ありがとうございます。今後ともどうぞです。
この回が終わったら、若干日常挟んでから体育祭編をやりたいですね。
昼休みの屋上。今日も今日とてAfterglowのメンバーと一緒に昼食をとっていた。
「今日は珍しく授業中眠たそうだったな、美竹」
「は? なに見てんの」
「見えたんだよ。あれだけ首グワングワンさせてたら目立ってしょうがない」
「……っ//」
「蘭〜。さては夜更かししたな〜」
「別に……作詞してたら遅くなっただけだし」
「つまり夜更かししてたんだろ?」
「巴うるさい」
「そういえばトモちんもうとうとしてたね〜」
「ふっ」
「あっ、笑ったな蘭! というかモカこそガッツリ寝てたクセに…なんで分かるんだよ」
「モカだからねー」
「……それもそうか」
「(それで納得すんのかい)」
「あはは。でもひまりちゃんも船を漕いでたよね」
「フネ…?」
「ウトウトしてたって意味だ」
「へー」
「しかし、ほとんど眠たそうにしてたとはな」
「起きてたのは俺と羽沢だけか」
「(佳夏君と一緒…!)」
「寝てはなかった」
「似たようなもんだろ」
「1人は完全に寝てたけどな」
「いやぁ〜」
「褒めてないし」
「もぅ…。ちゃんと授業受けなきゃダメだよ!」
「モカちゃんは天才だから〜もーまんたい」
「授業態度の問題では?」
「こんなぐーたらなのに、モカのテストはいつも高得点なんだよねー」
「ふっふっふ〜」
「ちくしょう腹立つ」
「宇田川。割り箸折れたぞ」
「私にモカの頭の良さを少し分けて欲しいよ〜」
「ひーちゃんに送るのはカロリーしかないな〜」
「それはいらないからっ!」
「………………テストといえば━━━━━
━━━━━もうすぐ中間テストだね」
羽沢の一言で……
「…………」
「…………」
若干2名に電流走る。
◇◇
「それじゃあ行ってきます」
「んにゃん」
翌日の土曜日、午前中のバイトを終え、昼食を食べてから出かける。
向かう先は羽沢珈琲店。理由は中間テストに向けての勉強会。
高校初…いや人生初の中間テストまで残り約1週間となったわけだが、俺はさして危機感を感じている訳では無い。別に勉強が得意という訳では無いが、平均点くらいは取れる自信はある。多分。
なら何故勉強会など行くのかと言うと、危機感を感じている奴が他にいるからだ。そして俺はその勉強会に助っ人としてお呼ばれされた形である。
俺は手提げ袋に勉強道具を押し込んで、羽沢珈琲店へ向かった。
羽沢珈琲店。
文字通り、Afterglowのキーボーディストで同級生でもある羽沢つぐみの実家件喫茶店だ。
前々から羽沢の家が喫茶店であることは知っていて、バイトに行く時なんかはよく店の前を通る。だが未だ入ったことは無かった。
勿論興味はあった。白鷺さんにオススメされていたこともあり、正直行く気満々でした。が、言い訳がましいのだが、なんだかんだで行く機会が見当たらず、今日まで燻っていた次第である。
要するに超楽しみなのである。
ウキウキ気分で商店街へ突入。足取りも軽く、気持ち早歩きになってしまっている。
集合時間は午後2時。このまま行けば若干早めに着いてしまうかもしれないが、誰かを待たせるよりか良いだろう。
やまぶきベーカリーが見えてくる。
「………」
別に深い意味は無いし、何かしらの用事がある訳では無いのだが、俺は通りすがりに中を覗いてしまう。
営業中なので誰かはいると思うのだが。
亘史さんがいた。いつも通りレジで接客をしている。
沙綾は……居ないな。今は何をしているんだろうか。
「…………うわ」
俺は急に足を止めてしまった。
理由は、なんだか今の思考に気持ち悪さを覚えたからだ。ストーカーかよ。
沙綾の事を心配することは悪いことでは無いのだろうが、度が過ぎればただの執着だ。そんな事はしたくない。俺自身が沙綾の負担になるなど言語道断。論外もいい所だ。千紘さんの頼みの応え方としては最悪の部類だな。
俺の中で俺自身の評価が下がる。
やまぶきベーカリーの前で何をしているんだろう。と、一旦頭を左右に振りながら考える。
俺は、頼られたら応えればいい。深入りはしない。彼女を救うのは必ずしも俺である必要は無い。
実は俺は少し…いやかなり、香澄達がその役をになってくれるのでは? と勝手に思っていたりする。根拠なんて何一つないんだがな。
俺は難しい事を考えるのはやめた。今日は羽沢珈琲店に行くわけで、しかもまだその道中だ。
最後に俺はチラッとやまぶきベーカリーの店内を横目に覗くと、亘史さんと目が合った。
歩き出しそうだった足が止まる。
そして次の瞬間、なんかめっちゃ笑顔になる亘史さん。綺麗な白い歯が輝いて見える。
