灰色の獅子【完結】   作:えのき

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天才と天才③

 

 

 

 

 

 

 

ハリーは全速力でウィルの元へ走っていた。彼の魔法により水を吸って重くなった服は周囲に水を飛ばしている。

 

自分は救われたのだ。どこかで感じたことがある緑色の閃光を妨害してくれた。だがそのせいで隙だらけの彼は深手を負ってしまう。

 

 

しかしウィルはひるむ事なく通路の左右に溜まっていた水場の水を操って敵らしき生徒へぶつけた。

 

でもそれは陽動で、地面に倒れていたハーマイオニーを水がまるで巨大な手のひらの形になり彼女を包み込むと素早く出口の方へと意志を持つかのように向かった。

 

その巨人の手はハリーとロンをも掴むと2人を【秘密の部屋】の入り口の嘆きのマートルの住み着いたトイレへと戻した。

 

ロンにハーマイオニーを安全な場所に避難させるのと教師陣に加勢を頼む役目を任せてハリーはウィルを助けに再び入り口へ飛び込んだのである。

 

再び滑り落ちる中で無力な自分を呪った。自分に力があればウィルはまだ戦えたはずだ。しかし彼は冷静だった。結果は翻せない。だから今の自分になにができるかを考え、そして実行に移した。

 

 

 

ハリーが広場にたどり着いた時、彼の目に入ったのは赤い水溜りだった。それは床に少し浸っている水と混じって薄まり、そして広がっている。

 

その真ん中でピクリとも動かず横たわっているのは自分の友だ。そしてウィルの前に立ちハリーに背を向けている謎の生徒だ。

 

ハリーは叫びたくなる衝動を必死に抑えていた。通常であれば感情に任せて魔法を撃つ。しかし彼は冷静だった。ウィルですら簡単に倒せなかった相手だ、自分が奴の不意を突かずに勝機はないと悟った。

 

しかしその生徒はゆっくり立ち上がりハリーの方を見た。

 

「安心するといい、殺してない。」

 

卑怯だと言わない彼に自分は少し恥ずかしくなる。正々堂々と戦うべきだったと思いつつ、それ以上にホッとしていた。

 

そしてハリーはこの年上のスリザリン生が【秘密の部屋】の継承者なのだと確信した。

 

ハリーは口を紡いだまま警戒している。自分の行動次第ではいつウィルの命が奪われるかわからなかったからだ。

 

 

「ハリーポッター、会って話がしたかった。僕の名前はトム・マールヴォロ・リドル。」

 

スリザリンの紋章のついたローブだ。

 

「・・・。」

 

「いや、こういうべきか。かつて君が討ち破った最も偉大なる魔法使いだ。」

 

そうだ、思い浮かぶのは1年前にクィレルの後頭部に寄生していた闇の魔法使い。しかしどう見てもこのハンサムな生徒があの恐ろしいヴォルデモートと結びつかない。ふざけて自分を煽っているのだと考えた。

 

「ふざけてる時間はないんだ!君はまだ学生じゃないか!」

 

遂にハリーは声を荒げた。それを無視するかのようにトムはハーマイオニーから奪った杖をまるでペンで文字を書くように空中に刻む

 

 

 

【Tom Marvolo Riddle】

 

 

赤く描かれた文字は空中にとどまる。トムはそれに対して再び軽く文字を振るう。その文字達は羅列された自分の名前は並びを変える

 

 

【I am Lord Voldemort】

 

 

ハリーはそれを見ると脳の中で何かがぐるぐると駆け巡った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜ウィルの精神世界〜

 

 

 

 

 

彼は深くて暗い海の底にいた。魚の群れはなく、潮の満ち引きもない。ただ自分一人がゆっくりと海藻のように揺れているだけだ。

 

それが精神世界だとすぐにわかった。だから彼は自分に嘘をつかず自分が時間を無駄にしてもいいのだと思った。

 

 

(僕は孤独(一人)だ。)

 

 

彼には時間を共にする家族はいる。語り合う友はいる。尊敬する教師はいる。

 

だが彼は自分が孤独だと思っていた。

 

孤独でないと言うのなら家族、友や仲間に自分の隠された思いや後悔、暗い過去を話せるはずだ。そして彼は今まで会った誰にでもそれを語る事はできなかった。

 

だから唯一、自分にだけは自分の感情に嘘をつきたくはなかった。自分にだけは語りたかった。現実で誰にも話せないからこそ自分の中で現実を受け入れ未来を目指そうと考えた。

 

 

 

