スウェーデンにはこんなことわざがあるらしい...
———荒海は、リーダーシップを試す本物のテストである。
穏やかな海では、どんな船長もいい船長だろう。——————
まあ簡単に言えば危機的状況になった時にどう対応できるか、それが本当のリーダーの素質を持った人間を見抜く方法だ。両方の人間の能力が同じと仮定してメンタルが弱くすぐに諦めてしまう人か、状況が最悪でも最後まで諦めない人、どちらがリーダーに向いているかと聞けば皆、後者と答えるだろう。
では、これを踏まえて数個だす俺の出す質問に答えを考えてみて欲しい。
—問い—人は平等であるか否か
今、現実社会は平等、平等と訴えて止まない。男女の間は常に平等であるべきだと叫ばれ、その差をなくそうと躍起になっている。女性の雇用率を上げよう、専用車両を作ろう、時には名簿の順番にまでケチをつける。障害者ですらも、差別するべきではないとして『障がい者』と言葉を改めるように世論は働きかけ、今の子供たちは人は皆が平等だと教え込まれる。それは本当に正しいことなんだろうか。と、そんな風に俺は疑問を抱いた。男と女じゃ能力も違えば役割も違う。障がい者はどれだけ丁重に表現しようとも障がい者であることには変わりはないのだ。そこから目を背けても何の意味もない。
つまり答えは否。人は不平等なもの、存在であり、平等な人間など存在しない。
では先程のリーダーの話に戻ろう。まあ、言葉は悪いが簡単に言うと、メンタルが弱くすぐに諦めてしまうクラスの人気者か、状況が最悪でも最後まで諦めない根暗な人間どちらに味方するか...答えは前者だ。
勿論これには賛否両論があると思うが、大半の人は人気者に味方するだろう。人気者か根暗かの違いで先程と答えが変わる。これもまた不平等だ...でもこれは質問が変だな、メンタルが弱くすぐに諦める奴が人気者になれるのか...まあこの話は忘れてくれ。
では入学してから5日目の現段階で互いにリーダーの素質がある者が居たとしよう。2人とも高スペックな人間で片方は保守的、もう片方は攻撃的な考え方をもつ...さてどちらが俺たちAクラスのリーダーに相応しいと思う?
——答えは俺にも分からない——
「...あの、神谷くん?」
「..ああ、すまない考えごとしてた」
学校生活4日目...俺は今、有栖と2人でケヤキモールに来ている、所謂デートだ。ここに来た理由は有栖の杖を買い換えるためだ、最近転ぶことが何度かあったので杖に問題があるんじゃないかと思っていたがその通りだった。入学する前から気付いてたみたいだが昔から使っているお気に入りだからという理由で無理をして使っていたらしい。可愛いじゃないか...子供の時のおもちゃ捨てられない的な?...てか先端のゴムだけ変えればいいんじゃ...
「でもいいのか?気に入ってたんじゃないのか?」
「いいんです、それにこれはデートなんですから貴方が選んでください」
「いや、自分で選んだほうが良くないか?長く使っていくと思うし」
「...だめ、ですか?」
「選びます」
...ずるいぞそれは...断れる男はいないだろ。てか杖も普通に売ってるのか、買う奴有栖以外に居るのか?そんなことが頭に浮かんだが今はどうでもいい、有栖が言った通りこれはデートだ。楽しまなきゃ損だろ。
「それに折角来たんですから色んなところを見て回りましょう」
「それもそうだな...取り敢えず私服でも買いに行くか?」
「はい、そうしましょう。休日も制服じゃ流石に嫌です」
最初に行くところが決まった。俺はファッションには疎いので洋服選びは有栖に任せよう。
洋服店に到着し店内に入ると有栖が服を選ぶから呼ばれるまでここで待ってて欲しい、そう言われた。俺にとってはありがたいけど、そんなに俺ファッションセンスない様に見えるんだね...まあデートは初めてだけど種類が滅茶苦茶多いって訳でもないし15分もあれば終わるよね?
「神谷くん、右の服と左の服どっちが私に似合うと思いますか?」
「....えっと、ちょっと待ってね..」
舐めてた、女性とのショッピング舐めてた...もう1時間は立ったままだ、土踏まずが痛い。楽しそうにショッピングしてる有栖見てると俺も楽しいからいいんだけど、ほんの少し...5分でいい休ませてくれ...