俺は軽く会釈をしてその場を離れようかと思ったのだが。
「(チョイチョイ)」
「?」
手招きをされる。こっちに来いって事だろうけど…なんだろう。何か言われるのだろうか。亘史さんは笑顔だし、怒られないとは思う、けど…。
俺は、先程まで亘史さんが接客していたお客さんと入れ替わるようにやまぶきベーカリーに入店する。
勉強会の集合時間まで時間はある。遅れはしないだろう。
「ども」
「いらっしゃい。よく来てくれた」
先程と同じ笑顔で迎えられる。よかった、怒ってなくて。
「まぁ通りすがりですけどね。それで、何か?」
「ちょっと食べて欲しいパンがあってね。丁度君が見えたから是非に、と思って」
「はぁ…」
もちろんお代はいらないよ、と言われ、亘史さんが差し出してきたのは…
「メロンパンですか?」
「そう、メロンパン」
俺もよく買うメロンパンだった。しかも一つだけ。ただ、若干だが形があまり綺麗では無い気がする。…いや失礼か…っ! だが、いつも綺麗なパンを作るやまぶきベーカリーにしては珍しいような…。
「これを食べて欲しい、と」
「そうなんだよ。食べてくれるかい?」
なんでだろうか。シンプルに謎だ。別に食べるのが悪いという話ではないが、何故今に、しかもタダでパンを勧められたのか。
……………もしかしてっ。
「…めっちゃ辛いとか…?」
「へ? あっははは! 違う違う、ただのメロンパンだよっ」
どうやら違うらしい。何かしらのドッキリかと思ったのだが検討違いですんだようだ。そうなれば余計にこの状況が謎ではあるが。
ここは亘史さんを信じて食べてみるか。ここのパンならどうせ美味しいし。例え辛かったり酸っぱかったりしても、「もー亘史さんはお茶目だなー」で済ませてしまうだろう。なんかこの人はやりかねない気がするし。
「………いただきます」
辛いのは苦手なので、せめて酸っぱくしてありますように…。
そう願いながらメロンパンにかぶりつく。
「(モグモグモグモグ)」
「……」
「(モグモグモグモグゴクン)」
「…どうだい?」
……どうもこうも。
「めっちゃ美味しいですね」
「…! そうかっ」
俺の感想を聞いた亘史さんは嬉しそうに笑顔を見せる。
メロンパンはめっちゃ美味かった。
………って。
「結局コレ何だったんですか?(モグモグモグモグ)」
「んー? ただのメロンパンさ」
「(モグモグモグモグゴクン)まぁメロンパンでしたけど…でもいつもとちょっと違いますね」
「……ちなみにどう違った?」
亘史さんがレジに肘を着いて前かがみで聞いてくる。
「……強いて言うなら、若干甘みが薄い? 気がします」
「…そうか」
「でもむしろ、薄味好きの俺としてはめちゃくちゃアリなんですけどね」
なんの気なしに呟いたセリフだったが、それを聞いた亘史さんは少し驚いたような顔をする。
……あ。
「…いや…! 別にいつものメロンパンが美味しくないって話じゃなくてですね? あくまで、あくまでどちらが好きかと聞かれたらこっちだって答えるだけで。どっちも好きなんですよ? ほんとですよ?」
「はははは! ありがとうっ、わかっているよ」
俺の必死の弁明も笑顔で受け止めてくれた。ほんっといい人。
「…えと、とりあえずご馳走様でした。めっちゃ美味しかったです」
「それは良かった」
「それで」
「ん?」
「結局何だったんですかこれ? メロンパン改良の道からいでた産物とかすか?」
「…………まぁ…………そうだ」
うわぁなんか嘘っぽそう。
「なんか心配ですけど…俺は好きですよ? コレ」
「ありがとう。それが聞けて良かったよ」
その後、少しだけ亘史さんと他愛のない話をし、他のお客さんが入店して来たのを区切りに俺はやまぶきベーカリーを後にした。
時間を確認すると午後1時30分。時間も丁度良さげだし、このまま羽沢珈琲店に直行しよう。
…そういえば、あのメロンパンは亘史さんが焼いたのかな?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「━━━━━ありがとうございましたー」
「………」
「…良かったな、沙綾」
「き、気付いてたの?」
「そりゃあな。あれだけ分かりやすく聞き耳立ててれば…」
「う、嘘ぉ…」
「まぁ彼は気付いてなかったみたいだったけど」
「(良かった…)」
「
「……お父さんに食べてってお願いしたはずなんだけど?」
「そうだけど…」
「?」
「最終的には
「なっ/// お、お父さんっ!!」
「ははは! 青春だなぁ」
「…もうっ!」
「…でも嬉しかったろ?」
「━━━━━嬉しいに決まってんじゃん」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
