平成24年7月23日
初等中等教育分科会
(1)共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築
(2)インクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進
(3)共生社会の形成に向けた今後の進め方
(1)早期からの教育相談・支援
(2)就学先決定の仕組み
(3)一貫した支援の仕組み
(4)就学相談・就学先決定に係る国・都道府県教育委員会の役割
(1)「合理的配慮」について
(2)「基礎的環境整備」について
(3)学校における「合理的配慮」の観点
(4)「合理的配慮」の充実
(1)多様な学びの場の整備と教職員の確保
(2)学校間連携の推進
(3)交流及び共同学習の推進
(4)関係機関等の連携
(1)教職員の専門性の確保
(2)各教職員の専門性、養成・研修制度等の在り方
(3)教職員への障害のある者の採用・人事配置
○1 障害者の権利に関する条約が、平成18年12月、第61回国連総会において採択され、平成20年5月に発効した。我が国は平成19年9月に同条約に署名し、現在批准に向けた検討を進めているところである。平成21年12月には、内閣総理大臣を本部長とし、文部科学大臣も含め全閣僚で構成される「障がい者制度改革推進本部」が設置され、当面5年間を障害者制度改革の集中期間と位置付け、改革の推進に関する総合調整、改革推進の基本的な方針の案の作成及び推進に関する検討等を行うこととされている。同本部の下に、障害者施策の推進に関する事項について意見を求めるために「障がい者制度改革推進会議」が設置され、平成22年6月7日、同会議による第一次意見が取りまとめられた。
○2 上記第一次意見を踏まえた平成22年6月29日の閣議決定において、各個別分野については、事項ごとに関係府省において検討することとされ、教育分野については、以下の2点が示された。
○3 このような中、平成22年7月12日に、文部科学省より中央教育審議会初等中等教育分科会に対し審議要請があり、同分科会の下に、本特別委員会が設置された。本特別委員会においては、平成20年8月に文部科学省に設置された「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」及び「障がい者制度改革推進会議」における検討を議論の基礎として、平成22年12月には「論点整理」として審議の中間取りまとめを行った。「論点整理」の取りまとめ後、広く意見募集を行い、幅広く国民各位からの意見を参考としつつ、更に審議を深めた。
○4 その間、「障がい者制度改革推進会議」においては第二次意見が取りまとめられ、同意見や本特別委員会の論点整理を踏まえ、平成23年8月に障害者基本法が改正され、教育については、第16条において、以下のように改正されたところである。
(教育)
第十六条 国及び地方公共団体は、障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない。
2 国及び地方公共団体は、前項の目的を達成するため、障害者である児童及び生徒並びにその保護者に対し十分な情報の提供を行うとともに、可能な限りその意向を尊重しなければならない。
3 国及び地方公共団体は、障害者である児童及び生徒と障害者でない児童及び生徒との交流及び共同学習を積極的に進めることによつて、その相互理解を促進しなければならない。
4 国及び地方公共団体は、障害者の教育に関し、調査及び研究並びに人材の確保及び資質の向上、適切な教材等の提供、学校施設の整備その他の環境の整備を促進しなければならない。
(参考資料1:障害者基本法(抄))
○5 一方、本特別委員会においては、平成23年5月より「合理的配慮等環境整備ワーキンググループ」を設置し、8回にわたる検討を行い、平成24年2月に同ワーキンググループとしての報告をまとめた。
○6 今回、これらを踏まえて、本特別委員会におけるこれまでの検討について、本報告を取りまとめた。今後、本報告を踏まえ、共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育が着実に推進されることで、障害のある子どもにも、障害があることが周囲から認識されていないものの学習上又は生活上の困難のある子どもにも、更にはすべての子どもにとっても、良い効果をもたらすことを強く期待する。
○7 なお、現在、政府全体としては、障害を理由とする差別の禁止に関する法制の制定について議論が行われるなど障害者制度改革が引き続き進められているところであり、今後、文部科学省においても、本報告を踏まえつつ、他府省の施策と連携して進めていく必要がある。
○「共生社会」とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会である。それは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会である。このような社会を目指すことは、我が国において最も積極的に取り組むべき重要な課題である。 ○障害者の権利に関する条約第24条によれば、「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、署名時仮訳:包容する教育制度)とは、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり、障害のある者が「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な「合理的配慮」が提供される等が必要とされている。 ○共生社会の形成に向けて、障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの理念が重要であり、その構築のため、特別支援教育を着実に進めていく必要があると考える。 ○インクルーシブ教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である。小・中学校における通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」を用意しておくことが必要である。 ○特別支援教育は、共生社会の形成に向けて、インクルーシブ教育システム構築のために必要不可欠なものである。そのため、以下の○1から○3までの考え方に基づき、特別支援教育を発展させていくことが必要である。このような形で特別支援教育を推進していくことは、子ども一人一人の教育的ニーズを把握し、適切な指導及び必要な支援を行うものであり、この観点から教育を進めていくことにより、障害のある子どもにも、障害があることが周囲から認識されていないものの学習上又は生活上の困難のある子どもにも、更にはすべての子どもにとっても、良い効果をもたらすことができるものと考えられる。 ○1 障害のある子どもが、その能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し社会参加することができるよう、医療、保健、福祉、労働等との連携を強化し、社会全体の様々な機能を活用して、十分な教育が受けられるよう、障害のある子どもの教育の充実を図ることが重要である。 ○2 障害のある子どもが、地域社会の中で積極的に活動し、その一員として豊かに生きることができるよう、地域の同世代の子どもや人々の交流等を通して、地域での生活基盤を形成することが求められている。このため、可能な限り共に学ぶことができるよう配慮することが重要である。 ○3 特別支援教育に関連して、障害者理解を推進することにより、周囲の人々が、障害のある人や子どもと共に学び合い生きる中で、公平性を確保しつつ社会の構成員としての基礎を作っていくことが重要である。次代を担う子どもに対し、学校において、これを率先して進めていくことは、インクルーシブな社会の構築につながる。 ○基本的な方向性としては、障害のある子どもと障害のない子どもが、できるだけ同じ場で共に学ぶことを目指すべきである。その場合には、それぞれの子どもが、授業内容が分かり学習活動に参加している実感・達成感を持ちながら、充実した時間を過ごしつつ、生きる力を身に付けていけるかどうか、これが最も本質的な視点であり、そのための環境整備が必要である。 ○今後の進め方については、施策を短期(「障害者の権利に関する条約」批准まで)と中長期(同条約批准後の10年間程度)に整理した上で、段階的に実施していく必要がある。 短期:就学相談・就学先決定の在り方に係る制度改革の実施、教職員の研修等の充実、当面必要な環境整備の実施。「合理的配慮」の充実のための取組。それらに必要な財源を確保して順次実施。 中長期:短期の施策の進捗状況を踏まえ、追加的な環境整備や教職員の専門性向上のための方策を検討していく。最終的には、条約の理念が目指す共生社会の形成に向けてインクルーシブ教育システムを構築していくことを目指す。 |
○「共生社会」とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会である。それは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会である。このような社会を目指すことは、我が国において最も積極的に取り組むべき重要な課題である。
○学校教育は、障害のある幼児児童生徒の自立と社会参加を目指した取組を含め、「共生社会」の形成に向けて、重要な役割を果たすことが求められている。その意味で、共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築のための特別支援教育の推進についての基本的考え方が、学校教育関係者をはじめとして国民全体に共有されることを目指すべきである。
○障害者の権利に関する条約第24条によれば、「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、署名時仮訳:包容する教育制度)とは、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり、障害のある者が「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な「合理的配慮」が提供される等が必要とされている。(参考資料2:障害者の権利に関する条約(抄)、参考資料3:general education system(教育制度一般)の解釈について)
○共生社会の形成に向けて、障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの理念が重要であり、その構築のため、特別支援教育を着実に進めていく必要があると考える。
○インクルーシブ教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である。小・中学校における通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」を用意しておくことが必要である。(参考資料4:日本の義務教育段階の多様な学びの場の連続性)
○インクルーシブ教育システムの構築については、諸外国においても、それぞれの課題を抱えながら、制度設計の努力をしているという実情がある。各国とも、インクルーシブ教育システムの構築の理念に基づきながら、漸進的に対応してきており、日本も同様である。教育制度には違いはあるが、各国ともインクルーシブ教育システムに向かうという基本的な方向性は同じである。(参考資料5:諸外国におけるインクルーシブ教育システムの構築状況)
○障害者の権利に関する条約第8条には、障害者に関する社会全体の意識を向上させる必要性が示され、教育制度のすべての段階において障害者の権利を尊重する態度を育成することが規定されている。こうした規定を踏まえれば、学校教育において、障害のある人と障害のない人が触れ合い、交流していくという機会を増やしていくことが、特に重要であり、障害のある人と触れ合うことは、共生社会の形成に向けて望ましい経験となる。(参考資料2:障害者の権利に関する条約(抄))
○特別な指導を受けている児童生徒の割合を比べてみると、英国が約20%(障害以外の学習困難を含む)、米国は約10%となっており、これに対して、日本は、特別支援学校、特別支援学級、通級による指導を受けている児童生徒を合わせても約3%に過ぎない。これは、特別な教育支援を必要とする児童生徒の多くは通常の学級で学んでおり、これらの児童生徒への対応が早急に求められていると考える。そこで、今後、実態把握を行い、それを踏まえた効果的な支援を一層推進していくことが必要である。また、日本の義務教育段階での就学率は極めて高く、障害を理由として就学免除・猶予を受けている者がほとんどいない点について高く評価すべきである。(参考資料6:日、英、米の特別支援教育として特別な指導を受けている児童生徒の割合)
○平成17年12月の中央教育審議会答申「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」においては、「特別支援教育の理念と基本的考え方」が以下のように述べられている。
○このように、同答申においては、特殊教育から特別支援教育へ発展させ、発達障害のある幼児児童生徒を支援の対象とする方向性が示されるとともに、我が国が目指すべき社会の方向性が示された。同答申に基づき、平成18年6月に学校教育法が改正され、特別支援教育は、平成19年度から本格的に開始されたところであり、これにより、障害のある幼児児童生徒の教育の基本的な考え方について、特別な場で教育を行う「特殊教育」から、一人一人のニーズに応じた適切な指導及び必要な支援を行う「特別支援教育」に発展的に転換したと言える。(参考資料7:特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)概要)
○現在、日本においては、義務教育段階で、特別支援学校に在籍している児童生徒は約65,000人で全体の0.6%程度、特別支援学級に在籍している児童生徒は約155,000人で全体の1.5%程度、通級による指導を受けている児童生徒は約65,000人で全体の0.6%程度となっている。また、小・中学校には、就学基準に該当する児童生徒が、特別支援学級で約17,000人、通常の学級で約3,000人在籍している。さらに、通常の学級には、LD、ADHD、高機能自閉症等の発達障害の可能性のある児童生徒が6.3%程度在籍していると考えられる。(参考資料8:特別支援教育の現状)
○特別支援教育は、共生社会の形成に向けて、インクルーシブ教育システム構築のために必要不可欠なものである。そのため、以下の考え方に基づき、特別支援教育を発展させていくことが必要である。このような形で特別支援教育を推進していくことは、子ども一人一人の教育的ニーズを把握し、適切な指導及び必要な支援を行うものであり、この観点から教育を進めていくことにより、障害のある子どもにも、障害があることが周囲から認識されていないものの学習上又は生活上の困難のある子どもにも、更にはすべての子どもにとっても、良い効果をもたらすことができるものと考えられる。
