僕は別に、自分以外のオリ主の存在を許さないとか、そういうことは考えていない。寧ろ同じオリ主同士メアちゃんとは仲良くWin-Winな関係を築きたいと考えている。
複数転生者物……と言うかオリキャラが複数人出るSSにおいて、オリキャラ対オリキャラの構図には特に気をつけなければならないからだ。これらは前に言った「読者を置いてけぼりにしてしまう」症例の一つであり、オリキャラ一人一人によほどの魅力を感じさせなければ誰得な展開に陥ってしまう危険があるのだ。
例外として最初から「俺はオリキャラ中心の外伝的なSSを書きたいんだ!」という目的でオリ展開のみ書いていたのならアリだと思う。原作開始前のオリジナルストーリーだったり、原作終了後や空白期の捏造話とか僕は大好きである。寧ろ、そういう作品は原作に入らない方が面白かったりするからSSの世界は難しい。
しかし原作沿いのSSにおいて、物語の途中からこの手の展開に切り替えるのは特大の死亡フラグである。
何せ原作沿いの物語を読み始めた時点での読者は、オリ主がこの先の展開にどんな影響を与えるのかに注目していたからだ。そんな折に「突然現れる知らないキャラ!」「原作そっちのけで始まるオリキャラ対オリキャラ!」と畳み掛けられては多数の読者の理解が処理落ちし、とっ散らかってしまう。
作者からしてみれば何とも悲しい話である。オリ主の影響で強くなった味方陣営とバランスを取る為に、敵陣営にオリジナルの敵を足しただけなのに……それが一番書きたい展開で、その為にいい感じの設定を考えたのに……と。わかるよ……
もちろん、そういった要素を含みながらも最後まで面白かった作品はあるし、読者からしても全く需要が無いわけではない。これらの地雷も実力のある作者ならば起爆させずに処理することもできるのだ。実力の無い僕は炎上したけど。
そういうわけだから僕は、この世界でオリ主対オリ主の展開を広げる気は無い。オリ主同士の衝突はとことん避けていく方針だ。そうでなくてもメアちゃんは近くで見たらちっちゃくてかわいい銀髪ロリだったし、敵対するなんてとんでもない。非転生者であれば、なおさら争う理由が無かった。
そうとも、求めるのは完璧なオリ主! それがチートオリ主たる者の使命。
だからこそ僕は、僕とメア、両方がオリ主として活躍するSSを所望する。どちらが踏み台になることもなく二人三脚でオリ主となり、この物語をいい感じに導いていこうじゃないか。それこそが、「二人で一人のオリ主大作戦」の概要だった。
そうなると、僕のポジションは影のオリ主だ。既に記憶喪失ヒロインといういい感じのポジションに収まっているメアちゃん先輩には、そのまま原作主人公を照らす光のオリ主になってもらう。
僕は彼女の影として、この物語を支えよう。影の実力者って感じでいいよね……いい。俄然やる気がみなぎってきた。
という方針に決まりましたが、こんな感じでどうでしょう? 女神様っぽい人。過去の貴方に対して、僕をオリ主に選んだことを英断だったと感謝しておいてください。
相手が神様であろうと、イキることを諦めない。それが僕だ。
アニメ「フェアリーセイバーズ」は全26話。第一クールと第二クールに分割して章分けされており、物語の方向性はそれぞれ異なる。
第一章は父親の仇打ちを目的に悪の組織と戦う主人公の成長物語だったが、第二章では舞台が異世界へと移り変わり、第一章よりも冒険ファンタジー色が強いシナリオとなる。
まず人間の恥である第一章のボスがやらかした悪事にとうとう聖獣の神様が怒り、地球への総攻撃を決断した。
そんな神様の企みを阻止しようと動いたのが、戦争を止めたいと願った穏健派の聖獣たちだった。ゲートから来訪した彼らから事情を聞いたセイバーズ一同は、聖獣の神様と和平交渉を行うことを決断する。
主人公一行は親善大使の護衛として、共に異世界へと渡る……という内容だ。
そして炎たち親善大使護衛隊は神様のもとへ向かう道中で度々妨害を受けたり、事件に巻き込まれることになる。少なくとも、異世界編に入ったらしばらく地球に帰れなくなるのは間違いなかった。
……と言うわけで、今僕がオリ主としてやることは、間もなく始まる異世界編に向けて備えておくことだ。
即ち、修行回である。今後激化することになる物語の中で完璧なオリ主ムーブを貫く為には、短期間で戦闘力を仕上げておく必要があるのだ。
その為の異能、その為のチートである。女神様っぽい人がどこまで考えているのかはわからないが、その点僕のチート能力はチートの名に違わず、お手軽に強くなれる異能だった。
僕のチート能力は「他人の異能を盗み、自在に使役する能力」だ。一昔前のなろうとかではそこそこ流行っていた気がする、強奪系の能力である。
