キューピーです。
"女性をみたら妊娠と思え"とは古くからの金言でもあります。
今の時代では何だか叩かれてしまいそうな言い方ですね・・・。
女性の急性腹症は妊娠関連や婦人科臓器も鑑別対象となり、難しいです。
今回は、正常妊娠関連以外の産婦人科領域の急性腹症を学びます。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
↓1日1クリックお願いしますm(__)m
目次
【参考文献】
【女性診療の大原則】
・(特に腹痛があれば)最終月経+その前の月経、妊娠歴、最終性交歴は必ず聴取します。
・一般的に排卵5日前-排卵日の性交で妊娠の可能性あり、と言われています。
・排卵日は"次の月経開始日から約14日前頃"とされています。
・これらの知識から、妊娠可能性のある性交があったか推測することができます。
・妊娠歴については、帝王切開や中絶歴も聴取すると鑑別に役立ちます。
・性交歴は可能であればパートナーの数や避妊の有無も聴取します。
・産婦人科カルテ略語
-●G▲P:●経妊▲経産 -SA:自然流産 -AA:人工流産
-N.V.D:自然経腟分娩 -C/S:帝王切開 -L.M.P:最終月経
-EDC:分娩予定日
【妊娠反応検査】
・"尿中hCG定性検査"のことを指します。
・妊娠4週頃から判定可能となります。
・異常妊娠や絨毛性疾患の診断管理目的では保険適用ですが、正常妊娠判定は適用外です。
・初療時の妊娠週数は、最終月経開始日を0週0日として数えます。
・しかしこの方法では、必ずしも正確ではないことに留意します。
※後に胎嚢や胎児をエコーで観察して、正確な妊娠週数に修正します。
【婦人科急性腹症の原因】
・女性の腹痛は"一般的腹痛+婦人科臓器由来の腹痛+妊娠関連腹痛"の3つの軸で考えます。
・今回は"婦人科臓器由来の腹痛"を考えます。
・この原因は、以下の4疾患のみで90%がカバーできると言われています。
-骨盤内炎症性症候群(PID):35%
-異所性妊娠:31%
-卵巣出血:21%
-卵巣茎捻転:9%
・そのため、これらの疾患を詳しく学んでいきます。
【骨盤内炎症性症候群(PID)】
①基本事項
・具体的には子宮内膜炎、子宮筋層炎、付属器炎(卵管炎/卵巣炎)、骨盤腹膜炎、卵管卵巣膿瘍を指すことが多いとされます。
・肝臓まで炎症が及べばFitz-Hugh-Curtis症候群と呼ばれます(PIDの10%程度)。
・典型的には急性発症の下腹部痛(月経中-終了直後が多い)と骨盤内臓器の圧痛で発症します。
・約半数で発熱、約1/3で不正性器出血を伴います。
・15-29歳の若年女性に好発します。
・起炎菌はクラミジアと淋菌が重要ですが、嫌気性菌や膣細菌叢を形成するBV関連細菌の関与も報告されています。
※BV関連細菌:anaerobes/G.vaginalis/H.influenzae/enteric GNR/S.agalactiaeなど。
②診断
・日本産科婦人科学会のガイドラインでは以下の診断基準が示されています。
【必須項目】
・下腹部自発痛や圧痛
・内診での子宮や付属器の圧痛
【付加診断基準】
・38℃以上の発熱
・白血球増多
・CRP上昇
【特異的診断基準】
・経膣超音波やMRIによる膿瘍像確認
→ただし内診が必須であることや正診率も高くなく、初療時には使いにくい難点があります。
・診断方針:内診や経腟エコー等をしないと臨床的に確定が難しいため、疑わしい症例ではリスク因子を評価し、鑑別疾患を除外しながら産婦人科コンサルトを検討します。
・リスク因子:PID既往、クラミジア/淋菌感染既往、経膣的処置、IUD挿入、若年女性、複数のパートナーなど。
・鑑別疾患:異所性妊娠、卵巣出血、卵巣茎捻転、子宮内膜症、膀胱炎、虫垂炎、憩室炎、消化管穿孔、結核性腹膜炎など。
③病原体検査
・必須検査として頸管分泌物のクラミジア/淋菌PCR検査があります。採取法を示します。
クラミジアトラコマチス PCR 分泌物|ファルコバイオシステムズ 臨床検査事業
※採取は産婦人科コンサルトが前提となると思います。
・その他の起炎菌も考慮し、頸管分泌物は鏡検/培養も提出します。
・膣分泌物の鏡検/培養の提出も検討します。
・敗血症に至ることもあり、疑う場合は血液培養も採取します。
・いずれも感染が判明した場合、他の性感染症のスクリーニングも行います。
※クラミジア/淋菌PCRは尿(尿道炎)やうがい液(咽頭炎)も検体になります。
クラミジアトラコマチス PCR 分泌物|ファルコバイオシステムズ 臨床検査事業
●コラム:クラミジア抗体検査(IgA・IgG)
・基本的には既往感染を示すマーカーとなります。
