「『うちの子が障がい者やから軽んじているんですか?』と聞くと、店長は『はい』と言ったのです」
そう明かすのは、大手回転寿司チェーン「無添くら寿司」の大阪府にある店舗で勤務していた吉田達彦さん(仮名・25)の叔母だ。
山梨県甲府市にある店舗の現役店長が焼身自殺したことを契機に次々と明らかになる、くら寿司の過酷な労働環境。小誌はこれまで5号にわたり、従業員らの悲痛な声を報じてきた。
今回も小誌に新たな告発が寄せられた。
「店長にいじめられて退職に追い込まれました」
こう明かす吉田さんは、療育手帳B2級を持つ軽度の知的障がい者だ。2018年からくら寿司の障がい者雇用枠で勤務してきた。
近年、政府や地方自治体は助成金制度の拡充など障がい者雇用を促進している。くら寿司も積極的だ。17年には〈障がい者が働きやすい環境づくり〉などが評価され、本社がある大阪府の松井一郎知事(当時)から表彰を受けている。
しかし――。叔母と取材に応じた吉田さんが語る。
「今年4月13日、シャリにクリップが混入した寿司がお客さんに提供されるトラブルが発生しました。すると翌日に突然、『しばらく出社しないで』と出勤停止を言い渡されたのです。何もしていないのに……」
5月2日、吉田さんは店長のX氏に呼び出された。この時に交わした会話の内容を吉田さんはiPhoneのメモに記録していた。
「クリップ入れたやろ?」
「入れてないです」
「やったやろ?」
「やってないです」
“濡れ衣”で出勤停止にされた吉田さんは「死んでしまいそうなほど憔悴していた」(叔母)という。
5月6日、叔母と吉田さんはX店長と本部の障がい者雇用担当のY氏と話し合った。冒頭のやり取りはその時のものだ。X店長が開き直る一方、Y氏は出勤停止処分について「謝らなければならない」と述べた。
「謝罪もあったので、甥は引き続きくら寿司で働くことにしたんです」(叔母)
ところが、5月9日に店に復帰した吉田さんは「洗い場から出ないように。本部命令です」と言われた。
「仕事を与えられず、約4時間、洗い場に立っているだけでした」(吉田さん)
同様の状況は、11日に出勤した際にも続いた。叔母がすぐにY氏に連絡したが、こう言い放ったという。
「じゃあどんな仕事がしたいんですか? 結局、犯人はいますからね」
叔母が憤る。
「Yも甥を疑っていた。こんな職場では働けないので、退職する旨を伝えました」
ブラック企業に詳しい働き方改革総合研究所代表の新田龍氏はこう指摘する。
「人権侵害と言える事案です。犯人と決めつけるのは刑事告訴すれば名誉毀損罪になる可能性もある。洗い場で長時間立たせるだけの作業を命じることは能力に応じた仕事をさせない『過小な要求』のパワハラです」
X店長を直撃した。
――吉田さんを犯人と決めつけたのはなぜか。
「私は言えないので」
――「障がい者を軽んじている」と認めたのか。
「(「軽んじている」という)日本語の意味を理解していなかったんで、私は」
次第に声が大きくなるX店長。「なんで俺がここでこんな話聞かなあかんの」と言って店に戻っていった。
くら寿司本社に事実関係を確認すると、〈ご照会事項には、当社があたかも障碍者の方に対して差別的な対応を行ったかのような内容が含まれていますが、いずれも言動の一部分を意図的に切り出して歪曲されたものであり、事実ではありません〉などと回答した。
くら寿司の仕事を失った吉田さんは、6月から新たな職場に通い始めるという。
source : 週刊文春 2022年6月9日号