みなさんはじめまして、日本ユースリーダー協会学生スタッフの内海嵐(立教大学)です。
先日、第7回若者力大賞「ユースリーダー賞」の受賞が決定した松中権さんにお話を伺いました。
皆さんは「LGBT」という言葉を知っていますか?LGBTとは、L=レズビアン(女性同性愛者)、G=ゲイ(男性同性愛者)、B=バイセクシャル(両性愛者)、T=トランスジェンダー(性同一性障害を含む性別越境者)というセクシャルマイノリティの方々を表す言葉で、日本には現在約7.6%のLGBTの方がいらっしゃると言われています。
松中さんはLGBTの方々を支援するNPO法人グッド・エイジング・エールズの代表で、ご自身もゲイであることを公表し、当事者としてこの活動を行われています。
人物紹介:松中 権(まつなか ごん)/認定NPO法人 グッド・エイジング・エールズ代表•39歳
「グッドエイジング」とは年を重ねることをポジティブにとらえる、自分たちで考えた言葉
―「グッド・エイジング・エールズ」ではどのような活動をされていらっしゃるのですか。
グッド・エイジング・エールズとは「LGBTと、いろんな人が、いっしょに楽しめる未来へ」というテーマのもとで活動しています。性的に少数派であるLGBTに閉じるわけではなくて、そもそもLGBTが存在しているという事実から皆さんに伝え、LGBTとそうでない方とが一緒に交流できる場づくりをしています。
―グッド・エイジング・エールズという名前にもある、グッドエイジングについて教えて下さい。
アンチエイジングとは年を取らないようにしていくことを目指すのに対して、グッドエイジングは年を重ねていくことをポジティブにとらえていくことを意味する、自分たちで考えた言葉です。 LGBTの人はまだまだ年を重ねることをネガティブにとらえています。今の若い人は少しずつメディアでも取り上げられてきていて、少しハードルは下がっているのですが、それでもやはりLGBTの方は家族を持てなかったりして、将来的に独りぼっちになってしまうことを恐れている方が多くいます。それに日本社会は家族単位で動きがちで、さらにそれは年を重ねるごとに濃くなっていきます。たとえば会社でも、結婚しないとあの人どこか変なのかなと思われてしまったり、ゲイだとばれてしまうと差別が起こってしまったりとか。なのでどうしても社会から離れていく人が多いんです。そこで将来的にLGBTの人が安心して暮らせるグッドエイジングというものを考えたいと思いました。
インタビューはグッド・エイジング・エールズが運営される「カラフルカフェ」で行いました
本人がつらい時に、職場でも家でもない場所があってもいいんじゃないでしょうか
―グッド・エイジング・エールズの「場づくり」とは、具体的にはどのようなことでしょうか。
スターバックスが自分たちのことサードプレイスと呼んでいて、家庭でもなく、学校や職場でもなく、もう一つの居場所を提供しているんですけど、その考え方がLGBTにはもっと必要かなと思っています。実は家族って意外と遠いんですよね。家族ってやっぱり男の子は男の子らしくしてほしいというのがあるじゃないですか。そうすると男の子は女の子と結婚して幸せな家庭を築いてほしいという、知らない間に家族からのプレッシャーを本人は受けているので、家族って近いようで一番遠い存在だったりするんですよ。
一方で職場を見ても、日本の場合はまだまだ隣でLGBTが働いてるとは夢にも思わないで働いています。
このような状況でやっぱり本人がつらくなった時に、家でも職場でもない第3の居場所があってもいいんじゃないかということで、2011年の夏からカラフルカフェという、LGBTに限らず、障がいをもった方や、外国人とも交流できるカフェをスタートしました。
マイノリティ向けのサードプレイスとしてこのカフェを始めたんですけど、やっぱりファーストプレイスとしての家庭や、セカンドプレイスとしての職場も大事ですよね。そこで、家庭環境としてはシェアハウスを手がけている会社とコラボレーションして、2世帯住宅13部屋をリノベーションし、半分はLGBTの方が、半分はLGBTではない方たちが一緒に住める場所を提供しています。
また職場環境でいうと、Work with Prideという、IBMさんとNGOヒューマン・ライツ・ウォッチさんと一緒に職場のLGBTの働きやすさを考えようというレファレンスをやっています。後はこういった場所づくりだけではなくてイベントみたいに一時的に人が集まるところも一つの「場」なので、カラフルランというランニングイベントを山梨県小淵沢の中村キース・へリング美術館で行っています。
実は行き当たりばったりで、そのときの関係者の化学反応で生まれています
―イベントや、カフェに来ることで初めてLGBTであることを告白できたという方はいらっしゃいますか。
