灰色の獅子【完結】 作:えのき
前話のアンケートで想像内の人が思ってたより多くて驚きました。
ほぼ原作通りの手抜きです。流し読みでもどうぞ。
退屈と選出
今年もキングズクロス駅からホグワーツにかけて汽車が走っている。右も左もわからぬ初々しくも興奮している一年生や久し振りに出会う仲間達に歓喜する上級生の声で大変賑やかだった。もちろん例外もいる。
長く手入れされた黒髪を窓ガラスに押し付けて実に退屈そうにしている男の子だ。澄んだような茶色の瞳と端正で美しい横顔が反射している。ただぼんやりと美しくも見慣れた外の景色を眺め、ただぼんやりと壁越しでも響く声に耳を傾ける。
寝むろうにも目が冴えてしまっている。退屈ゆえに溢れる欠伸も、ただ虚しいだけだ。
途中で購入した日刊預言者新聞へふと目を降ろす。少し前にクィディッチワールドカップの決勝戦が行われた場所に死喰い人が現れたのだ。彼らは空に“闇の印”を刻み自分達の存在を誇示した。
自分は行かなかったが、義父のルシウスと義弟のドラコが会場にいたはずだ。もしかしたらその一味の中にいたかもしれない。
彼は本で学ぶ事がもうないという事は余りにも退屈なのだと初めて知った。目新しい情報もなく、ただ読み返すのは更に退屈で無意味な事だ。
ウィリアム・マルフォイはただ時が流れるのを待つことにしている。彼は実家とホグワーツ内にあるありとあらゆる戦闘に関わる知識を習得してしまった。天才ゆえの悩みだ。
彼の成長を促せるのは実践のみだがこの場でやるわけにもいかない。少なくともホグワーツに到着してからだ。
すると突然、部屋にコンコンというノックが響く。彼はすぐに唯一の友人のルーナだろうと判断するも、違うと思った。彼女ならノックなどせずに入ってくる。
ウィルが視線をドアに寄越すと男子生徒だ。彼が杖を振るって鍵をあけるとその子は中へ入る。
「や、やぁウィル。元気だった?」
「あぁ、当然だ。」
ネビル・ロングボトム。同室の生徒でかつて友人だった人だ。彼はとても困惑している様子である。以前のようにおどおどはしていないように思われた。
彼もまた去年から起きたウィルの突然の変化に戸惑った一人だ。ハーマイオニーとハリーは冷たく一方的に拒絶されたが、意外にも自分は最低限の相手をしてくれる。思いつく理由はただ一つ、自分が“純血”であること。
しかしネビルはウィルと関わろうとはしなかった。正確にはハーマイオニーやハリーらとの板挟みにあっていた為に触れないようにするしかない。客観的に見て悪いのはウィルだと推測したからだ。
だがそれは臆病なことだと彼は思い直したのだった。そしてどうにかしてかつてのような友人関係へと戻そうと決意した。
久し振りに見た彼の顔色は以前のように戻っている。クマは消え荒れた髪は整えられているようだ。そして少し穏やかになったらしい
***
数時間後
毎年恒例の組分けの儀式の後にダンブルドアは三大魔法学校対抗試合を行うと宣言した。
これはホグワーツ、ボーバトンとダームストラングの1人の代表選手を選出して魔法使い、魔女が魔法の腕を競う催しらしい。どうやら17歳未満は参加資格を持たないとのこと。
そして10月にボーバトンとダームストラングの校長が代表選手の候補生を連れてやってくるらしい。
彼が話し終えると豪勢な食事がずらりと並んだ。彼は皿をゆっくりと取る。そしてウィルはナイフで料理を切り分けて口に含む
周囲の生徒達は驚いた。彼が皿を何処かへ持っていかず、しかもゆっくりと食べている。
***
次の日
「アラスター・ムーディ、元闇祓い。」
新たな闇の魔術に対する防衛術を担当する教師の名前だ。
「闇の魔術と戦うには実践教育が一番だ。戦う相手を知り、備えるべき。」
彼は戦いにより傷だらけの顔に左の義眼がせわしなくぐるぐると動く。時折彼は携帯用の酒瓶を手にとってグビグビと飲む。
「3つの許されざる呪文は何がある?答えろ。」
彼の義眼がウィルをジロリと捉える。
“許されざる呪文”。禁じられた魔法であり、それは人に対して使用すればアズカバンで終身刑に至る。
「お前の父親は呪文を知ってるはずだ。」
「えぇもちろん、“服従の呪文”。」
「そうだ。」
彼は瓶から蠍を取り出すと杖を向ける。
「“
すると蠍がムーディの操るままに動き回る。生徒の顔に飛び移ったり、水の入ったバケツに入ろうともする。彼は蠍を近くの机に置くと説明を続ける。
