2019年11月07日
【意思決定】『確率思考 不確かな未来から利益を生みだす』アニー・デューク
確率思考 不確かな未来から利益を生みだす
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、昨日の「Kindleストア7周年記念セール」の前日ランキングの日経BP版で第3位につけていた「意思決定本」。著者が「元ポーカーのプロ選手」と聞いて、イロモノ扱いしていたのですが、中身は「科学的自己啓発書」の流れに沿う作品でした。
アマゾンの内容紹介から。
意思決定とは未来に対する賭けである。全米ベストセラー!ビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェット、バラク・オバマ、クリスティアーノ・ロナウド…超一流の成功者はみんな身につけている!ポーカーが教えてくれる「思考の技術」とは―。
何せ「Kindleストア7周年記念セール」自体が本日が最終日なので、本日中であればKindle版が実質600円以上、お買い得です!
Poker! / Viri G
【ポイント】
■1.後付け思考が引き起こす危険ここで、あなたが去年下した最善の決定を思い出してみよう。次に、最悪の決定を思い出してほしい。
おそらく、最善の決定として思い浮かべたもののあとには良い結果が続き、最悪の決定のあとには悪いことが起こったはずだ。
私がこれを断言できるのは、後付けは私たちにとって身近なものだからだ。結果についてあとからあれこれ言うのは簡単で、ライターやブロガーもそのようにして世間にお手軽に自分の分析を公表している。ポーカーを通じた私の経験から言えば、後付けは誰もが陥りがちな習慣的な思考パターンである。結果と決定の質を強く結びつけすぎると日々の意思決定に影響が出て、やがて広範囲にわたって破滅的な結果さえもたらしかねない。
私が企業の幹部にコンサルティングをするとき、最初のミーティングで、前年に下した決定のうち最善のものと最悪のものについて簡単に話してもらうことがある。そうするとこれまで一人残らず全員が、最善と最悪の意思決定ではなく最善と最悪の「結果」について話した。
■2.自信の度合いを数字で表してみる
自分の考えを表現する(他の人にでも、意思決定のために頭のなかで考えをめぐらすのでも)のに特別な能力はいらない。主観を示すだけでなく、その主観の正確さに対する自信の度合いを0から10の数字で表してみるのはどうだろうか? 0は主観が真実でないと確信している状態で、10は主観が正しいと確信している状態だ。0から10までの数字はそのままパーセントに変換できる。数字が3なら主観が正確であると30%信じており、9なら90%信じていることになる。そうすれば、「『市民ケーン』はアカデミー作品賞を獲得した」と言う代わりに、「『市民ケーン』はアカデミー作品賞を獲得したと思うが、自信度は6だ」とか「60%の自信で、『市民ケーン』がアカデミー作品賞を獲得したと思う」と言える。つまり、『市民ケーン』がアカデミー作品賞を獲得していないことへの自信の度合いは40%となる。主観に対する自分の自信を表現すれば、主観の確率的性質を冷静に見られるようになり、自分の考えが100%正しかったり間違っていたりすることはほぼありえず、たいていはその中間なのだと理解できる。
■3.自分と他人で立場を逆に考えてみる
また、賭け型の思考法によって大局的な見方も可能になるため、自分の結果と他人の結果に対するとらえ方の違いを最大限利用して客観的な真理に近づくこともできる。人は他人の成功を無視する一方で失敗は自業自得だと考える。他人の結果についてどの原因に賭けるべきか知るには、その結果が自分に起きたらと想像してみるといい。競合他社の営業員が大口の販売契約を取りつけたとき、私たちに相手のスキルを認めない傾向があることはもうわかっている。そこで、契約を取りつけたのが自分だと想像すれば、相手の能力を認め、その成功から学べる可能性が高まる。同様に、自分が大口の契約を取りつけた場合、自画自賛は少し置いておいて、その大成功が他の誰かのものだと仮定してじっくり考えてみよう。もっとうまくやれたはずの要素や、自分の能力とは関係のない要素を見つけ出せるかもしれない。大局的な視野を持てば真実に近づける。なぜなら、真実はたいてい私たちが自分の結果について出す結論と他人の結果について出す結論の中間にあるのだから。他者の視点に立って見てみることで、その中間地点に降り立てるかもしれない。
■4.結果が出る前に意思決定する
