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「誰も実名で話さないだろ」細田セクハラ議長 女性記者に「圧力電話」

「週刊文春」編集部

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 小誌が先週号で報じたのは、細田議長のセクハラ発言が記録された「電子データ」の存在、そして多数の女性記者らの告発だった。だが、記事の内容を知った細田氏は“ある行動”に出る。沈黙を守ってきた大手メディアも ――。

 

▶︎「すぐ文春を訴える」息巻く細田をなぜ周囲は止めたのか

▶︎政権幹部が小誌に「細田さんの女癖は有名だから」

▶︎月100万じゃ不足?国会閉会後に“1000万円集金パーティ”

▶︎新聞、テレビに記者のセクハラ被害を聞くと驚きの回答

 渦中の男は何食わぬ顔で乾杯のグラスを掲げていた。

 5月26日、夜6時。永田町の衆院議長公邸にて、各党の国会対策責任者を招いた夕食会が開かれた。主催者は議長公邸の主、細田博之衆院議長(78)。この日発売の小誌先週号で、女性記者らへのセクハラ問題を報じられた“三権の長”だ。

国権の最高機関のトップだが……

 テーブルにはシャンパンや赤白ワインに加え、都内有数のラグジュアリーホテルであるパレスホテル東京から運ばれたフランス料理が並ぶ。細田氏は乾杯にあたり、こう挨拶した。

「降って湧いたような話が出まして、ご迷惑をおかけしています」

 以降は報道には一切触れず、自身の国対委員長時代の思い出話を滔々と語っていたという。会話は盛り上がらず、折角のワインもほとんど注ぎ足されないまま、夕食会は1時間半程度で終了したのだった。

 セクハラ問題を「降って湧いたような話」と一蹴した細田氏。だが実は、水面下で女性記者に対して――。

 小誌はこれまで2週にわたり、細田氏のセクハラ問題を報じてきた。被害に遭ったとされるのは、女性記者やカードゲーム仲間のD子さん、自民党職員のE子さんなど、少なくとも計8名に及ぶ。さらに先週号では、そのうちの一人であるG記者に対し、細田氏が「うちに来て」などと述べた言動を記録した「電子データ」の存在も明らかにした。

「5月25日昼に文春電子版で先週号の記事が配信されると、中身を知った細田氏は激怒した。『すぐに文春を訴える』『会見を開く』などと息巻いていました」(清和会関係者)

岸田首相は「議長が適切に対応される」

 だが、当選同期の山口俊一議院運営委員長や、派閥の後輩である高木毅国対委員長といった“身内”からストップがかかる。

 細田氏側近の一人も、本人にこう伝えた。

「議長が予算委員会の最中に個人的な事柄で報道機関を提訴するなど、国権の最高機関である国会への冒涜になります」

 周囲の説得を受け、細田氏は渋々「国会中はやめておく」と洩らしたという。結局、26日に文書でコメントを発表。記事に強く抗議した上で、〈今後、通常国会閉会後、弁護団とも協議し、訴訟も視野に入れて検討いたしたい〉と記したのだった。

〈訴訟も視野に〉とするコメント

 しかし、ある政権幹部は小誌にこう明かす。

「報道については、私にも『事実無根』と言っていたけれど、細田さんの女癖は有名だから。年を取り、歯止めが利かなくなったんじゃないか。女性記者だけではなく、昔から女性議員に対してもセクハラのような言動をしていた。“挨拶代わり”のようにね」

官房長官時代の細田氏

 自民党から出馬経験のあるI氏が振り返る。

「私が国政初当選してから間もない10年以上前のことですが、党のイベントからの帰り道、細田先生が私を自宅までクルマで送ってくれたことがありました。自宅が近付くと、細田先生は私の家に行きたいと言い出したんです。勿論、お断りしましたが……」

自宅近くのレストランに誘って

 当選回数がモノを言う国会議員の世界にあって、既婚の先輩男性議員が、独身の後輩女性議員の自宅に上がり込もうとする。今日では非難を浴びかねない行為だが、当時はまだ、セクハラ問題への社会の意識は希薄だった。だが、その感覚のまま、今も女性たちに接し続けているのだろう。

 実際、小誌には次々と細田氏への“#MeToo”の声が寄せられている。

「当初は、積極的に被害を訴えるつもりはありませんでした。ですが、細田氏が『事実無根』と主張するのは明らかにおかしい。それで自分の実体験をお話しすることにしました」