 

彼は身体が重かった。今まではただの錯覚に過ぎなかったのに、これは現実である。

 

まるで深い海の中にいたかのようにずっと息苦しくて、それに耐えれば耐えるほど強くなれたような気がしていた。

 

でも今日、初めてその重圧の中で、その中で初めて楽しいと思えた。今までの積み重ねが初めて無駄じゃないのだと知った。

 

 

空想に浸り逃げるのか、現実を選び苦しむのなら今の彼は迷わず現実の全てを喰らう。

 

知識や魔法の全てを喰らい尽くして強くなる。重圧も孤独も全てを独り占めしてデカくなる。今一度、そう決心がついた。

 

 

弱い自分との決別である。

 

 

(僕はこの生活でなければここまで辿り着けなかった。君と渡り合えなかった。)

 

 

だからどんな過去も否定しない、現実は全て受け入れ未来に繋げる。

 

 

(トム、君はどこで産まれ、どこで育った?僕は君の事をもっと知りたい。誰にも話したくない暗い過去があるならなにも聞かない。ただ君の価値観(生き様)を教えてくれ。)

 

 

生半可な過去や強靭な意志を持たずに自分と同じ領域に立てないはずだ。才能のみで立てる場所じゃない。

 

だから知りたい。もしかしたら自分は傷の舐め合いがしたいのかもしれない。ただウィルはトムと自分の価値観を共有したいと思ったのである。

 

 

(そうだ、僕はただそれを求める為だけに僕は立ち上がれるだろう)

 

 

彼の身体には再び弱々しくも暖かい魔力が宿り始めた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ヴォルデモートは僕の過去であり、未来であり、現在である。」

 

ヴォルデモートはハリーが赤子の時に放った“死の呪文”を跳ね返され討ち破られた。しかし彼は死ななかった、そして復活の機会をずっと待ち続けていたのである。

 

ヴォルデモートは不快感を露わにして続ける

 

「汚らわしいマグルの父親の名を名乗るわけないだろう?だから自分で名付けた。誰もが恐れる最も偉大な魔法使いの名前だ。」

 

「それはダンブルドア先生だ!」

 

ハリーはヴォルデモートはただの殺人鬼だと言い放ち、偉大だとされるのがダンブルドアであると叫んだ。

 

その瞬間に鳥の鳴き声が聞こえてきた。2人はその方向を向いた。するとその声の持ち主はすぐに姿を現す。

 

白鳥ほどの大きさの赤い鳥だ。孔雀のように長い金と赤の羽根を輝かせ飛んでいる。鋭い爪にはボロボロの布切れのようなものを持っており、それをハリーの方へ落とした。

 

「組分け帽子?」

 

ホグワーツに入学して最初に行う寮を決める儀式で使うあの帽子である。

 

トムは大声で笑い始めた。ダンブルドアがハリーに送ったのは鳥と古帽子に過ぎない。まだ箒や透明マントを送ってくれた方が役に立ったろう。

 

「ではハリー、サラザール・スリザリンの継承者のヴォルデモート卿とかの有名なハリーポッターとの対決だ。」

 

彼はそういうと後ろを振り返り、口を開く

 

スリザリンよ、ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我には話したまえ。』

 

その老人の銅像がサラザール・スリザリンのものであるとハリーは理解した。そしてその巨大な口が音を立てて広がると、奥からなにかがずるずると這い出てきた。

 

あいつを殺せ。』

 

ハリーは後ろを振り返って走り出した。

 

 

この怪物はバジリスクであると知っていた。ハーマイオニーが残してくれたメモのおかげだ。ハリーとロンは彼女が倒れた場所に向かって何か手掛かりがないか探した。元々3人は“秘密の部屋”の継承者を突き詰めようとしていたのである。彼女が石にされた時、手に握りしめていたであろうメモを地面に落ちていたのを発見した。

 

 

そこにあったのはバジリスク、鶏の卵から産まれヒキガエルの腹の下で孵化する怪物だ。バジリスクのひと睨みは致命的で、とらわれたものは即死する。蜘蛛が逃げ出すのはバジリスクが来る前の前触れである。唯一の弱点は雄鶏の鳴き声で逃げ出すという特性だ。

 

 

その恐ろしい怪物には正面からぶつかっても勝ち目はない。だから時間を稼いで少しでもいい策を考えようとした。

 

 

 

『待て!鳥に構うな。小僧は後ろだ!音でわかるはず、殺せ!』

 

ハリーはバジリスクの影を見た。

 

