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HPVワクチン「接種勧奨」が止まっていた9学年分、公費で接種へ

後藤一也
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 子宮頸(けい)がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐワクチンについて、厚生労働省の専門家による分科会は23日、接種をすすめる「積極的勧奨」を中止していた間に接種対象となっていた1997~2005年度生まれの女性を、公費での接種対象にすることを了承した。来年度に17~25歳になる人たちで、3年間は原則無料で接種できる。

 開始は来年4月1日を予定している。接種後に健康被害が出た場合は、予防接種法に基づく救済制度の対象とする。ワクチンは半年で3回接種するのが標準になっている。だが1~2回だけ接種し、3回目を受けていない人たちも一定数いるため、今後、対象として加えるかどうか検討する。

 ワクチンは日本では09年に承認され、13年4月、小学6年~高校1年相当の女子を対象に、原則無料の定期接種となった。だが、接種後に体の広い範囲に痛みが出るなどの多様な症状の報告が相次ぎ、厚労省は同年6月、定期接種は続けたまま勧奨を止めた。

 厚労省は今年11月、「多様な症状とワクチンとの関連を示す研究結果は確認されていない」として、勧奨の再開を決めた。定期接種の対象者に接種券などを配布する個別通知は、基本的には来年4月から始まる。前倒しですでに開始している自治体もある。

 HPVは複数のタイプがあり、主に性交渉で感染する。一生涯のうちに80%ほどの女性が感染するが、ほとんどの人は数年以内に免疫によって排除される。だが、子宮頸がんを起こしやすいHPVに感染した人のうち、ごく一部の人で感染が持続して10~20年ほどかけてがん化する。

 ワクチンは、初めての性交渉の前に接種することが望ましいとされている。スウェーデンの女性約167万人を調べた研究では、16歳までに接種した人は接種していない人に比べてがんの発生率が88%低かったが、全体でみても接種した人では63%低いという結果が出ている。

 米国では11~12歳が標準的な接種期間だが、接種する機会を逃した人は、26歳までは接種を勧めている。

 国立がん研究センターの岩田敏・感染症部長は「標準的な期間に接種できなかったとしても、『今さらむだ』とは思わず、接種してほしい。すでに性交渉の経験があったとしても、子宮頸がんの原因となるすべてのHPVに感染しているかどうかはわからず、感染していないタイプのHPVを防ぐこともできる」と話す。

 大阪大の研究チームのデータによると、世代ごとの接種率は94年度生まれで約55%、95~99年度生まれで約70~80%とされ、勧奨が止まってからは一気に接種率が減り、00年度生まれは約15%、01年度生まれ以降はほぼ0%になった。

 国内では毎年1万1千人ほどが子宮頸がんにかかり、約2900人が亡くなっている。治療で子宮を摘出することもある。子宮頸部の一部を切る場合は、妊娠したときに早産しやすくなることもある。ワクチンとともに、検診で早く見つけることも重要だ。(後藤一也)