趣味に「読書」を挙げる人は多いだろう。本が好きで図書館に通う読者も少なからずいるはずだ。だけど一歩進んで書評を書いて発表してみるのはどうだろう。いろんな喜びがあるという。

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 榎戸誠さんは東京の荻窪育ち。大学卒業後は三共(現・第一三共)に入社。MRや医薬営業企画部長を経て退社。EPSグループ入りし、各社の社長、会長、顧問を歴任。引退後は千葉県柏市で読書三昧の生活をしている。

「情熱的読書人間」を自称するだけあって、その活動は激熱だ。毎日、ブログ「榎戸誠の情熱的読書のすすめ」に1、2冊の書評と季節感のある写真を掲載。MR系メディアの「ミクスOnline」や企業誌「にぎわい」に書評コラムを連載。「読書クラブ 本好きですか?」には毎日、「ほんばこや」には随時書評を掲載。

■引退後は徹底した読書三昧

 実名顔出しのAmazonの書評レビューに掲載した数は4729本(5月24日現在)。4万4442の「役に立った」を獲得している。ランキングでは約600万人中、13〜23位で推移。「ベスト50レビュアー」にも選出された。「プロ顔負け」の榎戸さんに「本」との関わりについて話を聞いた。

「幼い頃の小遣いは定額制でしたが、月1回、母と近くの書店に行き、そこで私が選んだ本代は上限なしだった」ことが読書好きになる始まりだったという。

 書評を始めるきっかけは会社員時代。35歳のとき、季刊の社内報「三共往来」に書評「独りよがりの読書論」が掲載され、以後、18年間、74回にわたり連載した。そして2014年にすべての役職を退いた後は完全に読書三昧の生活に突入。

 毎朝6時に起床し、<未知との出会いをもたらしてくれる本を読む><その本の素晴らしさを伝える書評を書く><季節の移ろいの一瞬を捉えた写真を撮る><1日1万歩以上歩く>という4つを柱に過ごす日々。

「本が手元にないと精神的に飢え死にしそう」

 読書量は「月に約60冊、年間では約720冊です。月の本代は約3万円。近隣の3つの図書館から、常時、40冊借り出しているので、本代はこの程度に収まっています」。読むのはすべて紙の本。書店を応援するため、本はできるだけ書店で買うようにしている。

 読書や書評の喜びや楽しさはどこにあるのか。

「まず読書ですが、今まで知らなかったことを知る喜び、今までできなかったことができるようになる喜びがあります。書評は、その本の素晴らしさを伝える喜びがあります。そして書評を書くことで、自分の頭の中で一区切りがつき、その本から離れて別の本に向かうことができます」

 全国紙5紙と「週刊文春」「週刊新潮」の書評欄は必ず目を通す。常時3冊ほど並行して読み、「本が手元にないと精神的に飢え死にしそうになる」という。

■速読術には賛成しない

 読書のコツはあるのか。

「時間をかけて深く味わうべき作品はじっくり読みます。それ以外の本は、かなりのスピードで読んでいます。ただし、いわゆる『速読術』には賛成できません。読書体験が蓄積されていけば、速く、深く読むことができるようになりますから。本と顔を合わせたら、まず著者・訳者のプロフィルに目を通す。次に帯の惹句を読み、後書き、前書きと進んでいく。それから目次を眺め、本文に突入します。ここまでの段階で、著者が一番伝えたいこと、それがどの辺りに書かれているかを知ることができます。

 このように、その本の全体像を把握しておくと、読書のスピードが一段と加速する。読みながら、これは未知の新しい情報・知識だな、この箇所は勉強になるな、この部分は引用しよう、この表現は真似できるな、この理解し難い項目は後で調べなくては、著者のこの主張は正しいか疑問だな──といった箇所に、常時携帯している付箋をどんどん貼っていきます」

 100枚、200枚ついた付箋で本がハリネズミのようになってしまうこともしょっちゅう。付箋を使用することで、スピードを落とさずに読書することが可能になる。書評を前提として出来上がった読み方だ。

本の魅力を伝えるため引用を恐れない

 年間で読む約720冊のうち9割程度の約650冊の書評を書いている。

「第1のルールとして、書評ではけなすことはしません。というよりも惚れ込んで、広く読まれるべきと確信した本の書評しか書きません。第2のルールは、引用を恐れないことです。著者自身の生の言葉を伝えることで、その本の魅力を実感してもらいたいからです。引用することによって、内容の伝達にとどまらず、その著者の語り口や持ち味を伝えることができると考えています。第3のルールは、著者が言いたいことを要約する。この本を読んでほしいのはやまやまなのですが、いろいろな事情で本を読む時間がない人にも、著者が伝えたいことのポイントだけは知ってもらいたいと念じているからです」

 書評を書き上げたら、推敲に十分な時間をかける。未知の言葉や事項、理解しづらい専門的な内容は、インターネットや辞書、事典、専門書などで調べる。著者の主張に納得がいかないときは、後日、図書館や大型書店で複数の専門書に当たる。ブログはAmazon、フェイスブック、ほかの書評メディアに連動させている。書評をする中での気づきは「書評する気持ちで読むと、その本を、より深く理解することができます」ということだそうだ。

 書評によって榎戸さんは「読書という共通の趣味を通じ、これまで出会えなかった分野の人たちと友達になることができました。精神的な安定が得られて体調も好調ですね。朝起きたときから本と書評のことを考えています。経済的なメリットは特にないですね。私は本が読める生活ができれば十分幸せなのです」。

 最後に同世代の「日刊ゲンダイ」読者に向けて一言。

「人生は一度きりなのだから、自分の一番やりたいことに集中すべきです。やりたいことは、人それぞれでしょうが、私の場合は読書。棺桶に入る直前まで、読書を続けたい。それまでに、森のような脳内図書館がつくれれば本望です。Amazonで榎戸の書評を見かけたら、ぜひとも『役に立った』のクリック(タップ)をお願いします(笑)」

 好きなことは人それぞれだけど、そこに「情熱」を持って取り組めば、きっと喜びが見つかるはずだ。