Re:birthday[R-15]
クリスマスを舞台に、少しシリアスな百合のお話です。他にもクリスマスネタで書かれている作家さんがたくさんいらっしゃるので、シチュエーションかぶっていたらスイマセン…。タイトルは、幽遊白書の躯のキャラソンがヒントになりました…とか書いたら年がバレますか?wもともと今年の6月ごろに考えていた話で、夏休みを舞台にするつもりだったんですが、夏のNISSANまつりに間に合わず、お蔵入りしていたものを引っ張り出してきて、季節を冬に変えて書き直しました。プロット立てていた時にはブライアン登場前だったので、この話の中でも彼の存在はなかったことになってますwまた5人の関係を壊したくなかったので、オリジナルキャラまで登場させてしまいました…。ご了承ください。■□■□閲覧・評価・ブクマ・コメントありがとうございます!!ツィッターでも紹介して下さったようで超感激!!(;Д;)今までで一番悩み抜いた作品だったので、ブクマ・評価して下さった方一人ひとりにお礼が言いたいぐらい嬉しいです!!■□■□タグ追加ありがとうございます!■□■□
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街が華やいでいる。
あたしは一年でいちばん、この季節が好きだ。
赤と緑に彩られ
キラキラとほしくずみたいに散りばめられたイルミネーション。
ステップを踏みたくなるようなリズムや
しっとりと目を閉じて聞き入りたくなるようなバラードが
あちこちから聞こえてくる。
限定のチキンのパンフレットを
食い入るように見ていたあたしの隣で
勢い余ってパンフ食わんようにな、とあかねが笑う。
「さすがのあたしも、紙はたべません」
咳払いをしてパンフをカバンにしまうと
「いやいや、緑川さんならやりかねませんよ」
いつものニシシ顔。
イブの日は、ふしぎ図書館に集まって
5人でクリスマスパーティーをする約束をしている。
それぞれ材料を持ち寄って、みんなで料理やケーキを作ることにした。
あたしはケーキの担当。
前日にスポンジを焼いておいて、
ふしぎ図書館で、みんなとデコるつもり。
まだ12月に入ったばかりだというのに、
ヒマさえあればふしぎ図書館に集まって
ツリーを飾ってみたり、キャンドルを置いてみたり、
みんなで大はしゃぎだ。
パーティーも楽しみなんだけど…
あかねと付き合って、初めてのクリスマスでもある。
ふたりで何か特別なことをしたいな、なんて考えていたのに、
彼女は特にそんな風には思ってないみたい…。
あんまり言うと、ほんまになおは記念日好きやな、とウザがられるだろうから、
こっそりプレゼントだけ渡せればいいや。
こうしてふたりでデートできるんだから、それだけよしとするか。
お互いに部活が終わるのを待って、
あかねと連れ立って校門を出た。
部室を出たころは、西のそらにまだ明るさが残っていたのに
もうすっかり夜のけはい。
今日は少し遠回りをして、住宅街の中を歩く。
家々からもれてくる明かりを頼りに彼女を見ると
口元に両手をあてて、はあと白い息をひとつ。
「やっぱり夜になると冷えるね」
「ほんま。あー…手袋忘れるなんて失敗したわ」
「ちょっと待って」
立ち止まって、
あたしは左手の手袋を外して、彼女の左手にはめてあげた。
左手にカイロを乗せて、あかねに差し出す。
「つなごう?」
あたしのはだかの左手で、彼女のはだかの右手を取って、
カイロを挟んで恋人つなぎ。
そしてつないだ手を、あたしのコートのポケットに入れた。
「あったかいね」
外で手をつなぐことはめったにない。
だけど、こんなにあたりは暗いし、
もしも誰かに見られても、
寒かったからと、今日は言い訳できる。
妙な目で見られるだけで、
きっと聞かれることなんてないけれど…。
いつもは照れて嫌がる彼女も、
さすがに寒さに負けたのか、
一度だけ、うしろを振り返り、
おとなしくポケットの中におさまった。
腕をからめるようにして、ぴったりと寄り添って、歩く。
意識しなくても、おなじぐらいの歩幅で。
どこからかいい匂いがする。
「シチューだね」
「シチューやな」
おなじタイミングで、おなじ感想。
それがおかしくて、ふふふと笑う間も、おなじ。
ちいさなしあわせ。
遠回りの目的だった場所にたどり着いた。
「うわあ…」
10軒ほど並ぶ民家すべてにイルミネーションが飾られて
この通りは、地元じゃ有名なスポットになっている。
「「電気代いくらだろ…」」
そういう生活感丸出しなとこも、おなじだね。
「きれいやな…」
「あかねの方がきれいだよ」
「…何をおごって欲しいんスか」
「やだな、ほんとだよ」
ほんとに彼女はきれいなひとだと思う。
あたしはこの、少し見下ろす角度から見る、あかねが好きだ。
長いまつげも、あたしを見上げるあかい瞳も。
クラスのみんなを盛り上げる、くるくると変わる表情も。
部活での、根性の汗となみだも。
お好み焼きへの、愛情と努力のやけどのあとも。
戦闘での炎をあやつるこぶしと、頼れる背中も。
ベッドの上での繊細なゆびさきと、
誰にも聞かせたことのない、あまい声も。
あかねのすべてが、好き。
あかねと出会う前の自分が、
どう過ごしていたのか思い出せないぐらい。
あたまの中は彼女に支配されていて、
こころは彼女に奪われてしまった。
あかね
あかね
大好きだよ。
こころもからだも
あなたなしじゃ、いられないぐらい。
そんなあたしが、
あかねとの別れを選ぶことになるなんて…
この時は、思ってもみなかった。
色とりどりのひかりを浴びる、美しい彼女の横顔をみつめた。
「どしたん?」
「ううん、やっぱりあかねはきれいだなと思ってさ」
「はいはい、わかったわかった。
あとでホットココア買うてやるから」
「いいよ、そんな…」
「ええって。手袋のお礼や」
「じゃあ、はんぶんこしようねっ」
この特等席にいられるのも、あとわずか。
そのときがきたら、
あたしはちゃんと
あなたの手を、離せるのかな…。