「...うーん、俺は左のほうが好きかな」
「じゃあこれも買いましょう...あらもう1時間も経ったんですね...時間が過ぎるのは早いですね」
「...そろそろ杖を買いに行くか?」
「いえ、まだですよ。次はメンズの服を探しましょう、私が貴方をコーディネートしてあげます」
忘れてた...けど楽しそうだからいいや、普段の有栖とは思えない程はしゃいでる。かわええのう...このロリっ子
有栖のショッピングを終えて次は俺の私服を買いに行くために別の洋服店へと足を運ぶ。...げ、Aクラスの人たちおるやん。俺は一瞬店に入るのを躊躇ったが有栖はそんな俺を気にせず店に入っていく。
「メンズの洋服をこうやって見るのは初めてですね...あ、神谷くんこれなんてどうです?」
「これ...俺に似合うのか?」
「はい!似合うと思いますよ。あ、これと...これもいいですね..それにこれと...あれも神谷くんに似合いそうですね、試着してみてください」
「え、これ全部試着するのか...」
こいつ...俺を着せ替え人形にして遊んでやがる...この小悪魔ロリっ子め。有栖が選んだ服はTシャツ、パーカー、チノパン、デニムなどもう私服全てが有栖の好みに染まってしまった...こんだけ種類があれば当分困らないけど、全部でいくらするんだろう...
有栖に服を選んで貰った服を買うと軽く2万ポイント近くが消えてしまった。10万もあるとはいっても無駄遣いするのは危険だからな...こんな、生活続けてたら金銭感覚が確実に狂っちまう。...勢いで全部買ったけど似合ってるんだよな?嘘じゃないよな?この小悪魔ロリっ子が俺を騙してないことを願う。
「時間もなくなってきたしそろそろ杖買いに行くか」
「そうですね...さあ行きましょう」
俺は杖が何処に売っているのかは知らないため逆に有栖にエスコートして貰う、なんか新鮮だ。...有栖が優秀なのは初日で把握しているし、この際だから学校のことを話しておくか。
「有栖はこの学校のことで気になってることはないか?」
有栖は相当頭が切れるため4日目の段階である程度気付いている可能性がある、それに俺は入学してから4日で入学式や授業中に寝る、遅刻、携帯弄るなど素行不良に見せるため様々なブラフをたてている。それにありがたいことに入学初日に先生に呼び出しを喰らったことにより良からぬ噂が流れている。パッと見真面目だけど裏があるとか、有栖は俺に騙されてるとか、誰も俺の過去を知らないため言いたい放題言われてる。だが、俺が今とるべき行動はこれが最適解な筈だ。頭の良さや身体能力の高さは普通に学校生活をしているとすぐにバレてしまうため、隠さずにいこう。流石に完璧過ぎると気持ち悪いと思われる可能性があるのでそのためのブラフだ。しかもブラフをたてると同時にこの学校のシステムを見抜くことができる、なんて素晴らしい作戦なんだ...
「そうですね...クラスの分け方、ポイントについて...気になっていることがあり過ぎますね。それと何より気になっているのは神谷くんが不良を演じてることについてですね」
「恥ずかしいから演じてるって言うなよ...」
やっぱり気付いてたか...
「学校のシステムを見抜くためにやっていたんでしょう?私からクラスのみんなに言っておきましょうか?」
「そうしてくれると有り難いかな...有栖はAクラスを率いるつもりなのか?」
俺から素朴な疑問を問い掛ける。有栖がクラスのリーダーを目指してるのは簡単に分かるが、その理由が検討もつかない。
「はい、なので入学式で急に寝たり授業中に携帯を弄るなど身勝手な行為は辞めてくださいね」
「すいません...」
杖を買いに行く途中で有栖と学校のことについて軽く会話をしてみて分かったことは、有栖も全く俺と同じ考えをしていた。正直ここまでとは思ってなかった...有栖は俺と違い授業の休み時間の合間に学校中を詮索していないので気づいてないこともあると思ったんだけど...と、雰囲気的にここかな?
「着きましたね、さあ入りましょう」
「おー、こんな店もあるのか...」
店内に入り軽く周りを見渡す。色んな種類の杖が揃っている、どれが優れている杖なのか全く分からん...
