 

彼はハリー達に加勢したい気持ちは充分にある。だが行くべきでないと判断した。

 

闇祓いから自分の身を守る為ではない。ハリーに加勢すればトムと敵対関係にあると示してしまうからだ。自分がここに逃げ込んだ意味がなくなるからである。

 

彼の顔色を察してか隣にいた女子生徒が顔色を窺うように口を開く。

 

「どうした?ボス(・・)

 

男勝りのような印象を受ける鋭い声だ。彼女は茶色の髪に鷹のように鋭い黒い瞳である。

 

「ボスはやめろ、エディ。」

 

それを制止するように青年が口を挟む。

 

「もういい、呼びたいように呼ばせろ。」

 

ウィルはあまり関心がなさそうに言った。そして彼は教室から出ていく。なんとなく外の空気が吸いたくなったのだ。

 

彼が廊下の真ん中を堂々と進む。するとすれ違う生徒達が笑顔で挨拶をする。ウィルはひとりひとりを邪険に扱う事なく笑顔で対応していく。そして人気のない庭に生えた大きな木にもたれかかるように座った。

 

 

「これが本当に正解か?」

 

 

ウィルは自分の理性と感情で揺れていた。すると遠くから何かがこちらに飛んできている。赤い鳥のような何かだ。

 

「・・・不死鳥?まさか。」

 

ウィルはその鳥の金と赤い模様をした羽根に目を奪われた。そしてホグワーツの2年生だった時にも見た事がある。ダンブルドアのペットである不死鳥だ。

 

その不死鳥、フォークスはウィルに近づくと羽根を閉じる。地面に着地するとかぎ爪を器用に使ってこっちにやってくる。

 

すると足に何か紙のようなモノが結び付けられているではないか、ウィルはそれを受け取ると中身を確認する

 

 

 

 

 

 

【魔法省、神秘部へ来るべし】

 

 

 

 

ウィルはそれがダンブルドアからのメッセージであると理解した。そして彼はそれを燃やすとその場から“姿くらまし”をして消えた

 

 




なんか唐突に【最強管理人(バーサーカー)・フィルチ】のアイデアが浮かびました。今更だけどなぜダンブルドアがスクイブのフィルチをホグワーツの管理人に指名したのか・・・。占い学のトレローニーのように秘められた力があるのでしょうか

スクイブだけど作中最強クラスのフィルチ(if)、ご期待ください
モチベがあればやります

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