「常識人内閣」は中国の脅威に対峙できるのか
「そういう考え方が戦争を招くのだ!常識的で理性的なリーダーでなければ本当の平和は訪れない」と反論をされる方も多いだろう。ただ国際政治にこのようなシビアな現実があるということは、我が国の安全保障の歴史を振り返っても明らかだ。
2010年9月、中国の漁船が領海侵犯をしたうえ、海上保安庁の巡視船と衝突した。これまで中国籍の船が日本の領海に入ってくることはあったが、ここまで攻撃的な姿勢は初めてのことで、日中関係の緊張は一気に高まった。
それから2カ月後の11月、ロシアのメドベージェフ大統領(当時)が国後島に上陸、さらに首相になってからも2012年7月にも再び島を訪れた。ロシアの首脳が北方四島を訪れたのははじめてのことだ。これに刺激を受けたのか、韓国の李明博大統領も竹島に上陸。こちらも韓国大統領としてはじめてのことだった。
なぜこのタイミングで、周辺国が相次いで日本の領土・領海に「侵攻」したのか。さまざまな理由が考えられるのが、ひとつには2009年9月に発足した民主党政権が挙げられる。
ご存じのように、民主党最初の首相となった「友愛」を掲げる鳩山由紀夫氏をはじめ、この党にはバイデン大統領と同じく「リベラル」的な政策を掲げている人が多かった。トランプ氏のように分断や対立をあおるようなことを言わず、国家間の対立は、国際社会と連携しながらしっかりと話し合って解決しましょう、という理性的な「常識人」の集まりだった。
それは裏を返せば、利害が衝突するような周辺国のリーダーからすれば、「次の一手」が読みやすい人々ということになる。領土・領海を侵犯したところで、どうせ「抗議」や「経済制裁」という常識的な報復しかしてこない、という結果が容易に想像できる相手だ。となれば、自国民のナショナリズムを満足させて、権力を磐石にするためにも、日本の領土・領海への「侵攻」するのは自然の流れだ。
現在、日本のリーダーである岸田文雄首相はマスコミから盛んに「いい人」と持ち上げられている。自民党のわりにはかなりリベラルで、バイデン大統領ともウマの合う、国際社会と連携する「常識人」として知られている。マッドマンのかけらもない。
一方、プーチンの侵攻がどのような結末を招くのか注意深く観察しているのが中国だ。今回のウクライナ侵攻は、他国に攻め入るには、アメリカにトランプのようなマッドマンがいない時に限るという真理を世界に知らしめた。となると、中国からすれば、常識人が大統領である2024年までに、台湾侵攻に踏み切った方がいいという結論にならないか。
果たして、その時日本の「常識人内閣」は中国の脅威に対峙できるのか。「岸田はどうせ経済制裁だと騒ぐだけだろ、ならばいっそ尖閣も」とさらに助長させないか。今回のウクライナ侵攻という悲劇を教訓に、しっかりと「国防」というものを考えたい。
(ノンフィクションライター 窪田順生)