数分後。羽沢珈琲店前まで到着。
「………」
なんか、めちゃくちゃ緊張する。
まぁいつまでも入口前で立ち止まっている訳にも行かない。シンプルに営業妨害だろう。
俺は意を決してゆっくりと扉を開けた。
カランカランと入店の合図の音がする。そして…
「あっ! 佳夏君、いらっしゃいっ」
この店の制服であろう黄色いエプロンを着けた羽沢が笑顔で迎えてくれた。
何それ? めっさ⤴可愛いやん。
「…おう」
俺の精一杯の受け応えだった。もっとなんかあるだろ。
「皆は奥の方にいるよ。案内するね!」
羽沢が顔を向けた方向を見ると、青葉以外のメンツが既に揃っていた。4人席のテーブルに座っている。
上原が「お〜い」と手招きしているので、羽沢と一緒に向かった。
「(私服の佳夏君だ…! パーカー似合ってるなぁ)」
なんか羽沢にジロジロ見られている気がするが、気にしない。
ざっと店内を見回していたが、しっとりと落ち着いた雰囲気があって、なんというか…これぞ喫茶店。みたいな感じがする。もっとかっこいい言い回しがあればいいのだが、あまり褒めることが得意でないので結局シンプルなことしか言えない。ボキャ貧である。
木が多く使用されている店内は、全体的に茶色いイメージで、目に優しい柔らかく優しい印象を受ける。落ち着きたい時なんかはうってつけだろう。
そんなことを考えながら上原達の元へ。
「待たせた」
「んーん、まだ時間じゃないし」
「ん」
「おう」
美竹が「隣に座れ」の意味を込めて自身の隣の空席に視線を置く。「ん」しか言っていないが、最近何となく美竹が何を言いたいのか理解してきた気がする。
俺は美竹の隣へ座った。
「佳夏君はうち初めてだよね」
「あぁ、今まで来れてなくて悪いな」
「ううんっ。来てくれて嬉しいな!」
「(天使かよ)」
「(天使だ)」
「(天使だろ)」
「(天使だね)」
若干頬を赤らめながら笑った羽沢は誰がどう見ても天使だった。
「あそうだ、何か頼む?」
そうだな。せっかく来たんだ。飲まないのは失礼だろう。
上原達も何か飲んでるみたいだし。
「…アイスコーヒーのブラックで」
「佳夏君、ブラック飲めるの…?」
「意外、か?」
「ううんそうじゃなくて、むしろしっくりかも…」
そう? ブラックコーヒーが似合う大人に見える?(そうは言ってない)
「私ブラックコーヒーが苦手で…あはは」
「そうなのか?」
「うん。喫茶店の娘なのに…変だよね」
「いや、別に変じゃないが…。少し驚いた」
そんな所も可愛いと思う俺はおかしいだろうか。いーやおかしくない。
「ブラックコーヒーが飲める佳夏君が羨ましいな」
「…そうか」
そんな羨ましがられることでもないと思うが、それはきっと俺がブラックを飲めるから言える事だろう。俺がもしブラックが飲めなかったら羽沢と同じ事を言うのかもな。
「それじゃあブラックコーヒーがお1つですね」
「あぁ」
「かしこまりました。少々お待ちくださいっ」
小さく一礼して去っていく羽沢。沙綾の時も思ったが、なんだか同級生に接客されるのは不思議な気分だ。
「佳夏って苦いの好きなの?」
「?」
目の前に座る上原がすこし前のめりの体勢で聞いてきた。お前凄いな…乗ってるぞ。
…ってやめろバカ。思春期か、思春期だわ。
「ブラックコーヒー頼んでるし。好きなのかなーって」
やっぱ珍しいのだろうか。そうだな、好きかと聞かれたら…
「別にそこまで好きじゃない」
「「「は?」」」
上原だけでなく、美竹と宇田川も同様に鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。まぁそうなるな。
「ならなんで頼んだんだ?」
「なんというか…癖というか、習慣と言うか…」
「習慣?」
「あぁ」
実は俺は、特段ブラックが好きという訳では無い。では何故頼んだのかと言えば、ただの憧れだった。
親の死後、その友人である女性に育てられたのだが、その人がよく飲んでいたのがブラックコーヒーだった。小さかった俺はそれがなんだかかっこよく見えて、子供心に憧れた。それから真似するようにブラックを飲み、毎日のように顔にシワを作ったものだが。いつの間にかそれが習慣となり、気持ちを落ち着かせたい時なんかはブラックを飲むのが当たり前になってしまったのだ。
好きではない。が、飲まないとなんだか落ち着けないのだ。何とも変なルーティンを作ってしまったな。
「━━━━━という訳だ」
「ほぇ〜…」
「変なの」
美竹が若干呆れた様子で言う。まあ俺もそう思うが、別に言わんでも良くない…?
