はじめに
報道に使える情報は、当局者から入手するしかないのでしょうか?
そして調査報道といえば、とにかく「情報公開」なのでしょうか?
実は取材にとても役に立つデータがオープンになっているケースは、とてもたくさんあるのです。官庁から自治体、個人の情報まで、びっくりするような情報や取材の端緒が手に入ることもあります。情報の入手方法、利用方法は一つや二つではありません。CIAの分析官も、国税の調査官も、彼らの行っている「インテリジェンス」の第一歩は、データの入手・解析から始まります。
私はNHK時代、国税担当や国会担当が長く、当局や記者仲間から様々な手法を学ぶ機会に恵まれました。そして「公金」をテーマにした調査報道を、ライフワークとして手掛けてきました。その関係もあって、調査報道の講師を依頼されることが多く、NHK局内で10年以上にわたって行われている「調査報道研修」や、日本記者クラブの「土曜記者ゼミ」、そして私も運営会員を務めるNPO法人の「報道実務家フォーラム」のイベントで、オープンデータを使った講座などを開いてきました。講座の時間だけではテクニックを紹介しきれないので、「経済事件に使える手法」や、「公益法人の調べ方」「災害と調査報道」など、イベントによってテーマを決め、それに沿ったテクニックやツールに絞って紹介してきました。
今回、「調査報道の支援」をミッションとするSlowNewsに移籍したことで、より多くの記者や編集者、メディア関係者の皆さんに、手法をお伝えする機会をいただきました。この際、現在持っているテクニックやツールを、可能な限り公開しようと思っております。
まずは、なかなか取材手法を学ぶ機会がないとお嘆きの若手記者の皆さんや、時間も資金もないので手早く情報を収集できる方法が知りたいというフリージャーナリストの皆さん、そんな方のために、オンラインで「オープンデータ活用術」の講座をスタートしました。しかし「忙しくて参加できない」という声も多かったため、こちらでその内容をコンテンツ化していくことにしました。ウェビナーでは十分に説明できなかった内容も、どんどん盛り込んでいきます。手法を紹介するだけでなく、できるだけその手法を使った各社の優れた報道の紹介や、この報道はこの手法を使えばできるのではないか、などと、具体的な事例に挙げて説明していきたいと考えています。
主な内容として、「国や自治体」「企業や経済活動」「個人の情報」「NPOなど様々な法人」などに大別し、連載していきます。できるだけ情報公開制度などを使わなくても入手できるデータを中心に紹介します。
もちろん、取材に当たっては情報公開制度の利用も重要です。それについては私がここで改めて書くよりも、エキスパートであるわが盟友、毎日新聞社の日下部聡さんの「武器としての情報公開」を読んでいただければと。
このほか、政治資金の取材法については、いま別のエキスパートに執筆をお願いしようと考えています。
今後、毎週1回をめどに、金曜日に内容を更新・拡充していきたいと思っております。私自身も研究しながら手探りでやっていますので、「ツールのカタログ」だと思って気軽に試していただければと。よろしくお願いいたします。
2021年9月 熊田安伸