- 映画の宣伝戦略の一環として、実話に基づくストーリーであることが強調されることはしばしばある。『大統領の陰謀』(1976年)や『フィラデルフィア』(1993年)などがその例だ。
- だが、時にはあまりに奇想天外で、とても実話とは信じられない作品もある。
- スティーヴン・スピルバーグ監督の『ターミナル』(2004年)は、空港内に足止めされ、そのまま18年間を過ごした実在の男性の話をもとにしている。
- イングランドに住むある女性は、記憶障害により朝起きると記憶がリセットされ、常に今は1994年だと思い込むようになった。このエピソードは、『50回目のファースト・キス』(2004年)でドリュー・バリモアが演じたヒロインの役柄に反映されている。
「実話に基づいた映画」と聞いて、『死霊館』のようなホラー映画や、『50回目のファースト・キス』のようなロマンティック・コメディを思い浮かべる人はあまりいないかもしれない。だが、とても本当に起きたとは信じられないようなストーリーにもかかわらず、これらの作品は実際の出来事を下敷きにしている。
さらには、『フットルース』(1984年)のような、まず実際にはあり得ないような舞台設定(ダンスを法律で禁じている町)でさえ、実在するオクラホマ州の町の条例がもとになっている。
以下では、実際に起きたとは信じられないような現実の出来事に基づいて作られた計10本の作品を紹介していこう。
『フットルース』の舞台の町と同様に、「ダンスを法律で禁じる町」はオクラホマ州に実在していた
BBCによると、この実在の町はオクラホマ州のエルモア・シティだ。1979年、この町の高校生たちが、シニア・プロム(高校最後の学年に開かれる正装のダンスパーティー)を開催しようとしたところ、「1800年代末から連綿と受け継がれてきた、町内でダンスをすることを禁じた条例」によって、こうしたパーティーは違法行為になると告げられた。10代の若者たちは、ダンスは悪魔の道具だとの信念を持つ地元の牧師と対立するが、最終的にこの条例は覆された。
この出来事から5年後、ケヴィン・ベーコン主演で映画『フットルース』が製作された。映画では、非常に厳格な牧師によってダンスが禁じられている小さな町が舞台となっている。
『あなたに降る夢』(1994年)はフィクションだが、ストーリーの下敷きになっている宝くじにまつわるエピソードは実話だ
実際のいきさつはこうだ。1984年、あるレストランの常連客だった警察官のロバート・カニンガムという男性が、フィリス・ペンツォという名のウェイトレスと、チップの代わりに1枚の宝くじを折半する取り決めを結んだ。この宝くじは当せんし、カニンガムは約束を守って当せん金の600万ドルのうち半分をペンツォに渡した。
ニコラス・ケイジが警官を、ブリジット・フォンダがウェイトレスを演じた1994年の映画では、ストーリーが大幅に書き換えられていて、2人が恋に落ちるという、ありがちな展開になっている。
『死霊館』(2013年)は、エドとロレインのウォーレン夫妻の実話に基づいている。2人は有名な超常現象ハンターだ
ペロン一家(夫のロジャー、妻のキャロリンと5人の子どもたちという家族構成)は1970年、旧アーノルド邸と呼ばれる屋敷に引っ越した。その直後から、家族は怪現象に悩まされる。家具が空中に浮いたり動き回ったりし、ドアが勝手に開閉し、誰もいないところで物音がするほか、姿の見えない幽霊に押されたり引っ張られたりしてケガを負うことさえあった。
家族の依頼を受けて現場に赴いた超常現象ハンターのエドとロレイン・ウォーレン夫妻の調査により、この地所にはさまざまな幽霊が取り憑いていることがわかった。なかでも、最も邪悪な「バトシェバ」という幽霊が一家に悪さをしているようだった。1800年代にここに住んでいたバトシェバは、悪魔崇拝者だったとの疑惑があり、自らが生んだ最初の子どもを残虐に殺したことで罪に問われていた。
映画『死霊館』が公開されたのは、この事件から約40年後のことだった。
『一ダースなら安くなる』(1950年)とリメイク作品の『12人のパパ』(2003年)は、大家族に生まれたフランク・バンカー・ギルブレス・ジュニアと娘のアーネスティン・ギルブレス・ケイリーが1948年に出版した半自伝的小説に基づいている
1950年の『一ダースなら安くなる』と、2003年のリメイク版『12人のパパ』は、どちらもギルブレス家の実生活に基づいている。ニュージャージー州モントクレアに住んでいた一家は、17年の間に息子6人、娘6人をもうけた大家族だ。
原作者のフランクを取り上げたニューヨーク・タイムズの記事によると、一家の長だった父フランク・シニアは、「『動作研究(motion study)』科学の提唱者であり、工場の生産管理に用いられる原則は、家庭にも応用可能だとの信念を抱いていた建築技師にして能率の専門家」で、それが、12人も子どもをもうけた理由だという。
2003年のリメイク版では、スティーヴ・マーティンが父親役を、ボニー・ハントがその妻を演じた。
あまりに荒唐無稽に感じられるかもしれないが、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002年)は、実在の人物フランク・アバグネイル・ジュニアの半生に基づいている
フランク・アバグネイル・ジュニアは、1980年に自伝『Catch Me If You Can』(邦訳:『世界をだました男』新潮社)を出版した。その中で彼は、15歳から21歳までの間に行った「アメリカのすべての州と26カ国における合計250万ドル相当の偽造小切手」を使った詐欺の手口を明かしていると、USニューズ&ワールド・レポートは伝えている。
アバグネイルは確かに、史上最も多くの額をだまし取った詐欺師の1人だ。だが、悪名が知れ渡るに従い、その動きはアメリカ連邦捜査局(FBI)からも注視されるようになり、最終的には逮捕された。
この話には、さらに信じがたい続きがある。その後、アバグネイルはFBIアカデミーの講師となり、他の詐欺師を捕まえる捜査官に、小切手詐欺の手口を教えるようになったのだ。
この実話をもとにした2002年公開の映画では、スティーブン・スピルバーグがメガホンを取り、レオナルド・ディカプリオがアバグネイルを、トム・ハンクスが彼を執拗に追いかけるFBI捜査官のカール・ハンラティを演じた。
1899年、ニューヨークで新聞売りの少年たちが決行したストライキの顛末は、『ニュージーズ』(1992年)で映画化された
Newsies.