○我が国においては、これまで、「障害の種類及び程度」に応じて学びの場を整備してきた。これは、医学や科学技術の進歩等に応じて見直されてきている。平成14年には、就学基準の見直しが行われ、それとともに、医学的な診断に基づいて就学先を定めることだけではなく、小学校等の教育環境等を考慮し、就学基準に該当する障害のある子どもであっても認定就学者(*1)として小学校等に就学ができるよう、就学手続の見直しが行われた。平成18年には、通級による指導の対象に、学習障害者及び注意欠陥多動性障害者を加えるとともに、それまでの情緒障害者についても、自閉症者、情緒障害者と整理した。また、平成21年には、情緒障害学級の名称を自閉症・情緒障害学級と改めた。(参考資料9:これまでの制度改正の状況、参考資料10:通常の学級に在籍する学校教育法施行令第22条の3に該当する特別な教育的支援を必要とする児童生徒の数等に関する実態調査の結果について)
(*1)就学基準に該当する障害のある子どもについて、市町村教育委員会が、その者の障害の状態に照らして、小学校又は中学校において適切な教育を行うことができる特別の事情があると認める者。
○平成19年度から特別支援教育が本格的に開始されて以来、各教育委員会や各学校における特別支援教育の体制整備は一定程度進みつつあるが、共生社会の形成、インクルーシブ教育システムの構築という観点からは、これらの取組は今後更に時間をかけて進めるべきものであり、特別支援教育の更なる質的な充実を図るためには、なお多くの課題がある。これらは、平成22年3月に取りまとめられた、「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」の審議経過報告においても、以下のとおり整理されているところである。
(ア)特別支援学校における現状と課題
(イ)早期からの教育支援、就学相談・指導
(*2)障害のある幼児児童生徒一人一人のニーズを正確に把握し、教育の視点から適切に対応していくという考え方の下に、医療、保健、福祉、労働等の関係機関との連携を図りつつ、乳幼児期から学校卒業後までの長期的視点に立って、一貫して的確な教育的支援を行うために、障害のある幼児児童生徒一人一人について作成した支援計画。
(ウ)小・中学校における特別支援教育の現状と課題
(*3)幼児児童生徒一人一人の障害の状態等に応じたきめ細かい指導が行えるよう、学校における教育課程や指導計画、当該幼児児童生徒の個別の教育支援計画等を踏まえて、より具体的に幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して、指導目標や指導内容・方法等を盛り込んだ指導計画。
(エ)高等学校における特別支援教育
(オ)教員の特別支援教育に関する専門性の現状と課題
(カ)学校外の人材や関係機関、民間団体等との連携協力
○基本的な方向性としては、障害のある子どもと障害のない子どもが、できるだけ同じ場で共に学ぶことを目指すべきである。その場合には、それぞれの子どもが、授業内容が分かり学習活動に参加している実感・達成感を持ちながら、充実した時間を過ごしつつ、生きる力を身に付けていけるかどうか、これが最も本質的な視点であり、そのための環境整備が必要である。
○共に学ぶことを進めることにより、生命尊重、思いやりや協力の態度などを育む道徳教育の充実が図られるとともに、同じ社会に生きる人間として、互いに正しく理解し、共に助け合い、支え合って生きていくことの大切さを学ぶなど、個人の価値を尊重する態度や自他の敬愛と協力を重んずる態度を養うことが期待できる。
○障害のある子どもにとっても、障害のない子どもにとっても、障害に対する適切な知識を得る機会を提供するとともに、バランスのとれた自己理解、達成感の積み重ねから得られる自己肯定感、自己の感情等の管理する方法を身に付けつつ、他者理解を深めていくことが適当であり、子どもの多様性を踏まえた学級づくりや学校づくりが望まれる。
○個々の子どもの障害の状態や教育的ニーズ、学校や地域の実情等を十分に考慮することなく、すべての子どもに対して同じ場での教育を行おうとすることは、同じ場で学ぶという意味では平等であるが、実際に学習活動に参加できていなければ、子どもには、健全な発達や適切な教育のための機会を平等に与えることにはならず、そのことが、将来、その子どもが社会参加することを難しくする可能性がある。財源負担も含めた国民的合意を図りながら、大きな枠組みを改善する中で、「共に育ち、共に学ぶ」体制を求めていくべきである。(参考資料11:OECD各国との初等中等教育段階における一学級当たり児童生徒数及び公財政支出の比較)
○障害のある子どもが、多様な子どもの中で共に学び、社会で生きる力を身に付けることと同時に、同じ障害のある子ども同士が共に学ぶことにより、それぞれの障害固有のコミュニケーション能力を高めるなどして、相互理解を深めていくことも重要である。学校教育の場でも学校教育以外の場でも、それらの機会を提供していくことが重要である。
○共生社会の形成のためには、障害のある者が、どれだけ社会に参加・貢献できるかということが問われる。インクルーシブ教育システムの推進に当たっては、普段から地域に障害のある人がいるということが認知され、障害のある人と地域住民や保護者との相互理解が得られていることも重要であり、また、学校のみならず地域の様々な場面において、どう生活上の支援を行っていくかという観点も必要である。学校運営協議会制度(コミュニティ・スクール)や学校支援地域本部など、地域と連携した学校づくりを進めるに際しても、各学校は、障害のある子どもへの対応も念頭に置き、地域の理解と協力を得ながら連携して取り組んでいく必要がある。また、特別支援学校に在籍する子どもについて、一部の自治体で実施されている居住地校に副次的な籍を置く取組については、居住地域との結び付きを強めるために意義がある。(参考資料12:コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)について、参考資料13:学校・家庭・地域の連携による教育支援活動促進事業)
○共生社会の形成に当たっては、上記のように学校を中核としたコミュニティづくりを進めることに加えて、保護者、親の会等の障害者関係団体、NPO、ボランティア等を巻き込んだ地域の力で、地域において「共に生きる」ことを推進していくことが重要である。
○地域の実情(交通アクセス、医療や福祉サービスが充実している都市部、その対極的な地域など)は様々であるが、国における制度設計は、どの地域の学校においても等しく達成されるべきもの(ナショナルミニマム)は何であるかという点に留意して行わなければならない。また、それを踏まえた上で、地域の状況に応じた柔軟な選択肢があっても良い。
○今後の進め方については、施策を短期(「障害者の権利に関する条約」批准まで)と中長期(同条約批准後の10年間程度)に整理した上で、段階的に実施していく必要がある。短期的には、就学相談・就学先決定の在り方に係る制度改革の実施、教職員の研修等の充実、当面必要な環境整備の実施を図るとともに、「合理的配慮」の充実のための取組が必要であり、それらに必要な財源を確保して順次実施していく。また、中長期的には、短期の施策の進捗状況を踏まえ、追加的な環境整備や教職員の専門性向上のための方策を検討していく必要がある。最終的には、条約の理念が目指す共生社会の形成に向けてインクルーシブ教育システムを構築していくことを目指す。
○国においては、共生社会の形成に向けた国民の共通理解を一層進め、社会的な機運を醸成していくことが必要である。学校教育においても、共生社会の形成に向けた理解の促進を図る教育の一層の充実を図っていく必要がある。また、財政的な措置を図る観点を含め、インクルーシブ教育システム構築のために、国としての施策の優先順位を上げる必要がある。
○インクルーシブ教育システム構築に当たっては、上記の施策を推進していくと同時に、前述(2)○2の「インクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」を踏まえた評価・検証を行いながら進めていく必要がある。また、各学校においても、特別支援教育の体制充実のための組織強化を図る学校経営を行うとともに、その評価を検討していく必要がある。例えば、各学校においては、学校評価の項目にインクルーシブ教育システム構築に向けた取組を盛り込むことが考えられる。また、国において行われている特別支援教育体制整備状況調査の項目をそのような観点から見直すことが考えられる。
○子ども一人一人の教育的ニーズに応じた支援を保障するためには、乳幼児期を含め早期からの教育相談や就学相談を行うことにより、本人・保護者に十分な情報を提供するとともに、幼稚園等において、保護者を含め関係者が教育的ニーズと必要な支援について共通理解を深めることにより、保護者の障害受容につなげ、その後の円滑な支援にもつなげていくことが重要である。また、本人・保護者と市町村教育委員会、学校等が、教育的ニーズと必要な支援について合意形成を図っていくことが重要である。 ○乳児期から幼児期にかけて、子どもが専門的な教育相談・支援が受けられる体制を医療、保健、福祉等との連携の下に早急に確立することが必要であり、それにより、高い教育効果が期待できる。 ○就学基準に該当する障害のある子どもは特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとすることが適当である。その際、市町村教育委員会が、本人・保護者に対し十分情報提供をしつつ、本人・保護者の意見を最大限尊重し、本人・保護者と市町村教育委員会、学校等が教育的ニーズと必要な支援について合意形成を行うことを原則とし、最終的には市町村教育委員会が決定することが適当である。 ○現在、多くの市町村教育委員会に設置されている「就学指導委員会」については、早期からの教育相談・支援や就学先決定時のみならず、その後の一貫した支援についても助言を行うという観点から、「教育支援委員会」(仮称)といった名称とすることが適当である。「教育支援委員会」(仮称)については、機能を拡充し、一貫した支援を目指す上で重要な役割を果たすことが期待される。 ○就学時に決定した「学びの場」は固定したものではなく、それぞれの児童生徒の発達の程度、適応の状況等を勘案しながら柔軟に転学ができることを、すべての関係者の共通理解とすることが重要である。 ○就学相談の初期の段階で、就学先決定についての手続の流れや就学先決定後も柔軟に転学できることなどについて、本人・保護者にあらかじめ説明を行うことが必要である(就学に関するガイダンス)。 ○本人・保護者と市町村教育委員会、学校等の意見が一致しない場合については、例えば、本人・保護者の要望を受けた市町村教育委員会からの依頼に基づき、都道府県教育委員会が、市町村教育委員会への指導・助言の一環として、都道府県教育委員会の「教育支援委員会」(仮称)に第三者的な有識者を加えて活用することも考えられる。 ○可能な限り早期から成人に至るまでの一貫した指導・支援ができるように、子どもの成長記録や指導内容等に関する情報を、その扱いに留意しつつ、必要に応じて関係機関が共有し活用することが必要である。 ○都道府県教育委員会の就学先決定に関わる相談・助言機能を強化する必要がある。 ○就学相談については、それぞれの自治体の努力に任せるだけでは限界があることから、国において、何らかのモデル的な取組を示すとともに、具体例の共有化を進めることが必要である。 |
○子ども一人一人の教育的ニーズに応じた支援を保障するためには、乳幼児期を含め早期からの教育相談や就学相談を行うことにより、本人・保護者に十分な情報を提供するとともに、幼稚園等において、保護者を含め関係者が教育的ニーズと必要な支援について共通理解を深めることにより、保護者の障害受容につなげ、その後の円滑な支援にもつなげていくことが重要である。また、本人・保護者と市町村教育委員会、学校等が、教育的ニーズと必要な支援について合意形成を図っていくことが重要である。そのためには、早期からの教育相談・支援を踏まえて、市町村教育委員会が、保護者や専門家の協力を得つつ個別の教育支援計画を作成するとともに、それを適切に活用していくことが重要である。その際、子どもの教育的ニーズや困難に対応した支援という観点から作成することが必要である。(参考資料14:特別支援教育の推進について(通知))
○早期からの教育相談には、子どもの障害の受容に関わる保護者への支援、保護者が障害のある子どもとの関わり方を学ぶことにより良好な親子関係を形成するための支援、乳幼児の発達を促すような関わり方についての支援、障害による困難の改善に関する保護者の理解への支援、特別支援教育に関する情報提供等の意義があり、教育委員会においても、障害のある子どもを育てている保護者に対する支援に積極的に取り組む必要がある。また、早期からの教育相談を行うに当たっては、多くの保護者は、我が子の障害に戸惑いを感じ、就学先の決定に対しても不安を抱いている時期であることから、そのような保護者の気持ちを十分にくみ取り、保護者にとって身近な利用しやすい場所で、安心して相談を受けられるよう工夫するなど、保護者の気持ちを大切にした教育相談を行うことが重要である。
○乳児期から幼児期にかけて、子どもが専門的な教育相談・支援が受けられる体制を医療、保健、福祉等との連携の下に早急に確立することが必要であり、それにより、高い教育効果が期待できる。特に、視覚障害や聴覚障害の場合には、同じ障害のある一定規模の学習集団があることが重要であり、視覚障害者や聴覚障害者を対象とした特別支援学校においては、乳幼児期からの相談体制や支援体制を更に充実さ せることが必要である。また、それ以外の障害種についても早期支援が重要である。(*4)
(*4)平成24年3月、幼稚園及び保育所の機能を兼ね備え、学校教育・保育及び家庭における養育支援を一体的に提出する総合こども園の創設を含む子ども・子育て新システム関連法案が国会に提出されたところであり、今後、子ども・子育て新システムの下での特別支援教育の在り方についても留意する必要がある。
○市町村教育委員会は、域内の学校と幼稚園、保育所等との連携を図るとともに、医療や福祉等の関係部局と十分に連携し、例えば乳幼児検診の結果を必要に応じて共有するなど、必要な教育相談・支援体制を構築することが必要である。また、近隣の特別支援学校、都道府県の特別支援教育センター(都道府県の教育センター特別支援教育担当部門や市町村の教育センターを含む。)等の地域の資源の活用を十分図り、相談・支援体制の充実に努めることが必要である。
○平成24年4月から施行された改正児童福祉法により、障害児支援事業者は、障害児支援利用計画(福祉サービスを中心に支援計画全体をまとめたもの)や個別支援計画(各福祉サービスにおける支援計画)を作成し、取り組むこととなった。これらは、保護者と共有されるものであり、これらの計画を教育分野においても情報共有していくことで、早期からの教育相談・支援の充実や一貫した支援が行われることが期待される。
○乳幼児健診と就学前の療育・相談との連携、子ども家庭支援ネットワークを中心とした事業や幼稚園、保育所等と小学校の連携を図る事業など、教育委員会と首長部局とが連携した、子どもの発達支援や子育て支援の施策が行われることで、支援の担い手を多層的にするとともに、連携のキーパーソンとなる職員として複数の職員を配置するなど、教育と福祉が互いに顔の見える連携を実現し、担当者同士の信頼関係を構築することが重要である。(参考資料15:早期からの教育相談・支援に関する自治体の取組例)
○就学基準に該当する障害のある子どもは特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとすることが適当である。その際、市町村教育委員会が、本人・保護者に対し十分情報提供をしつつ、本人・保護者の意見を最大限尊重し、本人・保護者と市町村教育委員会、学校等が教育的ニーズと必要な支援について合意形成を行うことを原則とし、最終的には市町村教育委員会が決定することが適当である。保護者や市町村教育委員会は、それぞれの役割と責任をきちんと果たしていく必要がある。このような仕組みに変えていくため、速やかに関係する法令改正等を行い、体制を整備していくべきである。なお、就学先を決定する際には、後述する「合理的配慮」についても合意形成を図ることが望ましい。(参考資料16:障害のある児童生徒の就学先決定について(手続きの流れ))