すると鳥が蛇の首回りを飛んで鋭い爪で両方の目を潰した。

 

 

ハリーはついに立ち向かった。そして鳥は組み分け帽子を掴むとハリーに放り投げた。

 

ハリーはその中身をちらりと見るとまばゆい銀色の光を放つ金属の何かがある。剣だ。

 

彼はそれを掴むと思い切り引き抜いた。

 

だがその瞬間にバジリスクの牙が見えた。2つの鋭く、そして黒い毒のような液体が流れている。ハリーはまるでそれがスローモーションのようにゆっくりと牙が迫ってくるのがわかった。

 

 

アレスト・モメンタム(動きよ、止まれ)。」

 

その呪文が聞こえた。ハリーは一気に安心する。ウィルが復活したのだ。

 

「ハリー!避けろ!そう長くは止められない。」

 

その理由は強力な怪物達がよく持っている魔法耐性(・・・・)だ。長年の進化の過程で魔法使いに対抗する為に得た能力である。これにより魔法の効果が弱まり、ウィルの才能を持ってしても動きを数秒止めるので精一杯だった。

 

ハリーはその言葉を聞くと素早く右に転がった。するとバジリスクの動きが一気に加速されたようにハリーのいた場所に飛びかかる。地面を思い切り噛み付くと地面は削られ破片が飛んだ。

 

バジリスクはハリーの居場所を見失い少し困惑している。

 

「なぜ立てる!?魔力はもうなかったはず。」

 

トムは困惑している。魔力はそんなに早く回復しない。あの状況を見て彼は少なくとも2日は目覚めないだろうと見ていた。

 

「“エクスペリアームズ”、簡単な事だよ。マンドレイク薬(・・・・・・・)の入ったカプセルを奥歯に仕込んでたのさ。」

 

無防備なトムに向けて武装解除の呪文を使用して杖を奪い取った。ウィルもまた不十分とはいえ少なからずバジリスクの対策をしていたのである。両方の瞳には魔法、そして呪い避けを施したコンタクトをはめている。

 

そして万が一に石化した場合に備えて“マンドレイク薬”を生成していた。材料となるマンドレイクを育てたのは植物学のスプラウト、ただし魔法薬を調合したのは魔法薬学を担当するスネイプである。去年のハロウィン以降、彼から師事を受けているウィルはそれの一部をくすねていた。

 

ウィルは石化の範囲はあくまでの肉体に限っていることに気がついた。根拠は服まで石化しないという点だ。だから彼はカプセルも同様に石化しないのだと結論付けた。仮に石化して“秘密の部屋”に放置されたとしても、いずれカプセルが老化して復活できる。通常であれば何年かかるかわからないので限りなく薄い仕様に魔法で調整した。そのおかげで意識を失った時に倒れた衝撃により口の中で破裂して体内に入ったのである。

 

 

そもそもマンドレイクは石化の解除の他に殆どの回復薬の材料として使用されている。ウィルはあくまでも石化した対策としてこれを用意したが、副産物として体力、そして魔力の回復に効果があったのである。

 

 

 

 

ウィルはバジリスクに対して呪文を放った。聴力を封じる呪いらしく、突然の無音の世界にバジリスクは戸惑っているのか目が見えないのに周囲をチラチラと見ている。

 

 

 

「認めよう、君も天才だ。僕と同じ偉大な魔法使いになれる。」

 

トムの表情はこれまでになく真剣な表情だ。そして彼は続ける。

 

「ウィル、君は僕と新たな世界をつくらないか!?魔法族のみが生きる世界だ!!!」

 

トムはまるで子供のような顔をしている。それが望ましい世界だと心の底から思っているらしい。

 

「トム。それは数ある正解の1つだと思うし、理解もできる。」

 

ウィルもまた真剣な顔で答える。ハリーは少し焦っているが、止めることができずにいたのだ。さらにトムは表情を高揚させる。

 

「だがな、俺は力もねぇのに()にのってる連中までも護ろうとは思わねえ。」

 

ウィルは突然不快感をあらわにして切り捨てた。ハリーはこれが本来のウィルの性格なのだと知った。礼儀正しく常に皆の注目を集める優等生じゃない。本当は血の気が多く傲慢で自分の意志を絶対に貫く魔法使いだ。

 

「だいたい語り合う時間もねぇのによく言えるな。まず友人から始めようぜ。でも友人歴ならハリーのが上だ、だから少し待ってろ。」

 

そういうとウィルはヴォルデモートの側から離れてハリーの横についた。

 

