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入社半年の社員が自死 アイリスオーヤマ社長の釈明

「週刊文春」編集部

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〈うつ病、休職(中略)フォローする人は大変だけどそれほど追い込まれる環境もどうかと思う〉

 それが、ツイッターに残された最後の投稿だった。投稿主の青年は自ら命を絶った。大手生活用品メーカー「アイリスオーヤマ」のグループ会社に入社してからわずか半年後のことだった。

 5月23日、月曜恒例のオンライン朝礼で、アイリスオーヤマの大山晃弘社長は沈痛な表情で口を開いた。グループ会社を含めテレビ会議でつながった全国5000人超の従業員を前に、青年の自死を明らかにした。社長は青年について、労使間の36協定で取り決められた時間外労働時間(月45時間)を超える残業があったとも明かした。

アイリスオーヤマの大山晃弘社長

 亡くなったのは、オフィス家具メーカー「アイリスチトセ」で営業職を務めていた木村悠輔さん(仮名)。5月16日、東京都内の自宅アパートで変わり果てた姿で見つかった。

「イケメンのスポーツマンで、大学野球部の厳しい練習も乗り越えてきた。卒業後は一時、モデルや俳優として活動。エキストラなどでドラマ出演も重ねていましたが、コロナ禍で仕事を得るのが難しくなったため、安定した収入を得るために昨秋『アイリスチトセ』に入社しました」(知人)

 1971年設立のアイリスオーヤマは、2001年に家具メーカー・チトセを買収してアイリスチトセを設立。グループはその後も合併・買収を繰り返し今や国内外30社の大所帯だ。

「同族経営で、経営の自主性を保つためにあえて非上場にしているようです。18年に父・健太郎氏(現会長)の後を継いで長男の晃弘氏が社長に就いてからも経営は順調。コロナ禍でもマスクやサーキュレーターが良く売れて、グループ売上は8100億円(21年度)と急伸中。1兆円も射程内です」(経済誌記者)

仙台に本社がある

 ただ、グループ内の一部からは厳しい指摘も。

「『昭和の文化』がまだ残っています。現社長になって少しはマシになったけど、実態は業務過多で、残業が多い部署も結構あります」(グループ内従業員)

 木村さんの同僚が言う。

「新入社員に対する研修制度は整ってきましたが、中途社員に対する風当たりは強い。『即戦力で当たり前』で、期待にそぐわない成績だときついプレッシャーを受けるようです」

 アイリスチトセの社長で、大山晃弘氏の叔父にあたる大山富生氏を直撃した。

――従業員の自死について。

「痛恨の思いで、ご冥福をお祈りします。残念で、悲しい気持ちでいっぱいです」

――木村さんの精神状態は。

「現場ではあまりつかんでいなかった。長期欠勤していたということはないです」

――残業時間が長かった。

「今詳細に調査中です。3月の年度末が繁忙期でしたが4月には通常に戻りました。『午後7時以降は本部長の承認がない限り一切残業はダメ』という通達はしていましたが、パソコンを家に持ち帰っていたかどうかまではまだ調査中です」

アイリスチトセの大山富生社長(同社HPより)

 アイリスオーヤマの大山晃弘社長にも話を聞いた。

「会社として、こういったことが二度と起きないような取り組みをしていかなければならない。中途採用者に対するフォローも近年進めているところです」

 労災問題に詳しい古川拓弁護士が語る。

「厚生労働省が定める『労災認定基準』では、就労環境の変化を伴う配置転換などにも心理的負荷があると認められている。一般論としても、新入社員や中途社員でいきなり環境が変わって躓いてしまった人に対するケアは当然あってしかるべきだと思います」

 遺族は悲劇の再発防止を強く願っているという。

source : 週刊文春 2022年6月9日号

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