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「あだ名」「呼び捨て」は禁止、小学校で「さん付け」指導が広がる

読売新聞 / 2022年5月28日 14時25分

 クラスメートを「あだ名」で呼んだり「呼び捨て」にしたりせずに、「さん付け」するように指導する小学校が増えている。身体的特徴を 揶揄 やゆするようなあだ名は、いじめにつながるケースがあるからだ。ただし、さん付けは円滑なコミュニケーションを阻むおそれもあり、有識者は「『さん付け』を求める場合は、きちんと理由を説明してあげてほしい」と指摘する。(松本将統、平出正吾)

お姉さん気分

 「皆さんはお友達を『○○さん』と呼ぶことができていますか?」

 今月19日、東京都江戸川区立葛西小で、1年1組の担任の千葉 千央 ちひろ教諭(37)が、帰りの会で児童29人に呼びかけた。元気のいい返事を聞くと、「あだ名や呼び捨ては、相手を嫌な気分にさせることがあります。さん付けは、人を大切にする呼び方なのですよ」と続けた。

 幼稚園では「君」や「ちゃん」で呼び合っていたという女子児童(6)は「お姉さんになった気分。呼ばれてうれしい」と、はにかんだ様子で話した。

 同小では、名字にさん付けするよう求めており、この取り組みは今年で6年目。内野雅晶校長(60)は「小さいうちから相手を尊重するという素地を育めば、人を攻撃するような行動は取らないはずだ」と話す。

校則に明記

 文部科学省の問題行動・不登校調査によると、全国の小学校でのいじめ認知件数は増加傾向だ。2020年度は42万897件の報告があり、このうち約6割が「冷やかしやからかいなど」だった。

 児童同士の呼び方について、文科省では指導はしておらず、担当者は「あだ名にはプラスとマイナスの両面がある。相手をどう呼ぶかは、相手がどう受け止めるのかに尽きる」とする。

 <友だちを呼ぶときは『さん』をつけます>。水戸市の私立水戸英宏小では校則にそう明記している。野淵光雄教頭(51)は「あだ名は身体的特徴や失敗行動など相手を 蔑視 べっししたものが多い。呼び方だけでいじめを根絶できるわけではないが、抑止することにはつながる」とする。

 約160の公立小学校がある京都市でも、ある校長は「この10年で『さん付け』は半数近くにまで広がっている」と語る。

 一方、埼玉県内にある小学校の40歳代の男性教諭は「さん付けは時代の流れであり、それを各校が取り入れることは理解できる。ただし、あだ名まで禁止すると円滑なコミュニケーションがとれないのでは」と語る。長野県で小学校の校長経験がある60歳代の男性も「昔は子供たちが愛称で呼び合った。その効果か、クラスはにぎやかだった」と振り返る。

嫌な思い

 日本トレンドリサーチが20年11月、社会人1400人に調査したところ、小学生の頃にあだ名があったのは69%。このうち36・7%が「嫌な思いをしたことがある」と回答した。

 小学校の校則であだ名が禁止されることについては「賛成」が18・5%、「反対」が27・4%、半数超の54・1%は「どちらでもない」だった。

 名古屋大の内田良教授(教育社会学)は「クラスメートをどう呼ぶのかは難しいテーマだ。教員が『さん付け』を一方的に求めるだけだと、なぜそうした呼び方をするのか子供は考えなくなってしまう。理由や背景をきちんと大人が説明し、考えさせることが大切だ」と指摘する。

「大切なのは敬意」

 大人の世界でも名前の呼び方に工夫が凝らされている。

 東レ経営研究所(東京都)では、2020年から上司も部下も「さん付け」で呼び合うことを決めた。肩書での呼び方を改めて、一人ひとりを優秀な社員として尊重し合い、働きがいを持ってもらうことが狙いだという。ウェブコンサルティング会社「フォノグラム」(広島県)では、03年の創業当初から社員同士をあだ名で呼び合う。代表の河崎文江さん(47)は「河崎」を中国語読みした「ハーチィ」が呼び名として定着しており、「親しみを感じて話しやすくなり、会話から新たな仕事のアイデアが生まれる」と語る。

 日本サービスマナー協会認定マナー講師の吉岡由香さんは「呼び方一つで相手を不快にさせることもある。さん付けもあだ名も大切なのは相手への敬意。学校現場では、幼少期から相手を尊重することの大切さを教えてほしい」と話している。

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