早実時代の王貞治、評定河原で決勝弾
続みやぎ野球史再発掘 伊藤正浩
みやぎの野球史を調べていると、プロ野球の公式戦記録では分からない意外な事実に気付くことがある。今回は世界のホームラン王、王貞治選手について。
プロ野球歴代最多の通算868本塁打のうち、仙台で放たれたものは、わずか1本だけだ。
1973年5月16日、宮城球場で行われた巨人―広島戦。入団15年目で12年連続のホームラン王となる王選手だったが、実は、ペナントレースで巨人が仙台に訪れるのは、58年以来のこと。59年に入団した王選手は、初見参であった。この試合六回裏、2―0の場面。外木場投手が投じた内角球をライト上段に運んでいる。
公式戦ではこれだけだったが、王選手の仙台でのホームランは、ほかにあと2本ある。
1本目は日米野球で、71年10月27日の巨人―オリオールズ戦。0―10で迎えた九回裏。好投のドブソン投手からソロホームランを右中間スタンドまで運び、一矢報いた。
そしてもう1本はプロ入り前、57年のこと。春の選抜大会で優勝していた早稲田実業高が招待されて来仙し、9月8日に東北高と対戦している。場所は評定河原球場だ。
エースで4番の王選手は攻守に活躍。投げては14奪三振、打っては、2―2の同点で迎えた九回表、決勝点となるライトフェンス越えを放っている。
王選手が一本足打法に開眼する5年前の学生時代。仙台のオールドファンに思い入れの深い評定河原で、のちのホームラン王の姿をほうふつとさせる一撃を見せていたのは、実に趣深いことではないか。