ちなみに親が両方とも居ないことまでは言っていない。そこら辺は適当にぼかした。
気を使われたくないし、変な空気にもしたくないからな。
いつかは話せる日が来るといいが。
「お待たせしました」
「お」
すると、お盆にコーヒーを乗せた羽沢がやって来て俺の目の前に置く。
「ブラックコーヒーです。お砂糖はここからお好きなだけどうぞ」
「ありがとう。羽沢」
「うんっ。もうすぐで私もそっちに行くからもうちょっと待っててね」
「おう」
パタパタと去っていく羽沢を見送って、視線をコーヒーへ向ける。白いカップに入れられたコーヒーは香ばしい香りを放ち、ふと親代わりのあの人を思い出してしまう。
「いただきます」
カップを手に取り口に近づけ、そのまま小さく傾ける。
「……美味い」
「つぐんちだもんねぇ」
「凄いな、とてもスッキリしてる」
自分で入れるのとは大違いだ。流石喫茶店。流石羽沢家。白鷺さんが勧めるのも頷ける。もっと早く来れば良かった。
「私は苦いのてんでダメだからなぁ」
「上原は見たまんま甘党だよな」
「スイーツが大好きなの!」
「蘭は苦いのいける口だよな」
「そうなのか?」
「うん」
美竹を見てみると、確かに美竹もコーヒーを頼んでいた。
美竹に関してはなんというか…イメージ通りだな。
「こっちの方が落ち着くから」
「だよな」
そうして2人でコーヒーを啜る。しかし本当に美味い。
「なんか2人とも、カッコイイ…」
上原は小さく呟いた。
◇◇
「今更なんだが…」
羽沢もエプロンを脱いで合流し、5人となったわけだが。
「青葉は?」
集合時間となっても未だ姿を現さないパン娘が気になっていた。確か来るとは言っていたはずだが。
「モカはいつも最後だからねー」
「どうせ寝坊でしょ」
「いつも通りだな」
「あはは…」
常習犯なのかよ。いや、あり得るな。失礼かもだが、あまり意外性を感じない。
すると上原がスマホを取り出し電凸しだした。相手は青葉だろう。
Prrrrrr Prrrrrr Prrrrrrr
『あーもしもし〜? ひーちゃん?』
「あ、やっと出た。モカ今どこ?」
『んー? んー…』
「モカ?」
『ひーちゃ〜ん』
「…?」
『…お布団って暖かいね〜』
「……えーっ!? もしかしてまだ布団の中なの??」
「モカ…」
「はぁ…」
「ちょっとぉ! 今日はつぐんちで勉強会って約束でしょ?」
『いやはや〜。もーしわけない』
「早く来てよね〜。皆もう集まってるんだから」
『りょーか〜い』
通話終了。
「寝てたのか?」
「そうみたい…」
苦笑いを浮かべる上原。他の3人も似たような顔をしている。美竹曰く、これも「いつも通り」らしい。
「なら先に始めちゃおうか」
「そうだな」
「よろしく」
羽沢の言葉で先に勉強会を始めることになった。
人生初の中間テストだが、こういう友達と揃って勉強会というのも初めてだ。少しワクワクしている。
自分の手提げ袋から勉強道具を取り出していると。
「早速だけど。佳夏!」
「んぇ?」
「教えて!」
上原が教材を前に突き出してそう言った。教材には英語と書かれている。
「英語苦手なのか?」
「うん。英語
「そうか」
だからお願いっ! と手を合わせて懇願する上原。英語は俺でも教えられるだろう。普通の人よりか話せる言語だし。このメンバーの中じゃ適任は俺かもしれない。
……ん?
「なぁ上原」
「ん?」
「英語
「え? え、えっとねぇ〜…」
おっと?
分かりやすく言い淀む上原。
左横に座る羽沢に視線向けると瞬時に逸らされる。宇田川も同様。
「……」
「えっとぉ…」
「………」
「…………ぜ」
ぜ?
「全部、ですハイ」
「Oh my god(マジすか)」
「おっ。めっちゃ発音いいな」
茶化すんじゃない宇田川。正直これは予想外だ。
今回、上原と美竹が「テストに自信なし」との事で実行された勉強会であるが。「まぁ2人とも進学校にいる訳だし、別にそこまででも無いっしょ?」と考えていた俺であるが。……もしかしたら、俺の想像以上に緊急事態宣言が発令されている可能性がある。
いや! まだ分からない。もしかしたら苦手と言いつつ、テストで平均点位は取れるんじゃないか? そこまでは行かずとも、赤点回避くらいは余裕なのかもしれない。
というかそうであってくれ。
「ちなみにこの前の模擬テスト。英語は何点?」
「………29点」
パターン青だった。
しかもそれだけでは止まらない。
「…現代文は?」
「35点」
「………もしかして」
「はいっ! ほとんど平均以下で赤点ですっ!!」
