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区は「ありえない」 東京東信用金庫が税金を“誤送金1000件”

「週刊文春」編集部

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「ひがしんさんは、公金の扱い方をどう考えているんですか!」

 葛飾区産業経済課の職員は、こう声を荒げた。相手の“ひがしん”とは、東京東信用金庫の通称である。

99年、複数の信金が合併して誕生した

 墨田区に本店を置き、東京都東部と埼玉、千葉に約70店舗を構えるひがしん。貸出金残高1兆円超の信用金庫で、何があったのか。ひがしん関係者が語る。

「金融機関が中小企業の事業者に融資する際に、葛飾区が一定の利子を負担する『中小企業融資あっせん制度』があります。この利子の支払いで大量の“誤送金”が見つかったのです」

制度案内のパンフレット

 こうした制度融資は、全国の自治体で行われている。まず葛飾区が取り扱いの金融機関に利子の補給金を預ける。金融機関は顧客の月々の返済の際、そこから利子の一定分を顧客に戻す。

「問題は利子の返済日が、土日などの休日とかぶるケースで起きました」(同前)

 返済日が休日の場合、利子の引き落としの基準日をその前日や当日、翌営業日のいずれにするかは金融機関によって異なる。

「つまり利払いの根拠となる融資残高も違ってきます。葛飾区では『翌営業日』と決まっていますが、ひがしんは店舗によって基準日がバラバラで、長年、多数の誤送金を起こしていたことがわかった。その分、区の利子の補助も多く顧客に払っていたのです」(同前)

 当然、補助の原資は区民の税金だ。制度を所管する、区の産業経済課の担当者が「ありえない」と嘆く。

「今年4月、制度を受けている事業者の方からの『利払いがズレているようだ』という問い合わせでわかりました。ひがしんに問い合わせると、最初は『間違っているはずはない』という態度でしたが、次々と間違いが見つかったのです」

 ミスが発見されたのは、区内の5店舗。区に保存されている制度利用者の過去5年分の記録を現在、各支店で調査中だという。

「現在生きている融資のほか、完済分も合わせると、間違いは1000件を超えていると思われます。区では毎年、金融機関の担当者を集め、制度の説明会を開いている。それぞれの融資の利払いの日付について確認も行っているのに……」(同前)

 

 前出のひがしん関係者が内情を明かす。

「支店の担当者は引継ぎの際、『こういうものだ』と説明し、皆、ミスも同じように引き継いでいた。実際に金庫に最初に顧客から同様の問い合わせがあったのは今年3月。コロナ融資で利子を全額負担する制度が始まったため、利払いの金額に違和感を持った企業の指摘でわかり、その後、区にも指摘された。全貌は見えておらず、制度開始以来、長年、ミスが続いていた可能性もある」

 区で制度が始まったのは2002年。ひがしんの担当常務によると、現時点で判明している誤送金の件数は777件だ。今後は顧客への説明や返金作業にも追われるだろう。

 同金庫の中田清史理事長は小誌の取材にこう語った。

「一つ一つは何百円と大したことがないのですが、件数が多かった。関東財務局にもミスを届け出ている。大変申し訳ないことをしたと思います。利子を戻し過ぎたお客さんに説明し、返してもらわなければならない。(責任の所在は)その辺は金額や件数にもよるし、顧問弁護士とも相談します」

中田理事長(ひがしんHPより)

 阿武町でも騒がれた“誤送金”。残念ながら「ありえない」話ではなかった。

source : 週刊文春 2022年6月16日号

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