「....うーん、有栖に合いそうなのは..」
有栖が今使っている杖のようにシンプルなのが1番だろう。となると大事になってくるのは色合いか...坂柳有栖、有栖...アリス、見た目は中1くらのロリ...おとぎ話に出てきそうな可愛らしい少女...関連して思いついたのは不思議な国のアリス...この話はイギリスの数学者チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンがルイス・キャロルの筆名で書いた児童小説で1865年刊。内容は幼い少女アリスが白ウサギを追いかけて不思議な国に迷い込むという話。キャロルが知人の少女アリス・リデルのために即興でつくって聞かせた物語がもとになっており、キャロルはこの物語を手書きの本にして彼女にプレゼントする傍ら、知人たちの好評に後押しされて出版に踏み切ったと言われている...アリスは金髪、有栖は銀髪...銀に近い色の杖は...このグレーの杖か、だがアリスは純粋かも知れないが有栖は腹黒い、だから間をとってこの色にしよう...これが1番有栖に合う色な気がする...失礼なこと言ってる気がするけどまあいっか。
「...これはどうかな?」
「随分と悩んでいましたね...今更言うのもあれですが、この店に置いてあるのは全て私のために発注してくれた杖なので全てが私の好みですよ」
「そうなの!?結局何でも良かったのか...」
「いいえ、貴方が選んだことに意味があるのです。...では買ってくるので少し待っていてください」
「いや、俺が買う。服を選んでくれたお礼だ」
実際有栖が居なかったらとてつもなくダサい服を買っていたかもしれないし...デートなんだからプレゼントするよな。
「有難うございます...」
今更何で照れてんだよ...さて、本来の目的である杖を買い換えることが出来たしそろそろ寮に帰るか...だいぶ楽しめた。
「...そろそろ帰るか」
「そうですね...」
有栖よそんな悲しそうな顔しないでくれ...またデートしたいならいつでも付き合ってやるから...あれ、何か有栖に聞くべきことがまだあったような...あ!1番大事なやつ忘れてたわ...
「なあ有栖、1つ聞きたいことがあるんだけど」
「はい、なんでしょう?」
1番大事なこと、忘れてはいけないこと...
「俺について何処まで知ってる?」
何処まで知ってる、そう聞いたことには訳がある。もしあの時の違和感が俺の勘違いだった場合、ホワイトルームの存在を教えてしまうことになる。入学式で寝るフリをしながら大事な部分だけは聞いていた、そこで分かったことはこの学校の理事長の苗字が坂柳だった、もしかしたら有栖のお父さんの可能性がある。有栖のためだけに杖を発注するくらいだからその可能性は極めて高い。そうだった場合もし有栖がホワイトルームのことを理事長に報告したら...いや、失敗作である俺を連れ戻すくらいならあいつを連れ戻す筈だしこの学校にわさわざ追手を出すことはないよな...そう思いたい。
「ホワイトルーム...私が知っているのはこの程度ですね」
俺の全てを知ってんじゃねぇか...何者だこいつ、たしかに今改めて考えてみると不自然だよな。俺、小中学校行ってないから義務教育受けてないんだよな、そんな俺が何故この全国屈指の名門校に受かってるんだろう。ホワイトルームについては理事長も知ってるんだろうな...そういえば8年くらい前に外部から見学しに来た奴らが居たような...まさかそれが有栖なのか?それとも有栖もホワイトルームに...いやそれはない、4期生の顔は何となく覚えてるけど疾患持ちの少女は居なかったし。
「知っていることを教えてくれ...」
「いいですよ...その代わりに1つ条件があります」
条件...何だろう、有栖のことだから私の下僕になりなさいとか言いそう...
「これからの学校生活常に私の隣に居てください」
似たようなもんじゃねぇか...いやこれは告白...そんな訳ないか
「神谷くんなら既に気付いてるでしょうが私たちのクラスは間違えなく2つのグループに対立するでしょう」
「葛城のことか...」
葛城康平...入学初日に有栖に続いて自己紹介をする積極的な男、葛城も有栖と同様リーダーの素質がある。俺も葛城のことは少し気になっている、体育の授業や昼休みの過ごし方を見て気づいたことは有栖と正反対で考え方が保守的であることだ。考え方が違い互いにリーダーの素質を待つ...1週間程しか経っていないがこのクラスは3つのグループに分かれている。坂柳派、葛城派、そしてどちらにも属さない人たちだ。今のところ関係は良好だが日が経つごとに対立していくだろうな。
「葛城くんと対立した際に1番大事なのは神谷くんがどちらに味方をするかです。ホワイトルーム出身の貴方の能力は未だ未知数、なので貴方を手放したくはありません。...ですが、このリーダー争いに関しては貴方に頼らず自分の力のみでAクラスのリーダーになって見せます」
「有栖は何故そこまでしてリーダーになりたいんだ?」
「それはまだ教えられません...どうです?条件をのんでくれますか?」
俺にデメリットはない。
「...分かった条件をのもう、...さあ知っていることを教えてくれ」
「はい、私の知っていることはホワイトルームについて、設立者や教育方針...そして神谷くん、貴方について。私は8年程前に一度だけホワイトルームに足を運んだことがあります、その際にプロの講師とチェスをしていた神谷くんを目撃しました。当時の年齢であの腕前...今だからこそ分かります、貴方の恐ろしさが。私が知っていることはこれだけですね」
やはり、あの時の子は有栖だったのか...そして有栖は俺の実力を知っている。
「教えてくれてありがとう...それで有栖はどう動くんだ?」
「まずは私と仲良くしてくれる人たちのグループでポイントについて説明をします。その際に貴方のことも少し話しますね」
「ああ構わない。それでいつ説明をするんだ?」
「明日にでも皆さんに説明をしますよ」
さあお手並み拝見といこうか...