綺麗な敬礼だった。
まぁまず落ち着こう。上原の現状は分かった。次は美竹だ。コイツも上原同様全てダメダメだった場合、今回の勉強会は熾烈を極める可能性大だ。
「美竹は?」
「…私は英語と数学がダメ」
「その2つだけ?」
「うん」
ほっ。
まだ上原よりか重症じゃない。何とかなるな。
「OK分かった。…上原」
「は、はい」
「今日はマジで頑張れよ」
「了解!」
「他の連中は上原のフォロー優先で」
「うん!」
「分かった」
「おう!」
「りょうか〜い」
「よし……………え?」
「「「「え?」」」」
「? どーしたの皆? まるで、さっきまで布団の中に居た人がいつの間にか合流してた時みたいな顔しちゃって〜」
「全くもってその通りなんだよ」
「モ、モカ!? いつの間に!」
「ひーちゃんが敬礼してた辺りから〜」
「ついさっきじゃん」
なんとここで青葉合流。お前数分前まで布団に潜ってたんじゃなかったのか? ナチュラルに混ざってて驚いた。
「まぁいいや。全員揃ったし、始めますか(即時適応)」
「そうだねっ。皆頑張っていこー! せーのっ、えい、えい、おーっ!」
「美竹、どこが分からないんだ?」
「ここなんだけど…」
「ちょっと皆ぁー!?」
勉強会開始。(ほぼ上原メイン)
しかし俺はまだ知らない。この後現れる1人の少女によって、事態が勉強会以上に面倒臭くなる事を…。
◇◇
「おい上原」
「え? 何か間違いあった?」
「ここ。『Syo was born in 2002』って問題」
「『ショウは骨が2002本あった』でしょ?」
「ねーよ」
「違うの!?」
「違う。正しくは『ショウは2002年産まれだ』だ。骨が2000本もあってたまるか」
「あっはははははははははははっ!!」
「巴笑いすぎ…くっ、ふふ…!」
「蘭もだし!」
「後ここ」
「ま、まだあるのぉ??」
「この単語の読み方」
「え…? 『ありえん』じゃないの?」
「『alien(エイリアン)』だ。なんだ?『ありえん』って。その解答こそ有り得んわ」
「あぁーはははははっ! もうダメっお腹痛い! あっははは!!」
「読み方…ふははっ」
「流石ひーちゃんだぁ」
「後『b』と『d』が使い分けられてないな」
「えぇ!?」
「『body(ボディ)』が『boby(ボビー)』になってる。誰やねんボビー」
「ヒーッ、ヒーッ…ははははははっゴホッ」
「と、巴ちゃん!?」
「ひまり、最高…!」
「我らがリーダーはこうでなくっちゃあ〜」
「もぉ〜〜っ! 皆酷いよ〜」
「いや、酷いのはお前の解答だ…」
あれからかれこれ1時間は経過しているが、俺と羽沢の協力体制でも苦戦を強いられている。コイツまじで珍回答しか産み出さないのなんなの? 毎回解答を見る度にワクワクしちゃってる俺が居る。
しかも英語に限った話では無いのが上原らしい。どの教科でも珍回答のオンパレード。上原の隣に居る宇田川は腹を抱えて蹲るのを繰り返していた。
「お前よく今までやってこれたな…」
「それは…自分でもよく分からない」
「Afterglow最大の謎だよね〜」
「そこまで言うかなぁ!?」
カフェオレを啜りながら上原を詰る青葉。お前はお気楽だな。
こいつはこいつでテストの点は高得点なのが羨ましい。一体どんな勉強法を…なんて考えたが、多分してないんだろうな。たとえしていたとしても真似できるものでもなさそうだし。
故に誰かに教えるなど出来ない。正直今回の勉強会で青葉の役目は無いに等しい。実際さっきからカフェオレ飲んでるだけだしな。
「まぁ時間はある。やれる所からやってこう」
「そうだよひまりちゃん! 中等部の時だってできたんだから。高校の中間テストだって大丈夫だよっ」
「2人ともぉ…! ありがとう!」
ヨシッ、とガッツポーズを決め込んだ上原。やる気はあるんだ、多分なんとかなるだろう。
お気楽な思考で、うんうん悩んでいる上原を眺めていると。
カランカラン
また入店を知らせる音が店内に鳴り響いた。左隣に座っている羽沢が「いらっしゃいませ!」と即座に反応する。流石看板娘。仕事を決して忘れない姿に心の中で敬礼をしていると。
「こんにちはつぐみちゃん。席は空いているかしら」
「千聖さん! はい、空いてますよ。おひとりですか?」
「えぇ、花音と待ち合わせなの。仕事は午前中に終わったしね」
「そうなんですね。お疲れ様です! こちらにどうぞ」
「ありがとう」
楽しそうにお客さんと話す羽沢を横目に上原に勉強を教えていると、ふと気付く。
……チサトさん?
