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一度会えばみんな兄弟だ(2020.10)

沖縄ではシリトリができない

先月は沖縄の「バクダンおにぎり」の話をした。
沖縄の話を続けると・・・
コロナだ、新内閣だと話題に事欠かないので皆さんお忘れだと思うが、
ちょうど1年前、昨年の10月31日、あの首里城が炎上した。
テレビの画面を見ていて信じられなかった。

あれからはや1年。
特殊な資材や職人、150億円とも言われる費用など難題は山積し、再建は多くの困難が予想されるが、
紆余曲折しながらも、あの姿をもう一度見ることができるよう望むばかりである。

で、突然だが、沖縄は不思議な所である。
沖縄ではシリトリができないということをご存知だろうか。
どうしてできないか。
それは、沖縄では何と!「ん」から始まる言葉があるのである。
それも結構たくさん。

小生も最初に「ん」から始まるものの名前を八百屋の店先で見た時、
結構ドギマギする軽い衝撃を受けた。
それは「んじゃな」である。

「うん、じゃあな」という別れの言葉ではない。
「んじゃな」は葉物野菜の名前である。
「んじゃな」は即ち苦菜(ニガナ)である。

また、「んすなばー」という野菜もある。
「んすなばー」は即ち、フダン草である。
最近は「うまい菜」の名前で売っているのを見かける。

料理でいえば、「んぶしー」。
これは味噌煮のことである。
「なーべらーんぶしー」はヘチマ(なーべらー)の味噌煮で、沖縄でのヘチマの代表的な食べ方である。

「んむ」はうなっているのではなくて、「芋(いも)」である。
単に「んむ」という場合には、サツマイモを指すことが多い。
沖縄で芋といえば、「たーんむ」。
即ち、田芋である。

image002_202010011027506a5.jpg
フダン草。「うまい菜」や「スイスチャード」という名前でよばれることもある。
「うまい菜」は茎が白くて太く、「スイスチャード」は茎の色がカラフルである。


調べてみると、世界には「ん」で始まるものの名前や地名・人名はたくさんあるようだ。
例えば、中国人の名字によくある「呉」さんは、
北京語では「ウー」さんだが、広東語では「ン」さんだそうだ。
しかし、どうしてわが国では沖縄だけこんなに「ん」で始まる言葉ができたんだろう。
んーむ。

しりしり

沖縄・シリトリとくれば、単に言葉が似ているだけで全く関係ないけど、「しりしり」である。
しりしりといえば、「にんじんしりしり」である。
「しりしり」は、千六本にした野菜を卵と一緒に炒めた沖縄の家庭料理である。
人参で作るのが一般的なので、「にんじんしりしり」なのである。

普通、野菜を千六本するには、まず野菜を薄切りにし、それを重ねて端から刻んでいく。
みじん切りの一工程前で止めるわけだ。
少量なら何という事もないが、大量に刻むとなるとちょっと面倒くさい。
そこで沖縄には「しりしり」を作るための「しりしり」という道具があるのだ。

道具の「しりしり」は、沖縄の一般的な家庭には必ず1つはある必需品だ。
「しりしり」は、早い話が大きなおろし金である。
しかしその表面は針状の突起ではなく、穴の開いた突起が並んでいる。
このおろし金状の物で人参などをおろすと、
「おろし」ではなく、細い棒状に切断されたものが簡単にできる。

「しりしり」の語源は「すりすり」であり、
また、このおろす時の動作や音からきているといわれている。
というわけで、「しりしり」は「しりしり」する動作や作業のことも言う。

人参が定番だが、沖縄では人参以外の野菜も「しりしり」する。
小生は、パパイヤしりしりが好きである。
沖縄では、パパイヤは果物の前に野菜である。
青いパパイヤの皮を剥いて種を除き、「しりしり」してそのままサラダや炒め物にする。
サラダにして砕いたナッツ類や庭のレモングラスやペパーミントを散らし、
ナンプラーなどをかければエスニック風味抜群の一品が出来上がる。

「しりしり」は、料理の名称であり、調理法の名称であり、道具の名称であり、
また、その道具を使う動作や作業の名称でもあるのだ。
一つの言葉で、関連するものをすべて表す。
日本語にはこんな便利な言葉はなかなかない。
電子レンジで「チン」するが、電子レンジのことを「チン」とは言わないし、
電子レンジで温めたものを「チン」とは言わない。