まるでヴォルデモートを友達のように雑に扱うウィルのお陰でハリーはとっくに緊張と恐れが無くなっていた。

 

「ハリー、その剣はなんだ?」

「ダンブルドアが僕に託してくれたんだ」

 

ウィルはハリーの持つ剣を見た。彼はすぐに思考を研ぎ澄ます。なぜ剣なのか?安全な魔法具はもっと他にあるだろう。ならばこの剣がただの剣ではないということだ。彼は刃先を見るとその理由に気がついた。

 

 

【ゴドリック・グリフィンドール】

 

 

ホグワーツを創設した四人の一人であるグリフィンドールの剣だ。自分達の寮の始祖のような人物でもある。

 

【グリフィンドールの剣】。その存在をウィルは知っていた。ゴブリンが造った伝説の剣であり、触れた存在の力を吸収(・・)するのだ。

 

つまりバジリスクに対しては、魔法耐性のある為に効果の薄い魔法よりも凡そ1000年間で得た能力を持ち合わせる剣の方が強いと思われる。

 

「ハリー、そいつをバジリスクに突き立てろ。たぶん一撃で殺せる。」

 

そして彼の肩に触れる。ハリーは自分の中の何かがウィルに吸い取られるような感覚を覚えた

 

 

「悪いが少し貰うぞ。」

 

ウィルはハリーの魔力を吸い取っていた。これは“禁書の棚”の本で得た技術の1つだ。魔力を盗む方法であり、もちろん魔力の窃盗として罪が成立する違法行為である。

 

「ハリー、サポートをしてやる。俺が機会は掴んでやる。だから絶対に決めろ。」

 

「当たり前だ!」

 

 

バジリスクは野生の勘を頼りにしたのか2人の方向を察知して向かい合った。

 

 

結末を見届けようとして動かないトムに警戒しつつウィルは突然、自分が知る最も強力な攻撃魔法を使用した。

 

 

 

悪霊の炎(フィエンド・ファイア)

 

 

 

ウィルの杖先から恐ろしいほどに強烈な黒い炎が溢れ出す。その豪炎はメラメラと舞い上がり、それは巨大な怪物への変化した。その姿はまるで腹の大きな二足歩行の巨大な象のようだ。バジリスクと比べても引けを取らない。とても荒々しく燃え滾り地響きのような咆哮をした。

 

「俺の悪霊は“ベヒーモス”か。」

 

ベヒーモス、それは草食の怪物または悪魔とされている。性格は温厚でありながらも日に千の山に生える草を食べ、大河の流れをひと息で飲み干す程の食欲を持つ。ただし性格は極めて温厚で全ての獣はベヒーモスを慕ったとされている。

 

 

 

これは“悪霊の炎”。闇の魔術であり、呪われている。その炎は魔法使いの個性に応じるように怪物の姿を変える。非常に高度な魔法で制御が難しい。術者自らが焼き殺される事故も多く敬遠されるもののウィルのセンスはそれを嘲笑うかのように1度目から完璧に手懐けてみせた。

 

 

 

ハリーはこの炎でバジリスク焼きはらうのだと思った。というよりこれがサポートなんて有り得ないだろう。

 

彼ははちらりとトムの様子を見た。意外にも彼は驚いているというより恐れているようだ。それはそうだろう。自分のペットが焼かれるなんて不幸だ。自分だってペットのヘドウィグが焼かれそうになったら同じ顔をするだろう。

 

だがウィルはその炎をバジリスクではなく通路の端にある水場に向けて放った。その怪物はプールに飛び込むように入る。すると一瞬で水は蒸発して一気に部屋の内部がサウナ状態になった。まるで朝から真夏に変化する熱帯雨林のように温度がぐんぐん上昇していく

 

 

蒸し焼きになるとハリーが叫ぶとウィルは一瞬で豪炎を解除して封じ込めた。彼の様子からかなりの労力が必要らしい。

 

そして休むことなく杖を振るう。

 

 

グレイシアス(氷河となれ)。」

 

 

彼の魔法により水蒸気は一気に冷やされる。一気に南極に訪れたかのようだ。肌についた水が霜に変わりハリーは震えた。だがバジリスクの動きが限りなく遅くなっているのに気がついた。

 

「そうか冬眠か!」

 

「それもあるが行ってこい(・・・・・)!」

 

ハリーは自分が宙を大きく飛んでいるのに気がついた。まるで跳躍するかのようにバジリスクに向かって飛んでいる。

 

もちろんウィルにより浮遊術がかけられているのだと気がついた。

 

