ゴールデンウィークで世の中が明るいなか、暗闘がまた繰り広げられていたことをご存知でしょうか。「産経新聞VS朝日新聞」、そして「安倍晋三VS朝日新聞」です。

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 まず私が熟読してしまったのは『憲法記念日には産経を読もう 論説副委員長・沢辺隆雄』(5月3日)というコラムでした。冒頭から朝日ネタ。産経の論説副委員長は以前に他紙の先輩から「日教組の先生は、朝日と週刊プレイボーイしか読んでいない」と教えられたという。


朝日新聞東京本社 ©iStock.com

《本当かと思ったが、教員が朝日好きなのはたしか。プレイボーイはグラビアが目当てというより、時事ネタなどを青少年向けに分かりやすく扱っているから、らしかった。》

 そのあと、

《いずれにしろ先生が世間知らずなことは、昔から教育関係者が認めることではある。》

 バッサリ。朝日憎しのあまり巻き添えを食らうプレイボーイ!

 最後は《学校では自ら学び、考える力が重視されるようになった。だが考える力を支える土台の大切さは忘れがちだ。先生こそ産経を読み、世間を学んでほしい。》と自画自賛で終わる。

 ここで発売中のプレイボーイを確認してみた。すると特集で《「ジャーナリズム」とは何か?》が組まれていた。テレビ朝日のキャスターだった富川悠太氏が4月から「トヨタ所属のジャーナリスト」となったと公式サイトで報告したことに対し、それは広報だろというツッコミが各所で起きた。プレイボーイはこの際「ジャーナリズム」とは何かを考えたのである。かなり読みごたえがあった。産経の論説副委員長も読んだほうがいいと思う。

 今回のポイントを押さえておきたい。私は以前から産経新聞を擬人化すると「朝日を嫌いすぎて、朝日新聞を最も熟読しているおじさん」と例えていた。そして当の朝日は産経に何を言われても相手にしないのだ。ツンツンした態度をとるのがさらに産経を苛立たせる。

安倍元首相の“やらかし”ツイート

 産経記者による朝日熟読ネタはこの数日前にもあった。4月26日に産経の阿比留瑠比記者がツイッターで、朝日の森友問題についての記事に言及したのだ。ハイライトはここから。安倍晋三元首相がこのつぶやきを引用し「相変わらずの朝日新聞。珊瑚は大切に。」(4月26日)とツイートしたのである。

 産経に何を言われても相手にしない朝日に対し、たまに安倍氏が産経側について朝日叩きを一緒に「熱唱」する。ものまね番組の本人登場みたいな展開なのです。

 ここでいう安倍氏の「珊瑚は大切に」は1989年に朝日新聞のカメラマンが起こした珊瑚事件のことだろう。沖縄の珊瑚に「KY」という文字が落書きされていたと朝日は報道。環境破壊を憂いた記事だったがその文字を書いたのはカメラマンだった。捏造が発覚して大騒動となり当時の朝日社長は辞任。つまり安倍氏は「珊瑚」を持ち出すことで朝日の森友記事も「捏造」と言いたいのだ。そう読める。

 これに関してはジャーナリストの相澤冬樹氏が日刊ゲンダイで、

《朝日の社説は、日本記者クラブで行われた赤木雅子さんの会見で、改ざんと土地売買の関係性を見据えての発言があったと伝える内容でした。それを「捏造」呼ばわりするのは、昭恵さんの存在が土地取引での特別扱いを招き、公文書改ざんへとつながったという事実を“なかったこと”にする“やらかし”ツイートと言わざるを得ません。》(5月7日)

 と書いていた。安倍元首相の“やらかし”ツイートというパワーワード。

「桜を見る会」をめぐる因縁も

 さらにGW中、今度は安倍氏の「桜を見る会」夕食会(前夜祭)に注目が再度集まった。夕食会の費用を安倍氏側が補填した問題で、東京新聞の請求で開示された配川博之元公設第一秘書の刑事確定記録から「安倍氏と秘書 矛盾次々」(5月3日)と一面で報じられたのだ。

 その3日後、今度は朝日新聞も同様の供述調書などを閲覧したことを報告。秘書らが、夕食会の費用の補填は選挙区内での違法寄付にあたると問題視されることを懸念して意図的に収支報告書への記載を避けたと供述していたことが分かった、と報じた。

 ここで面白かったのは「そのまま収支報告書に載せればマスコミにも取り上げられ、シビアな問題になる」という秘書らの懸念だ。秘書が供述で言及していたのは「12年秋の朝日新聞の記事」だった。

《安倍氏が代表の自民党山口県第4選挙区支部がキャバクラなどでの飲食代を政治資金で支払ったという内容で、「安倍も激怒して配川を厳しく叱責した」という。》

 ああ、12年秋にも「安倍晋三VS朝日新聞」がおこなわれてた。それに懲りた秘書らはきちんと対応を協議することなく「互いに相手に任せるような形」になって放置されたという。

 5月7日、朝日は社説で『「桜」費用補填 安倍氏の口から説明を』と書いてきた。朝日は安倍氏の供述調書の閲覧も求めたが許されなかったという。朝日社説を熟読している安倍&産経が目に浮かぶ。これからどんな「反撃」があるのだろう。

 ちなみに私は2年前の当コラムで当時の安倍首相と菅義偉官房長官についてこんな感想を書いている。

《そういえば「桜を見る会」の前夜祭の補填の件で、安倍事務所の秘書の言うことをずっと2人とも「信じていた」というのも、本当だとしたらこちらのほうがずっとマズい。このツートップがプーチンや習近平やトランプやバイデンらとどんな話をしてきたのか、これからしていくのか、国益が気になるのである。》

 安倍氏はもしかしたら「人を信じやすい」のかもしれない。過去の言動をもう一度検証してみる必要性も思えてきた。

安倍元首相は「朝日に勝った」宣言、嬉しそうな産経師匠

 それにしても「安倍&産経VS朝日」の歴史は長い。

 ドナルド・トランプがアメリカの大統領選に勝利した2016年秋。ニューヨークのトランプタワーでの初会談で軽くゴルフ談議をした後、安倍氏はこう切り出したという。

《「実はあなたと私には共通点がある」

 怪訝な顔をするトランプを横目に安倍は続けた。

「あなたはニューヨーク・タイムズ(NYT)に徹底的にたたかれた。私もNYTと提携している朝日新聞に徹底的にたたかれた。だが、私は勝った…」

 これを聞いたトランプは右手の親指を突き立ててこう言った。

「俺も勝った!」

 トランプの警戒心はここで吹っ飛んだと思われる。》

 これは産経新聞の記事である(2017年2月11日)。一国のトップが「メディアに勝った」と言い、それを伝える産経師匠もうれしそう。しかしそのあとも“迷勝負”は続く。今後もこの攻防を、私はよだれを垂らして見守っていきたい。

(プチ鹿島)