この力を使いこなすには、肉体の鍛錬はそこまで重要ではない。それなりに鍛えた方がいいのは間違いないが、それよりもとにかくたくさんの異能を盗み、あらゆる状況に対応できるようにストックしておくことの方が大事だった。
故に僕は、早速異能狩りに向かうことにした。
もちろん、手当たり次第というわけにはいかない。効率的に有用な異能を盗む為に向かった場所は、「明保野市」の名物である「異能バトルスタジアム」だ。
そう、少年漫画でお馴染みの……みんな大好き闘技場である。
異能が日常化しているこの世界の娯楽では、異能使い同士による武闘大会が男性に人気だった。かく言う主人公チームの一人も、こういった催しを好むバトルマニアである。
ここで日々行われている武闘大会では当然戦闘向きな異能が惜しみなく披露されている為、今の僕にはおあつらえ向きの品評会だった。
場内に詰めかけた野蛮人たちの間を掻き分けながら、僕はノートとペンを手に観客席へと腰掛ける。僕のチート能力の関係上、闘士として大会に参加するよりも観戦者として観に徹した方が都合が良いのだ。
僕に与えられたチート能力、他人の異能を盗み、自在に使役する──面倒だな、わかりやすく「怪盗ノート」と名付けておこう。この能力は生成したノートに盗みたい異能の概要をアナログで書き込んだ後、ターゲットに向かって馬鹿正直に「貴方の異能盗みますよ」という旨を伝え、身体に触れることで発動する。
二つ目の手順は予告状を出すのが手っ取り早いだろう。まさに怪盗オリ主である。
そして一つ目の手順であるが、この時ノートに書き込んだ異能の概要が杜撰だったり、的外れだったりした場合には異能を完全に盗むことができない。盗む際にはターゲットに対する高度な分析力が要求された。
また、ノートである以上書き綴れるページには限界があり、ページ数以上の能力を盗むことはできないし、ノートを二冊以上同時に作ることも当然できない。もちろん、ノートを破壊されたらおしまいという弱点もある。
女神様っぽい人は最強厨ではないらしい。万能に近い能力だが、無敵ではない塩梅だった。
個人的にオリ主のチート能力はある程度制限があった方が好みである。限られた手札でやりくりするのも、こうして盗む異能を吟味するのも、元来蒐集癖のある僕としては楽しいものだった。
因みに、異能を盗まれた被害者は完全に異能を使えなくなるわけではなく、数日経てば元に戻るらしい。もちろん、ノートから自動的に能力が返却されるわけではない。異能使いの身体にとって、異能とは血液のようなものだからだ。しっかり食べて眠れば回復する。井戸の水を汲んだぐらいでは、川の水が無くならないのと同じということだ。
強奪系の能力としては偉く良心的だが、おかげで僕のちっぽけな良心が痛まずに済むというものだ。犯罪であることに目をつむれば問題はなかった。
そう言うわけで僕は、男たちの熱狂に包まれたスタジアムの中、戦う闘士たちの姿を観察しながら気に入った異能の概要を「怪盗ノート」に書き込んでいた。
これまでにも能力を使ってきたが、最初のうちに転移系異能の「テレポーテーション」と探知系異能の「千里眼」を手に入れられたのはつくづく幸運だった。これらの能力は怪盗オリ主ムーブにおいて、最も重宝することになるだろう。
因みにテレポーテーションは下着ドロボー、千里眼は覗き野郎から頂いた異能である。被害者は僕だよコンヤロー。
この世界、少年漫画が原作の癖にしょうもない変態が多いな……まっ、僕に言えた話ではないけどね。
そうして観戦してみた異能使いたちのバトル大会だが、盗みを抜きにしても最高にエキセントリックな催しだった。
それはそうだろう。屈強な男たちの身体から当たり前のようにビームや火炎が飛び交い、鍛え上げた技と技をぶつけ合うのだから。超人社会が生み出したド派手な殴り合いに、男として興奮しないわけがない。今は女だけど。
大会では競馬同様賭けが行われていることもあり、満員のスタジアムは常に熱狂の渦にあった。
《さあ皆さんお待ちかね! 決勝戦の始まりです!》
DJの選手入場コールに対し、僕以外のみんながスタンディングオベーションで出迎える。僕も気持ちとしては立ち上がりたかったが、ターゲットたる異能の概要をノートに書かなければならないのでそういうわけにもいかない。
座ったままだと前の席の背中で武舞台が見えないので、仕方なく「千里眼」を使って眺めることにした。スタジアムに来なくても、最初からそうすればいいじゃんって? それはそうなんだけど、こういうのは現地で見てこそ趣があるのだ。
《東、ハーンフ・リー選手! 西、リキドー・チョータ選手! 両者構え……始め!》