チサトさんって……もしかして。
「ふふ。もしかしてお勉強会かしら?」
「はいっ。もうすぐ中間テストなので」
「そう。頑張ってね…………あら?」
羽沢に連れられた彼女が俺たちのテーブルの横を通り過ぎようとした時、ふと俺と彼女の目が合う。
あぁほら、やっぱりこの人だ。
この綺麗なブロンドの髪に溢れ出る芸能人オーラ。
最近はアイドルバンドとしても活動し、Pastel*Paletteのベーシストとして有名な女優件アイドル。
ついでに松原さんの保護者的ポジションの人。
「…ふふふ。珍しいお客さんね」
「え?」
「ども。白鷺さん」
「え??」
私服姿の白鷺千聖さんが、笑顔で話しかけてきた。
◇◇
白鷺さんがカウンター席へ移動すると、Afterglowメンバーが急に詰め寄ってきた。
「佳夏君。千聖さんと知り合いなの?」
「まぁ、ちょっと」
「えぇ? どういう関係?」
「どうって…ただの知り合いってだけだし」
「…ほんとに?」
「なんで俺疑われてんの? てかこの感じこの前もあったじゃん…」
俺は屋上でのRoselia&Afterglow(※5話)のあれこれを思い出していた。
全員勉強そっちのけで俺への質問に次ぐ質問。白鷺さんの介入で勉強会が継続不能な状態になる。ただほんのちょっと話しかけられただけなのに。
「千聖さ〜ん」
俺の解答が気に食わなかったのだろうか、青葉が白鷺さんに向かって話しかけた。というかお前らこそ知り合いなの? まぁ羽沢の店に頻繁に出入りしていればそうもなるかな。
「千聖さんはけー君と仲良いんですか〜」
「あらモカちゃん。そんなこと聞いてどうするのかしら?」
「いやぁ、単純に気になって〜」
「あらそう? (本当にそうかしら)」
紅茶を片手に小さく微笑み続ける白鷺さん。ほんの少しだけ千紘さんに似た雰囲気を感じた。これが大人の余裕ってやつか。
そう思いながら俺もコーヒーを啜ると。
「そうね。この前デートしたわ」
「「「「「は」」」」」
「ングッ」
唐突に落とされた爆弾の衝撃に、飲んでいたコーヒーを思わず吹き出しそうになる。なんとか耐えた俺は凄いと思う。
「はぁ? デートって…はぁ??」
「み、美竹? ゴホッ、お前なんつー顔して」
「…佳夏君?」
「羽沢。真顔やめて真顔」
「…………………」
「青葉ぁ……何か言って…」
「うふふふふふふ♪」
ちょっとぉ? 白鷺さぁん? あんた何他人事みたいに笑ってるんすか?
よくわからないけど、何か今の一瞬で皆が謎の黒いオーラを纏い始めたんだけど? 白鷺さん何したの?
「白鷺さん…」
「あら、どうしたの?
薄ら笑いで呼び捨てにされる。この前は苗字に君付けだったのに…!
絶対にこの人今の状況を引っ掻き回して楽しんでる。なんて人だ。いい性格してる。
「紛らわしい言い方しないでくださいよ。松原さんを送り届けて、ちょっとお茶しただけじゃないですか」
「世間的には立派なデートよ? それも」
「…………そうなんですか?」
「そうだよっ!!」
「上原…、声大きい…」
ほんで近い。耳元で大声出さないで…。
しかしデートというものはそんなにも判定が緩いのか? そういうのって恋人とかがするもんなんじゃ…。
「男女で出かければそれはもうデートなんだよ佳夏っ!!」
「なにぃ?」
知らなかった。デートという概念に関して、俺が理解しているよりも世間的にはもっと軽いものらしい。
…いや、だからといって今デート云々の話題を持ち出した白鷺さんを許すかと言われたら何とも言えないな。
「ていうか、あの時松原さんもいたでしょ…」
「えぇ、3人デートね」
「さんにんでーと…」
「女子2人を侍らせるとか、最低」
「侍らせてなんかない。俺は悪くない」
「観念しろよ佳夏。あっ、つぐのお母さん、ココアもう1杯」
「お前何優雅に飲んでんだよ。何とかしろよマジで」
「なんだ〜、けー君ってばモカちゃん以外ともデートしたのー?」
「うわっおっかかるな青葉。あと誤解産みそうな言い方やめてね」
「うぅ…モカちゃんは初デートだったのに…しくしく」
「佳夏君…」
「違うんだ羽沢。聞いて聞いて」
「そういえば…。この前花音ともバイト先のマ○クでお楽しみだったらしいじゃない。彩ちゃんとも仲良くなっちゃって。嬉しそうに話してたわよ?」
「すぐ言う。そういうのすぐ言うじゃん」
「また3人…?」
「ほんっと最低」
「あ"ーもう」
なんだかもうよく分からなくなってきた。収集がつかない。
つかマ○クのは4人だし。男子は2人だし!
「うふふふ♪」
ほんと楽しそうだな白鷺さん。憎たらしくなってきて、これ見よがしに白鷺さんを睨んでみると何故かウインクされる。可愛いのが余計に腹ただしい。
「ちょっと! 私達無視して何千聖さんと楽しそうにしてんの!」
「う、上原……くび、首を無理やり曲げないで…」
グリンッと掴まれた頭を曲げられて、首が悲鳴を上げる。俺、もうどうすればいいか分かんないっピ。
上原に顔を押さえつけられ、青葉には後ろからおっかかられながら若干首を締められ、羽沢にはハイライトのない目で見下ろされ、美竹には腕を抓られながら睨まれ、宇田川は「んーおいしー」とか言いながら俺の事を見ないようにココアを飲んでいる。
何だこのカオスな状況は。どうすれば抜け出せるんだ…?
俺がAfterglowメンバーにもみくちゃにされていると。
カランカラン
再び来店を知らせる音が鳴る。そして…
「ごめんなさい千聖ちゃん! 遅くなっちゃって…………………って、林道君…!?」
今度は松原さんが登場。いよいよややこしくなりそうだ。今でも充分過ぎるほどややこしくて面倒臭いのに…!
