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セクハラだけじゃない 細田衆院議長が「違法買収」証拠文書

「週刊文春」編集部

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 “選挙博士”と呼ばれる細田博之衆院議長。

その細田氏が、昨年の衆院選で地元議員らを買収していた。

公選法違反の証拠は、公文書にしっかり残っていた――。

 風光明媚な宍道湖の湖岸が街一帯に広がる、島根県松江市。衆院選公示日だった昨年10月19日、1区を地盤とする男の第一声が県庁前に響きわたった。

 これまで10期連続当選を果たしてきた自民党候補。保守王国・島根で盤石の戦いだったはずだが、この時は意気込みが違ったという。

「全国の応援演説の合間を縫って地元入りし、例年よりも細かく挨拶回りをしていました。対立候補だった立憲民主党・亀井亜紀子氏は、前回17年の衆院選で比例復活している。昨年の衆院選では、彼女の比例復活を許さないほど大差で勝つことを目標としていました」(陣営関係者)

 なぜ、そこまでの圧勝を期していたのか。官房長官や幹事長など要職を歴任してきた男は、栄誉あるポストを目前にしていた。大島理森衆院議長(当時)が国政引退を表明していたことから、次期議長の最有力候補と見られていたのだ。

 昨年10月31日、男は無事11回目の当選を果たす。約2万4000票の大差をつけ、亀井氏の比例復活も許さなかった。そして11月10日に召集された特別国会で、国権の最高機関のトップに就いたのだった。

 渦中の男、細田博之衆院議長(78)である。だが、この衆院選を巡って――。

衆院選の第一声(細田氏のSNSより)

「いま世間を騒がせている私が何か発言すると、ニュースになりますから……」

 6月1日、そう言って会場の笑いを取った細田氏。東京・千代田区のホテルで開かれた、自身が顧問を務める議員連盟「軽自動車の会」の挨拶での発言だ。

 小誌は3週にわたり、細田氏の女性記者らへのセクハラの様子を詳報。細田氏の言動を記録した「電子データ」の存在や、執拗に自宅に誘われた女性記者の証言などを報じてきた。

「セクハラ記録」を報じた先々週号
「圧力電話」を報じた先週号

 細田氏はこうした報道を「事実無根」と主張しながら、小誌の質問状には3週連続で一切回答をせず、国会の場でも詳しい説明を避け続けている。

 だが、細田氏を巡る問題は、セクハラだけではない。

「細田氏は、選挙の情勢分析が得意で、1票の格差に関する最高裁判決もスラスラ出てくるほどの“選挙博士”です。ただ、中立が求められる議長の立場でありながら、国会で合意を得た1票の格差是正のための定数『10増10減』案に異議を唱えたことには批判が集まっている。それに関連して『議長になっても毎月もらう歳費は100万円しかない。議員を多少増やしたって罰は当たらない』と発言したことも物議を醸しました」(政治部デスク)

昨年11月に“三権の長”に就任

 そんな細田氏がこれまで以上に力を注いだのが、冒頭に触れた昨年の衆院選だ。“選挙博士”は一体、どんな戦いを展開していたのか。

 小誌は今回、細田氏や亀井氏らが島根県選挙管理委員会に提出した「選挙運動費用収支報告書」を確認した。選挙運動にかかった費用を報告する「公文書」だ。

 すると、不可解な点が目に付く。亀井氏や、島根2区の自民・高見康裕氏(現衆院議員)らの報告書には一切見当たらない名目の支出が、細田氏の報告書には多数記されていたのだ。「労務費」である。

 細田氏は120名を超える人物に労務費を支出。問題はここからだ。その中に現職地方議員の名前もあったのだ。例えば、報告書にはこう書かれている。

▶10/19 5,200 森脇勇人

▶10/19 6,800 矢壁正弘

▶10/19 8,800 米田祝子

地方議員らへの領収書

地方議員11名に聞くと…

 精査したところ、細田氏は島根1区に在住する市議と町議11名に、衆院選の公示日だった10月19日付で、計6万5700円の労務費を支払っていた。

 自民党のベテラン政策秘書は首をひねる。

「どんな理由があるにしても、選挙の際に地方議員に直接お金を渡すなんて、考えられません。報酬を支払うのは選挙カーの運転手やウグイス嬢くらいで、それ以外はボランティアが当たり前です。地方議員は選挙戦を手足として手伝ってもらう存在。そんな地方議員にお金を払えば、公職選挙法が禁じる運動員買収に当たりかねません」