○現在、多くの市町村教育委員会に設置されている「就学指導委員会」については、早期からの教育相談・支援や就学先決定時のみならず、その後の一貫した支援についても助言を行うという観点から、「教育支援委員会」(仮称)といった名称とすることが適当である。「教育支援委員会」(仮称)については、以下のように機能を拡充し、一貫した支援を目指す上で重要な役割を果たすことが期待される。
(ア)障害のある子どもの状態を早期から把握する観点から、教育相談との連携により、障害のある子どもの情報を継続的に把握すること。
(イ)就学移行期においては、教育委員会と連携し、本人・保護者に対する情報提供を行うこと。
(ウ)教育的ニーズと必要な支援について整理し、個別の教育支援計画の作成について助言を行うこと。
(エ)市町村教育委員会による就学先決定に際し、事前に総合的な判断のための助言を行うこと。
(オ)就学先の学校に対して適切な情報提供を行うこと。
(カ)就学後についても、必要に応じ「学びの場」の変更等について助言を行うこと。
(キ)後述する「合理的配慮」の提供の妥当性についての評価や、「合理的配慮」に関し、本人・保護者、設置者・学校の意見が一致しない場合の調整について助言を行うこと。
○「教育支援委員会」(仮称)においては、教育学、医学、心理学等の専門家の意見を聴取することに加え、本人・保護者の意向を聴取することが必要である。特に、障害者基本法の改正により、本人・保護者の意向を可能な限り尊重することが求められていることに留意する必要がある。また、教育においては、それぞれの発達の段階において言語の果たすべき役割が大きいとの指摘もあることから、必要に応じて、委員会の専門家に言語発達に知見を有する者を加えることなども考えられる。必要に応じ、各教育委員会が関係者のための研修会を行うことなども考えられる。
○就学時に決定した「学びの場」は、固定したものではなく、それぞれの児童生徒の発達の程度、適応の状況等を勘案しながら、柔軟に転学ができることを、すべての関係者の共通理解とすることが重要である。そのためには、教育相談や個別の教育支援計画に基づく関係者による会議などを定期的に行い、必要に応じて個別の教育支援計画及び就学先を変更できるようにしていくことが適当である。この場合、特別支援学校は都道府県教育委員会に設置義務があり、小・中学校は市町村教育委員会に設置義務があることから、密接に連携を図りつつ、同じ場で共に学ぶことを追求するという姿勢で対応することが重要である。その際、必要に応じ、「教育支援委員会」(仮称)の助言を得ることも考えられる。
○就学相談の初期の段階で、就学先決定についての手続の流れや就学先決定後も柔軟に転学できることなどについて、本人・保護者にあらかじめ説明を行うことが必要である(就学に関するガイダンス)。このことは、就学後に学校で適切な対応ができなかったことによる二次的な障害の発生を防止する観点からも重要である。
○自分の子どもを学校、市町村教育委員会、地域が進んで受け入れてくれるという姿勢が見られなければ、保護者は心を開いて就学相談をすることができない。学校や市町村教育委員会が、保護者の「伴走者」として親身になって相談相手となることで保護者との信頼関係が生まれる。学校、市町村教育委員会は、まずは障害のある子どもを地域で受け入れるという意識を持って、就学相談・就学先決定に臨むとともに、保護者に対して、子どもの健康、学習、発達、成長という観点を大切にして就学相談・就学先決定に臨むよう働きかけることが必要である。
○小学校が就学相談の窓口となり、幼稚園や保育所と日常的に連携を行うことで障害の状態やニーズを把握している市町村もあり、これに当たっては、就学相談に関する管理職研修を実施するとともに、住民向けに広報誌で周知を図っているなどの工夫が見られる。また、特別な支援を必要とする子どもへの支援を行うネットワークを取りまとめる機関を設け、巡回相談などの各種教育相談を実施させるとともに、必要に応じて、教育、医療、保健、福祉の連携を行っている市町村もある。これらの先行事例も参考としながら、相談・支援体制の充実に努めることが必要である。
○就学先を決定するに当たり、就学先の学習の具体的な様子が分からなければ、保護者は判断を行うことができない。例えば、英国、米国においては、行政側が、医療、福祉など教育以外の情報も含めた適切な情報を保護者に提供し、また、他の保護者とも情報交換できるセンターの設置などの取組を行っている。改正障害者基本法においても、本人・保護者に対する十分な情報提供が求められており、地域の学校で学ぶことや特別支援学校で学ぶことについて、体験入学などを通じた十分な情報提供を行っていくことが重要である。
○平成19年の学校教育法改正においても、各学校が学校運営状況の評価を行うこととされており、それを学校・家庭・地域間のコミュニケーションツールとして活用し、情報共有や連携協力を促進することを通じて、学校・家庭・地域それぞれの教育力を高めていくことが期待されている。このことからも、今後情報提供の更なる充実が図られていくことが期待される。
○障害のある子どもの能力を十分発達させていく上で、受入先の小・中学校には、必要な教育環境の整備が求められることになる。このためには、あらかじめ人的配置や物的整備を計画的に行うよう努めるとともに、後述する「合理的配慮」の提供を行うことが必要である。障害の状態、教育的ニーズ、学校、地域の実情等に応じて、本人・保護者に、受けられる教育や支援等についてあらかじめ説明し、十分な理解を得るようにすることが重要である。
○保護者の思いと子ども本人の教育的ニーズは、異なることもあり得ることに留意することが必要である。保護者の思いを受け止めるとともに、本人に必要なものは何かを考えていくことが必要であり、そのためには、市町村教育委員会が本人・保護者の意見を十分に聞き、共通認識を醸成していくことが重要である。(参考資料17:児童の権利に関する条約(抄))
○市町村教育委員会が、保護者への説明や学校への指導・助言等の教育支援を適切に行うためには、専門的な知識を持った職員を配置するなどの体制整備が必要である。現行の「就学指導委員会」においても、自治体によっては、専門家の専門性が十分ではない、あるいは、単独で専門家を確保することが困難といった課題もある。例えば、専門家の確保を他の自治体と共同で実施することや都道府県教育委員会からの支援を受けることなども考えられる。
○共生社会の形成に向けた取組としては、教育委員会が、早期からの教育相談・支援による相談機能を高め、合意形成のプロセスを丁寧に行うことにより、十分に話し合い、意見が一致するように努めることが望ましい。しかしながら、それでも意見が一致しない場合が起こり得るため、市町村教育委員会の判断の妥当性を市町村教育委員会以外の者が評価することで、意見が一致する可能性もあり、市町村教育委員会が調整するためのプロセスを明確化しておくことが望ましい。例えば、本人・保護者の要望を受けた市町村教育委員会からの依頼に基づき、都道府県教育委員会による市町村教育委員会に対する指導・助言の一環として、都道府県教育委員会の「教育支援委員会」(仮称)に第三者的な有識者を加えて活用することも考えられる。なお、市町村教育委員会は、あらかじめ本人・保護者に対し、行政不服審査制度も含めた就学に関する情報提供を行っておくことが望ましい。(参考資料18:就学先決定の意見が一致しない場合の対応について)
○可能な限り早期から成人に至るまでの一貫した指導・支援ができるように、子どもの成長記録や指導内容等に関する情報を、その扱いに留意しつつ、必要に応じて関係機関が共有し活用することが必要である。子どもの成長記録や生活の様子、指導内容に関するあらゆる情報を記録し、必要に応じて関係機関が共有できる「相談支援ファイル」を作成している自治体の例もある。これは、関係機関が共有することにより、就学先決定、転学、就労判定などの際の資料としても活用できることから、個人情報の利用について、本人・保護者 の了解を得た上で、情報の取扱いに留意して活用していくことが必要である。例えば、幼稚園、保育所等と小学校との間、小学校と中学校との間で、それぞれの連携・情報交換を進めることも考えられる。「子ども・若者育成支援推進法」にあるように、社会生活を円滑に営む上での困難を有する子ども・若者が社会生活を円滑に営むことができるようにするための支援その他の取組について、国、地方公共団体は総合的な子ども・若者育成支援のための施策を推進することが求められる。(参考資料19:子ども・若者育成支援推進法(抄))
○障害者手帳等を所持しない場合でも、「相談支援ファイル」により支援を必要とすることが明確になる。また、継続的な支援を行うためには、情報を一元化して共有することが必要であり、相談支援ファイルは有効と考えられる。子どもの状況だけではなく、学校や関係機関とともに検討する支援内容についても相談支援ファイルに記載できるように工夫し、支援を必要とする子どもや保護者と関係機関等とのつながりを大切にしながら、一貫した支援を行うことができる体制を構築していくことが適当である。
○一部の自治体では、域内に在住するすべての就学予定者を対象として、幼稚園、保育所等における成長・発達の様子や必要な支援について記入した「就学支援シート」を作成し、それぞれの学校で保護者と担任等が子どもの学校生活、学習内容を検討する際に活用しており、このような取組を拡大することも重要である。
○個別の教育支援計画、個別の指導計画については、現在、特別支援学校の学習指導要領等には作成が明記されているが、幼・小・中・高等学校等で学ぶ障害のある幼児児童生徒については、必要に応じて作成されることとなっており、必ず作成することとなっていない。これを障害のある児童生徒等すべてに拡大していくことについて検討する必要がある。
○特別支援学校では、個別の教育支援計画を活用し、幼稚部・小学部・中学部・高等部で一貫性のあるキャリア教育を推進し、卒業後の継続した支援を行っている。また、進路指導において、子どもが自分の進路計画を自ら作っていくというような取組も始まっている。これらの取組を一層発展させるとともに、特別支援学校以外の障害のある子どもにも広げていくことが望ましい。
○適切な支援のためには、複数の関係機関が有効に連携することが必要であり、個人情報保護に留意しつつ、支援や指導に必要な情報について共有する範囲を明確に定め、対応していく体制づくりが求められる。個人情報の取扱いについては、自治体における個人情報保護条例を踏まえつつ、支援を積極的に展開できるような運用のルールづくりを進める必要がある。親の会等の障害者関係団体、NPO等においても、個別の教育支援計画を活用する意義についての理解啓発活動等を行うことが望まれる。
○教育、医療、保健、福祉等の関係機関、親の会等の障害者関係団体、NPO等との連携を更に密にして、早期からの教育相談・支援について取り組むことが必要である。また、国においては、文部科学省と内閣府、厚生労働省をはじめとする関係府省との施策の連携が重要である。
○望ましい自立と社会参加のための教育という意味で、キャリア教育と特別支援教育の考え方には共通するものがある。社会環境の変化が大きくなっていく中、特別支援学校や特別支援学級で行われてきている自立支援、職業教育や職場体験を更に発展させ、進化させていくべきである。
○生涯学習等の機会が確保されることが望ましい。具体的には、職業教育に関する学習の機会が確保されること、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する方法について、在学中に行われた指導を卒業後も継続して受けることができるよう学校が教育相談を行うこと、生涯学習に関する情報が本人や保護者に届くようにすること、学校と生涯学習を提供する教育機関との引継ぎがなされること等が望ましい。
○就労や社会参加を見通して教育目標を考えるという視点を持つことにより、学校が、保健や福祉サービス、相談支援事業所、専門機関とのつながりを柔軟に持つことが重要である。
○学校が放課後支援サービスや外部機関と連携を密にし、児童生徒等の生活を一層充実させることが望ましい。その際、放課後支援サービス等においても、障害について理解のある者が配置されることが望ましい。
○通学時の支援やコミュニケーション手段の確保について、教育・福祉の連携や社会的支援の整備等の支援の充実を図ることが望ましい。
○学校と家庭が密接に連携することが障害のある子どもの支援を行う上で重要である。例えば、障害のある子どもが在籍する学校と家庭が、子どもの成長について定期的に情報共有することやそれぞれの役割を明確化することなどが考えられる。
○保護者の障害理解や心理的安定を図るため、保護者の気持ちに寄り添った支援を行うことが重要である。例えば、保護者の悩みを聞くなどの教育相談の実施、障害理解のための研修の実施、障害者や「先輩」保護者の話を聞く機会の提供等が考えられる。
○都道府県教育委員会の就学先決定に関わる相談・助言機能を強化する必要がある。市町村教育委員会単独で就学相談や就学支援に係る専門家の確保が困難な場合には、都道府県教育委員会が専門家を派遣するなどの措置を講ずる必要がある。また、関係者のための研修会を都道府県が実施することも考えられる。
○就学相談については、それぞれの自治体の努力に任せるだけでは限界があることから、国において、何らかのモデル的な取組を示すとともに、具体例の共有化を進めることが必要である。例えば、市町村教育委員会において、就学相談に関わる専門的スタッフを配置する、また、県の特別支援教育センターの職員が、各市町村の就学相談委員となって就学相談に関わる専門的スタッフの役割を果たし全域をサポートするなどの例もある。都道府県教育委員会が行う市町村教育委員会に対する支援を円滑にするため、例えば、そのようなモデル的事例の開発や普及を行っていくことも考えられる。