結果を知らなければ、グループは意思決定の質をより正確に評価することができる。このための最良の方法は、結果が出る前に意思決定を分析することだ。弁護士なら判決が出る前に裁判での戦略を分析すればいい。営業部なら契約を取る前に計画を分析しよう。トレーダーなら、ポジションを取る前やオプションの期限が来る前に投資プロセスを検証しよう。結果が出たあとに他者からアドバイスを求めるときには、結果を明かさずに説明する習慣をつけよう。ポーカーでは意思決定の直後に結果が出るため、そのあいだに自分で分析をするのは無理がある。そのため、プロのプレーヤーが他者に助言を求めるときは結果を明かさないことが多い。
■5.シナリオプランニングによって期待値を計算する
各助成金の期待値は単純なシナリオプランニングによって計算できる。申請が採択されるか却下されるかという二つの結果を想定し、それぞれが起こる確率を考えればいい。たとえば、25%の確率で採択される10万ドルの助成を申請した場合、その助成の期待値は2万5000ドル(10万ドル×0.25)である。10万ドルの助成金を得られる確率が4分の1なら、その助成金の価値は10万ドルではなく、10万を4で割った数値だ。10%の確率で採択される20万ドルの助成の期待値は2万ドルになる。5万ドルの助成申請の採択確率が70%ならその価値は3万5000ドルだ。このように確率的に考えなければ助成金の価値を決定することはできない。そうでないと、20万ドルの助成金の価値を額面どおりにとらえてしまい、5万ドルかもしれない実際の価値に気づけない。ASASは、不確実性が予算上の問題を引き起こしているとわかっていながら、予算計画に不確実性を組み入れることができていなかった。経験と勘だけで運営をしていたのだ。
私とのコンサルティング後、ASASは各助成金の受給可能性の見積もりを予算計画に取り入れた。
【感想】
◆冒頭でも触れたように、もしポーカーのエピソードがなければ、大学教授や博士が書いた「科学的自己啓発書」と言われても分からないレベルの作品でした。実際、著者のアニー・デューク女史は、「コロンビア大学で英文学と心理学専攻、ペンシルベニア大学で認知心理学の修士号を取得」しているそうですから、それも納得。
もっとも、「意思決定」と「運」の違いを何度も強調しているのは、運の要素のほぼない「チェス」ではなく、運も考慮せねばならない「ポーカー」の元プロゆえかもしれません。
たとえば上記ポイントの1番目では、「最善と最悪の意思決定」と「最善と最悪の『結果』」のお話が出てきますが、第1章の初っ端で登場するのが、2015年のスーパーボウルの試合終了寸前に起きたこのシーンです。
試合時間残り26秒で、4点をリードされていたシアトル・シーホークスは、セカンドダウンで敵のニューイングランド・ペイトリオッツのゴールラインにあと1ヤードという地点で、誰もが「ラン」を予想していたところ(ランニングバックがNFL最高峰レベルだったので)、ヘッドコーチのピート・キャロルは「パス」を選択。
ところが、このパスがインターセプトされたことで、試合に敗れます。
◆翌日のニュースの見出しは、ほぼすべて、このプレイの選択を痛烈に批判。
●フォックススポーツ・ドット・コム「スーパーボウル史上最悪の指示は、シアトル・シーホークスにとって終わりの始まりとなるか」どの専門家も、この選択を「疑いのない失策」と考えましたが、実は同じような状況でインターセプトされたケースは過去たった2%ほどしかありませんでした。
●シアトル・タイムズ紙「スーパーボウル史上最低の指示によりシーホークスが敗北」
●ザ・ニューヨーカー誌「スーパーボウルでヘッドコーチの痛恨
要は「意思決定」は正解だったものの、「運」がなかったということ。
逆に、パスが成功したら「素晴らしい指示」と言われたでしょうし、パスが失敗したとしても、次のプレイで「ラン」を選択していたら、その本当の「ラストプレイ」に注目が集まったでしょう。
なぜ そんなに 多くの人が、ピート・キャロルが そこまで 大きな間違いを犯したと それほど 強く信じたのか?つまり、決定の「質」と「結果」を同一視してしまったからこそ、このような批判が巻き起こったワケです。
一言でまとめればこうだ──そのプレーがうまくいかなかったからである。
◆結局、意思決定に「賭け」の要素が含まれる以上は、その不確実性を考慮し、それを受け入れなければなりません。
そこで本書の第2章で提案されているのが、上記ポイントの2番目の「自信の度合いを数字で表す」というTIPS。
自信が「ある」「ない」のオール・オア・ナッシングではなく、グレーゾーンをすべて自分のものとするメリットは計り知れないかと。