カーンッ! とゴングが鳴り響き、これまでの試合に出てきた中で最強の闘士たちがぶつかり合う。
二人は僕イチオシの闘士である。特に面白いと思ったのは、優しげな顔立ちをした糸目の青年「ハーンフ・リー」さんだ。何が面白いかって言うと試合開始直前になると公衆の前でおもむろに怪しいスープを飲み干したと思えば、直後、細身の肉体がパツパツのシャツをはち切らしてゴリマッチョに変貌したからだ。絵面が僕の腹筋に悪かった。
「キャー! リーさーん!」
「DCSよ! リーさんのDCSよー!」
ドーピング・ファイター、ハーンフ・リー。スタジアムでは恒例なのか、彼が変貌した途端辺りから野太い歓声が響き渡った。
この大会でもステロイドや興奮剤の使用は禁止されているが、彼のそれは「調合」という己の異能の力を駆使して生み出した合法の増強剤である為、これも異能による技の一部として容認されていた。大会規程は懐が広かった。
TSオリ主がムッキムキになるのはイヤだが、自在に薬を生み出す力はサポート面での汎用性が高い。故に、彼宛ての予告状も用意しておこう。
彼の戦いを見ながら気づいたその能力の性質を、僕はペンを走らせて怪盗ノートに書き綴った。
……だが、この試合に勝つのは彼の対戦相手の方である。
そのことを僕は、入場時点から既に確信していた。
「遅ぇぜおっさん!」
「っ、むう……!」
名前は「
粗暴な雰囲気で見た目は悪そうだが熱血漢の快男児であり、視聴者からの人気も高いキャラクターである。
曲がったことは許さない性格であり、それ故に捻くれた初期の主人公とは度々衝突していたが、仲間として戦う中で二人はお互いの人間性を認め合い、作中随一の固い友情で結ばれた相棒となった。
アニメ「フェアリーセイバーズ」の主要人物は定番の三人体制である。天然の炎に熱血の長太、この二人に皮肉屋な二枚目キャラを加えた三人組が、「フェアリーセイバーズ」のレギュラーだった。
当然、この力動長太も今後始まる第二クールの異世界編でも親善大使護衛隊に加わる重要人物の為、オリ主である僕には慎重な接触が求められた。
そんな彼が扱う異能だが、見た目に反して氷属性である。
氷を生成する異能を持ち、氷で作ったモーニングスターやトマホークを振り回し、パワーファイトで制圧する戦闘スタイルであり、スタイリッシュかつわかりやすい造形のキャラクターだった。
「食らえや! 究極戦槌! アイシクル・クラーッシュ!」
「ぬ、ぬおおおおっ!?」
振り下ろした氷のモーニングスターが、爆肉強化されたハーンフ・リーの身体を吹っ飛ばし、そのまま武舞台の場外へと背中を叩き落とす。
大会のルールでは身体の一部が場外についた者か、レフリーが戦闘不能と判断した者の負けとなる。激しい戦いの末、優勝者は力動長太に決まったのだった。
流石はメインキャラ。その実力は他の闘士たちとは格が違う。
生で見た彼の戦闘力に、思わず目を輝かせる。それに……今、目の前に推しのキャラがいるのだ。欲しいなぁ……と、抑えきれぬ興奮に息を呑むが、彼の異能を盗むわけにはいかない。数日経てば元に戻るとは言え、盗んだことで能力が一時的に使えなくなった結果、原作展開にどんな影響を及ぼすかわからないからだ。
異能を盗むに当たって、優先的に狙うのはやはり、原作キャラ以外の人間が安パイである。それこそあのハーンフ・リーのような男が最適だ。
彼に関しては原作に登場したキャラではないし、転生者ということもないだろう。
根拠は……これはメアと炎に会った時に気づいたことだが、どうにもオリ主や原作で活躍する重要人物の姿には、何というかそういう雰囲気を感じるのだ。
感覚的な話になって申し訳ないが、会えば何となく、重要人物かそうでないかの違いがわかるということかもしれない。これもまた僕に与えられたチート能力なのかもしれないが、女神様っぽい人の加護だとしたら正直助かる。知らない人を見る度に転生者であることを疑わなきゃならないのは地獄すぎるもの。
──だから僕は、遠慮無く舞台に上がることにした。
影のオリ主としての、クールな晴れ舞台である。
その日を境に、明保野市を中心に怪事件が発生した。
町の住民の何人かが、突如として異能を使うことができなくなったのである。
警察に確認された被害者は同日に犯罪を犯し逮捕された男たちと、武闘大会に出場した闘士のべ十三人。
事情聴取によって呼び出された彼らは、一様に青ざめた顔でこう証言したという。
「俺の異能が、怪盗に盗まれた」と。
彼らから提出された証拠品──犯人が意図的に残したと思われる一枚のカードには、共通して差出人の名前が書き綴られていた。
「異能怪盗T.P.エイト・オリーシュア、只今次元の壁より参上いたした」と……。
世界中の人々が