○条約の定義に照らし、本特別委員会における「合理的配慮」とは、「障害のある子どもが、他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、「学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」、と定義した。なお、障害者の権利に関する条約において、「合理的配慮」の否定は、障害を理由とする差別に含まれるとされていることに留意する必要がある。 ○障害のある子どもに対する支援については、法令に基づき又は財政措置により、国は全国規模で、都道府県は各都道府県内で、市町村は各市町村内で、教育環境の整備をそれぞれ行う。これらは、「合理的配慮」の基礎となる環境整備であり、それを「基礎的環境整備」と呼ぶこととする。これらの環境整備は、その整備の状況により異なるところではあるが、これらを基に、設置者及び学校が、各学校において、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、「合理的配慮」を提供する。 ○「合理的配慮」の決定に当たっては、障害者の権利に関する条約第24条第1項にある、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするといった目的に合致するかどうかの観点から検討が行われることが重要である。 ○「合理的配慮」は、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されるものであり、設置者・学校と本人・保護者により、発達の段階を考慮しつつ、「合理的配慮」の観点を踏まえ、「合理的配慮」について可能な限り合意形成を図った上で決定し、提供されることが望ましく、その内容を個別の教育支援計画に明記することが望ましい。なお、設置者・学校と本人・保護者の意見が一致しない場合には、「教育支援委員会」(仮称)の助言等により、その解決を図ることが望ましい。また、学校・家庭・地域社会における教育が十分に連携し、相互に補完しつつ、一体となって営まれることが重要であることを共通理解とすることが重要である。さらに、「合理的配慮」の決定後も、幼児児童生徒一人一人の発達の程度、適応の状況等を勘案しながら柔軟に見直しができることを共通理解とすることが重要である。 ○移行時における情報の引継ぎを行い、途切れることのない支援を提供することが必要である。 ○「合理的配慮」の充実を図る上で、「基礎的環境整備」の充実は欠かせない。そのため、必要な財源を確保し、国、都道府県、市町村は、インクルーシブ教育システムの構築に向けた取組として、「基礎的環境整備」の充実を図っていく必要がある 。 ○共生社会の形成に向けた国民の共通理解を一層進め、インクルーシブ教育システム構築のための施策の優先順位を上げていくことが必要である。 ○「合理的配慮」の観点について整理するとともに、障害種別の「合理的配慮」は、その代表的なものと考えられるものを例示している。示されているもの以外は提供する必要がないということではなく、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されることが望ましい。 ○現在必要とされている「合理的配慮」は何か、何を優先して提供するかなどについて、関係者間で共通理解を図る必要がある。 ○複数の種類の障害を併せ有する場合には、各障害種別の「合理的配慮」を柔軟に組み合わせることが適当である。 ○これまで学校においては、障害のある児童生徒等への配慮は行われてきたものの、「合理的配慮」は新しい概念であり、現在、その確保についての理解は不十分であり、学校・教育委員会、本人・保護者の双方で情報が不足していると考えられる。そのため、早急に「合理的配慮」の充実に向けた調査研究事業を行い、それに基づく国としての「合理的配慮」のデータベースを整備し、各教育委員会の参考に供することが必要である。また、中長期的には、それらを踏まえて、「合理的配慮」、「基礎的環境整備」を充実させていくことが重要であり、必要に応じて、学校における「合理的配慮」の観点や代表的なものと考えられる例を見直していくことが考えられる。 ○「合理的配慮」は、その障害のある子どもが十分な教育が受けられるために提供できているかという観点から評価することが重要であり、それについても研究していくことが重要である。例えば、個別の教育支援計画、個別の指導計画について、各学校において計画に基づき実行した結果を評価して定期的に見直すなど、PDCAサイクルを確立させていくことが重要である。 |
○学校教育においては、学校の設置者及び学校により、個々の幼児児童生徒の発達や年齢に応じた個別の配慮が行われている。教育基本法第6条第2項においても、「(前略)教育の目的が達成されるよう、教育を受ける者の心身の発達に応じて、体系的な教育が組織的に行われなければならない。この場合において、教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずるとともに、自ら進んで学習に取り組む意欲を高めることを重視して行わなければならない。」とされている。
○今般、障害者の権利に関する条約の批准に向けた障害者基本法の改正により、障害者に対して合理的な配慮を行うこと等が示された。また、教育分野については、第16条第1項において、「国及び地方公共団体は、障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない」とされた。さらに、第16条第4項において、「国及び地方公共団体は、障害者の教育に関し、調査及び研究並びに人材の確保及び資質の向上、適切な教材等の提供、学校施設の整備その他の環境の整備を促進しなければならない」とされている。(参考資料1:障害者基本法(抄))
○「合理的配慮」は新しい概念であり、また、上記のとおり、障害者基本法において、新たに「可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ」と規定された趣旨をも踏まえて、本特別委員会において、障害者の権利に関する条約の理念を踏まえた障害のある子どもに対する「合理的配慮」の観点について整理を行った。学校教育においてこれまで行われてきた配慮を、今回、「合理的配慮」の観点として改めて整理したことで、それぞれの学校における障害のある子どもへの教育が一層充実したものになっていくことを願ってやまない。また、「合理的配慮」については、教育委員会、学校、各教員が正しく認識して取り組むとともに、本人及び保護者に適切な情報提供を行うことが求められる。さらに、地域における理解啓発を図るための活動を進めることが求められる。
○「障害者の権利に関する条約」においては、 第24条(教育)において、教育についての障害者の権利を認め、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容する教育制度(インクルーシブ教育システム;inclusive education system)等を確保することとし、その権利の実現に当たり確保するものの一つとして、「個人に必要とされる合理的配慮が提供されること」とされている。
○また、第2条の定義において、「合理的配慮」とは、「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」とされている。なお、「負担」については、「変更及び調整」を行う主体に課される負担を指すとされている。
○さらに、同条において、「障害を理由とする差別」とは、「障害を理由とするあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害を理由とする差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む」とされている。(参考資料2:障害者の権利に関する条約(抄)、参考資料20:合理的配慮について)
○上記の定義に照らし、本特別委員会における「合理的配慮」とは、「障害のある子どもが、他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、「学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」、と定義した。なお、障害者の権利に関する条約において、「合理的配慮」の否定は、障害を理由とする差別に含まれるとされていることに留意する必要がある。
○「合理的配慮」の決定・提供に当たっては、各学校の設置者及び学校が体制面、財政面をも勘案し、「均衡を失した」又は「過度の」負担について、個別に判断することとなる。各学校の設置者及び学校は、障害のある子どもと障害のない子どもが共に学ぶというインクルーシブ教育システムの構築に向けた取組として、「合理的配慮」の提供に努める必要がある。その際、現在必要とされている「合理的配慮」は何か、何を優先して提供する必要があるかなどについて、共通理解を図る必要がある。
○障害のある子どもに対する支援については、法令に基づき又は財政措置により、国は全国規模で、都道府県は各都道府県内で、市町村は各市町村内で、教育環境の整備をそれぞれ行う。これらは、「合理的配慮」の基礎となる環境整備であり、それを「基礎的環境整備」と呼ぶこととする。これらの環境整備は、その整備の状況により異なるところではあるが、これらを基に、設置者及び学校が、各学校において、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、「合理的配慮」を提供する。(参考資料21:合理的配慮と基礎的環境整備の関係)
○学校の設置者及び学校は、個々の障害のある子どもに対し、「合理的配慮」を提供する。「合理的配慮」を各学校の設置者及び学校が行う上で、国、都道府県、市町村による「基礎的環境整備」は重要であり、本特別委員会において「基礎的環境整備」について現状と課題を整理した。
○また、「合理的配慮」については、個別の状況に応じて提供されるものであり、これを具体的かつ網羅的に記述することは困難であることから、「合理的配慮」を提供するに当たっての観点を「合理的配慮」の観点として、○1 教育内容・方法、○2 支援体制、○3 施設・設備について、それぞれを類型化するとともに、観点ごとに、各障害種に応じた「合理的配慮」を例示するという構成で整理した。
○「合理的配慮」を行う前提として、学校教育に求めるものを以下のとおり整理した。
(ア)障害のある子どもと障害のない子どもが共に学び共に育つ理念を共有する教育
(イ)一人一人の状態を把握し、一人一人の能力の最大限の伸長を図る教育(確かな学力の育成を含む)
(ウ)健康状態の維持・改善を図り、生涯にわたる健康の基盤をつくる教育
(エ)コミュニケーション及び人との関わりを広げる教育
(オ)自己理解を深め自立し社会参加することを目指した教育
(カ)自己肯定感を高めていく教育
○これらは、障害者の権利に関する条約第24条第1項の目的である、
(a)人間の潜在能力並びに尊厳及び自己の価値についての意識を十分に発達させ、並びに人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。
(b)障害者が、その人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること。
(c)障害者が自由な社会に効果的に参加することを可能とすること。
と方向性を同じくするものであり、「合理的配慮」の決定に当たっては、これらの目的に合致するかどうかの観点から検討が行われることが重要である。
○「合理的配慮」は、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されるものであり、その検討の前提として、各学校の設置者及び学校は、興味・関心、学習上又は生活上の困難、健康状態等の当該幼児児童生徒の状態把握を行う必要がある。これを踏まえて、設置者及び学校と本人及び保護者により、個別の教育支援計画を作成する中で、発達の段階を考慮しつつ、「合理的配慮」の観点を踏まえ、「合理的配慮」について可能な限り合意形成を図った上で決定し、提供されることが望ましく、その内容を個別の教育支援計画に明記することが望ましい。また、個別の指導計画にも活用されることが望ましい。
○「合理的配慮」の決定に当たっては、各学校の設置者及び学校が体制面、財政面をも勘案し、「均衡を失した」又は「過度の」負担について、個別に判断することとなる。その際、現在必要とされている「合理的配慮」は何か、何を優先して提供する必要があるかなどについて共通理解を図る必要がある。なお、設置者及び学校と本人及び保護者の意見が一致しない場合には、「教育支援委員会」(仮称)の助言等により、その解決を図ることが望ましい。
○学校・家庭・地域社会における教育が十分に連携し、相互に補完しつつ、一体となって営まれることが重要であることを共通理解とすることが重要である。教育は、学校だけで行われるものではなく、家庭や地域社会が教育の場として十分な機能を発揮することなしに、子どもの健やかな成長はあり得ない。子どもの成長は、学校において組織的、計画的に学習しつつ、家庭や地域社会において、親子の触れ合い、友達との遊び、地域の人々との交流等の様々な活動を通じて根づいていくものであり、学校・家庭・地域社会の連携とこれらにおける教育がバランスよく行われる中で豊かに育っていくものであることに留意する必要がある。
○「合理的配慮」の決定後も、幼児児童生徒一人一人の発達の程度、適応の状況等を勘案しながら柔軟に見直しができることを共通理解とすることが重要である。定期的に教育相談や個別の教育支援計画に基づく関係者による会議等を行う中で、必要に応じて「合理的配慮」を見直していくことが適当である。
○移行時における情報の引継ぎを行い、途切れることのない支援を提供することが必要である。個別の教育支援計画の引継ぎ、学校間や関係機関も含めた情報交換等により、「合理的配慮」の引継ぎを行うことが必要である。
○発達や年齢に応じた配慮を意識することが必要である。子どもの精神面の発達を考慮して、家族や介助員の付添い等を検討する。また、年齢に応じ、徐々に自己理解ができるようにし、その上で、自分の得意な面を生かし、苦手なことを乗り越える方法を身に付けられようにする。さらに、自己理解に加えて、状況に応じて適切に行動することができるように指導することも大切である。特に、知的発達に遅れがある場合には、小学校段階では基礎的な能力の育成、年齢が高まるにつれて社会生活スキルの習得に重点化するなど、卒業後の生活を見据えた教育を行うことが重要である。
○高等学校については、入学者選抜が行われており、障害の状態等に応じて適切な評価が可能となるよう、学力検査の実施に際して、一層の配慮を行うとともに、選抜方法の多様化や評価尺度の多元化を図ることが必要である。また、自立と社会参加に向け、障害のある生徒に対するキャリア教育や就労支援の充実を図っていくことが重要である。
○国立大学法人附属の学校や私立学校に在籍する幼児児童生徒についても、公立学校と同様の支援が受けられることが望ましい。
○「合理的配慮」は、各学校において、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、個別に提供されるものであるのに対し、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校の設置は、子ども一人一人の学習権を保障する観点から多様な学びの場の確保のための「基礎的環境整備」として行われているものである。
○通常の学級のみならず、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校においても、「合理的配慮」として、障害のある子どもが、他の子どもと平等に教育を受ける権利を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことが必要である。
○通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校それぞれの学び場における「合理的配慮」は、前述の「合理的配慮」の観点を踏まえ、個別に決定されることとなるが、「基礎的環境整備」を基に提供されるため、それぞれの学びの場における「基礎的環境整備」の状況により、提供される「合理的配慮」は異なることとなる。
○障害のある子どもが通常の学級で学ぶことができるよう、可能な限り配慮していくことが重要である。他方、子どもの実態に応じた適切な指導と必要な支援を受けられるようにするためには、本人及び保護者の理解を得ながら、必ずしも通常の学級ですべての教育を行うのではなく、通級による指導等多様な学びの場を活用した指導を柔軟に行うことも必要なことと考えられる。例えば、通常の学級に在籍している障害のある児童生徒が在籍する学校に支援員を配置したものの、本人の学習上又は生活上の困難が改善されない場合には、本人の成長を促す視点から、通級による指導を行ったり、特別支援学級や特別支援学校と連携して指導を行ったりすることなども効果的と考えられる。
