1967年に公開された東映製作の日本映画『大奥(秘)物語』(主演・佐久間良子、藤純子、岸田今日子 監督・中島貞夫)は、江戸城大奥を舞台に、女たちのドロドロした人間ドラマを3部構成で描く時代劇です。特筆すべきは、男性上位の時代劇史のなかでも女性中心の企画で、その年の日本映画配給収入で10位の大ヒットを記録します。

 この映画の元のタイトルは『大奥物語』でした。当時、京都撮影所所長兼プロデューサーだった岡田は、このタイトルでは記録映画や歴史文芸作品のように思われてしまい、地味でヒットしないと考えました。「男子禁制の大奥の世界を覗き見る」という隠微さが必要だと考えたのです。そこで「大奥」と「物語」の間に(秘)という文字を入れることを思いつきました。この、○の中に秘という字を入れる、いわゆる(秘)マークは岡田が考え出したもので、その提案を受けたとき、中島監督は衝撃を受けたといいます。

 たった1文字の違いですが、インパクトがあり、タイトルが急にキラキラッと光った感じがしたからです。実際、その効果は絶大でした。誰もが見たことがない世界を覗き見たくなった観客たちが押し寄せたのです。今ではTV番組のタイトルや週刊誌の見出しなど普通に(秘)は使われていますが、この映画の大ヒットから使われるようになったのです。

 岡田がタイトルをつけて大ヒットした映画に、藤純子主演の『緋牡丹博徒』シリーズがあります。緋牡丹の刺青を背負った女ヤクザ「緋牡丹のお竜」が、義理と人情のしがらみのなかに生き、不正には身をもって立ち向かっていくという内容です。

 もともと岡田が企画して『女狼』というタイトルで脚本が書かれていました。その後、『女博徒緋牡丹お竜』と変更されましたが、岡田がタイトル会議で「緋牡丹博徒」とマジックペンで大きく書き「これにしよう」と押し切ったといいます。

 岡田は自身の著書でこのタイトルについて次のように解説しています。

「『緋牡丹博徒』はタイトルが成功した。『緋牡丹』と『博徒』、タイトルの前半と後半がまったく合わない言葉を組み合わせるのがコツ。普通に考えれば合いやせんよ。それを一緒にして『緋牡丹博徒』と言うと人が目をつけるんだ。『美女と野獣』みたいなもんだよ」