 

 

彼の狙いは擬似的な冬眠を狙った。ただしそれはうまくいけばの話である。もし温度が足りない場合やそもそも冬眠しないかもしれない。

 

ウィルは蛇の特性にも精通していた。本来蛇は視覚能力がとても低い。その代わりに第三の眼と呼ばれるピット器官が備わっている。これは赤外線により熱を感知する力を持つ。

 

だからその器官を封じる必要があるとも考えていた。これらの呪文はあくまでも冬眠しなかった場合に備えた策だ。もしそうなれば再びベヒーモスを呼び出して撹乱するつもりだったのである。

 

 

 

宙に浮いたハリーは弧を描いて凍りついたバジリスクの顔の近くまで来ると両手で剣を握りしめて、勢いをつけて思い切り剣を突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣先はバジリスクに刺さることなく、大きな金属音を立てて思い切り弾いた。剣を持ったままハリーはゆっくりと地面に落ちていく。

 

 

ハリーは戸惑いを隠せずにいるものの、これは“盾の呪文”だとウィルは勘付いた。

 

「ウィル、悪いね。」

 

トムが薄ら笑いを浮かべている。彼はバジリスクが刺される寸前に杖を使わずに(・・・・・・)呪文を使ったのだ。通常、魔法使いは杖を使う事で魔法を効率よく使用する。もちろん杖を使わずに魔法を放つことは可能だが、一部の選ばれた魔法使いにしかできない芸当だ。

 

 

 

 

しかしトムの突然の行動にウィルは動じることなどなかった。

 

「ハリー!剣を投げろ!!!」

 

ハリーはその指示を聞いて思い切り前に投げる。もちろんそれはバジリスクにまっすぐ届くわけではない。ウィルが魔法を使って貫くつもりなのだ。彼は杖から魔法を送って剣を宙に浮かせた。そして勢いよくバジリスクに向けて放つ。

 

「無駄なことだ!君の魔力が切れるまで盾を張ればいい!」

 

トムは手を伸ばして“盾の呪文”を使って防ごうとする。ちょうどその頃、ハリーは硬いレンガの床に背中を思い切り叩きつけ鈍い痛みに悶えていた。

 

「“インカーセラス(縛れ)”」

 

トムは突然現れたロープによりぐるぐる巻きに縛られ、呪文を放つことができなかった。彼はウィルの方を見ると彼は拳をこちらに向けているではないか。

 

彼もまた杖を使わずに呪文を放ったのだ。

 

 

 

 

 

そしてグリフィンドールの剣は勢いよくバジリスクの頭を貫いた。患部からはどす黒い血が流れ、ゆっくりと地面に倒れたのである。

 

バジリスクはピクリとも動かない。どうやら死んだようだ。

 

 

 

ウィルはバジリスクの生死を確認することなくトムをみた。彼は縛られており動けない。

 

「トム、君に聞きたい。僕との日々はどうだった?」

「最高だったよ。一度たりとも退屈しなかったさ。だからこそ僕は君を欲したんだろうね。」

 

ウィルは無邪気な笑顔を浮かべる。

 

「そうか、僕もだ。君を友人として側にいて欲しいと心から思ってる。」

 

2人はまるで友のようににやりと笑う。

 

「わかるだろう?トム。僕は君を始末しなければならない。」

「でも殺せるのかい?僕を。」

 

トムには手帳と同じ鉄壁の防御魔法がかけられている。ウィルでは知り得ない程の強力過ぎる力の為に破壊も除去もできなかった。

 

「なぜ校長があの剣を寄越したのかわかった。あのひとはお前の事をお見通しだったんだ。」

 

ウィルはバジリスクから剣を引き抜いた。血が飛び散り彼の顔につく。剣の柄を握った感覚はあまり自分に馴染んでないようだ。

 

「気に入らないが、こっちの方が手っ取り早い。」

 

ウィルはポケットから日記を取り出して地面に落とした。

 

 

「トム。もう二度と会うことはない、生まれ変わったら友となろう。」

 

彼は思い切りその日記に剣を突き立てた。するとそれは血のように黒いインクが流れ出す。それに応じるようにトムも腹から白い光を放ち、そして破滅するように消えた。

 








個人的に戦闘が終わったと思わせて終わらない展開結構好きです。
テスト終わって少し暴れてきたので投稿再開します

これ書くのに3時間かかった・・・。
まぁ最終回の次にピークの章だから楽しかったけども

忘れてたけどヒロインいります?

  • いる
  • いらない

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