・治療後も陽性が一定期間続くため、現行感染の判定や治療効果判定には不向きです。
・IgA:初感染や再感染から約2週間で上昇し、6か月後に消失します。
・IgG:約1か月後から上昇し、数年間上昇が持続します。
※IgMは十分な上昇を示さないため、測定対象となりません。
・いずれも高値であれば骨盤内癒着の頻度が上昇します。
→不妊症のスクリーニング検査として有用です。
④治療
・治療目標は急性炎症の治療と後遺症(不妊/異所性妊娠/慢性疼痛)の予防です。
→特に後遺症予防の観点から、診断が曖昧でも治療閾値を下げることが推奨されています。
・外来治療が可能ですが、他疾患が否定できない/高熱/悪心嘔吐が強い/卵管・卵巣膿瘍がある場合などは入院とします。
・外来治療:CTRX 1g 単回静注+DOXY 1回100mg 1日2回 内服 14日間。
・入院治療:CMZ 2g 8時間ごと+DOXY 1回100mg 1日2回 内服 14日間。
※内服が難しい場合はDOXY→MINO 100mg 12時間ごとでも可能です。
・膿瘍を認める場合は、14日以上の治療が必要となることが多いです。
●コラム:Fitz-Hugh-Curtis症候群
・クラミジアによる上行性感染が肝臓にまで及んだものを指します。
・症状:右上腹部痛(呼吸に合わせて増強)。慢性-急性まで発症形式は多彩です。
・診断:多くはクラミジアPCR(頸管分泌物)やクラミジア抗体で臨床診断とします。
※腹腔鏡等で肝表面と壁側腹膜の間に線維性の癒着を確認すると確定となります。
・造影CT:動脈優位相で肝被膜の濃染像を認めることが有名ですが、感度は低いです。
※通常の造影一相だと門脈優位相のみであるため、オーダーの際には注意します。
Fitz-Hugh-Curtis症候群とは?CT画像診断のポイントは?
※SLE、上部消化管穿孔(下図)、穿孔性胆嚢炎、穿孔性肝膿瘍、結核性腹膜炎などでも同様のCT所見を認めるため注意が必要です。
Fitz-Hugh-Curtis症候群とは?CT画像診断のポイントは?
・鑑別疾患:淋菌性肝周囲炎、胆嚢炎、憩室炎/穿孔など。
・治療:通常のPID治療に準じます。
【異所性妊娠】
①基本事項
・受精卵が子宮体部内腔以外に着床する疾患で、全妊娠の約1%で認めます。
・着床部位は卵管(97%)、卵巣(1.5%)、腹腔(1%)、子宮頸管(0.5%)があります。
※卵管の中でも卵管膨大部で80%を占めます。
・初期は無症状ですが最終月経から6-8週前後の腹痛、性器出血、無月経で発症することが多いです。
・重篤な合併症に破裂→腹腔内出血→出血性ショックがあります。
②診断
・本来は内診、経腟エコー、血中hCG値などが診断に必要となります。
・しかし時間外かつ非専門医の診療では、いずれも評価困難だと思われます。
→従って、非専門医が対応する場合は下腹部痛/性器出血+妊娠反応陽性+FASTで疑い、疑い症例のまま産婦人科コンサルトとすることが現実的だと思われます。
・その他に以下の所見も参考所見となります。
-腹腔内出血による所見:腹膜刺激症状、横隔膜刺激による肩痛。
-腹部エコー:FAST陽性、卵管血腫を示す腫瘤像(、子宮内胎嚢なし)。
・妊娠反応陽性では流産も鑑別に挙がりますが、産婦人科コンサルトという方針は変わりません。
③治療
・血中hCG値、腹腔内出血の有無などで治療方針を検討します。
・経過観察、MTX療法、手術が選択肢となります。
※基本的には手術となります。
・非専門医が判断を行う機会はほとんどないと考えられるため、詳細は割愛します。
【卵巣出血(黄体出血)】
①基本事項
※黄体出血、卵胞出血、妊娠黄体出血に分けられますが、黄体出血が大部分であるため、これについて記載します。
・20-30歳の若年女性に好発し、右側優位(63%)に発症します。
・性交や外傷が発症誘因となると言われています。
・大多数が黄体期中期(月経予定の約1週間前)の突然の下腹部痛で発症します。
・卵巣内出血なら数時間で軽快しますが、腹腔内に破裂し大量出血を来すと緊急対応を要します。
※多くの場合は保存的治療で経過観察可能です。
②診断
・黄体期中期の突然の下腹部痛であることから疑います。時期が最も重要です。
・妊娠反応陰性と画像所見を確認し、診断となります。
※画像所見のみでは異所性妊娠が鑑別になるため、妊娠反応検査は必須です。
・画像検査は腹部エコーとCTが重要です。
-腹部エコー:FAST陽性、卵巣付近の不整な凝血塊。
-CT:卵巣内の不均一な高吸収域(出血)、嚢胞壁濃染、血性腹水。
※腹水:0-15HU、血性腹水:20-40HU、血腫/凝血塊:40-70HU、活動性出血:85-350HU。
卵巣出血の原因は?症状からCT、MRI画像診断のポイントは?
