(社説)北朝鮮ミサイル 各国が挑発の歯止めを

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 朝鮮半島の南北からそれぞれミサイル発射される危うい事態である。周辺各国は挑発や対抗を控え、冷静に緊張を和らげる行動を心がけるべきだ。

 韓国軍によると、北朝鮮がきのう、日本海へ3発を発射した。新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)と短距離弾道ミサイルとみられる。

 米政府は、バイデン大統領の日韓訪問に対する北朝鮮の牽制(けんせい)を警戒していた。その訪問が終わった直後の暴挙である。

 北朝鮮は3月にもICBMを発射した。4年前、トランプ前大統領との対話が始まる前に中止を表明し、米朝の雪解け機運を演出したが、それを忘れたかのような一方的な行動だ。

 バイデン氏の歴訪に伴う一連の首脳会談で、日米韓は軍事的な抑止力強化を確認した。北朝鮮にすれば、米本土を射程に含みうるICBMと、日韓向けの短距離弾により、示威行動をしたつもりなのだろう。無益な危険行為というほかない。

 北朝鮮は今、「建国以来の大動乱」と認めるほど新型コロナ問題が深刻だ。ここ数日は新規の発熱者数の勢いが鈍りつつあるが、今後の変異株などを考えれば、軍事挑発にかまけている暇などないはずである。

 一方、米韓の対応についても懸念せざるをえない。北からの発射を受け、米韓の部隊はそれぞれミサイルを実射する対抗措置に出た。

 北からの追加行動を抑えるためだとするが、果たして本当にその効果が見込めるのか。

 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)・新政権では、徹底した圧力こそが北朝鮮を対話に引き出せるとする考え方が目立つ。だが、強硬策一辺倒では事態を打開できないことを、南北間の歴史が教えている。

 動きが憂慮されるのは、中国とロシアも同様だ。東京で日米豪印の首脳会合が開かれているさなか、中ロ両軍が日韓周辺に複数の爆撃機を飛行させた。

 中ロを意識した4カ国会合に対する牽制とみられるが、それは政治的な不満を軍事的な挑発に短絡させる北朝鮮の行動様式に通じるものがある。

 ロシアは自ら始めた侵略戦争で孤立感を強めている。中国はその行いを明確に非難していない。そのうえ北朝鮮に寄り添うように日米韓に対抗するなら、ますます不毛な軍事ブロック化の様相が強まる。

 ここは中ロも米韓日も立ち止まって安保環境の悪化を食い止める道筋を考えるときだ。朝鮮半島の安定は、すべての周辺国の利益につながるという、かつての6者協議の理念を思い出したい。北朝鮮の暴走を抑え、非核化をもたらすための協調行動こそをめざすべきである。