「多くの魔法使い達がこの服従の呪文に支配された。誰が操られ、誰が操られていないのか。それを見抜くのは困難だ。」
ムーディは自身の経験則から語った。そして彼はウィルの耳元に口を近づける。
「マルフォイ家、闇の帝王の部下でありながらこそこそと逃げ回る。服従の呪文をかけられたと喚いてな、臆病者の一族だ。」
他の生徒には聞こえないほどの小さな声で囁くように言った。闇祓いは未だにマルフォイ家を疑い、尻尾を掴もうとしている。元とはいえ彼はマルフォイ家を毛嫌いしているようだ。だがウィルはニヤリと笑う。
「妄想癖だ。傷ついてるのは顔だけと思っていたが、中身の方も悲惨らしい。」
ウィルはルシウスに似た他人を嘲笑う笑顔を浮かべて囁くように言った。思いがけない反撃にムーディは怒りに震えているようだ。
「使いたそうですね。その右手の棒切れを。」
ウィルは更に煽ってみせる。しかしムーディには教師という立場がある。だから彼は嫌悪を隠さずに一瞥するとチョークを手に黒板に板書をする。
「臆病もの。」
ウィルは小さく囁いた。
それからムーディは“磔の呪文”、“死の呪文”について教え、その対抗策を学んだ。
月日は流れ、10月末になる。全てのホグワーツ生は大広間に集まっていた。ダンブルドアの言っていた“三大魔法学校対抗試合”の日程がやってきたのだ。
すると遠い空から巨大な黒い点がこちらに飛んでくるのが見えた。やがてそれが馬車だと理解する。巨大な天馬達によってひかれるそれはホグワーツのベランダへと着陸した。
中からハグリッドより大きな女性が現れた。ウィルは彼女を知っている。ボーバトン高校の校長であるマダム・マクシームだ。
すると彼女のあとに続くように次々と生徒達が出てくる。17.18歳くらいだろう、比較的女性が多いように思えた。彼女らが用意された席に座り終えるとタイミングを計ったように湖からブクブクとあぶく玉が現れる。
水面が乱れ渦巻いていく。すると長くて黒い竿のような何かが水中から現れる。船の帆柱のようだ。月光を浴びて船は水面にゆっくりと浮上する。まるで海底から難破船が引き揚げられたかのようだ。
やがてモコモコとした毛皮のマントを身にまとった屈強な男達が一糸乱れぬ動きで現れる。すると奥から校長らしき男が現れる。背が高く痩せた山羊髭の男である。彼もまた知っている。ダームストラング学校の校長であるイゴール・カルカロフ、彼は義父の元同士でもあった。
彼らも座り終えるとご紹介する。主催のバーテミウス・クラウチという男がルールを説明した。参加する三校から1名ずつ、課題の一つずつを巧みにこなすかどうかで採点される。最も総合点の大きな者が優勝杯を獲得する
代表選手をえらぶのは“炎のゴブレット”、羊皮紙に名前と所属校名を書いてゴブレットに入れると、ふさわしい選手が選ばれる。期限は24時間との事だ。
***
次の日
その場に居合わせた全ての者達は興奮していた。各々の学校の代表が選ばれ誰も見た事がない試合が行われるのだから。
「さてゴブレットは選び終えたようじゃ。」
待ちに待った瞬間だ。ダンブルドアが手をかざすと、ゴブレットの炎が赤く燃え盛る。そして火花が飛び散ると焦げた羊皮紙がゆらゆらと落ちていく。
ダンブルドアはそれを掴むと力強く叫ぶ。
「ダームストラング学校の代表はビクトール・クラム!」
大歓声と共にとても体格のいい青年が選ばれたちあがる。ウィルは彼を日刊予言者新聞の一面を飾っているのを見たことあった。彼はブルガリア最高のシーカーだと称されていた男だ。
「ボーバトン代表はフラー・デラクール!」
とても美しいブロンドの女性が立ち上がり歓声と共にたちあがる。
「ホグワーツ代表はセドリック・ディコリー!」
これまでより一番大きな歓声が沸き起こった。誰もが認める男だ。ハンサムで優しく監督生であるほど優秀な生徒である。
「さてこれで3人の代表選手が・・・」
ダンブルドアがそう言うとゴブレットが再び赤く燃え盛った。まるでゴブレットがまだ代表選手がいると主張するかのようだ。
火花と共に焦げた羊皮紙はひらひらと舞った。ダンブルドアはそれを反射的に掴む。彼はジッと見つめ、そして叫んだ。
「ハリー・ポッター!」
おそらく話数的に折返しくらいだと思います。