③治療
・腹腔内出血が大量(≧500-600mL)の場合やショックを認める場合は、緊急対応を要します。
・具体的には手術による止血処置や輸血などです。産婦人科コンサルトが望まれます。
・上記に該当しない場合は安静(±止血剤投与)で経過観察が可能です。
・多くの症例が経過観察で軽快しますが、原則入院が望ましいと考えます。
●コラム:腹部エコーにおける子宮/卵巣の描出
・膀胱にある程度蓄尿されている状態で行います。
※排尿後では腸管ガスが障害となってしまうためです。
・恥骨に接してプローブを当て、縦/横走査で描出を行います。
・縦走査の正常像:膀胱の奥に子宮-膣が描出されています。
・横走査の正常像:膀胱の奥に子宮と両側卵巣(矢印)が描出されています。
・子宮内膜の変化:左から月経直後(線状高エコー)→増殖期(低エコー)→分泌期中期(厚い高エコー)→月経直前(塊状高エコー)です。
・卵巣の変化:左から月経直後→卵胞成熟期→排卵直前→黄体期(黄体嚢胞(血腫)疑い)です。
※黄体嚢胞:黄体内に液体(血液)が貯留したものです。通常であれば数週間で自然消退しますが、破裂により卵巣出血を来したり、茎捻転を来すこともあります。
【卵巣腫瘍茎捻転】
①基本事項
・卵巣腫瘍が捻転し、阻血による疼痛を生じたものです。
※腫瘍のない正常卵巣のみでも捻転することがあります。
・妊娠可能な若年女性に好発しますが、小児や閉経後の発症例もあります。
・5-10cmの良性腫瘍が大半を占めます。
※これより小さい場合も大きい場合もリスクが減少します。
・右側が左側の2倍の頻度とされ、S状結腸が捻転を防ぐためと説明されます。
・妊娠は茎捻転のリスク因子とされます。
→茎捻転があっても妊娠反応検査は必須の検査です。
②診断
・確定診断は術中所見で為されるため、異所性妊娠と同じく"疑い例"のまま産婦人科コンサルトとなります。
・突然の下腹部痛で発症することが多く、悪心/嘔吐を伴うことも比較的多いとされます。
・時に発熱を伴います(付属器の壊死を疑う所見です)。
※上記の症状から、急性胃腸炎と誤診しないように注意を要します。
・症状+画像所見で疑えば、速やかに産婦人科コンサルトとします。
・画像検査はERでは1stが腹部エコー、2ndがCTとなると思われます。
-腹部エコー:患側卵巣の腫大、疼痛部位に一致した卵巣腫瘤。
-CT:卵巣腫瘤と腫瘤から突出する索状(結節状)構造、周囲静脈怒張、子宮の患側偏位。
※CT撮影前に必ず妊娠反応検査を行います。
卵巣茎捻転とは?原因・症状・治療法まとめ〜画像でわかりやすく説明 | 人間ドックの評判とホントのところ
https://hospital.tottori.tottori.jp/files/20170419092519.pdf
③治療
・原則として手術が必要です。
・卵巣腫瘍or付属器摘出術が原則ですが、壊死に陥っていなければ捻転解除のみを行うことも増えているようです。
・いずれにしても治療方針決定は産婦人科医に委ねます。