Thread

Conversation

「昔、昔、太秦で」 大学生が東大安田講堂に籠城していた1968年11月、京都・太秦の東映撮影所は近くクランクインする映画のことで持ち切りだった。それは日本が誇る世界の黒澤明の「トラトラトラ!」。黒澤との仕事に興奮する者がいる一方、東映の時代劇を潰した奴と言って反感を持つ者もいた。
Image
15
220
380
②藤純子は悩んでいた。この年の9月、主演作「緋牡丹博徒」が好評を博し、早速、第二作が製作されることになったのだが、父であるプロデューサーに言われ、片肌とは言え肌を晒したことを悔いていたのだ。数年前、出会い、恋に落ちた歌舞伎役者に申し訳がないと感じていた。
1
30
68
③第2作でも片肌を晒せと言われいる。やりたいと思って始めた女優業だが、もう辞めて、彼と結婚してしまおうか?しかし彼女にはじっくり考える時間がない。答えが出ない彼女は今日も半裸になってコーラの瓶を壁に叩きつけるのだった。
1
29
63
④撮影所所長、岡田茂は悩んでいた。次期社長は暴君として社員に嫌われている現社長の息子に決まりそうだ。今、独立して製作プロを設立しないかという話が来ている。東映に残っても間に挟まれるだけ。だが自分を慕っている部下たちを見捨てられるのか?答えの出ない岡田は今日も猥談に耽るのだった。
1
30
64
⑤松方弘樹は悩んでいた。岡田のアドバイスで東映を離れ、同じ太秦にある大映撮影所で主演作を撮影しているのだが、大映側から完全移籍の話が来たのだ。デビューから所属した東映には上がつかえて、自分の居場所がない。この期に新天地に飛び出すか?答えの出ない松方は今日も女を抱くのだった。
1
30
67
⑥黒澤明は悩んでいた。ハリウッドとの合作も初めてなら、太秦撮影所に来たのも初めて。果たして望むような仕事が出来るのか?また黒澤プロのプロデューサーはハリウッドとの契約書を見せてくれない。自由にやれると彼は言うのだが、不安が募るばかり。答えの出ない彼は今夜もブランデーを痛飲する。
1
30
66
⑦若山富三郎は怒っていた。黒澤組のキャストが尊敬する大スター、片岡千恵蔵の専用控室を使うというのだ。しかも使うのは役者ではなく山本五十六役のある会社の社長。黒澤明に撮影所の仁義を教えてやらねば。若山は羊羹を食べながら「若山一家」と呼ばれる大部屋俳優たちと方法を考えるのだった。
1
33
68
⑧12月2日、「トラトラトラ!」の撮影が始まった。しかし勝手の分からぬ東映での製作、アメリカ側からの圧力、若山一家の嫌がらせのため黒澤は精神的に追い詰められていった。そしてクランクインから三週経った24日、製作が中断する事態になってしまう。それまでに黒澤が撮ったのは数シーンのみ。
2
31
67
⑨果たして黒澤明は再起出来るのか?藤純子は引退するのか?松方弘樹は大映に行くのか?岡田茂は独立するのか?若山富三郎の怒りは収まるのか?そして黒澤明の「トラトラトラ?」は完成するのか?東映と東宝、日本とアメリカ、義理と人情、恋と仕事。様々な対立の中、「昔、昔、太秦で」歴史が変わる!
1
30
63
「昔、昔、太秦で」イマジネーションが暴走して長くなったので、6日に分けてツイートします。 ウィキペディアで映画「トラトラトラ!」の項目を読まれることをお勧めします。 では
Image
1
11
40
2-1佐藤純彌は怒っていた。「トラトラトラ」の第二班監督として北海道で撮影していたのだが、黒澤明が倒れたとの報を聞き、急遽、京都に戻ってきたのだ。黒澤入院の原因は若山富三郎とその一派の執拗な嫌がらせらしい。スターだからと言って、そんなことが許されるものではない。
1
13
38
2-2若山富三郎は面食らった。佐藤純彌が言う黒澤への嫌がらせの中には身に覚えがないものがあるのだ。黒澤をヤジったのは若山一家だが、照明機材を落としたりなんぞはしていない。そもそも始めたのは黒澤に撮影所のしきたりを教えるためなのだ。
Image
1
14
41
