すでに届いていた離職票には最終月の給料額も明記されていたので、これは明らかな未払いです。苛立ちと「ああ、こうなると思った」という気持ちが半々でした。とはいえ何もアクションを起こさないままというのも腹立たしいですし、何より源泉徴収票は発行してもらわないと困るということもあったので、私は事務所宛に督促状を送付しました。
すると数日後、簡易書留で文書が1通届いたのです。その内容を見て、私は心の底からゾッとしました。あまりにもひどい内容だったので、箇条書きでまとめます。
- 給料の未払いを主張しているが、その主張は間違っている
- そちらが勝手に辞職したのは重大な契約違反だ
- こちらは顧問弁護士と社労士を交えてどのような処罰が可能か考えており、法的手段を取ることも視野に入れている
- これまでの勤務の実態を今一度調査する。勤務の実態が虚偽のものであると判断されれば、これまでの給料の返還を求める
- 未払いを主張している給料は、顧問弁護士が管理する銀行口座に一旦預ける形を取っている
- 今後は双方弁護士を通しての話し合いを希望する。そちらも弁護士を雇って連絡してこい
- 本件について、弁護士以外の部外者に相談することは機密の漏洩とみなし別途処罰の対象とする。労基への相談もこれに当たるので禁止する
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こうした内容が、A4の紙にびっしりと記載されていました。
ビジネス文書の体裁になっておらず、まとまりのない文章が紙面をぎちぎちに埋め尽くしている様子はもはや怪文書そのものです。
とはいえ、弁護士経由で話し合うというわりには弁護士さんのお名前も連絡先も記載されておらず、というか「そもそも事務所に顧問弁護士なんていたっけ?」という状態でしたし、労基への相談を一方的に禁止するという言い分も幼稚で、苦笑いするしかありません。
感情的になって脅しの文面を書き連ねているんだろうなと半ば呆れていましたが、そこでふと「勤務実態を調査して過去の給料の返還を求める」という言い回しに違和感を覚えました。そこで私はハっとしたのです。
事務所の勤怠管理においてはタイムカードなどが導入されておらず、エクセルに各々が勤務時間を入力するだけという非常にお粗末なものでした。つまり、その気になれば誰でも書き換えることができるのです。
事務所スタッフの社員さんは悪い人ではありませんでしたがとにかく社長の言いなりだったので、社長がその気になれば私のこれまでの勤務記録を改竄し、スタッフにも口裏を合わせるように命じて、軽く100万円は超える給料の返還を求めるということも不可能ではないのです。
これはもちろん犯罪でしょうし、それこそ弁護士や警察が入れば記録の改竄履歴は掴めるでしょうが、とはいえそうなればとてつもなくスケールが大きな話になってきます。
そもそもの前提として、家族への世話が必要で時間的に余裕が無いことから退職を選んだ私。未払いの給料は10万円そこそこ。この状況で弁護士を探すところから始めて高額な依頼料を支払って、終わりの見えない論争が始まって、場合によっては警察のご厄介になるかもしれない次元にまで話が発展して…と考えると、一個人である私にはあまりにも途方のない話でした。
社長もこうした点を現実的に考え、私のあらゆる弱みにつけ込む形で「こういう嫌がらせをしてこういう脅しをかければ、泣き寝入り以外あり得ないだろう」というポイントを見極めて仕掛けてきたのでしょう。
気が狂いそうなほど腹が立ちましたが、やはり弁護士を雇って本格的に争うというのはどう考えても現実的ではなく、私は結局泣き寝入り。嫌がらせとしか言いようの無い幕切れで会社から切り捨てられたわけですが、あの社長と絶縁できただけでも良しとするしかありません。
とはいえ今でも悔しくてたまらず、「あの時気軽に相談できて話だけでも聞いてくれる弁護士さんがいてくれればどんなに良かったか」と思うばかりです。
入社する時には会社の実態なんて分かりませんが、せめて勤怠管理だけは改竄の余地のない体制を敷いている会社を選びたいと痛感した出来事でした。