はい、それはいっぱいいらっしゃいますよ。ただ、そこに行っていきなりカミングアウトする方はあまりいなくて、カミングアウトをしている人たちがLGBTであることを一人で抱えることなく過ごしている姿を見て、「あ、こういうのいいなあ」と思って翌年ぐらいにカミングアウトされる方が多いですかね。
ー例えばそこでできた友達や新たなコミュニティでの関係性は長く続くものなのでしょうか。
そうですね。場を作ると人が集まってきて、人が集まるとアイディアが出てきます。だからそういったところから生まれてきたアイディアもあります。 例えばグッド・エイジング・エールズのメンバーがTEDというスピーチイベントで彼と彼のパートナーが社宅に入れないことをテーマに話す機会がありました。すると、たまたまそこにいらっしゃったシェアハウスをやられている社長さんに、住居でそんなに困っているのなら一緒にやってみない?ということでカラフルハウスができたりしました。今は「場づくり」という軸でキチンと整理して活動しているように見えますが、実は行き当たりばったりで、そのときの関係者の化学反応で生まれているというのが、正直なところです。
企業とNPOと社会をつなぐというのは面白い
―そもそも、グッド・エイジング・エールズを始めたきっかけは何だったのでしょうか。
設立のきっかけはいくつかあるのですが、一つは企業とNPOと社会をつなぐというのが面白いと思ったことですね。 会社に入って8年ぐらい同じ部署で働いていたんですが、同じところにずっといると重鎮になっていくんですよね。で、重鎮ってなかなか部署移動できない。だから今後20年近くもこの場所にいるのかもしれないと思うと、これはやばいと思いました。
それで社内の海外研修制度に応募してニューヨークに半年行ったんです。ニューヨークにいる間にノンプロフィットディビジョンというNPOとかNGOだけのイベント企画をやる職場があったんですよ。そこでは企業とNPOとNGOがとてもいい循環で回っていて、企業が寄付したお金をNPOがきちんイベント会社にお金を払って、イベント会社がきちんとしたコンテンツのイベントを社会に反映するというような。NPOって質素倹約みたいなイメージがあるかもしれないですが、使うところは使ってきちんとしたもの作らないと、何のために活動しているのかもわからないというのもありますよね。 それで、企業とNPOと社会をつなぐというのが結構面白いなと思ったんですよね。だから日本でも何かやりたいと思ったことが一つ。
もう一つが、僕は大学4年生の冬までずーっとカミングアウトしていなくて、4年の冬に初めて新宿2丁目というところに出て、そのあとすぐに留学でオーストラリアに行って、そこではゲイであることを隠さずに2年間ぐらい暮らしてきたんですよ。それでそのあと会社に入るときにはカミングアウトせずに8年間過ごして海外研修に行ってきました。ほんとはLGBTに関することやりたいという気持ちは持ってはいたんですけど。それでニューヨークに行ってみるとLGBTをサポートする団体があって、それを見てるうちに、あ、自分も何かこういうことをやりたいんじゃないかと思いました。
それで日本に帰ってきたときに新しい彼氏とも別れちゃったから、やばい僕このまま一生一人だと思って、なんかこの先人生真っ暗だ。どうしよう老後と思って。それで老後のこと考える団体をつい・・・。 これは半分冗談で半分本気でもあるんですよね。30代で始めたんですけど周りの人もいろんなポジションを築き始めていて、だけど、何か新しいことやりたいとうずうずしている人たちもいる世代でもあるんです。そんな人たちが飲みながらする話ってなぜか分からないけれど老後に関する話なんですよね。たとえば「メゾン・ド・ヒミコ」というゲイのための老人ホームを描いた映画があるのですが、まあそんなことできないよねとそこでパッと解散してしまうんですよね。でもそこで解散してしまうのがなんか気持ち悪いなあと。なんかそういうことを一緒にできるプラットフォームみたいなのがあったらいいんじゃないかと考えていました。
あと、30代って、まだ飲みに出てくるんですけど、40代、50代になってくるとなぜかいなくなっちゃうんですよね。やっぱりだんだんと社会から孤立していく、社会とかかわることを避けていっちゃうんですよね。中にはそのまま亡くなってしまう方もいらっしゃる。それでやっぱりエイジングってすごい問題なんだなということをみんなで話してる中で作ってみようと思いました。
LGBTのことを社会に伝えるために、自分の強みを活かせることがあった
―団体を設立された後はお仕事と団体運営をどのように両立されていらっしゃったのですか。