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わが家の「しりしり」。サラダの彩りに人参をちょっと「しりしり」するのに手間いらずだ。

「ちゃんぷるー」と「じゅーしー」

「しりしり」の話をしたので、沖縄料理の話をしなければならない。
ところで、沖縄では炒め物には3種類あるそうだ。
すなわち、「ちゃんぷるー」と「たしやー」と「いりちー」である。

「ちゃんぷるー」は、ごちゃまぜという意味で、
色々なものが入った炒め物と理解していたが、これは違うようだ。
沖縄の家庭料理に精通したおばぁが言うには、「ちゃんぷるー」は、豆腐が入った炒めの物ことを言うそうだ。

「たしやー」はデンプン質が入った炒め物のこと、「いりちー」は炒め煮のことを言うそうである。
「くーぶーいりちー」は昆布(くーぶー)の炒め煮なので、「いりちー」はすんなり理解できる。
問題は「ちゃんぷるー」である。

車麩の入った「ふーちゃんぷるー」やそうめんの入った「そうみんちゃんぷるー」は、
「ちゃんぷるー」ではなく、「たしやー」だそうだ。
僕がわざわざ那覇で買った沖縄料理の本には、
堂々と「ちゃんぷるー」の部に「ふーちゃんぷるー」と「そうみんちゃんぷるー」がこの名前で載ってるけど。

ということは、豆腐の入らない「ごーやちゃんぷるー」は、「ちゃんぷるー」ではないということになる。
ゴーヤとスパムと卵の「ごーやちゃんぷるー」は、「ごーやちゃんぷるー」ではないのだ。

沖縄の食べ物の名前は面白い。
もしあなたが沖縄で具だくさんの麺が食べたくて「ちゃんぽん」を頼むと目を剥くこととなる
運ばれてくるのは野菜炒めがご飯の上にのった「野菜炒め丼」とでもいうべきもので、
麺のかけらもない。

定食の付け合わせに汁ものが欲しくて、
軽い気持ちで「味噌汁をつけてください」などと言おうものなら大変なことになる。
お椀ではなく、大量の具が入った丼が出てくる。
沖縄の味噌汁は「汁」ではなく「おかず」なのである。

定食の付け合わせと言えば、最初に沖縄に行った時驚いたのは「じゅーしー」である。
定食屋でみんな「じゅーしーをつけてね」などと言っている。
さすが亜熱帯の沖縄。
昼ごはんにもマンゴージュースなどつけるのかなと思っていたら、
「じゅーしー」とは炊き込みご飯のことだった。

なんで炊き込みご飯のことを「じゅーしー」って言うんだ?
ご飯のかけらも感じられない。

このことを知ってもさらに衝撃を受けたのは「ぼろぼろじゅーしー」である
ボロボロになった炊き込みご飯って何だ?
腕のいいコックが作るチャーハンのように、米がぱらりとほぐれるのかなと思っていたら、
「ぼろぼろじゅーしー」とは雑炊のことだった。
なるほど、雑炊だから米がボロボロにほぐれるのかと一人勝手に解釈した。

いちゃればちょーでー

以前、沖縄の田舎町であるところに行きたくでバスに乗ったのだが、
どうやら逆方向のバスに乗ったことに気づき、
終点近くなってバスを降りて、道路の反対側の停留所でバスを待った。

しばらくするとさっき乗ったバスが折り返してやってきた。
乗り込むと運ちゃんが僕を覚えていて、どうしたのかと聞く。
事情を話すと降りるバス停を教えてくれて、料金はいらないという。

何で?と聞くと、
あんたは間違えて乗っただけで、既にその分のお金は払っているのでいらないという。
ありえない!

沖縄の人はゆるくて、こっちがバタバタしていると正直イラっとくることもある。
だけど、僕は沖縄の人が好きだ。
つまらないことをいろいろ考えても仕方がないじゃないか「なんくるないさー」。
一度出会い行き会えば、誰でも兄弟みたいなもんなんだ「いちゃればちょーでー」。

首里城はきっと再建できる。

| コラム | 10:43 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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