Buena Vista Pictures
ディズニーのミュージカルと聞いて、「実話に基づく」というフレーズが頭に浮かぶことはまずないだろう。だが、ケニー・オルテガの監督デビュー作となったこの映画は、1899年にニューヨークで起きた新聞売りの少年たちのストライキを下敷きとしている。
少年たちは、当時の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストとジョーゼフ・ピューリツァーに対して、新聞の卸値を下げるように迫った。このストライキは、ほぼ少年たちだけで計画された点で特筆すべきものだった。
『私に近い6人の他人』(1993年)は、実在の詐欺師デヴィッド・ハンプトンの犯行を描いた作品だ。ハンプトンは、自分が名優シドニー・ポワチエの息子だと、多くの人に信じ込ませた
70年代の終わりから80年代初頭にかけて、ハンプトンはニューヨークの上流階級の人々に取り入り、自分が伝説的な名優シドニー・ポワチエの息子で、アイビーリーグの大学に通う彼らの子どもたちのクラスメートだと信じ込ませた。ハンプトンはこうしたリッチな人々の自宅や生活に入り込み、多くの金をだまし取った。
『私に近い6人の他人』は、当初は演劇として発表され、その後映画化された。ハンプトンをモデルとしたキャラクターは、映画ではウィル・スミスが演じ、名前はポールと変更されている。
『戦慄の絆』(1988年)は、双生児の産婦人科医がわずか数日のあいだに相次いで亡くなった、ぞっとするような実話をもとにした作品だ
双生児として生まれたマーカス兄弟は、共同で産婦人科のクリニックを開業し、ニューヨークのアパートメントに一緒に暮らし、ハンプトンズに共同で別荘を持っていた……そして、あらゆるものを共有していた兄弟は、ほぼ同じタイミングで死亡することになる。
1975年に死亡した際、45歳だったスチュワートとシリルのマーカス兄弟は、向精神薬であるバルビツール酸系の薬物中毒だったとみられる。2人の腐乱しかけた遺体が発見された際、その謎めいた死は、当初は薬物の過剰摂取が原因とみられていたが、その後、薬物からの離脱症状によるものと判断された(2人が、薬物から足を洗おうと試みていた可能性もある)。
一部には、スチュワートの死後も、シリルは遺体のあるアパートで暮らし続け、数日後に死に至ったとの説もある。
この事件をもとにした1988年の映画は、まもなくAmazonプライムでドラマとしてリメイクされる予定だ。主人公の産婦人科医は、女性に設定が変更され、レイチェル・ワイズが演じる。
『50回目のファースト・キス』のヒロインと同様に、毎朝目覚めるたびに記憶がリセットされ、今は1994年だと信じ込む女性はイギリスに実在している
ドリュー・バリモアとアダム・サンドラーがカップルを演じたロマンティック・コメディ『50回目のファースト・キス』は、記憶障害の描写について批判されてきたが、ストーリーの大枠を形作る設定は、実在の女性に基づいている。
イギリス版コスモポリタンの記事によると、この人物はミシェル・フィルポッツというイギリス人女性で、1985年と1990年に2回、外傷性脳損傷を負ったという。これにより、20年以上にわたり、毎朝目が覚めるたびに記憶がリセットされ、今が1994年だと信じ込む症状を抱えている。映画のヒロインのルーシーと同様に、フィルポッツは、自らの病状を理解するために、毎日夫から説明を受ける必要があるという。
『ターミナル』で起きる出来事は現実にはあり得ないように思えるが、実際にパリのシャルル・ド・ゴール空港に20年近く滞在した、メーラン・カリミ・ナセリという男性がいる
ナセリは、パリの空港で20年近くを過ごした。母国のイランから国外追放処分を受けたと主張したが、有効なパスポートを所持していなかったため、合法的にフランスに入国することができなかったためだ。母国への帰還を拒んだナセリは、出国も拒否。唯一、イギリスへの渡航を試みたが、入国は許可されなかった。その後、ナセリは体調を崩してパリの病院に入院し、今は福祉施設で暮らしている。
トム・ハンクス主演の映画『ターミナル』の内容は、ナセリの実体験とはかなり異なる。ハンクスが演じる主人公は東欧からの渡航者で、パスポートが無効とされたためニューヨークの空港に閉じ込められる。これは、母国で起きた軍事クーデターが理由で、「国籍なし」の状態に陥ったためだった。
[原文:10 movies you didn't know were based on true stories]
(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)