たとえば、主観に不確実性を取り入れれば思考が柔軟になり、自分の考えに反する情報も客観的に受け止められるようになります。
また、「私の自信は80%」と言うことで「はっきりはわからない」のだと伝えれば、相手もこちらの柔軟な態度を見て、遠慮なく知っていることを教えてくれるでしょう。
◆とはいえ、この「『主観』が間違っている」という事実は、自分だけではなかなか気が付かないもの。
たとえば、私たちが陥りやすいのが「自己奉仕バイアス」です。
自己奉仕バイアス - Wikipedia
成功を当人の内面的または個人的要因に帰属させ、失敗を制御不能な状況的要因に帰属させること。これが逆に相手のこととなると、上記ポイントの3番目にあるように、人は「他人の成功を無視する一方で失敗は自業自得だと考える」次第。
これを防ぐために推奨されているのが、このポイントの3番目で挙げられている「自分と他人を逆にする」考え方です。
ここにある「真実はたいてい私たちが自分の結果について出す結論と他人の結果について出す結論の中間にある」という指摘は、なかなか深いのではないか、と。
◆また、上記ポイントの4番目の「結果が出る前に意思決定する」というTIPSは、本書の第5章から抜き出したもの。
著者のデューク女史は、これが当たり前になっているため、初心者向けにポーカーのセミナーで、過去の自分のプレーを挙げて説明するとき、話すのは意思決定の時点までにして勝敗の結果には触れなかったのだそうです。
すると「セミナーで説明を終えたとき、部屋いっぱいの受講生からまるで崖っぷちに置き去りにされたかのような顔」で見つめられ、終わってから「その結果はどうなったのですか?」と問い詰められたりしたのだとか。
……そりゃどうなったかの結果は知りたいですよね、普通。
さらに、最後の第6章では、上記ポイントの5番目の「シナリオプランニング」という手法が紹介されているのですが、これぞまさに、本書のタイトルである「確率思考」そのものです。
そういえば以前読んだ、村上世彰さんの本でも、「投資は『期待値』で判断する」と題して、同じような考え方が触れられていましたっけ(この本、今なら「50%ポイント還元」ですね)。
参考記事:【投資家必読!】『生涯投資家』村上世彰(2017年11月04日)
また、同じこの第6章では、「未来の成功がすでに起こったと仮定してその時点から振り返って考える」という「バックキャスティング」や、未来の失敗からその原因を探る「事前検死」という方法も紹介されています。
特に後者については、この本に詳しいので、気になる方はご確認ください(こちらも本書同様、本日限りで「50%OFF」です)。
先にしくじる 絶対に失敗できない仕事で成果を出す最強の仕事術
参考記事:【事前検死?】『先にしくじる 絶対に失敗できない仕事で成果を出す最強の仕事術』山崎裕二(2018年12月09日)
すぐれた「意思決定本」として、オススメせざるを得ません!
確率思考 不確かな未来から利益を生みだす
はじめに――本書がポーカー攻略本ではない理由
第1章 人生はチェスではなく、ポーカーだ
第2章 じゃあ、賭けてみる?
第3章 賭けから学ぶ――どんな結果も上手に処理する
第4章 仲間をつくる
第5章 反対意見を味方に
第6章 心のタイムトラベル
【関連記事】
【事前検死?】『先にしくじる 絶対に失敗できない仕事で成果を出す最強の仕事術』山崎裕二(2018年12月09日)【オススメ!】『習慣の力 The Power of Habit』チャールズ・デュヒッグ(2013年04月26日)
【意思決定】「まさか!?―自信がある人ほど陥る意思決定8つの罠」マイケル・J・モーブッサン(2010年04月16日)
【5つのツボ】「10-10-10人生に迷ったら、3つのスパンで決めなさい! 」スージー・ウェルチ(2010年01月26日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。どんな悩みも5分で解決! 人生が変わる! 問題解決の質問術 ~あなたを導くパペット・コミュニケーション~
オンデマンドで書かれた質問術本は、146ページと薄めなので、定価の1760円が微妙に高いのですが、中古がないため、Kindle版が1400円以上お得。
やりがち英語ミスこっそりチェック帳 アルク・ライブラリーシリーズ
レビュー平均「4.5」の英語学習本は、中古は値崩れしていますが、送料を踏まえるとKindle版に軍配が上がります。
ご声援ありがとうございました!
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