モホロジカル(企画書の書き方事典 2002年より) | 村山涼一のマーケティング備忘録

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 発想しようと思うものの属性を複数並べ、その属性の可能性をできるだけ考慮し、属性と属性の可能性を掛け合わせて、全ての組み合わせをしらみつぶしにアイディア化する発想法。


 この発想法は生物学の形態分析にちなんで、モホロジカルと呼ばれる。


 この技法は1940年代の初め、エアロ・ジェット社のフリッツ・ズイッキーによって考案された(ズイッキーはのちにカリフォルニア工科大学で宇宙学の教授となる)。


 のちにトマホークミサイルを開発することになるズイッキーだが、この発想法を思いついたのは、人間が陥りやすい思い込みや先入観を排除して、問題を合理的にとらえようとしたからであった。


 確かにミサイルを開発するにあたっては、ほんの少しのミスも許されないはず。これを見逃さないために、モホロジカルが生まれたに違いない。


 この発想法を分かりやすく理解するために、発想法入門(日経文庫)の中で、著者の星野氏が提示している例をみてみよう。


 氏の試みはおもしろく、恐い怪物を開発するためのモホロジカルを提示している。


 まず「怪物」の属性を考えてみる。


 生息地はどこか?大きさはどれくらいか?種族的起源、武器、性格はどうであるか?形態、異常な点、特技。


 怪物だから、武器や異常な点、特技がある訳だ。発想するものに特徴的な属性はこのように考えればよい。


 次はその属性の可能性を考えていく。


 生息地としての可能性、「深海」「大河」「宇宙」「ジャングル」「地下」「大森林」「都会」を列挙していく。


 武器の可能性、「つめ」「牙」「毒ガス」「バイ菌」「強い尻尾」「火を吐く」「超能力」も列挙していく。以下、属性ごとに同様に列挙する。



 そして、ここでできあがった図の全ての可能性を検証していくのである。

 例えば、都会に住んでいて、ゴリラ大で、怪力だが、優しいところのある怪物。フランケンシュタインが思いつく。


 また、宇宙に住んでいて、人間大、爬虫類のようで、凶暴、はさみがある。悪役なのに人気の高いバルタン星人が思いつく。


 深海にいて、巨大、とかげのようでいて、火を吐く(正確には放射能のようだが)。ゴジラである。


 このようにモホロジカルは情報組み合わせ法に属する発想法で、企画を量産し、その可能性を煮詰めていく開発に適している。食品や飲料の開発によく使用されていると聞く。




 ステレオはモホロジカル的発想で生まれたのではないだろうか。コンポーネントステレオと呼ばれる、レコードとラジオ、カセットテープを聴く3つの機能を持つステレオが爆発的にヒットしたのは1970代だったように思う。現在はCD、ラジオ、MDに構成要素が変わったものの、若者の部屋には必ず一台あるロングセラーとなっている。




 健康ランドもモホロジカル的発想で生まれたものであろう。古くは銭湯、バブル期はクアハウスと「お風呂」をコアとした施設はヒットの可能性が高い。サウナ風呂もマニアが多く、売上は堅調のようだ。


 さて、これをさらに多機能としたもの、それが健康ランドである。


 広いだけでなく、サウナ、薬湯と風呂自体のバリエーションも多い。加えて、飲食もできる場所があり、そこではカラオケも楽しめる。最近ではトレーニング施設や仮眠室まである。


 お風呂を楽しんで、飲み食いし、少し寝てからまたお風呂を楽しむという小旅行的に使う人も増えていると聞く。


 お風呂がモホロジカルにより、究極の娯楽施設となった訳である。




 1980年代後半に「ファイロファクス」という手帳が大流行した。かなり高価なものであったが、自称エグゼクティブという人たちは必ずこれを持っていた。


 この手帳は、カレンダー、様々な形式のメモ、アドレス、チェックリスト、付箋などから成る多機能手帳である。


 その後システム手帳という名で普及し、現在では大学生あたりでも使っている人がいる。


 様々な記述の機能を掛け合わせたことにより、新価値が生まれた例である。



 結果的にモホロジカルのようになったものも何点か紹介しておく。


 まずはウォッシュレット。トイレの多機能化である。トイレという本来用途の他に、洗浄機能、乾燥機能、暖房機能、ビデ機能が加わった。


 古いホテルや高級マンションには必ずビデがあり、高級感を醸し出していたが、ウォッシュレットの普及により、完全に姿を消した。


 携帯電話もそうである。話すという本来機能に、データ送信機能が加わり、メール、撮影機能までついた。携帯電話は、究極のコミュニケーションツールはとなりつつある。


 エアコンは、冷房機能が最初であるが、暖房機能、除湿機能、ランドリー機能、最近では空気清浄機能まで持っている。本当にエアーコンディショナーと言えるようになった。


<モホロジカル例①>


メディカルダイエットジム

 現代人の多くは肥満気味であり、誰もが若干のダイエットの必要があるようだ。特に30、40代の人の生活習慣病率は高く、糖と中性脂肪に悩んでいる人は多いと聞く。


 生活習慣病は一概に運動をすればいいというものではなく、食事、運動、薬のバランスが肝心である。


 そこでその3つ(食事、運動、医学治療)を同時にやってくれるジム「メディカルダイエットジム」はどうか。


 スポーツクラブはダイエットのための適切な運動方法は教えてくれるが、それが医学的に正しいかどうかは示してくれない。脂肪を落とすと言っても、外見上の脂肪と内蔵の脂肪を落とすことは違うだろう。


 このジムは、まず医学的見地から見た適切な初見をしてくれる。


その人にふさわしい運動方法と量、それに応じた食事も提案してくれる。これに基づいて、専属のトレーナーが運動の管理をしてくれる。さらにジムにはレストランが併設されていて、その人にふさわしい食事も提供してくれる。


医者とスポーツトレーナーと栄養士が三つ巴で治療してくれる。これならきっと健康が取り戻せるだろう。


<モホロジカル例②>


ハードワーカーズホテル

 ものすごく忙しい時。自分の身の回り全てを誰かがやってくれたら、と思ったことはないだろうか。


 自分は仕事だけに打ち込みたい。例えばパソコンに向かってひたすら文字をたたき続けたい。


 しかし、腹は減ってくる。睡魔も訪れる。キーボードのたたき過ぎで、肩も異様に凝る。


 こうしたこと全てに対応してくれるところはないだろうか?



そこでハードワーカーズホテルである。パソコン、インターネット環境完備。電話一本で、FAX、コピーもしてくれる。加えて、食事、マッサージも24時間対応。


 もちろん、パソコンやインターネットのトラブルも24時間、即時対応してくれる。


 昔からこもって仕事に集中したい人はホテルで仕事をした。それはホテルが究極のサービスを提供する場所であることに他ならない。


 そこで現状のホテルのサービスを、より「ハードワーカー」向けにフォーカスして、多機能化することを考える。


こういう人たちは経費で処理する人たちであろうから、値づけは高額でよい。顧客の数は限定されるであろうが、堅調な需要は見込めると思われる。