怒号に次ぐ怒号!知床遊覧船事故「NHK抜け駆けスクープ」センター長が呼び出された「査問会議」の中身

「皆さんで使って下さい」といわれた資料を独り占め

ゴールデンウイーク直前の4月23日に起こった知床観光船沈没事故では、14名が死亡し、いまなお12名が行方不明となっている。観光船の「カズワン」は、波が高くなる天候の急変を予測できながら、運航を強行したことが大事故につながった。

運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長への激しい責任追及が続いているが、殺到した多くの報道陣が入り乱れた結果、メディアのなかでも「大事故」が起こっていた。

ことの発端は、5月5日のNHKの朝の全国ニュースだ。《知床観光船沈没事故 ずさんな運航管理が常態化か》と朝6時42分に流した。

この報道は独自性の高いスクープだった。以下、引用しよう。

《桂田精一社長は乗客の家族に対し、事故当日は病院に行くため事務所を離れていた上、無線の不具合もあって船と連絡をとりあっていなかったと説明していました。》

船の運航中は、運行管理者に定期的に連絡することが法律で義務づけられている。病院にいた桂田社長には連絡ができないはずだ。そこで桂田社長は遺族から「無線交信の記録簿を出せ」と指摘された。

《当初、運航会社は家族説明会の場に、事故を起こしたのとは別の船の記録しか提出しておらず、出席した家族から疑問の声が上がって、改めてこの観光船の記録簿の開示を求めたところ、空欄の目立つ記録が見つかったということです。》

法律で義務づけられた無線交信記録を、観光船「カズワン」が正確に記していなかった──事件の「本筋」にあたる独自ニュースだった。

事故を起こした「カズワン」(知床遊覧船ウェブサイトより)事故を起こした「カズワン」(知床遊覧船ウェブサイトより)

これがNHKに報じられると、情報の出所をめぐり、地元で取材を続けるマスコミは想定外の騒動になった。実は、この情報は、本来NHKにだけもたらされたものではなかったのだ。取材にあたっている記者のA氏が明かす。

「桂田社長が遺族説明会で示した資料をNHKが入手したのは、5月2日から4日のあいだのことです。兵庫県の遺族から手に入れました。

その際この遺族は『皆さんで使ってください。回してください』と、記者クラブを通じて他社と情報共有することを望んでいました。今回の事件では、メディアが遺族に殺到してトラブルも起こっており、無用な報道合戦が過熱することになる配慮を各社行っていました。この兵庫県の遺族も、各社バラバラで取材することなく、代表の社が取材していた。

ところがNHKは、遺族が共有を望んでいた資料を独り占めし、『独自』として報じたのです」

 

メディアスクラムを避けるため、現地・北海道の記者クラブでは代表取材を旨とすることなど、あらかじめ申し合わせがあったという。

資料を提供した遺族が兵庫県在住のため、NHKは神戸放送局が管轄する兵庫県警記者クラブの記者を知床の現地に派遣していた。遺族の要請に従うならば、この資料は兵庫県警記者クラブに共有されるべきものだった。

しかし、NHKが問題の資料を兵庫県警記者クラブの他社メンバーにメール送信したのは5月5日夜8時22分、件のニュースを出した13時間以上後のことだった。NHKが報じてしまった以上、ニュースとしての価値は低くなった。

「NHKは抜け駆けだ。記者クラブの幹事社が共有という資料で独自ニュースをやるなんて許せない」

他社の記者からこう反発が出たのだ。日本独自の記者クラブ制度のなかで、「内乱」が勃発した。

自体を重く見た兵庫県警記者クラブは、何度か会議を開き、NHKの取材手法とその姿勢を批判した。

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