2-3佐藤純彌は若山富三郎を睨みつけた。この男、自分がしでかしたことが分かっていない。ラチがあかないと思った佐藤は若山にこれまで黒澤が撮った「トラトラトラ!」を見せることにした。「あんたはこれをつぶそうとしているんだぞ」。嫌がる若山を試写室に連れて行った。
1
12
38
2-4鈴木則文は申し訳ないと思っていた。自分が監督した緋牡丹博徒第二作「一宿一飯」の公開記念の舞台挨拶を藤純子に頼んだのだ。彼女が新人の頃、学校の送り迎えをした仲だった。普通なら軽い気持ちで声をかけるのだが、今の彼女は忙しすぎる。しかし藤純子は鈴木のためならと快く承諾してくれた。
Image
1
13
34
2-5松方弘樹は悔しがっていた。来年の2月、菅原文太が主役に昇格するというのだ。デビューからずっと東映で頑張っている自分が外からやってきた者に抜かれたのだ。やはり東映には自分の居場所はない…。
1
11
34
2-6若山富三郎は呆然とした。「トラトラトラ!」のラッシュ・フィルムに心を打ちのめされたのだ。こんな素晴らしい演出を、それも素人を使って出来る監督にわしはなんて事をしてしまったのだ!詫びねば。黒澤監督に詫びねば!若山は佐藤と共に黒澤の病院に向かった。
1
10
38
2-7若山富三郎は黒澤明に面会を拒否された。代わりに黒澤の助手、松江陽一に謝罪し、黒澤が現場復帰した暁には自分が命の限り、力になると誓った。しかし松江によると黒澤の復帰は難しいという。実際に佐藤には代理監督の依頼が非公式に来ているという。
1
11
35
2-8「どういうことだ!黒澤先生抜きの『トラトラトラ!』はありえない!」。若山は怒った。松江が言うにはハリウッドは監督がスケジュール通りに撮影出来なくなると解雇されるのが決まりだそうだ。問題は製作遅延のデッドリミットが何日なのか、松江も佐藤も、それどころか黒澤も分からないのだ。
1
12
35
2-9ハリウッドとの契約書にそのデッドリミットが記載されているはずなのだが、プロデューサーの青柳哲郎がなぜか契約書を誰にも見せないのだ。契約内容が分かれば、手の打ちようがあるのだが…。「青柳って野郎はどこに住んでんだ?」若山富三郎の現実は映画と化した。(続く)
4
13
39
3-1岡田茂は腹を立てていた。映画各社が集まるパーティーに来ているのだが、他社の連中は今回、黒澤明の騒動について「東映みたいなところで撮ったからだ」とか「やくざやエロで日本映画を潰し、今度は世界の黒澤を潰した」とか言っているのだ。そんなのわしが知るか?こっちはステージ貸しただけだ。
Image
Replying to
3-2そこへ大映社長、永田雅一と共に松方弘樹か近づいてきた。高校生の頃から知っている松方は何やら神妙な顔をしている。永田は松方を大映に移籍させたいので、岡田の了承が欲しいと言ってきた。ショックを受けた岡田は回答を後日伝えると言うことしか出来なかった。
Image
1
8
31
3-3青柳哲郎は黒澤の入院を祝っていた。全ては彼の策略だった。若山一家の嫌がらせに乗じて、それ以上の嫌がらせを行い、黒澤を追いつめて行ったのだ。ハリウッドから撮影管理のために派遣されてきたスタンリー・ゴールドスミスと撮影初日に黒澤に怒られたことを怨む助監督の一人も協力していた。
Image
1
6
34
3-4青柳はこれまで黒澤の映画作りに参加したこともないばかりか、映画製作に携わったこともなかった。そんな男が日米合作、それも世に聞こえる黒澤組のプロデュースを行えるはずがない。しかも黒澤からは契約書を見せろと催促されていた。しかし青柳は契約書を見せる訳にはいかなかった。
1
6
26
3-5なぜなら契約書には黒澤が到底受け入れられないいくつかの条項があったのだ。もしそれを黒澤が知ったら、自ら監督を降板すると言い出すに違いない。そうなれば20世紀フォックスから黒澤プロに多額の違約金を請求されてしまうだろう。
1
5
27
3-6そこで黒澤の性格を知っている青柳は自分と同じにように責任追及を恐れているゴールドスミスと組んで、黒澤を精神的に追い詰めていったのだ。そして入院を口実に「アクト・オブ・ゴッド/神の御技」で黒澤は精神的な病気を患ったとして、降板させる。全ては不可抗力だ。
