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松屋 社員の死と従業員有志の“パワハラ告発”嘆願書

「週刊文春」編集部

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「若手社員が亡くなった」

 大手牛丼チェーン「松屋」内部を衝撃的な情報が駆け巡ったのは5月26日のこと。その時、現役従業員Aさんたちは本社に労働環境の改善を求める嘆願書を準備していた――。

牛丼だけでなくカレーも人気

 松屋は社員1580名、パート・アルバイト2万1094名を抱える一大飲食チェーン。吉野家、すき家と共に「牛丼御三家」とも呼ばれる。一体、何があったのか。現役社員が明かす。

「北海道の店舗に勤務していた男性社員が5月に亡くなり、26日付で『死亡退職』扱いになったのです。多くの社員が自殺を疑っています」

 この訃報に「非常にショックを受けた」と語るのが、冒頭の現役従業員Aさんだ。

「松屋では以前からパワハラなどを指摘する声がありました。そこで私は昨年末から従業員有志を募り、本社に労働環境の改善を求める嘆願書を提出するつもりで準備していたんです」

 小誌は今年4月28日号で回転寿司チェーン「無添くら寿司」の現役店長がパワハラを苦に焼身自殺していたことを報道。その後も同社の過酷な労働環境を報じてきた。Aさんにとって他人事ではなかった。

「身に覚えがある内容で焦りました。このままでは松屋でもくら寿司と同じことが起きる、と」(同前)

 嘆願書は〈松屋の現状について〉と題され、A4用紙9枚に記された。執筆者には他にも現役の管理職、元社員、アルバイトなどが名を連ねた。しかし――。

現場の声は届くのか

「提出前に社員の死という悲劇が起きた」(同前)

 6月2日、Aさんたち従業員有志は急いで嘆願書を本社に提出。その翌日、現役管理職のBさんが、亡くなった社員について本社の法務担当者に詳細を尋ねたという。

「『死の原因は過重労働やパワハラではない』『ご遺族からは事を大きくしてほしくないと言われている』とだけ言われました。真実を詳らかにしてほしいと願っています」(Bさん)

 今回の嘆願書では、従業員目線で松屋の労働環境の問題点が指摘されている。

〈意見や提案など受け付ける環境にない風土〉

〈後付けによる理屈と正論による職権濫用とも思える圧力で抑え込まれる〉

 こうした記述は実体験に基づいている。名を連ねた従業員の多くが“パワハラ被害者”でもあるのだ。

 例えば、〈(退職する社員は)雑な扱いに変わり労働環境はより厳しくなり後味悪く退職していく人が多い〉という箇所は5月半ばで大阪府の店舗を退職した元店長代理Cさんの体験。

「昨年、店長試験の受験を希望したのですが、上司に受けさせてもらえませんでした。結局、その上司とは折り合いがつかず、辞めることにしました。

 ところが退職を申し出た途端、異常なシフトが組まれた。大阪から京都、奈良など遠方の店舗に毎日のようにヘルプに出されるようになり、退職する頃には精神的にも疲労困憊していました」(Cさん)

 松屋本社に社員の死について聞くと、〈事実です〉と認めた上で〈ご遺族からは、プライベートに関することが要因であると伺っており、弊社からの回答は控えさせていただきます〉。従業員有志による嘆願書について見解を尋ねると、〈弊社では、パワハラの防止や労務環境の改善に努めております。具体的な申し出があれば通報窓口で対応しております〉と回答した。

瓦葺利夫会長(左)と瓦葺一利社長(右、HPより)

 Aさんは言う。

「嘆願書の冒頭に〈私たちは松屋を心からよくしたいと考えております〉と記しました。働きやすくて愛される会社に変わってほしい。希望はそれだけです」

 嘆願書に関わった従業員の多くは今後も松屋で働くことを望んでいるという。

source : 週刊文春 2022年6月16日号

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