○障害のある保護者との意思疎通を図る際の配慮や障害のある教職員を配置した場合の配慮についても、必要に応じ、関係者間で検討されることが望ましい。また、同じ障害のある子ども同士の交流の機会についても、情報提供が行われることが望ましい。
○「合理的配慮」の充実を図る上で、「基礎的環境整備」の充実は欠かせない。そのため、必要な財源を確保し、国、都道府県、市町村は、インクルーシブ教育システムの構築に向けた取組として、「基礎的環境整備」の充実を図っていく必要がある。その際、特別支援学校の「基礎的環境整備」の維持・向上を図りつつ、特別支援学校以外の学校の「基礎的環境整備」の向上を図ることが重要である。また、「基礎的環境整備」を進めるに当たっては、ユニバーサルデザイン(*5)の考え方も考慮しつつ進めていくことが重要である。(参考資料22:基礎的環境整備について)
(*5)バリアフリーは、障害によりもたらされるバリア(障壁)に対処するとの考え方であるのに対し、ユニバーサルデザインはあらかじめ、障害の有無、年齢、性別、人種等にかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方。障害者の権利に関する条約第2条(定義)において、「ユニバーサルデザイン」とは、調整又は特別な設計を必要とすることなく、最大限可能な範囲ですべての人が使用することのできる製品、環境、計画及びサービスの設計をいう。ユニバーサルデザインは、特定の障害者の集団のための支援装置が必要な場合には、これを排除するものではない、と定義されている。
○現在の財政状況に鑑みると、「基礎的環境整備」の充実を図るためには、共生社会の形成に向けた国民の共通理解を一層進め、社会的な機運を醸成していくことが必要であり、それにより、財政的な措置を図る観点を含めインクルーシブ教育システム構築のための施策の優先順位を上げていく必要がある。
○なお、「基礎的環境整備」については、「合理的配慮」と同様に体制面、財政面を勘案し、均衡を失した又は過度の負担を課さないよう留意する必要がある。また、「合理的配慮」は、「基礎的環境整備」を基に個別に決定されるものであり、それぞれの学校における「基礎的環境整備」の状況により、提供される「合理的配慮」は異なることとなる。
(ア)現状
義務教育段階においては、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった多様な学びの場を確保している。幼稚園、高等学校段階については、通常の学級、特別支援学校により対応している。
また、各教育委員会が専門家による巡回相談を行っているほか、特別支援学校はセンター的機能として幼・小・中・高等学校等への助言・援助を行っている。
さらに、「特別支援連携協議会」の開催等により、教育機関のみならず医療、保健、福祉、労働等の各関係機関との連携が進められている。
一部の自治体では、特別支援学校に在籍しつつ副次的な籍を居住地の学校に置く、又は、居住地の小学校等に在籍しつつ副次的な籍を特別支援学校に置くなどの弾力的な取組を行っている。
通級による指導、特別支援学級、特別支援学校への就学等の特殊事情を踏まえ、障害のある児童生徒等の保護者の経済的負担を軽減するため、通学費、学用品費等の必要な経費について「特別支援教育就学奨励費」として、各自治体等において給付しており、国はその国庫負担等を行っている。
(イ)課題
障害のある子どもが十分な教育を受けられるようにするためには、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる多様で柔軟な仕組みを整備していく必要がある。
(ア)現状
文部科学省の平成23年度体制整備状況調査によれば、全体として体制整備が進んでおり、とりわけ、公立の小・中学校においては、「校内委員会の設置」、「特別支援教育コーディネーターの指名」といった基礎的な支援体制はほぼ整備されている。また、各教育委員会の巡回相談、特別支援学校のセンター的機能等外部の専門家を活用した専門性のある指導体制の整備が進められている。
(イ)課題
専門性ある指導体制を一層確保するため、各校長が特別支援教育について理解を深めるのみならず、自らリーダーシップを発揮して体制を整えるとともに、それが機能するよう、教職員を指導する必要がある。また、幼稚園、高等学校における体制整備や国立・私立の学校における体制整備を一層進める必要がある。さらに、公立の小・中学校においては、体制整備の一層の充実を図っていく必要があり、具体的には、専門性のある教員の活用、指導方針の共有化、チームによる指導等による充実が挙げられる。
(ア)現状
特別支援学校においては、個別の教育支援計画や個別の指導計画を作成することが学習指導要領等に明記されている。特別支援学校以外の学校についても、指導についての計画や家庭、医療、福祉等の業務を行う関係機関と連携した支援のための計画を個別に作成することなどにより、個々の子どもの障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行うよう、学習指導要領等に明記されている。
(イ)課題
個別の教育支援計画、個別の指導計画については、現在、特別支援学校の学習指導要領等には作成が明記されているが、幼・小・中・高等学校等で学ぶ障害のある幼児児童生徒については、必要に応じて作成されることとなっており、これを特別支援学校と同様に、障害のある幼児児童生徒すべてに拡大していくことについて検討する必要がある。また、個別の教育支援計画や個別の指導計画の作成・活用について、一層の質の向上を図っていく必要がある。
(ア)現状
小・中・高等学校及び特別支援学校等では、教科書を使用するほか、各学校の判断により有益適切な教材を使用することができ、自治体が整備する教材の費用については、所要の地方財政措置が講じられている。また、文部科学省により、小・中学校及び特別支援学校について、それぞれ教材整備指針が示されているところである。
教科書については、文部科学省において、視覚障害者用の点字教科書、聴覚障害者用の言語指導や音楽の教科書、知的障害者用の国語、算数・数学、音楽の教科書を作成している。
また、「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」に基づき、教科書発行者の発行する小・中学校用検定済教科書に対応した拡大教科書が、平成24年度から全点が発行されている。さらに、同法に基づき、教科書発行者が保有する教科書のデジタルデータを、文部科学省等を通じて、ボランティア団体等に対して提供することにより、拡大教科書等の作成に係る負担の軽減が図られている。
(イ)課題
視覚障害のある児童生徒のための音声教材の整備充実、高等学校段階の拡大教科書の発行の促進が求められる。また、発達障害のある児童生徒が使用する教材等の整備充実を図ることが求められる。さらに、様々な障害の状態に応じた支援機器(*6)の充実を図る必要がある。
また、教育の情報化を推進するに当たっては、デジタル教科書・教材について、障害の状態や特性等に応じた様々な機能のアプリケーションの開発が必要である。さらに、情報端末等については、特別な支援を必要とする子どもにとっての基本的なアクセシビリティ(*7)を保証することが必要である。
(*6)アシスティブ・テクノロジー(技術的支援方策)において活用される様々な機器のこと。
(*7)障害者を含む誰もが、情報機器やソフトウェア等に支障なくアクセスでき利用できること。
(ア)現状
各学校の設置者が、施設・設備の整備を行っている。公立の幼・小・中学校及び特別支援学校等の施設整備に要する経費については、国がその一部を補助している。また、文部科学省により、幼・小・中・高等学校及び特別支援学校について、学校施設を計画・設計する際の留意事項をまとめた学校施設整備指針が示されているところである。
(イ)課題
各学校においては、障害のある幼児児童生徒が安全かつ円滑に学校生活を送ることができるよう必要なバリアフリー(*8)対策を推進することが求められるとともに、学校は地域コミュニティの拠点であり多様な人々が利用することからユニバーサルデザインに配慮した整備に努めることが重要である。また、特別支援学校については、幼児児童生徒数の増加に伴う教室不足を解消することが求められる。
(*8)障害のある人が社会生活をしていく上で障壁(バリア)となるものを除去するという意味で、もともと住宅建築用語で登場し、段差等の物理的障壁の除去をいうことが多いが、より広く障害者の社会参加を困難にしている社会的、制度的、心理的なすべての障壁の除去という意味でも用いられる。
(ア)現状
公立の小・中学校の国の学級編制の標準は、通常の学級について40人(小学校第1学年のみ35人)とされているが、特別支援学級については、8人とされている。さらに、特別支援学校の学級編制の標準は、小・中学部において6人、高等部において8人、重複障害児童生徒の場合は3人とされている。都道府県教育委員会はこれらを標準として学級編制基準を定めているが、児童生徒の実態を考慮して特に必要がある場合は、これを下回る数を基準として定めることができることとなっている。この基準により算定される教職員定数に基づき都道府県教育委員会が教職員配置を行っている。
また、学級数等の客観的な指標に基づいて算定される教職員定数とは別に、通級による指導のためや特別支援学校が地域の特別支援教育のセンター的機能を果たすためなど特別支援教育の実施に係る教職員定数の改善も進められている。国は、これらの教職員定数に係る給与費の3分の1を負担している。
さらに、特別支援教育支援員の配置に係る経費について所要の地方財政措置が講じられているところである。
また、専門性を確保するための研修については、国、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所においては指導者層の研修のための研修を計画・実施している。また、都道府県及び市町村教育委員会においては、経験年数や課題に応じた研修を計画・実施し、学校においては授業や児童生徒の事例を通した校内研修を行っている。
(イ)課題
公立小・中学校における少人数学級の推進や複数教員による指導など指導方法の工夫改善は、子ども一人一人に対するきめ細かい指導の充実や家庭との連携を緊密にする効果があることから、特別支援教育の推進にも資するものであり、一層の教育環境の充実を図っていくことが求められる。また、今後のインクルーシブ教育システム構築の状況を勘案しつつ、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校における指導の在り方を検討していく必要がある。さらに、このような特別支援教育を実施するために、特別支援教育支援員を含めた教職員体制の充実が求められる。
また、教員、支援員等の一層の専門性の向上を図るための研修等の実施や学校としての専門性を確保していくことを考慮した人事上の配慮が求められる。
(ア)現状
小・中学校については、個別指導、習熟度別・少人数指導に加えて、通級による指導、特別支援学級における指導が可能である。通級による指導、特別支援学級においては、特別の教育課程による教育を行うことができる。
特別支援学校については、障害の状態に応じた自立活動の指導を教育課程の中で行うこととなっている。その上で、個別指導に加えて、特別の教育課程による教育を行うことができる。
(イ)課題
通常の学級で指導を行う場合、各小・中学校においては、小・中学校の学習指導要領に基づく教育課程を編成・実施する必要がある。通常の学級で学ぶ障害のある児童生徒一人一人に応じた指導・評価の在り方について検討する必要がある。その際、各学校段階の学習指導要領の総則等において、障害のある児童生徒の指導について、教育課程実施上の配慮事項が示されているが、更なる配慮事項を示すべきかを今後検討していく必要がある。
(ア)現状
学習指導要領に基づき、交流及び共同学習の機会等を設けることとされている。
(イ)課題
改正障害者基本法の理念に基づき、障害のある子どもと障害のない子どもが可能な限り共に学ぶことができるように配慮する観点から、交流及び共同学習を一層推進していくことが重要である。また、一部の自治体で実施している居住地校に副次的な籍を置くことについては、居住地域との結び付きを強め、居住地校との交流及び共同学習を推進する上で意義がある。居住地校交流を進めるに当たっては、幼児児童生徒の付添いや時間割の調整等が課題であり、それらについて検討していく必要がある。また、特別支援学級と通常の学級との交流及び共同学習も一層進めていく必要がある。
○「合理的配慮」は、個々の障害のある幼児児童生徒の状態等に応じて提供されるものであり、多様かつ個別性が高いものであることから、本特別委員会において、その観点について以下のとおり整理した。
○障害のある幼児児童生徒については、障害の状態が多様なだけでなく、障害を併せ有する場合や、障害の状態や病状が変化する場合もあることから、時間の経過により必要な支援が異なることに留意する必要がある。また、障害の状態等に応じた「合理的配慮」を決定する上で、ICF(国際生活機能分類)を活用することが考えられる。(参考資料23:ICFについて)
○各学校の設置者及び学校が体制面、財政面をも勘案し、「均衡を失した」又は「過度の」負担について、個別に判断することとなる。その際は、「合理的配慮」を決定する際において、現在必要とされている「合理的配慮」は何か、何を優先して提供するかなどについて関係者間で共通理解を図る必要がある。
○障害種別に応じた「合理的配慮」は、すべての場合を網羅することはできないため、その代表的なものと考えられる例を本特別委員会において以下の「合理的配慮」の観点ごとに別表により示している。ここに示されているものは、あくまで例示であり、これ以外は「合理的配慮」として提供する必要がないということではない。「合理的配慮」は、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されるものである。また、障害種別に応じた「合理的配慮」を例示しているが、複数の種類の障害を併せ有する場合には、各障害種別に例示している「合理的配慮」を柔軟に組み合わせることが適当である。
○「合理的配慮」は、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されるものであり、すべてが同じように決定されるものではない。設置者及び学校が決定するに当たっては、本人及び保護者と、個別の教育支援計画を作成する中で、「合理的配慮」の観点を踏まえ、「合理的配慮」について可能な限り合意形成を図った上で決定し、提供されることが望ましい。例えば、設置者及び学校が、学校における保護者の待機を安易に求めるなど、保護者に過度の対応を求めることは適切ではない。
○1-1-1 学習上又は生活上の困難を改善・克服するための配慮(別表1)
障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するため、また、個性や障害の特性に応じて、その持てる力を高めるため、必要な知識、技能、態度、習慣を身に付けられるよう支援する。
○1-1-2 学習内容の変更・調整(別表2)
認知の特性、身体の動き等に応じて、具体の学習活動の内容や量、評価の方法等を工夫する。障害の状態、発達の段階、年齢等を考慮しつつ、卒業後の生活や進路を見据えた学習内容を考慮するとともに、学習過程において人間関係を広げることや自己選択・自己判断の機会を増やすこと等に留意する。