1
6
27
3-7これならばフォックス側に彼らの責任を追及されることはない。その後は別の監督を雇い、映画を完成させるだけだ。青柳はアソシエート・プロデューサーとして製作に残り、ハリウッドへの足がかりが出来る。
1
5
27
3-8また青柳は黒澤に黙ってハリウッドとの契約書に“脚本監修”として報酬が得られるようにもしていた。黒澤の脚本が使われる限り、自分に報酬が支払われる。実は青柳は以前にも過去の黒澤脚本の出版権を海外に売る時に似たことを行なって私益を得ていたのだ。
1
6
28
3-9青柳の目論見通りに進んだ。その時、部屋のチャイムが鳴った。誰だろう、今時分。青柳が扉を開けると、そこには鬼の形相の男が立っていた。男は言った。「あんたが青柳やな?黒澤先生の契約書、見せてもらおうやないか」。今、地獄の門が開いた。
Image
3
7
39
4-1若山富三郎は松江と佐藤の所に帰ってきた。右手には契約書、左手には青柳の首根っこを掴んでいる。ことの真相を知った松江は契約書を調べる。そこには10日間、撮影スケジュールが遅れれば、黒澤は降板させられると記されていた。すでにそのデッドリミットは過ぎている。
1
6
28
4-2「もう終わりなんだよ」と顔を腫らせた青柳は笑いながら言った。明後日、20世紀フォックスからダリル&リチャードのザナック親子とエルモ・ウィリアムズが来日し、最終決定のミーティングが行われるのだが、フォックス側は“黒澤解雇”と決めているという。
1
6
29
4-3フォックス側の腹積もりは製作プロダクションを三船敏郎率いる三船プロにし、監督には市川崑か小林正樹、彼らに断られたら岡本喜八を据えるつもりだそうだ。まだ三船にも三人の監督にも了承を貰っていない。しかし黒澤の再登板の可能性はほぼ残っていないのは事実だ。
1
5
29
4-4松江陽一は絶望感に包まれた。これで黒澤明の映画監督生命は終わりだ!一体どうすれば…。その時、若山は言った。「松江はん。わしは一人、力になってくれる人を知っとります」。若山が誰のことを言っているのか悟った佐藤は松江に向って大きく頷いた。
1
6
29
4-5翌日、岡田茂は他の映画会社の連中の陰口を思い出していた。あんな言われようをされるのも東映だ。自分がどんなに手腕を発揮してもヤクザ映画ばかり作っている会社にいる限り世間は認めようとしないだろう。岡田は独立する決心を固めた。その時、撮影所長室に若山富三郎と佐藤純彌が面会にきた。
1
5
29
4-6若山富三郎は失望した。岡田茂から何の手助けも得られなかったのだ。事情を話したのだが、他人事のような冷たい対応しかしてくれなかった。自分たちが最も信頼している人物だったのに…。若山はフォックスの連中のミーティングに殴り込んで、ぶち壊してやらんと気がすまんと思い始めていた。
1
5
29
4-7京都撮影所製作部長、高岩淡は岡田茂が東映を辞めようとしていることに心を痛めていた。あの人がいなくなれば、東映は終わりだ。全社員、全大部屋俳優、全スタッフがそう思っている。岡田を呼んだ今夜の忘年会でみんなの気持ちを伝えよう。それで岡田が翻意してくれなければ…。
1
6
29
4-8高岩淡は岡田茂が忘年会の席につくといきなり、「岡田さんは東映を辞める!みんなどう思う」と言った。監督、プロデューサー、スタッフ、役者ら300人に及ぶ東映関係者が集う場は沈黙に包まれた。しかしそれも一瞬、彼らは口々に岡田の翻意を求めた。中には泣き出す者までいた。
1
6
28
4-9岡田茂は目頭が熱くなった。こんな多くの仲間を見捨てる訳にはいかない。これまでもこれからも彼らと共に映画を作っていくぞ。「俺は東映に残る。そしてみんなと日本で一番、世界一の映画会社にしようじゃないか!」。宴会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
2
6
29