有栖とデートをした翌日の放課後、今俺たちはおしゃれなレストランの前に居る。こんな場所もあんのか...この学校の理事長はホワイトルームと関係があるのが確定したし。
「さあ皆さん中へ入りましょうか」
今ここに集まっている生徒の数は17名、人数的には葛城に勝っているけど、有栖に誘われたから来ただけの生徒も多そうだしやっぱりいい勝負してるねー、俺は言ってしまえば第3者だからな...この立場は結構楽しい。中に入るとイケメンが接客してる、バイトかな?時給いくらだろう?俺もバイトとやらをしてみたい。そして席に連れてかれる訳だけどやはり誰も俺の隣には座ろうとしない、噂が原因だろう。それを察してくれたのか事情を把握している有栖と神室が俺の隣に座ってくれる。有栖が一足先に神室に俺のことを説明してくれた。俺が神室から聞いた話によると入学早々に万引きしようとしたところが有栖にバレたらしくそれで脅されて協力関係になってるらしい。
「さて、取り敢えず何か頼みましょう」
皆の視線が痛い...前日デートしたことがクラス内で知れ渡っていて更に色んな噂が広まっている。俺が求めていた学校生活はこんなのじゃない...俺は皆から視線をそらすようにメニュー表に目を向ける。美味しそうだけど今はそんな気分じゃない、こんな視線向けられて呑気に飯なんか食えねぇよ...
「ねぇ、あんた何したらこんな噂流れんの?」
俺が気まずいことを察して神室が話しかけてくれる、何だよこの子...女神かな?愛想がないように見えて実は優しい、ツンデレだな。
「まあちょっと...有栖から話は聞いてるんだろ?」
「良い人としか言われてない...まだあんたのこと信用してないから」
おい、ちゃんと説明してくれよ...皆注文するものが決まったようなので先程の店員を呼び出す、大人数の注文をメモして厨房に連絡...仕事が早いですね。さて、どうしようかこの待ち時間...そろそろ頼むよと有栖に視線を送る、何笑ってんだよ...この状況を楽しんでやがる。
「さて、皆さん注文が終えたようなので私から少し話があります」
急に静まらないでくれ...そして俺を見ないでくれ。俺ってこんなメンタル弱かったっけ?こんな俺を放っておいて有栖は本題に入る。
「皆さんは入学した際に学校から10万プライベートポイント、金銭に換算して10万もの大金を手に入れました。この仕組み、おかしいと思いませんか?」
「おかしい...確かにそうだよな」
有栖の言葉に杉田が反応する、そういえばこいつは噂を気にせず俺に話しかけてくれるな...いい奴だな。
「真嶋先生は毎月の初めにプライベートポイントが振り込まれると言っていました。つまり1年を通して皆さんは合計で120万ポイントを手にします。それに現金ではなくポイントとして扱っている点も不自然です」
「確かに、何でポイントなんだろう?」
自己紹介の際に俺は教室に居なかったため名前は分からないけど中々の巨乳だな...それにしても有栖は話の進め方が上手いな。
「明らかに不自然な点がこの学校には多過ぎます。そして何故ポイントとして扱っているのか...これは私の推測ですが減点方式なのではないでしょうか?最高で10万ポイントそこから学校生活の態度によりポイントが変わっていく、それに学校の敷地内から外に出ることが出来ないのは直接監視下に置くことが出来るからだと私は思います」
「もしかして学校にいっぱいある監視カメラって...」
「はい、防犯という意味もあると思いますが、1番の理由はこれだと思います...そしてこの学校のシステムに逸早く気付き私に教えてくれた人が居ます...それが神谷くんです。神谷くんが遅刻や居眠りを故意にしていたのは全てこれが理由です、居眠りや遅刻をすると先生がメモを取っていたのも確認済みですのでこの推測は合っていると考えていいでしょう。...それに良くない噂が流れているようですが全てが嘘なので信じないようにしてください...私からの話はこれくらいですかね」
有栖の話が終わり皆は有栖のことをどう思ってるんだろうか...あと俺はどういう顔をすればいいんだ?ドヤ顔も違うよな、実際迷惑かけてるし、これは俺からも1つ言っておくべきか。
「えっと...そういう訳だから改めてよろしく頼む」
「お前よく気付いてたな...ごめんな、俺たちも噂に流されてよ」
「凄いよ!神谷くん、運動だけじゃなく頭もいいんだね!」
「神谷くんの誤解も解けたことですし、普通の生活をして1ヶ月後を待ちましょう」
みんなの俺を見る目が変わった...ようやくまともな学校生活を送ることができる...明日からは積極的に動くとするかまずは他のクラスの情報だな。
次回からは他のクラスの生徒も登場します!
不定期更新ですが何卒よろしくお願いします
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