 実際、島根県の候補者に限らず、例えば、出身派閥の清和会の萩生田光一経産相の選挙運動費用収支報告書を確認しても、労務費名目の支払いは一切ない。下村博文元文科相は労務費を3名に支払っているが、いずれも地方議員などではない。

最大派閥の清和会は細田派から安倍派へ

 選挙制度などに詳しい小林良彰・慶応大学名誉教授の解説。

「公職選挙法は民主主義の健全な発達を目的にした法律です。それだけに、金銭の支払いに関しては極めて厳格に定められている。報酬の支払いが認められているのは、ウグイス嬢と呼ばれる車上運動員と、事務員、手話通訳者などに限られます。また、労務費の支払いが認められているのは、機械的な単純作業に携わる人物だけです」

 自民党の地方議員にとって、地元の衆院議員は“ボス”的存在。労務費を受け取っているからといって、彼らが細田氏への投票を呼びかけたりせず、「機械的な単純作業」しかしていないことなどあり得るのか。

 森脇勇人・松江市議が振り返る。

「細田先生が地元に来る時は、街宣カーに一緒に乗って『先生にお世話になってあの橋ができました』などと説明する。県議が付いてこないといかんのだけど、来ないから自分一人で。街頭演説で前説したり」

――マイクを持って?

「そうそう」

 公示日の様子を報じた山陰中央新報のデジタル版には、森脇市議らが細田氏の遊説に拍手を送る写真が掲載されている。

地元で遊説を重ねた(細田氏のSNSより)

 矢壁正弘・雲南市議もこう明かす。

「(細田氏を)その地区の者が案内して、自分たちで遊説コースを計画立てて回る。町全体を網羅するような計画を立てて、その間に街頭演説の場所を取って」

――演説中は皆さんで手を振ったり、「よろしく」と言ったり?

「そうそう、そうですね」

何のための「労務費」だったか

 米田祝子(ときこ)・松江市議はこう語った。

「第一声の後、細田先生の街宣カーに同乗して、地元の道案内をしました。細田先生を(地元支部の)事務所に案内して、そこに私の支援者を集めました」

 市議らが東京暮らしの細田氏に地元事情を説明して演説の材料を提供し、遊説のロジを組み立て、街頭演説を盛り立てる――まぎれもない選挙運動だろう。

 森脇市議ら3名だけではない。労務費の支払いを受けた11名に取材したところ、全員が細田陣営の選挙カーに同乗して地元を案内したり、有権者に投票を呼びかけるなどの選挙運動を行ったことを認めたのだった。

陣営スタッフに囲まれて

 さらに報告書に明記された労務費支出は、元地方議員にも広がっていた。

▶10/19 6,300 上廻芳和

▶10/19 5,300 齋藤昭一

 上廻(かみさこ)芳和・元安来市議が証言する。

「街頭演説の時は(選挙運動員としての)腕章をつけたモンが横に並ぶ。自分も腕章をつけて並んだ。街宣カーにも候補者と一緒に乗って案内しました」

 齋藤昭一・元隠岐の島町議はこう話す。

「選挙期間中の挨拶の時に並んでいれば、『あの人がやっているなら』と思ってもらえる。まぁ、顔で訴えているようなもんで、それが地方の選挙ですよ」

 小誌の取材に、選挙運動に関わったことを認めた元地方議員は計5名。彼らへの労務費支出は計3万2000円だ。現職の地方議員11名と合わせ、支払い額は9万7700円に及ぶ。

 この16名が、細田氏の「選挙運動員」であることは疑いの余地がない。つまり、彼らへの労務費の支払いは「運動員買収」に当たるのではないか――。

 ただ、ここで一つ、疑問が生じる。そもそも彼らは一体、何の名目で労務費を受け取ったのか。

 前出の森脇市議に尋ねたところ、

「それはポスター貼りじゃ。1枚200円。(公示日に貼る?)当たり前だがね。選挙運動費ね」

 前出の米田市議は、当初は「車上運動員の謝礼」などとしていたが、後ほど以下のように説明した。

「確認したところ、公示日にポスターを貼った。その代金だった」

 6700円を受け取った岩崎勉・安来市議も、手帳を見ながら言う。

「選挙ポスター貼りのお金だと思います。(労務費が支払われた)10月19日は確かにポスター貼りをしている。私自身の市議選(10月24日投開票)の期間中でもありましたが、自分の選挙運動の合間に掲示板があるところを回って貼りました。貼る時は自分の候補者タスキを取って、車から降りて。それがわれわれ下っ端の仕事ですので」