4-10岡田茂は悩んだ。確かに今、東映は興行面では日本でトップだが、実際は先日のパーティーの時のように老舗の映画会社からはバカにされている。その評価を覆して、世界に打って出る策とは?その時、岡田は気づいた。これまでのように誰もやらない映画ではなく、誰にも出来ない映画を作ればいいのだ。
1
6
32
5-1松江陽一はザナック親子とエルモ・ウィリアムズらに青柳哲雄らの行為を説明していた。撮影の遅延も黒澤の入院も仕組まれたことであり、解雇という決定を再考して欲しいと訴えた。しかしザナック側は撮影スケジュールを守る保証がない限り黒澤の復帰は認められないと譲らない。
Image
1
6
28
5-2松江は言葉を詰まらせた。昨夜、回復した黒澤に面会したのだが、療養が創作意欲を刺激したのか、アメリカ班の撮影部分も気に入らなければ自らで撮り直すとまで言い出している。自分の力でそんな黒澤を抑えることが出来るのだろうか?その時、会議室の扉が勢いよく開いた。まさか若山さんが!
Image
1
6
29
5-3ダリル・ザナックはいきなり入ってきた男に驚いた。日本人には珍しい大柄で目つきが厳しい。男は東映京都撮影所所長、岡田茂と名乗った。今後の『トラトラトラ!』の製作は撮影所も他人事ではないので同席させろという。その言葉はダリルに思わず、参加を認めさせる迫力があった。
Image
1
6
29
5-4エルモ同様驚いている松江に岡田は耳打ちした。「佐藤純彌から話を聞いた。ここは私に任せろ」と。そしていきなりダリルたちに向って、三船プロではなく東映に製作を任せれば、黒澤にスケジュールを守らせ、予算内にそちらの納得いくものを作ってご覧にいれると宣言した。
1
6
29
5-5エルモは岡田に怒った。突然、この場に現れて、この男は何を言っているのだ。狂人か?しかし岡田は全く動じず、滔々と話を続ける。東映の歴史に始まり、年間156本という日本で最多の映画製作を指揮し、一度たりとも公開スケジュールに穴をあけたことがない岡田自身のことなどを語った。
Image
1
6
30
5-6ダリルたちは岡田の話に圧倒された。しかしこの場で軽々しく判断するわけにはいかない。岡田と東映のことを調べてから解答したいと言った。これを予想していた岡田は、ある映画のフィルムを持ってきていた。それは岡田26歳の時の初プロデュース作である戦争映画「きけ、わだつみの声」だった。
Image
1
7
30
5-7松江陽一は半信半疑だった。岡田茂がザナック側に黒澤明の監督続投を認めさせたのだが、その案が黒澤を総監督とし、重要なシーン以外は別の監督たちに撮らせるというものだったのだ。そんなこと、あの黒澤が認めるとは思えない。岡田は「黒澤が絶対に断れない申し出をする」と言うのだが…。
1
5
30
5-8内田吐夢は黒澤を訪ねていた。岡田茂から『トラトラトラ!』の件で黒澤の説得を依頼されたのだ。岡田とは『血槍富士』の頃から懇意で、『飢餓海峡』の短縮問題の時も助力してくれた。今、その時の恩義を返してやろう。黒澤に『トラトラトラ!』の岡田との協働を受け入れさせるのだ。
Image
1
6
31

New to Twitter?

Sign up now to get your own personalized timeline!
Sign up with Apple
Sign up with phone or email
By signing up, you agree to the Terms of Service and Privacy Policy, including Cookie Use.

Trending now

What’s happening

Sports
LIVE
東京六大学野球2022春季リーグ戦⚾️第7週
News · Trending
交際中の女子生徒とわいせつ行為
News · Trending
本人告白
Trending with 青汁王子
時事メディカル
May 19, 2022
なぜ医療ドメインへの進出は難しいのか?~医療AI開発と事業展開を阻むもの~
World news
LIVE
ウクライナから国外に避難 600万人超える