団体を作った当初は会社には言ってませんでした。お給料をもらうわけでもないし、みんなプロボノでやろうという感じだったので。メンバーは仕事を持っていること、そして仕事を活かせることをしようという考え方でやっていました。その中で僕の本業はコミュニケーションで誰かに何かを伝えるということ、だからLGBTのことを社会に伝えるためにすごくシンプルに自分にできることがあると思いました。
職場にカミングアウトしたのは、ある企業と個性とかあなたらしさをテーマに仕事をする機会があった時です。その時お互いにたまたまLGBTの特集をしていた雑誌を買っていて、じゃあそれに合わせてLGBTで何かやってみませんかという話になったのがきっかけです。うちの会社はメディアに出る時に必ず広報を通さなくてはいけなかったので、これはそういうタイミングなのかなと思いました。それに勤めていくうちに信頼関係も築けていたので、あの人ならきっと大丈夫という風に思えることができるようになってきたというのも大きいですね。
―カミングアウトされた後に、同僚の方の態度が変わってしまうようなことはなかったですか。
それは全くなかったですね。むしろ、あぁそうだったんだっていう人もいれば、切り出すタイミングをうかがっている人もいたりしました。でもカミングアウトしようというきっかけはあったけど、やっぱり自分の中である程度人間関係を築いて、何かいわれたとしても、この人たちと仕事をしていれば大丈夫かなっていう自信があったから大丈夫でしたね。だけど強いて言うなら、職場に50人ぐらいゲイの友達がいるんですけど、その友達とはほとんど一緒に食事をしなくなりましたね。もちろん仲は良いんですけど、彼らはゲイであることがばれたくないから。
―彼らはカミングアウトしていないのに、どうして彼らがゲイだとわかるのですか。
というのはですね、ゲイのネットワークがすごい発達してるんですよ。ゲイバーとか、友達の友達とか。
いまはアプリもあるので、GPSで半径300メートル以内にゲイがいますとか、登録してるとわかるんですよ。
たとえ認識してなくても、なにかこの人かわいいなあとか、見たことあるなあとかで分かっちゃうこともあるんですよね。
―つまりゲイ同士だからわかる何かがあるということなのですね。
まあ経験を積めば。おそらくゲイ同士であれば、ですけど。
―松中さんがご家族に対してもカミングアウトしようと決心されるまでは大変でしたか。
きっかけがなかったら一生話してなかったかもしれないというのはありますね。きっかけというのはNPOを作ったこともありますし、父が退職して時間ができて自分で調べちゃったというのもありますし。いろんなことがありますけど、ほんとに偶然かなと思いますね。
―周りの人は家族に言っている人と言っていない人ではどちらが多いのでしょうか。
断然言っていない人の方が多いですね。メディアがすごくいろんなことを報じていて、社会が変わったかのように報じているんですけど実際はまだまだです。インタビューに答えている人自体がカミングアウトしている人が多いので。
―やっぱりまだまだ隠してしまう、隠さなければいけない社会になっているというか。
もう全然、そうですね。
―LGBTの方がオープンになるためには、これから何が必要になってくるのでしょうか。
実は最近渋谷区、世田谷区でパートナーシップ条例というものが作られたんですが、公の機関が認めたというのはすごく大きいですよね。だけどそうはいっても、自分の隣にそういう方がいなければピンと来ないですよね。自分の生活圏内において何かそういうことを知るきっかけとか、もしくは当事者が現れるとか、知り合いがカミングアウトしてくるとか、結局どれだけ社会が進んでも、理解するためには、自分に関わってこないと難しいんじゃないかと思いますね。
メディアでは社会が変わったと報じられることもありますが、実際はまだまだこれからです
ところでみなさんのお友達にLGBTの方は何人いらっしゃいますか。
―私の知る限りではいないですね。
データでは日本に約7.6%、つまり友達が13人集まると1人はそういう人がいるんです。
―そう考えると結構な人数ですよね。学校でいうと1教室に2~3人はいるという計算です。
すごく当たり前にいらっしゃるんですね。でもその数は最近増えたわけではないですよね。
最近になってやっと表に出ることができるようになったというだけで。
そうですね。でも実は、内海さんの周りにいらっしゃらないということは周りの人が言ってないということかもしれないんです。人によっては周りの人がLGBTの人ばかりなんですよという人ももちろんいるんです。たぶんその人は、あ、この人ならカミングアウトできるなという何かを持っているんでしょうね。LGBTの話って約7.6%の人ばかりがフォーカスされてしまうのですが、やはり残りの92.4%の人はストレートなんです。その皆さんが、例えば知識が増えたり、思いが伝わったり、なにか理解があったりすればLGBTの人たちが、あ、この人だったら信頼できる、この人だったらカミングアウトできるなという風になっていきます。つまり本質的にはコミュニケーションの問題だったりするので、お互いが変わっていかなければいけないし、その社会が変わっていかなければならないですよね。