○1-2-1 情報・コミュニケーション及び教材の配慮(別表3)
障害の状態等に応じた情報保障やコミュニケーションの方法について配慮するとともに、教材(ICT及び補助用具を含む)の活用について配慮する。
○1-2-2 学習機会や体験の確保(別表4)
治療のため学習空白が生じることや障害の状態により経験が不足することに対し、学習機会や体験を確保する方法を工夫する。また、感覚と体験を総合的に活用できる学習活動を通じて概念形成を促進する。さらに、入学試験やその他の試験において配慮する。
○1-2-3 心理面・健康面の配慮(別表5)
適切な人間関係を構築するため、集団におけるコミュニケーションについて配慮するとともに、他の幼児児童生徒が障害について理解を深めることができるようにする。学習に見通しが持てるようにしたり、周囲の状況を判断できるようにしたりして心理的不安を取り除く。また、健康状態により、学習内容・方法を柔軟に調整し、障害に起因した不安感や孤独感を解消し自己肯定感を高める。
学習の予定や進め方を分かりやすい方法で知らせておくことや、それを確認できるようにすることで、心理的不安を取り除くとともに、周囲の状況を判断できるようにする。
○2-1 専門性のある指導体制の整備(別表6)
校長がリーダーシップを発揮し、学校全体として専門性のある指導体制を確保することに努める。そのため、個別の教育支援計画や個別の指導計画を作成するなどにより、学校内外の関係者の共通理解を図るとともに、役割分担を行う。また、学習の場面等を考慮した校内の役割分担を行う。
必要に応じ、適切な人的配置(支援員等)を行うほか、学校内外の教育資源(通級による指導や特別支援学級、特別支援学校のセンター的機能、専門家チーム等による助言等)の活用や医療、保健、福祉、労働等関係機関との連携を行う。
○2-2 幼児児童生徒、教職員、保護者、地域の理解啓発を図るための配慮(別表7)
障害のある幼児児童生徒に関して、障害によって日常生活や学習場面において様々な困難が生じることについて周囲の幼児児童生徒の理解啓発を図る。共生の理念を涵養するため、障害のある幼児児童生徒の集団参加の方法について、障害のない幼児児童生徒が考え実践する機会や障害のある幼児児童生徒自身が障害について周囲の人に理解を広げる方法等を考え実践する機会を設定する。また、保護者、地域に対しても理解啓発を図るための活動を行う。
○2-3 災害時等の支援体制の整備(別表8)
災害時等の対応について、障害のある幼児児童生徒の状態を考慮し、危機の予測、避難方法、災害時の人的体制等、災害時体制マニュアルを整備する。また、災害時等における対応が十分にできるよう、避難訓練等の取組に当たっては、一人一人の障害の状態等を考慮する。
○3-1 校内環境のバリアフリー化(別表9)
障害のある幼児児童生徒が安全かつ円滑に学校生活を送ることができるよう、障害の状態等に応じた環境にするために、スロープや手すり、便所、出入口、エレベーター等について施設の整備を計画する際に配慮する。また、既存の学校施設のバリアフリー化についても、障害のある幼児児童生徒の在籍状況等を踏まえ、学校施設に関する合理的な整備計画を策定し、計画的にバリアフリー化を推進できるよう配慮する。
○3-2 発達、障害の状態及び特性等に応じた指導ができる施設・設備の配慮(別表10)
幼児児童生徒一人一人が障害の状態等に応じ、十分に学習に取り組めるよう、必要に応じて様々な教育機器等の導入や施設の整備を行う。また、一人一人の障害の状態、障害の特性、認知特性、体の動き、感覚等に応じて、その持てる能力を最大限活用して自主的、自発的に学習や生活ができるよう、各教室等の施設・設備について、分かりやすさ等に配慮を行うとともに、日照、室温、音の影響等に配慮する。さらに、心のケアを必要とする幼児児童生徒への配慮を行う。
○3-3 災害時等への対応に必要な施設・設備の配慮(別表11)
災害時等への対応のため、障害の状態等に応じた施設・設備を整備する。
○これまで学校においては、障害のある児童生徒等への配慮は行われてきたものの、「合理的配慮」は新しい概念であり、現在、その確保についての理解は不十分であり、学校・教育委員会、本人・保護者の双方で情報が不足していると考えられる。そのため、早急に「合理的配慮」の充実に向けた調査研究事業を行い、それに基づく国としての「合理的配慮」のデータベースを整備し、各教育委員会の参考に供することが必要である。また、中長期的には、それらを踏まえて、「合理的配慮」、「基礎的環境整備」を充実させていくことが重要であり、必要に応じて、学校における「合理的配慮」の観点や代表的なものと考えられる例を見直していくことが考えられる。
○「合理的配慮」は、個別に対応していくべきものであるため、その幼児児童生徒の状態に応じて変わっていくものであり、技術の進歩や人々の意識の変化によっても変わっていく可能性が高い。また、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて「合理的配慮」が決定されることが望ましく、現在例示しているもの以外の「合理的配慮」についても、広く情報共有されていくことが重要である。
○「合理的配慮」は、その障害のある子どもが十分な教育が受けられるために提供できているかという観点から評価することが重要であり、それについても研究していくことが重要である。例えば、個別の教育支援計画、個別の指導計画について、各学校において計画に基づき実行した結果を評価して定期的に見直すなど、PDCAサイクルを確立させていくことが重要である。
○多様な学びの場として、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校それぞれの環境整備の充実を図っていくことが必要である。 ○通常の学級においては、少人数学級の実現に向けた取組や複数教員による指導など指導方法の工夫改善を進めるべきである。 ○特別支援教育により多様な子どものニーズに的確に応えていくためには、教員だけの対応では限界がある。校長のリーダーシップの下、校内支援体制を確立し、学校全体で対応する必要があることは言うまでもないが、その上で、例えば、公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律に定める教職員に加えて、特別支援教育支援員の充実、さらには、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、ST(言語聴覚士)、OT(作業療法士)、PT(理学療法士)等の専門家の活用を図ることにより、障害のある子どもへの支援を充実させることが必要である。 ○医療的ケアの観点からの看護師等の専門家についても、必要に応じ確保していく必要がある。 ○通級による指導を行うための教職員体制の充実が必要である。 ○幼稚園、高等学校における環境整備の充実のため、特別支援学校のセンター的機能の活用等により教員の研修を行うなど、各都道府県教育委員会が環境を整えていくことが重要である。 ○域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)により、域内のすべての子ども一人一人の教育的ニーズに応え、各地域におけるインクルーシブ教育システムを構築することが必要である。 ○特別支援学校は、小・中学校等の教員への支援機能、特別支援教育に関する相談・情報提供機能、障害のある児童生徒等への指導・支援機能、関係機関等との連絡・調整機能、小・中学校等の教員に対する研修協力機能、障害のある児童生徒等への施設設備等の提供機能といったセンター的機能を有している。今後、域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)の中でコーディネーター機能を発揮し、通級による指導など発達障害をはじめとする障害のある児童生徒等への指導・支援機能を拡充するなど、インクルーシブ教育システムの中で重要な役割を果たすことが求められる。そのため、センター的機能の一層の充実を図るとともに、専門性の向上にも取り組む必要がある。 ○域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)や特別支援学校のセンター的機能を効果的に発揮するため、各特別支援学校の役割分担を、地域別や機能別といった形で、明確化しておくことが望ましく、そのための特別支援学校ネットワークを構築することが必要である。 ○特別支援学校と幼・小・中・高等学校等との間、また、特別支援学級と通常の学級との間でそれぞれ行われる交流及び共同学習は、特別支援学校や特別支援学級に在籍する障害のある児童生徒等にとっても、障害のない児童生徒等にとっても、共生社会の形成に向けて、経験を広め、社会性を養い、豊かな人間性を育てる上で、大きな意義を有するとともに、多様性を尊重する心を育むことができる。 ○特別支援学校と幼・小・中・高等学校等との間で行われる交流及び共同学習については、双方の学校における教育課程に位置付けたり、年間指導計画を作成したりするなど交流及び共同学習の更なる計画的・組織的な推進が必要である。その際、関係する都道府県教育委員会、市町村教育委員会等との連携が重要である。また、特別支援学級と通常の学級との間で行われる交流及び共同学習についても、各学校において、ねらいを明確にし、教育課程に位置付けたり、年間指導計画を作成したりするなど計画的・組織的な推進が必要である。 ○医療、保健、福祉、労働等の関係機関等との適切な連携が重要である。このためには、関係行政機関等の相互連携の下で、広域的な地域支援のための有機的なネットワークが形成されることが有効である。 |
○多様な学びの場として、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校それぞれの環境整備の充実を図っていくことが必要である。
○インクルーシブ教育システム構築のためには、特に、小・中学校における教育内容・方法を改善していく必要がある。教育内容の改善としては、障害者理解を進めるための交流及び共同学習の充実を図っていくことや通常の学級で学ぶ障害のある児童生徒一人一人に応じた指導・評価の在り方について検討する必要がある。また、教育方法の改善としては、障害のある児童生徒も障害のない児童生徒も、さらには、障害があることが周囲から認識されていないものの学習上又は生活上の困難のある児童生徒にも、効果的な指導の在り方を検討していく必要がある。
○平成23年4月には公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律の改正により、小学校1年生については、学級編制の標準を40人から35人に引き下げたほか、教職員定数に関する加配事由として、「障害のある児童生徒に対する特別の指導が行われていることその他障害のある児童生徒に対する指導体制の整備を行うことについて特別の配慮を必要とする事情」が追加された。また、市町村教育委員会がより地域や学校の実情に応じた柔軟な学級編制ができるよう制度改正が行われた。
○通常の学級においては、少人数学級の実現に向けた取組や複数教員による指導など指導方法の工夫改善を進めるべきである。
○特別支援学級については、国の学級編制の標準は8人とされているが、現状としては、障害種別に学級を編制することや、都道府県教育委員会において国の標準を下回る学級編制基準を定めることが可能であることなどから、1学級当たりの在籍者は平均で3人程度となっている。今後、インクルーシブ教育システム構築の進展を踏まえつつ、その指導方法の工夫改善等について検討していく必要がある。
○特別支援教育により多様な子どものニーズに的確に応えていくためには、教員だけの対応では限界がある。校長のリーダーシップの下、校内支援体制を確立し、学校全体で対応する必要があることは言うまでもないが、その上で、例えば、公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律に定める教職員に加えて、特別支援教育支援員の充実、さらには、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、ST(言語聴覚士)、OT(作業療法士)、PT(理学療法士)等の専門家の活用を図ることにより、障害のある子どもへの支援を充実させることが必要である。
○特別支援教育を推進するため、子どもの現代的な健康課題に対応した学校保健環境づくりが重要であり、学校においては、養護教諭を中心として、学級担任等、学校医、学校歯科医、学校薬剤師、スクールカウンセラーなど学校内における連携を更に進めるとともに、医療関係者や福祉関係者など地域の関係機関との連携を推進することが必要である。また、医療的ケアの観点からの看護師等の専門家についても、必要に応じ確保していく必要がある。
○インクルーシブ教育システム構築のため、特別支援学校の持てる機能を活用する観点から、寄宿舎の役割について検討していく必要がある。各特別支援学校の寄宿舎は、入居した障害のある児童生徒等が毎日の生活を営みながら、生活のリズムをつくるなど生活基盤を整え、自立し社会参加する力を養う貴重な場である。そうした意味から、一層の活用を期待し、例えば、学校がサマースクールを開催する際などに、その機能を活用することも考えられる。
○通級による指導については、教職員定数の改善等により、その対象者数は年々増加傾向にある。
○通級による指導については、自らの在籍している学校において行う「自校通級」、自らの在籍している学校以外の場で行う「他校通級」がある。しかし、「他校通級」では、児童生徒の移動による心身の負担や移動時の学習が保障されないなどの課題もある。これらを極力減らすため、教員の巡回による指導等を行うことにより自校で通級による指導を受けられる機会を増やす等の環境整備を図っていく必要がある。そのため、通級による指導を行うための教職員体制の充実が必要である。
○幼稚園、高等学校における環境整備の充実のため、特別支援学校のセンター的機能の活用等により教員の研修を行うなど、各都道府県教育委員会が環境を整えていくことが重要である。
○幼稚園における特別支援教育の充実は、保育所等における早期支援とともに、教育委員会等による就学期における教育相談・支援の充実の中で図られることが適当である。
○高等学校においては、入学者選抜における配慮を行うとともに、中学校、特別支援学校等との連携により、障害のある生徒に対する必要かつ適切な指導や支援につなげていくことが必要である。
○現行制度上、高等学校においては、教育課程の弾力的運用を行うことはできるが、小・中学校の通級による指導や特別支援学級のような特別な教育課程の編成を行うことができない。そのため、自立活動の内容を参考にした学校設定科目を設けて選択履修できるようにすることができるものの、自立活動として行うことはできない。このため、高等学校において、自立活動等を指導することができるよう、特別の教育課程の編成について検討する必要がある。
○特別支援教室構想は、小・中学校において、LD、ADHD、高機能自閉症等を含めた障害のある児童生徒が、原則として通常の学級に在籍し、教員の適切な配慮、ティーム・ティーチング、個別指導や学習内容の習熟に応じた指導等の工夫により通常の学級において指導を行いつつ、必要な時間に特別の場で障害に応じた教科指導や、障害に起因する困難の改善・克服のための指導を行う形態であり、平成15年3月の特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議報告「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」の提言を受け、平成17年12月の中央教育審議会答申(特別支援教育を推進するための制度の在り方について)において構想として示されたものである。また、平成22年3月に出された特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議の報告では、児童生徒のニーズに応じて、指導時間においても連続性のある形で対応することが可能な制度にすべきとの意見や特別支援教室構想の制度化に当たっては、教職員配置の在り方を含め、総合的かつ慎重に検討すべきとの意見もあった、と整理されている。