 小誌にそう告白するのは、細田氏を取材した経験を持つ女性政治部記者だ。

「細田氏とは、二人でディナーに行ったこともあります。ある夜に指定されたのは港区のレストラン。大物議員のチョイスとしては意外なほどカジュアルなお店ですが、細田氏の行きつけでした。ただ、食事中に政局や選挙のことを聞いても『うーん、そうだね』などと生煮えの返事ばかり。全く取材になりませんでした」

 実りのある会話がないまま、空虚な時間が過ぎていく。食後のデザートが供される頃合いで、細田氏はこう切り出した。

「部屋では一人だから。これから来るかい?」

女性記者を呼ぶマンション

 その「部屋」こそ、細田氏が複数の女性記者を「うちに来て」と誘い続けた港区のマンションだった。1LDKで、レストランからは徒歩3分。女性記者は「だから今夜はこの店を選んだのか」と合点がいったという。彼女は誘いを断ったが、その後も細田氏の激しい“ラブコール”は続いた。

「1日に何度も電話がかかってくるんです。30分ごとに3、4回くらい着信がある。深夜0時過ぎの、普通は床に就いている時間帯の連絡もしょっちゅうでした。でも相手は大物政治家。出ないわけにもいかず……」(前出・女性記者)

 電話口の細田氏は、

「今から家に来ないかい? 何もしないから」

 と執拗に誘ったという。

「あまりにも夜中の電話が多く、終いにはパートナーも『その人、何でいつもこんな時間に電話してくるの?』と疑い始めて……。本当に困りました」(前出・女性記者)

 小誌はこれまでも、細田氏が繰り出した数々の“誘い文句”を報じてきた。

「添い寝するだけだから」

「(自宅前に)警察が立っているし、大丈夫だから」

 あの手この手で女性たちの警戒心を解き、自宅に連れ込もうとするのが細田氏の“常套手段”なのか。かつて細田氏を担当していた女性のJ記者も、友人らにこう語っている。

「私も細田氏から『添い寝するだけだから』と自宅に誘われたことがある。私には『(男性としての)能力は無いから、大丈夫だ』と言っていた」

 こうした言動からは、「“実力行使”に及ばなければセクハラではない」という細田氏のボーダーラインが透けて見える。

朝日と産経が社説でセクハラを

 別の女性記者が憤る。

「私の記者仲間の女性は、執拗な誘いを断れず、細田氏のマンションに行ったことがある。誘い文句は『うちでプラネタリウムを観よう』だったそうですが、上映するのはベッドルームなのだと聞きました。仮に“何もしない”としても、プラネタリウムを観るためには照明を落とす必要がある。寝具のある部屋で照明を落とし、好意のない男性と二人きりで過ごすなんて、女性には恐怖でしかありません。たとえ、それが高齢の男性であってもです」

 だが、これだけの訴えが集まっても、細田氏が我が身を省みる様子は見られない。それどころか、セクハラ被害に遭った女性記者らに対し、“ある行動”を取っていた。

 証拠や証言を基に、細田氏のセクハラ問題を詳報した小誌先週号。その記事を目にした細田氏は、女性記者たちの携帯電話を鳴らした。ひとしきり「記事は事実無根だ」などと文句を続け、こう言い放ったのだ。

「誰も実名で話さないだろ」――。

 かねてからセクハラ被害を受けてきた女性記者の一人は、こうした会話を「デジタル記録」の形で残している。

 親しい知人が言う。

「文春の記事に匿名証言が目立ったことから、信憑性を軽んじたのでしょう。ですが、この電話を受けたのは、実際に細田氏からセクハラを受けてきた当事者に他ならない。細田氏もそれを知らないはずがありません。にもかかわらず、彼女にこうした発言をすることは、『話したらどうなるか、分かっているな』という“圧力”そのものです」

 こうして女性記者らに電話をかけるなどする一方、先週号発売日の26日には、国会閉会後の提訴に言及したコメントを発表したのだった。

 自民党関係者の話。

「細田氏は『セクハラの証拠は出てこない』と周囲に語るなど、タカをくくっています。このまま6月15日の会期末を迎え、7月10日の投開票が有力視される参院選になだれ込めば、騒動は沈静化すると思っているのでしょう。実際、細田氏は7月11日に政治資金パーティを予定している。セクハラ問題の渦中にもかかわらず、関係各所に案内状を配布していることから『よくこんな時期に』と呆れる声が上がっています」