「………どうも」
「う、うん。珍しいね、林道君がここに居るなんて…というか初めて? だよね…」
「……………そっすね」
「………えっと、どうしたの? なんかくたびれた顔でつぐみちゃん達にもみくちゃにされてるけど…。それ、首大丈夫?」
「あなたの親友のせいです」
「…?」
状況が理解できず困惑する松原さんは可愛「佳夏君?」ん"ん"っ。
「花音、お疲れ様。今日は早かったのね」
「あ、うん。実ははぐみちゃんに送って貰っちゃって…//」
「ふふ、そういう事ね。でも良かったわ」
「? どういうこと?」
「少し弄りすぎてしまったと思ってね…」
「…??」
すると白鷺さんは「ご馳走様でした」と早々にお会計を済ませる。どうやら松原さんと待ち合わせしてどこかへ出かけるらしい。
正直助かった。白鷺さんには悪いが、これ以上白鷺さんにこの場を掻き乱して欲しくない。あの人の"弄り"は胃が痛くなる。
「ご馳走様、つぐみちゃん。また来るわね」
「……あっは、はい! ありがとうございました!」
「ふふふ」
白鷺さんの言葉で我に返る羽沢。良かった。さっきまで変なオーラ纏ってたし。いつもの
白鷺さんと松原さんは扉の方まで行き、白鷺さんが扉に手をかけたところで振り返る。視線の先には俺。
「これから2人で新しいカフェを見に行くのだけれど、あなたも来る?」
「…俺すか?」
またしてもお誘いを受ける。よくこの状況で俺を誘おうと思いましたね…。怖いもの知らずですか? …いや、怖い目に会うのは俺の方だな…。悲しい。
そして俺はふと気付く。白鷺さんの言葉を聞いた瞬間。俺を抑えていた美竹や青葉の手が、先程より少しだけ強く俺を押さえ込もうとする。けど、不思議と痛くはない。
「(けー君は)」
「(渡さない)」
美竹達が妙に白鷺さんを睨んでいるように見えるのは気のせいだろうか……。まぁ俺には分かりようがないので、気のせいということにしておこう…。というかなんか聞きたくない。
俺は白鷺さんと目を合わせて。
「すみません。今日はお断りしておきます」
「そう、残念」
「まぁ勉強会の途中なんで」
「ふふっ、そうだったわね」
絶対にこの人は俺が断ると知っていたな。そんな顔をしているし、残念がってるようには見えない。…いや、なんか松原さんは残念そうにしてる。すみません松原さん。今日は無理なんです。
白鷺さんは扉を開け。
「それじゃあね、佳夏」
「またね、林道君。みんなも」
そう言って2人は羽沢珈琲店を後にした。
しばしの沈黙。
「……とりあえず皆離れね?」
「…あっ、ご、ごめんなさい!///」
「え〜。モカちゃんはこのままでいーかな〜」
「いやいや、勉強しずらいし、というか重「え〜?」軽すぎて違和感が凄いからさ? な?」
「仕方ないなぁ〜」
「はいはいどうも。あと上原は手を離して」
「じゃあ勉強教えて!」
「分かったから。そろそろ首が逝く。美竹も抓るのやめてくれ」
「………ふん」
「ありがとさん」
「災難だったなぁ」
「宇田川が助けてくれたらもっと早く何とかなったんだけどな」
「ははっ。どうかな〜」
ぞろぞろと元の定位置に戻っていくAfterglowメンバー。……と思ったが青葉は未だ粘る。はよ戻りなさい。当たってるだよ、何がとは言わないけど。
勉強会開始から2時間も経っていないのに、俺はもうかなり疲労を感じていた。肉体的ではなく精神的に。
白鷺さんはただからかいたかっただけなのかもしれないが、まさか上原達がここまで豹変(?)するとは思わなかったのかもしれない。俺だってそうだし。
しかしよく考えてみれば、上原達は一体何に怒っていたのだろう。俺と白鷺さんが仲良くすることを良しとしていないのだろうか…。
………もしかして俺って━━━━━
「女優に易々と手を出すようなクズ男と思われている…?」
「(何か言ってる…)」
「(絶対勘違いしてそう)」
「(どういう回路して出た答えなんだ…?)」
だとするならば、コイツらは俺から白鷺さんを守ろうとしていたのだろうか。「白鷺さんにくっつくキモ男からは私等が守りますから」的な意味合いを含んでいた? もしそうなら、さっきから感じている上原達の刺すような疑いの視線も納得がいく…。
俺ってばそんな風に思われてたの…?
