沖縄県の宮古島で「冬の味覚」と評判のサバ科の魚「ウブシュ(スマ)」が今季は水揚げゼロと異例の状態が続いている。伊良部漁協のカツオ漁船が軽石や燃料高騰で漁に出られないためで、伊良波宏紀組合長は「この時季に水揚げがないのは知る限り初めて」。市に窮状を訴え、支援を求めている。市内の鮮魚店も入荷を望んでいる。(宮古支局・知念豊)

冬の味覚のウブシュ。今季は水揚げゼロが続く=2018年12月、宮古島市(与那原鮮魚店提供)

 同漁協では例年、脂の乗る11月末~3月にかけ、カツオ漁船4隻が代わる代わる尖閣諸島近海でウブシュを取る。だが、今季は軽石で漁船が故障するのを避け、1隻も漁に出ていない。例年なら佐良浜港を午後8時ごろ出港、翌日早朝に漁場へ着き、日中、一本釣りや引き縄漁で1トンほどのウブシュを取る。帰港までに3日かかる大仕事だ。

 ウブシュは1キロ当たり約1700円の高値が付く高級魚だが、水揚げすると仲買人らがこぞって買い求めその日で売り切れるほど人気。漁業者にとって1回の操業で100万円ほど稼げるため、リスクや負担は大きくても魅力ある漁だ。

 伊良波組合長も「マグロのトロよりも脂が乗っておいしい。刺し身で食べるのが一番」と太鼓判を押す。漁期は3月まで続くが再開のめどは立たず、もどかしい思いを抱える。

 軽石、コロナ禍、燃料高騰の三重苦に加え、出荷用の発泡スチロールなどの資材や冷凍キビナゴなどの餌も値上がりしている。「漁業者を取り巻く環境は厳しい。特に軽石問題は行政が災害と認定して支援してもらいたい」と訴えた。

 市内の与那原鮮魚店の男性店員によると、かつてウブシュは伊良部島内で消費され島外に流通しなかった「幻の魚」だ。8年ほど前から同店などが宮古島でも販売を始め、今では市全域で評判が広まっている。男性店員は「本来なら店頭に並べたい。私も食べたいし漁の再開を待ち望んでいる」と話した。