政治資金パーティの案内状

 小誌が入手した案内状には、細田氏の“業績”が高らかにこう記されている。

〈国会が国民の期待と信頼に応え、国権の最高機関としての役割を果たすべく、衆議院議長として注力しています〉

 パーティの名目は「時局講演会」で、会費は2万円だ。政治資金収支報告書によれば、細田氏が例年開催する「時局講演会」の収入は、直近の2019年で約1500万円。それ以前も、確認できた11年まで、例年1000円以上の“集金力”を誇る。

2019年には約1500万円を集めた

 細田氏といえば、セクハラ報道直前の5月10日に「議長になっても毎月もらう歳費は100万円しかない」などと発言し、物議を醸したばかり。「月100万」では足りない分を、パーティで賄おうとしているのか。

 ところが――。

「1000万円集金」を目論む細田氏の前に、暗雲が垂れ込めている。ここへ来て、被害を知っているはずの大手メディアも少しずつ動きを見せ始めてきたのだ。

左/産経の社説(5月30日付朝刊より)右/朝日の社説(5月28日付朝刊より)

 5月28日には朝日新聞が、30日には論調が真逆の産経新聞も社説で細田氏のセクハラ問題を取り上げた。朝日は〈衆院議長の資質欠く〉、産経は〈議長は身の処し方考えよ〉と、いずれも厳しい見出しを掲げている。

 朝日新聞幹部が明かす。

「ウチの社では、かつて細田氏を担当していた女性記者が、実際にセクハラと受け止められかねない言葉を投げかけられていました。そのことは、複数の同僚が本人から聞いている。だからこそ、セクハラ報道は事実だとして、自信を持って社説を出せたのです」

 朝日記者も続ける。

「細田氏の度重なるセクハラ的な言動を受け、彼の担当記者に女性を付けるのは止めるようになった。被害に遭った女性記者も現在は別の政治家を担当している。それほど細田氏を“危ない”と見ているのです」

3週連続回答しなかった細田氏

 そこで小誌は大手紙、通信社、NHK、民放の全14社に対し、「細田氏からのセクハラ被害について社内で調査を行ったかどうか」と、「調査の結果、セクハラ被害はあったか無かったか」などを問う質問状を送付した。

 調査の実施を否定した社はゼロ。そして調査の結果、細田氏からのセクハラ被害が「無かった」としたのは、読売新聞とフジテレビの2社のみだった。

 セクハラ被害を否定しなかった社の回答は、主に以下のようなものだ。

「調査を実施しましたが、調査結果につきましては外部への公表を差し控えます」(毎日新聞)

「調査は実施しました。社内調査の内容については関係者のプライバシー保護のため、お答えしていません」(日本経済新聞)

 また、「記者から取材先によるハラスメント行為に関する訴えがあった場合、必要な調査を行い、厳正に処理します」(時事通信)と、取材先からのセクハラには厳しく対応するという趣旨の回答も目立った。

 NHKは調査の実施などには触れず、「ハラスメントのない働きやすい職場環境の確保に取り組んでいます」などと回答した。

 朝日新聞はセクハラ被害の有無には言及せず、細田氏の担当から女性記者を外している点については「個別のケースについてのお答えは、差し控えさせて頂きます」などと回答した。

 大手メディアの編集幹部が言う。

「細田氏のセクハラ報道を受け、わが社でも『きちんと追及するべきだ』という声が上がっています。今後の政治取材に影響が出るからといって、報道することを止めてしまえば、女性記者より細田氏を守った形になってしまう。メディアとしてそんなことが許されていいはずがありません」

 一方、当の細田氏はどう答えるのか。5月30日朝、女性記者らを呼び出してきた件(くだん)の自宅マンションから姿を見せた細田氏を、小誌男性記者が直撃した。

――女性記者に電話で圧力をかけた?

「はぁ〜……」

 すると、自宅前に立っていた警察官が「ちょっと待った!」と記者を制止。細田氏はマンションに戻った後も、記者と警察官のやり取りを眺めていた。その後、迎えのクルマに乗り込む際もSPに守られ、質問に応じなかった。

国会で質問を受ける細田氏(TBS NEWSより)

 小誌はその後、改めて細田氏の事務所に質問状を送付したが、期日までに回答は無かった。これで3週連続、細田氏は一切質問に回答していないことになる。

 政治部デスクの解説。

「細田氏が記者会見などで説明しない限り、今後、国会で細田氏への不信任決議案が提出される公算は大きいでしょう。清和会を細田氏から引継いだ安倍晋三元首相も、周囲に『困ったもんだよ』とボヤいている。議長経験者の間でも、細田氏の資質を問題視する声が上がり始めました」

 細田氏から女性記者へのセクハラはあったのか。「事実」は一つだ。

source : 週刊文春 2022年6月9日号

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