○各地域においては、通級による指導と特別支援学級の活用を組み合わせることなどにより、特別支援教室構想についての実践が積み重ねられている。対象児童生徒については、個別的な指導・支援を受けたことにより、「学習に対する興味・関心、意欲が高まった」、「学習態度が身に付いた」、「学習への集中が持続するようになった」などの効果があった、との報告もなされている。また、小学校においては、教員が通常の学級での授業づくりや集団づくりの重要性に気付き、障害のある児童にとって学びやすい授業、生活しやすい学級がすべての児童によっても学びやすい授業、生活しやすい学級であることが実践的に確認できた、築かれた校内体制が、対象となる障害のある児童だけでなく、不登校にある児童、いじめや反社会的行動をしている児童、心的ストレスの大きかった児童などにも有効である、といった報告もされている。
○一方で、通級による指導や特別支援学級担当の教員の十分な配置がなければ特別支援教室構想に沿った学級の運営が困難となる、また、知的障害のある児童生徒については学年が上がるにつれて当該学年で求められる学習の理解が難しくなる、といった課題も挙げられている。
○特別支援教室構想を担うと考えられる特別支援学級の教員の専門性が課題となっている現状において、特別支援教室構想を進めることは、教員の専門性が担保されないままで十分に機能を果たすことができるかという点が課題である。そのため、第一に教員の専門性を担保するための方策が実施される必要がある。また、知的障害のある児童生徒の指導の在り方や各学校における特別支援教室構想における校内体制の構築等について実践的な研究を更に積み重ねていく中で、その実現を検討していく必要がある。
○地域内の教育資源(幼・小・中・高等学校及び特別支援学校等、特別支援学級、通級指導教室)それぞれの単体だけでは、そこに住んでいる子ども一人一人の教育的ニーズに応えることは難しい。こうした域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)により域内のすべての子ども一人一人の教育的ニーズに応え、各地域におけるインクルーシブ教育システムを構築することが必要である。その際、交流及び共同学習の推進や特別支援学校のセンター的機能の活用が効果的である。さらに、特別支援学校は都道府県教育委員会に設置義務があり、小・中学校は市町村教育委員会に設置義務があることから、両者の連携の円滑化を図るための仕組みを検討していく必要がある。なお、通学の利便性の向上のため、特別支援学校の分教室を設置するなど、特別支援教育の地域化を推進している都道府県もある。今後こうした例を地域の状況等を考慮しながら広め、多様な学びの場の設定、域内の教育資源の組合せ、柔軟な「学びの場」の見直しなどの仕組みの構築を目指すことが重要である。(参考資料24:域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)のイメージ)
○特別支援学校の教員による巡回相談等、小・中学校等と特別支援学校との連携が重要である。特別支援学校も加えた形で地域の特別支援教育の支援体制を「面」として作っていくことが必要である。
○特別支援学校を分校、分教室の形で、小・中・高等学校内や小・中・高等学校に隣接又は併設して設置するなど、地域バランスを考慮して、都道府県内に特別支援学校を設置していくことも方策の一つとして考えられる。児童生徒の移動時間を考えると、分校、分教室の方が指導を充実できる可能性もある。また、交流及び共同学習も実施が容易になり、双方の児童生徒のみならず双方の教員にも良い影響を与える。さらに、小学校に設置している特別支援学校の分教室で、当該小学校のみならず周辺の学校に対して支援を行っている例もある。
○同じ障害のある者との交流を継続して体験するため、例えば、通常の学級や特別支援学級で教育を受ける視覚障害の児童生徒が、特別支援学校(視覚障害)の児童生徒と交流を定期的に実施するなどの仕組みづくりが考えられる。特別支援学級における教育や通級による指導を受けている児童生徒の場合には、特別支援学校の児童生徒と学習を共に行うことで一層専門的な自立活動の指導を受けることができるとの報告もあり、効果的な指導方法として考えられる。
○各市町村の小・中学校に設置されている特別支援学級をその市町村における特別支援教育のセンターとして、必要に応じ、特別支援学校のセンター的機能に類する役割を持たせることも考えられる。
○病院に入院した際は、病院に併設されている学校、あるいは、病院内に設けられた学校や学級に転校等をしなければ正式には、当該学校等の教育を受けることができない。退院すると以前在籍していた学校に戻ること、近年は入院が短期化してきていること、退院しても引き続き通院や経過観察等が必要なため、すぐに以前在籍していた学校に通学することができない子どもが増えていること等を踏まえ、現在の特別支援学校、病院内に設置された学級と在籍していた学校における転学手続の運用等を一層柔軟にしていくことを検討するべきである。
○特別支援学校は、小・中学校等の教員への支援機能、特別支援教育に関する相談・情報提供機能、障害のある児童生徒等への指導・支援機能、関係機関等との連絡・調整機能、小・中学校等の教員に対する研修協力機能、障害のある児童生徒等への施設設備等の提供機能といったセンタ ー的機能を有している。今後、域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)の中でコーディネーター機能を発揮し、通級による指導など発達障害をはじめとする障害のある児童生徒等への指導・支援機能を拡充するなど、インクルーシブ教育システムの中で重要な役割を果たすことが求められる。そのため、センター的機能の一層の充実を図るとともに、専門性の向上にも取り組む必要がある。その際に、市町村教育委員会との役割分担を念頭に、協力体制を構築することが重要である。加えて、特別支援学校のセンター的機能を支援する仕組みを各都道府県において整備することが必要である。
○各都道府県に設置されている、特別支援教育センターや教育センターの特別支援教育部門、各特別支援学校をネットワーク化し、域内の特別支援教育をバックアップする体制をつくりだすことが大切である。また、今後、義務教育段階に留まらず、幼稚園段階、高等学校段階における特別支援教育を推進するため、センター的機能の充実に資するような教員配置の在り方について、積極的に検討していく必要がある。
○特別支援学校がセンター的機能を果たすためには、域内のどこからでもアクセスしやすい場所に今後設置されることが望ましい。また、現存の特別支援学校についても、ICTの活用等により、センター的機能を一層発揮するための環境整備を実施していくことが望ましい。
○域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)や特別支援学校のセンター的機能を効果的に発揮するため、各特別支援学校の役割分担を、地域別や機能別といった形で、明確化しておくことが望ましく、そのための特別支援学校ネットワークを構築することが必要である。
○特別支援学校における幼児児童生徒の障害の重度・重複化に対応した教育の一層の充実のため、教育内容・方法、教材・教具についての特別支援学校間の連携を強めることが必要である。
○視覚障害、聴覚障害等のための特別支援学校については、特に、一県当たりの設置している学校数が少ないことから、広域による連携が考えられる。
○特別支援学校ネットワークの構築に当たっては、例えば、特別支援教育のナショナルセンターである国立特別支援教育総合研究所が、教育内容・方法、教材・教具についての情報提供や専門性を有する人材の養成を行うことなどが考えられる。
○特別支援学校と幼・小・中・高等学校等との間、また、特別支援学級と通常の学級との間でそれぞれ行われる交流及び共同学習は、特別支援学校や特別支援学級に在籍する障害のある児童生徒等にとっても、障害のない児童生徒等にとっても、共生社会の形成に向けて、経験を広め、社会性を養い、豊かな人間性を育てる上で、大きな意義を有するとともに、多様性を尊重する心を育むことができる。なお、特別支援学校や特別支援学級を設置している学校における交流及び共同学習は必ず実施していくべきであるが、特別支援学級を設置していない学校においても、交流及び共同学習以外の形であっても何らかの形で、共生社会の形成に向けた障害者理解を推進していく必要がある。
○交流及び共同学習については、学習指導要領に位置付けられ、その推進を図ることとしており、各地で様々な工夫がなされている。例えば、特別支援学校高等部生徒による小学校の児童に対する職業教育の実習、居住地校交流における副次的な籍の取扱い、居住地校交流に担任が付き添う際の教職員の補充やボランティアの育成・活用、分教室の設置による交流及び共同学習の推進などが行われている。今後、例えば、交流及び共同学習における「合理的配慮」の提供、交流校の理解啓発、教育課程上の位置付け、中学部、高等部における交流の在り方、異なる教科書等を用いている場合の取扱い等の課題について整理する必要がある。
○特別支援学校と幼・小・中・高等学校等との間で行われる交流及び共同学習については、双方の学校における教育課程に位置付けたり、年間指導計画を作成したりするなど交流及び共同学習の更なる計画的・組織的な推進が必要である。その際、関係する都道府県教育委員会、市町村教育委員会等との連携が重要である。また、特別支援学級と通常の学級との間で行われる交流及び共同学習についても、各学校において、ねらいを明確にし、教育課程に位置付けたり、年間指導計画を作成したりするなど計画的・組織的な推進が必要である。
○特別支援学校における、居住地校との交流及び共同学習は、障害のある児童生徒が、居住地の小・中学校等の児童生徒等とともに学習し交流することで地域とのつながりを持つことができることから、引き続きこれを進めていく必要がある。一部の自治体で実施している居住地校に副次的な籍を置くことについては、居住地域との結びつきを強め、居住地校との交流及び共同学習を推進する上で意義がある。この場合、児童生徒の付添いや時間割の調整などが現実的課題であり、それらについて検討していく必要がある。(参考資料25:副次的な籍について)
○インクルーシブ教育システムを構築する上では、医療、保健、福祉、労働等の関係機関等との適切な連携が重要である。このためには、関係行政機関等の相互連携の下で、広域的な地域支援のための有機的なネットワークが形成されることが有効であり、既に各都道府県レベルでは、県全域を見通した「広域特別支援連携協議会」が設けられるとともに、「障害保健福祉圏域」や教育事務所単位での支援地域の設定などが行われている。それら支援地域内の有機的なネットワークを十分機能させるためには、保護者支援を行うこと、連絡協議会を設置すること、個別の教育支援計画を相互に連携して作成・活用することが重要である。今後、課題が多面的になっていることを踏まえて、関係機関に予防的な役割としての警察や司法も加えた支援を検討していく必要がある。
○各地域において、同じ場で共に学ぶことを具体的に実現していくためには、基礎自治体の取組が大きく影響する。その際、教育委員会だけではなく、財政、福祉等の観点から首長部局との連携も重要である。例えば、特別支援教育コーディネーター、福祉事務所、民生委員・児童委員が連絡会を年に数回必ず開催するといった連携も考えられる。その際に、既存の特別支援連携協議会、地域自立支援協議会等の活用が考えられる。
○インクルーシブ教育システムの構築に当たり、障害のある子どもの 地域における生活を支援する観点から、地域における社会福祉施策や障害者雇用施策と特別支援教育との一層の連携強化に取り組む必要がある。また、卒業後の就労・自立・社会参加も含めた共生社会の構築を考える必要がある。
○例えば、重度の障害がある児童生徒等に適切な教育を提供するためには、施設・整備等の基礎的環境整備、十分な知識と技量を備えた教育スタッフチームの育成・配置、看護師と教員が連携した医療的ケアの実施体制の整備等が必要であるが、これらの環境整備を地域で計画的に進めていく必要がある。また、キャリア教育の観点からは、ソーシャルワーク(人々の生活を社会的な視点から捉え、その解決を支援すること)が非常に重要であるが、それを学校、教員だけで行うことは困難であり、地域の中で、ソーシャルワークの機能を確保していくことが重要である。
○同じ障害のある者との交流を継続して体験するため、例えば、中学校・高等学校に通っている視覚障害の生徒と特別支援学校(視覚障害)の生徒の両方を対象とし、サマーキャンプ等で学習体験をする実践もある。その実践においては、先輩であり現役の企業等で働いている視覚障害の技術者、教員等が講師となり、それを支えているのが特別支援学校(視覚障害)の教員や大学の視覚障害教育の関係者である。
○親の会等の障害者関係団体、NPO等の中には、地域で効果的な活動の実践を続けているところがあり、このような民間の力と連携・協働した保護者・本人支援が考えられる。一方、親の会等の障害者関係団体、NPO等の中には組織力や企画力が十分でない場合もあることから、これらを国や地方自治体が支援し育成していくことが重要である。
○インクルーシブ教育システム構築のため、すべての教員は、特別支援教育に関する一定の知識・技能を有していることが求められる。特に発達障害に関する一定の知識・技能は、発達障害の可能性のある児童生徒の多くが通常の学級に在籍していることから必須である。これについては、教員養成段階で身に付けることが適当であるが、現職教員については、研修の受講等により基礎的な知識・技能の向上を図る必要がある。 ○すべての教員が多岐にわたる専門性を身に付けることは困難なことから、必要に応じて、外部人材の活用も行い、学校全体としての専門性を確保していくことが必要である。 ○学校全体としての専門性を確保していく上で、校長等の管理職のリーダーシップは欠かせない。また、各学校を支援する、教育委員会の指導主事等の役割も大きい。このことから、校長等の管理職や教育委員会の指導主事等を対象とした研修を実施していく必要がある。 ○特別支援学校教員の特別支援学校教諭免許状(当該障害種又は自立教科の免許状)取得率は約7割となっており、特別支援学校における教育の質の向上の観点から、取得率の向上による担当教員としての専門性を早急に担保することが必要である。このため、養成、採用においては、その取得について留意すべきである。特に現職教員については、免許法認定講習の受講促進等の取組を進めるとともに、その後も研修を通じた専門性の向上を図ることが必要である。 ○特別支援学級や通級による指導の担当教員は、特別支援教育の重要な担い手であり、その専門性が校内の他の教員に与える影響も極めて大きい。このため、専門的な研修の受講等により、担当教員としての専門性を早急に担保するとともに、その後も研修を通じた専門性の向上を図ることが必要である。 ○「共生社会」とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害のある者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会であり、学校においても、障害のある者が教職員という職業を選択することができるよう環境整備を進めていくことが必要である。 |