 3800円を受け取った柳原治・松江市議も口を揃える。

「ポスターかな。1枚200円だったと思います。全部自分で貼りましたよ。選挙ポスターをピッピッと貼って、シュッと」

 現職議員の11名全員が、選挙運動の傍らで受け取った労務費は「ポスター貼りの対価」と答えたのだった。

 確かに公選法では、ポスター貼りの対価を労務費として支払うこと自体は認められている。「選挙運動はボランティア」が大原則だが、ポスター貼りなどは前出の小林教授の解説にあった「機械的な単純作業」と考えられているためだ。

 だが、実は、この現職議員らの説明は大きな問題を孕む。なぜなら、公選法に詳しい専門家たちは「選挙運動員はどんな名目であっても、労務費を受け取ることはできない」という見解で一致しているからだ。

 政治資金や選挙などに詳しい岩井奉信・日本大学名誉教授が指摘する。

「証言を聞く限り、地方議員たちは選挙運動員の性格が強い。彼らにとってポスター貼りは、選挙運動の“付属的行為”に過ぎません。にもかかわらず、その“付属的行為”の部分だけを切り取って、費用を払うのは、明らかにおかしい。運動員買収と指摘されても仕方がありません」

 実際、“選挙運動に従事する者が単なる事務や労務を行った場合でも、それは選挙運動に付随したもので、報酬を支払うことはできない”旨の見解を示した東京高裁の判例(72年3月27日付)もある。

「自分がポスターを貼った」

 また、上廻元市議が証言したように、選挙運動員は街頭演説などの際に腕章を身に付けることが公選法で定められている。しかし、この点についても、前出の小林教授はこう言う。

「過去の判例では、腕章を付けている運動員とポスター貼りなどを行って報酬を受け取る労務者を同一人物が兼ねることはできないとされています」

 では、島根県の選挙管理委員会はどう考えるのか。

「(選挙運動をした日とポスターを貼った日との)日付が異なるのであれば、それぞれの実態で司法が判断する。ですが、同日中であれば、実態によって判断するものの、基本的に報酬を支払うことはできない。そうした過去の総務省の見解もあります」

 だが前述のように、森脇市議や米田市議らは公示日当日にポスターを貼り、その対価として労務費を受け取った一方で、まさにこの日に選挙運動をしていたことも明確に認めていた。

公示日には森脇市議(中央)の姿も

 証拠と証言で裏付けられていく細田陣営による「運動員買収」。実際、同様のスキームで、捜査機関が公選法違反(買収)の捜査に着手したケースもある。

「15年11月に行われた高知市長選で、岡崎誠也高知市長の陣営が、県議・市議の計5人に一人あたり3000円から9000円の現金を渡していたことが高知新聞の報道で発覚。この時も名目はポスター貼りの報酬でした。地元紙の取材に応じた岡崎市長は『選挙運動に携わっていた人には、ポスター貼りの報酬を支払うべきではなかった』と認めています」(社会部記者)

 このケースでは捜査が行われたが、結局、市長側が「議員はポスター貼りの労務費を窓口として預かっただけ」で「実際には議員の妻や支援者などがポスターを貼っていた」などと主張し、収支報告書を訂正。不起訴処分となった。

 だが、細田氏の場合は違う。前出の森脇市議や岩崎市議ら少なくとも5名の現職議員が「自分がポスターを全て貼った」ことを認めた上で、「その対価を受け取った」ことを小誌の取材に明言している。高知市長のように、「実際にポスターを貼ったのは別人で収支報告書の記載ミス」と弁明するのは、事実上不可能だ。

 小誌は細田氏に見解を問う質問状を送付したが、今回も期限までに回答を得ることはできなかった。

 昨年の衆院選を巡っては滋賀3区で落選した日本維新の会の候補者が、大学生ら11人に選挙運動の見返りとして合計8万7000円の報酬を支払ったとして公職選挙法違反(買収)の罪で略式起訴され、罰金50万円の略式命令を受けている。

 公選法に詳しい上脇博之・神戸学院大学教授が指摘する。

「公選法が極めて厳格に定められているのは、選挙が民主主義の根幹だからに他なりません。それゆえ、買収額が数千円、数万円単位でも立件される。細田氏の例も、運動員買収に当たる可能性が極めて高い。そもそも、労務費として金銭を渡す手法が許されるならば、幾らでも運動員買収が可能になってしまいます」

 国家の法律を定める「立法府」の長が、自ら手を染めた「違法買収」。セクハラ問題については「事実無根」と繰り返してきたが、今回は公文書に明確な証拠が残されている。議長の真摯な説明が待たれる。

source : 週刊文春 2022年6月16日号

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