「死ぬ時ぐらいはちゃんと自分らしく生きられる場所を作る」というが最終ゴール
―今後、活動を継続されていくにあたり、どのような最終目標やビジョンをお持ちですか。
やっぱりエイジングのことを言っているので、グッドエイジングを目指したいですね。今はわかりやすく「LGBTの老人ホーム」と言ってるんですけど、いま日本の社会ってその老人ホームというものから、地域包括みたいな方向に向かっているので、やっぱり街の中でいろんな人たちとどうやって暮らして行くかという感じになっているので、ネットワークを作って、情報を共有していけるようにしたいですね。 死ぬまで嘘つくのっていやじゃないですか、だから死ぬ時ぐらいはちゃんと自分らしく生きられる場所作りとか、そういうことを考えていきたいなってことが、ちょっと長めのゴールでもあります。
―今回若者力大賞の「ユースリーダー賞」を受賞されることが決まった際、どんなことを感じられましたか。
最初は「ユースリーダー賞」なのに自分は39歳で大丈夫なのかと思いました。また、お話ししたように私はリーダーという感じのタイプではないんですよ。グッド・エイジング・エールズは6つのチームに分かれていて、そこに来るメンバーの一人ひとりが企画とかやりたいことを持っていて、それでだんだんと出来上がっていくものなんですね。リーダーがいてそのもとで何かやっていくというタイプではないので最初はしっくりこなくて、私個人ではなく団体として受けられないかと相談したくらいです。だから僕自身全然リーダーなんかじゃないんです。なんか雑用をやってるみたいな、こぼれ落ちていくものを拾うのがたまたま好き、という感じです。
自分の周りの人がキラキラしてたり、生き生きしてたりするのがすごく好き
―きっと松中さんはサーバントリーダーシップというか、引っ張るのではなく支えるような強いリーダーシップをお持ちなのではないでしょうか。プロボノというスタイルにもそのスタイルでないと回らないのではないでしょうか。
そうですね。モチベーションがあってのことなので。あと個人的には、NPOのメンバーとか、NPOに関わってくださっている人たち、自分の見える範囲の人たちがキラキラしてたりとか、生き生きしてたりするのがすごく好きなんですよ。ほんとはもちろん社会のためって思ってますよ。だけどやっぱりまず目に見える範囲の人たちがどれだけ幸せになっていけるかを考えますよね。だから、その人がやりたいことが実現できていくような場があればいいなと思います。なんかLGBTって、結局ずっと自己承認ができなかったり、自己実現ができなかったりしてきたことがハードルになっている部分もあるんですよね。だからなにか1つ、自分を認めてあげたりとか、周りから認めてもらったりとかできる場を提供していけたらいいなと思います。 それにもしそれが少しでもセクシャリティに関わっていることだと、自分に戻ってくるものって大きいと思うんですよね。そういう場というのはイベントを企画する方だけじゃなくて、関わってくださる人とか、イベントに参加してくれる人たちにもなにか感じること、返ってくるものがあるのではないでしょうか。
―最後に、いま現在LGBTで苦しんでいる方もいらっしゃると思うのですが、その方たちになにか伝えたいことがあればお願いします。
急がなくてもいいし、自分のペースでいいよ、と伝えたいですね。
目の前の世界だけしかないと思うと苦しいけど、実はそこから出ていくと全然違う世界があって、さらにそこには全然違う人がいます。ポジティブに思った方が未来はポジティブになっていきます。たとえ今が苦しくても、とにかくポジティブにこうなるかもしれないと思った方がいいかもしれないと思います。だけど、それはきっと僕の根が楽観的だから言えるのかもしれないですよね。ネガティブな人もいるし、ネガティブな環境もあるし、そう思えない人もいるんだよと言われるんだけど、やっぱり僕自身が自分の経験からお伝えできることがあるとしたら、そういうことかなと思います。
―ありがとうございました。これから少しでもLGBTの方がオープンに、一人で抱えることなく暮らせる社会が来てほしいと思います。
(インタビュー2015年11月25日:学生スタッフ内海嵐)
さて、来たる2016年2月16日(火)の第7回若者力大賞では、表彰式にて松中さんご本人の受賞スピーチもございますし、交流会にもご参加いただける予定です。ぜひ、若者力大賞にご参加ください。
「第7回若者力大賞」表彰式&交流会の詳細と参加申込はこちらからお願いいたします。
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