学校体育館の開閉をデジタル化 鍵受け渡しの手間解消

平畑玄洋
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 学校の体育館でスポーツをしたいが、鍵を受け渡しに行くのが面倒――。茨城県小美玉市が、そんな住民の悩みに応える仕組みを導入している。廃校により教職員が近くにいない体育館が増えるのを見越し、予約から鍵の管理までをデジタル化する取り組みだ。

 4月中旬の夕方。小川南小学校の体育館前に、U12(12歳以下)のバスケットボールチーム「アンクルブレイカース」(長島勝彦代表)のメンバーが集まってきた。

 保護者の倉田会美(えみ)さん(45)が、ドアに取り付けられた押しボタン式の電子錠に、暗証番号を打ち込むとロックが外れる。「よろしくお願いしまーす」。口々にあいさつする子どもたちが勢いよく中に入っていった。

 暗証番号は、事前に市役所からメールで通知されていた4桁の数字。米国のIT企業と日本の技術コンサルティング会社「構造計画研究所」が共同開発した鍵の遠隔管理サービスを使い、オンラインで体育館の予約をすると付与される。市は昨年度、このシステムを市内の全小中学校で導入した。現在は廃校となった施設を含め、12校と二つの生涯学習施設で採用している。

 従来は体育館の空き状況を確認した上で学校に出向いて予約を申し込み、市役所にも足を運んで利用申請書を提出する必要があった。体育館の合鍵は公民館や運動公園の事務所に預けられることが多く、中には車で約15分かけて行き来するケースもあった。倉田さんは「予約の際に職員室に寄って先生の手を煩わせたり、鍵の受け渡しで公民館に行ったりすることがなくなった」と歓迎する。

 システム導入のきっかけは、少子化で進みつつあった学校の統廃合だ。

 市内では2020~21年度に計6校の廃校が計画されていたため、学校の教職員がいなくなる体育館の維持管理が課題になった。「人を置かなくても鍵の開け閉めができる方法を模索していた」。市教育委員会の笹目翔太郎さん(30)は明かす。そんなとき、東京の業者が開いた製品紹介セミナーで遠隔で鍵の開け閉めを管理できるシステムが目に留まった。

 20年10月に市内で最も利用者が多い小川南小と、19年3月に廃校になった旧小川小で実証実験を始めた。当初は「1時間ごとに暗証番号が変わり、そのたびに通知メールが届いて煩わしい」「準備のために15分早く開けたい」などの注文がついた。そのたびに業者に掛け合って改善を図ってきた。

 システムの導入で煩わしさが減ったのは、利用者だけではない。学校の体育館の管理を担当する市スポーツ推進課の田谷寿之(としゆき)さん(45)は「手続きが多いため、行政や学校側の負担も大きかった。人の手を介することで重複予約などのミスを誘発し、鍵をなくす心配もあった」と話す。業務が軽減された学校側からも好評だという。

 公共施設の鍵の管理に同様のシステムを導入する動きは、各地に広がりつつある。現在は全国で30以上の自治体が採用している。

 市は、災害時の使い勝手の良さも見込む。解錠する機器は電池式のため、災害で停電しても暗証番号さえ伝えれば住民が体育館を開けて避難することができるという。(平畑玄洋)