○インクルーシブ教育システム構築のため、すべての教員は、特別支援教育に関する一定の知識・技能を有していることが求められる。特に発達障害に関する一定の知識・技能は、発達障害の可能性のある児童生徒の多くが通常の学級に在籍していることから必須である。これについては、教員養成段階で身に付けることが適当であるが、現職教員については、研修の受講等により基礎的な知識・技能の向上を図る必要がある。
○「合理的配慮」については、特別支援教育に関わる教員の専門性として位置付けていくことが必要である。まず、これを特別支援教育に関わる教員が正しく認識して取り組むとともに、すべての教員が認識することが重要である。
○発達障害も含め、それぞれの障害種について、中心となる担当教員を任命権者が研修その他の支援により計画的に育成していくことが必要である。
○特別支援学校の教員については、特別支援教育の専門性を更に高めるとともに、教科教育の専門性をもバランス良く身に付けることが重要である。特に中等教育においては、教科担任制であることに留意する必要がある。
○すべての教員が多岐にわたる専門性を身に付けることは困難なことから、必要に応じて、外部人材の活用も行い、学校全体としての専門性を確保していくことが必要である。
○現場での意識改革、指導方法の充実、人的・物的な環境整備、校長をはじめとする教員の指導力の向上(特に、特別支援教育についての専門性や多様性を踏まえた学校経営・学級経営といったマネジメント能力)等を総合的に進める必要がある。
○小・中学校においては、特別支援学級担当教員の多くは通常の学級と特別支援学級を行き来するので、長期間にわたり専門性を維持することが難しい。このため、特別支援学級等に配置した教員の異動について、学校全体の専門性の確保の観点からの配慮を行うことなども考えられる。また、特別支援学級等の担当教員の研修についても、例えば、特別支援学校を経験した教員が、特別支援学級等の担当教員に対し日常的なOJT(On the job training、職場内研修)で経験や知見を伝授する機会を設けるなど、設置者や学校長のレベルにおいて創意工夫を行うことが重要である。また、このような観点からも、特別支援学校と特別支援学級の間の双方向の人事交流を積極的に行っていくことは大きな意味がある。
○小・中学校等の特別支援教育担当教員は、特別支援教育の重要な担い手であり、その専門性が校内に与える影響は大きいことから、特別支援学校との人事交流等により特別支援教育の中核となる教員を養成するとともに、障害のある子どもの教育的ニーズや学校の状況に応じ、それらの人材を各学校に配置するなどの人事上の配慮を行うことが考えられる。
○特別支援学校においては、学校として障害種ごとの専門性を確保していくことを考慮した上で、同一校における校長をはじめとする教員の在職年数の延長など弾力的な人事上の配慮を行うことも考えられる。一方で、各個人に着目すると教員採用後早い段階で、障害の重度・重複化に対応し複数の障害種の特別支援学校を経験させるため、教員の在職年数を短くすることを人事上の配慮として行うことも考えられる。
○特別支援学校における特別支援教育コーディネーターについては、校内委員会・校内研修の企画・運営、関係諸機関・学校との連絡・調整、保護者からの相談窓口に加え、前述した特別支援学校のセンター的機能を果たすため、その専門性の確保が期待される。特に、センター的機能を十分に果たすためにも、特別支援学校における特別支援教育コーディネーターが複数指名されるとともに、その機能強化のための人的措置が重要である。
○幼・小・中・高等学校等における特別支援教育コーディネーターについては、校内や地域の関係者、関係機関と効果的に連携する力が求められるが、それだけでなく、学校全体の教員の資質能力の向上に指導的な役割を果たすことも期待されることから、その専門性を高めるための方策について、今後検討していく必要がある。また、コーディネーターによる継続した支援や学校における専門性確保のためには、コーディネーターの複数指名が重要である。
○全国的な特別支援教育の質の向上を図るため、特別支援教育のナショナルセンターである独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が実施する研究事業、研修事業、情報普及事業等を一層推進していく必要がある。また、インクルーシブ教育システム構築のための各教員の専門性の向上について、研修事業の実施や現在実施している研究の成果を普及させていくことが必要である。さらに、各大学における取組を国立特別支援教育総合研究所が支援するとともに、関係者に情報提供していく必要がある。また、通信制大学等においても、特別支援学校の教諭免許状の取得に活用できる科目が開設されており、それらの更なる充実・活用が求められる。
○学校全体としての専門性を確保していく上で、校長等の管理職のリーダーシップは欠かせない。また、各学校を支援する、教育委員会の指導主事等の役割も大きい。このことから、校長等の管理職や教育委員会の指導主事等を対象とした研修を実施していく必要がある。
○教員の資質を向上させるために重視すべきは、校長等の管理職の資質向上を図ることである。管理職の特別支援教育に関する認識、マネジメント力、リーダーシップの発揮が重要であり、これらに資する研修が実施されるべきである。
○教育委員会の指導主事の専門性も重要である。教育委員会の指導主事が、発達障害についての理解が十分ではない場合がある。学校を指導する指導主事が特別支援教育について十分理解していなければ、適切な指導が行き渡らない。指導主事の研修を徹底している自治体や特別支援教育の担当指導主事と連携しながら発達段階に応じた子どもの問題行動の理解に取り組んでいる自治体を参考にするなどして、指導主事に対する効果的な研修を実施すべきである。教育委員会全体で、特別支援教育についての理解が十分なものとなるよう、研修を行っていくことが望ましい。
○特別支援教育の更なる推進のためには、すべての教員が特別支援教育についての基礎的な知識及び技能を有する必要がある。現在は、教員養成段階において、特別支援教育に関する内容を含む科目を単位修得することになっているが、特別支援教育に特化した科目は必修となっていない。現行制度下でも、特別支援教育についての科目の履修を推奨するとともに、将来的には、必要な単位数を決めて、必修とすることも考えられる。(参考資料26:特別支援教育に係る教育職員免許状について)
○発達障害に関しては、すべての教員が養成段階で学ぶ仕組みづくりが必要である。また、ぜん息や食物アレルギー等の子どもが増加傾向であることを踏まえ、養護教諭と連携しつつ、健康状態の把握や対応についても学ぶべきである。
○都道府県や市町村における特別支援教育に関する研修をすべての教職員を対象として実施することが重要である。そのため、教育委員会が主催する研修の実施に当たっては、教職員が研修を受けやすい環境づくりを行うことが必要である。また、国・私立学校関係者や保育所関係者も受講できるようにすることが望ましい。(参考資料27:教員の特別支援教育に関する研修の受講状況)
○すべての教職員が最低限身に付けていなければならない特別支援教育の基本的な知識・技能を、経験年次別研修等を通して、身に付けられるようにしていくべきである。また、免許状更新講習における講義内容等に明確に位置付けて実施することも考えられる。
○校内研修等での教職経験豊かな教員を中心とした教員間の学び合いや支え合いにより、学校内で専門的知識・技能等を受け継いでいくことが重要である。文部科学省が進めてきた「特別支援教育体制整備事業」においては、各学校の様々な課題について、特別支援学校や特別支援教育センターが助言、協議する校内研修を支援している。なお、これらの校内における研修は重要であるものの、OJTだけでは、体系的な知識が身に付かないことから、人事交流等何らかの形で特別支援教育に携わる機会を設けるなど研修と実践を効果的に組み合わせることが適当である。(参考資料28:特別支援教育体制整備の推進)
○学生の段階で継続的に学校における特別支援教育を経験することは、実践的指導力を身に付けるという観点から効果がある。また、親の会等の障害者関係団体、NPO等が開催するキャンプ等に参加することは、障害のある子どもの状況を理解できるようになるという効果がある。これらの活動に学生が参加することについて、単位を付与するなど、各大学の養成課程において活用することを検討することも考えられる。さらに、教員養成段階において、聴覚障害の学生がいると学生は手話を覚え、視覚障害の学生がいると点字を覚え、肢体不自由の学生がいれば介助の方法を理解するなど、それぞれ支援を通じて周囲の学生の理解が深まる、といった効果が期待できる。
○特別支援学校教員の特別支援学校教諭免許状(当該障害種又は自立教科の免許状)取得率は約7割となっており、特別支援学校における教育の質の向上の観点から、取得率の向上による担当教員としての専門性を早急に担保することが必要である。このため、養成、採用においては、その取得について留意すべきである。特に現職教員については、免許法認定講習の受講促進等の取組を進めるとともに、その後も研修を通じた専門性の向上を図ることが必要である。研修と実践を通じた授業力の向上を期待する。(参考資料29:特別支援学校教諭免許状の保有状況)
○特別支援学校の教員は必ず特別支援学校教諭免許状を保有するという方向で進めるべきである。そのため、保有率の計画的な引上げの方策として、同免許状を保有せずに特別支援学校に勤務することとなった教員には、数年内に保有させるなどの方針を教育委員会が明確にすべきである。また、そのために必要な環境整備や免許法認定講習が最優先で受けられるような配慮が必要である。さらに、専門性向上のため、地域の関係機関との連携による研修、大学等との研修を実施していくことが重要である。なお、大学の教員養成課程が限られている障害種についての教員養成の在り方についても、今後検討する必要がある。
○障害者の言語・コミュニケーションの手段の習得や補装具等について知識を身に付ける研修の充実を図るとともに、そのための教材の充実を図っていく必要がある。また、教員養成課程で学ぶ学生に対して、手話、点字、指点字、触手話といったコミュニケーション方法について教えることについて充実を図ることも考えられる。
○特別支援学校教諭免許状については、教員養成課程において必要な専門性を確保するために、教員の資質能力向上特別部会における議論を踏まえて検討していく必要がある。
○特別支援学校の特別支援教育コーディネーターについては、センター的機能の中心として、幼・小・中・高等学校等への支援を念頭においた発達障害についての知識・技能や実態把握の方法、関係機関との調整役としての障害者福祉・障害者雇用の制度に関する基本的な知識を身に付けることが必要である。
○特別支援学級や通級による指導の担当教員は、特別支援教育の重要な担い手であり、その専門性が校内の他の教員に与える影響も極めて大きい。このため、専門的な研修の受講等により、担当教員としての専門性を早急に担保するとともに、その後も研修を通じた専門性の向上を図ることが必要である。
○特別支援教育に関する免許状や特別支援学級担当教員免許状の創設を求める意見もあるが、教員の資質能力向上特別部会の議論も踏まえつつ、中長期的に論議することが必要である。特別支援学級や通級による指導の担当教員が現在の特別支援学校教諭二種免許状を保有していることが望ましいが、短期的に保有率を大幅に引き上げることは難しい。このため、同免許状取得を奨励しつつも、現在早急に必要とされているのは、特別支援学級や通級による指導の担当教員としての専門性を担保することである。
○担当教員としての専門性を担保するため、新たに担当教員となった者を対象とした研修を都道府県教育委員会等が年度当初に実施することが考えられる。教員の資質能力向上特別部会で議論されている「一般免許状(仮称)」の詳細な制度設計の際に、このような専門性を担保するための内容について、教員養成段階においてあらかじめ学ぶことについても検討する必要がある。また、年度当初の研修終了後も、例えば、授業研究の指導ができる退職教員を講師として研修を実施して専門性を向上させるといった取組が必要である。担当教員の配置の際は、地域全体の専門性の確保の観点から、その中核を担う担当教員については人事異動上の配慮を行うことが適当である。さらに、各学校において新規採用された教員一人のみを担当としないことが適当である。
○経験のあるコーディネーターと新任のコーディネーターが少人数で研修を行うことにより、経験や情報・知見を共有し、新任者の専門性を高め、具体的に校内の分担を決めたり、学校組織を動かせるようになったり、多様な関係者をコーディネートすることができるようになることが望ましい。例えば、地域のネットワークの中で効果的な支援ができるような調整能力の向上のための研修を実施することに加えて、専門的な知識・技能についての研修を実施することが重要である。
○特別支援教育コーディネーターは、障害のある児童生徒等への支援として、教育分野のみならず、医療、福祉等多様な行政サービスがあることを把握した上で、その対象児童生徒等の状況に応じてコーディネートができることが重要である。このため、事例研究的に障害のある者の立場や多様な関係者の声を聞き、ケースカンファレンスを行う研修が有用であり、このような取組が教育委員会と首長部局の連携の中で進められるべきである。
○特別支援教育支援員の資質向上を図るため、各教育委員会は、研修を計画的に実施するとともに、これまでの研修成果等を踏まえつつ、特別支援教育支援員の研修カリキュラムを検討し、採用時研修やフォローアップ研修を実施することが必要である。(参考資料30:特別支援教育支援員について)
○「共生社会」とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害のある者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会であり、学校においても、障害のある者が教職員という職業を選択することができるよう環境整備を進めていくことが必要である。
○児童生徒等にとって、障害のある教職員が身近にいることは、障害のある人に対する知識が深まるとともに、障害のある児童生徒等にとってのロールモデル(具体的な行動技術や行動事例を模倣・学習する対象となる人材)となるなどの効果が期待される。このため、特別支援学校をはじめとする様々な学校においては、障害のある者の教職員が配置されるよう、採用や人事配置について配慮する必要がある。併せて、学校においては、教職員の障害の特性等に考慮し、職務遂行に必要な支援を行う必要がある。
○助け助けられる、教え教えられる、といった関係は、双方向で立場が相対化されるインクルーシブな人間関係であり、児童生徒間で見られる関係であるが、障害のある教員は、その関係に自ら自然に参画し実践する役割を果たすことができる。
○高等教育の教員養成課程において、入学者選抜時の配慮も含めて、障害のある学生のための環境整備が行われることが望まれる。そのため、高等教育においても、「合理的配慮」についての普及啓発が行われていくことが望ましい。
初等中等教育局特別支援教育課
-- 登録:平成24年07月 --