「(ねぇ、なんか佳夏が見るからに落ち込んでない?)」
「(やっぱ勘違いしてそう…)」
「(普段から割と死んだ目だけど、今は格別だな)」
「(スーパーに置いてある魚みたいな〜…?)」
「(DHAが豊富そうには見えないけど)」
なんだか申し訳なくなって来た。
俺史上最も自己評価が低くなった瞬間である。なんか泣きたくなってくる。見せてやろうか、いい歳した男が泣き喚く場面を。いや誰得やねんて。
俺はテーブルにおでこを乗せて項垂れる。
「(これは不味いのでは…?)」
「(なんとかしなきゃ…!)」
「(行くぞAfterglow!)」
「((((イエッサー))))」
はぁ。今日は枕を濡らすかもしれない。
「け、佳夏君! えと、とりあえず落ち込まないで?」
「……羽沢…?」
「そうだぞ佳夏! 別にアタシらは何とも思ってないしさ?」
「……つまり俺は、何とも思われない程度のどうでもいい存在…?」
「ちょっと巴! 何追い討ちかけてんの!?」
「………」ズーン
「ち、違うんだって! 別に白鷺さんと佳夏の仲をどうこうしたいって訳じゃなくて…あー…」
「えとえと…そう! 羨ましかったの!」
「羨ましい…?」
「ほら、私達デートとかしたこと無くって…!」
「モカちゃんはしたけどね〜」
「モカは黙って」
「わ〜〜」
「だから、ね? ちょっといじわるしたくなっちゃったって言うか…」
「つぐの言う通りだよ! 私も佳なゲフンゲフン…千聖さんと仲良くしたいなぁ〜ってね! あははは」
「…そうなのか?」
「そうだよ!」
「「「「うんうん」」」」
力強く頷くAfterglowメンバー。
気を使われてしまったのだろうか。いや、だとしても励ましてくれたのは嬉しい。彼女たちの温かさに先程とは違う涙が出そうになる。
「俺はまだ生きてていいのか…」
「重っ」
少し気持ちが楽になった。
そうか、コイツらも白鷺さんと仲良くしたかったのか。さっきまでの行動はちょっとした俺への嫉妬だったのかもしれない。だとしたら少し可愛らしくも思う。
…………いやもう勘弁なんですけどね?
「そろそろ勉強会の続きしよっか」
「そーだな!」
「ん」
「頑張ろ〜」
「よーし今度こそ! えい、えい、おー!」
「つぐー。ココアおかわりで」
「私もコーヒーお願い」
「うん! 分かった」
「もおぉぉぉぉ〜!!」
「ひーちゃんが牛になった〜」
先程までの殺伐とした雰囲気は何処へやら、いつも通りのAfterglowへ戻っていく。俺はそれを見てようやく心から安堵し、ほんの少しだけ残っていたコーヒーを喉に流し込む。
やっと落ち着けた気がした。
…
〜♪
メッセージの受信音が聞こえる。コーヒーカップを片手に、テーブルの上に置いてあるスマホを確認すると。
千聖『今度は2人きりでお茶しましょうね』
「……………」
俺はそっとスマホを閉じ━━━━━
「佳夏」
━━━━━させてはくれない美竹。
「何コレ?」
「………白鷺さんからのメッセージっすね」
「連絡先交換してるの?」
「……………してますね」
「頻繁にやり取りしてんの?」
「……………………っスーーー、たまに…」
「へぇ」
「………」
再来。あまりにも早すぎる殺伐とした雰囲気の再来に、俺は震えることしかできなかった。
手に持ったカップがカチャカチャ音を立てる。
「………あたしともして」
「……はん?」
今度は何をされるのかと怯えていた俺だが、美竹は小さく何かを言うと、少しだけ顔を赤くしながら自身のスマホを差し出した。
「…あたしとも交換して」
「………おぅ」
「何? 嫌なの?」
「滅相もない」
だから睨まないで欲しい。ありがたく交換させていただきます。
「…コレでいいか?」
「……ん」
すると美竹は自身のスマホ画面を確認し。
「……ふふ」
少しだけ微笑んだ。
ほあ…? 何その顔。
「あー。蘭ってばずるーい」
すると美竹の後ろから青葉がやってくる。気のせいだろうか、少し不満顔だ。
「別にずるくないし」
「けー君。モカちゃんとも交換しよ〜」
「…あぁ」
「あ! 私も私も! 佳夏とメッセ交換したいっ」
「わ、私も…!」
「そういえば、何だかんだで今までしてなかったな」
「そうだな…」
青葉の言葉を皮切りに、他のメンツとも連絡先を交換する。引越してから1番付き合いが長いはずなのに今更感は確かにあるな。
全員と連絡先を交換し終え、メッセージ欄に美竹達の名前が追加される。こうして見ると、ほとんど女子としか連絡先を交換していないのは変な感じだな。
「そういえば何で急に連絡先交換?」
「…さっき佳夏が千聖さんとやり取りしてたから」
「「「「へぇ」」」」
「さー勉強会を再開しよっかぁ」
勉強会再開まであと30分。
◇◇
時間は飛んで、テスト結果発表日。
俺達は揃って、張り出されているテスト結果を眺めていた。
「俺は……まぁ高の中って所か」
「アタシもまあまあだな」
「青葉が
「モカちゃんは天才ですから〜。けー君、ご褒美にパン買ってくれても良いんだよ〜」
「羽沢も流石だな」
「ありがとう佳夏君。でも佳夏君のほうが順位上だし、凄いよ!」
「殆ど変わらないだろ」
「スルーは酷いかなぁ〜」
「はいはい凄い凄い」
「む〜」
青葉を軽くあしらって、俺はお目当ての2人を探す。
「佳夏〜!」
「…探すまでも無かったか」
上原と美竹が合流する。結果は気になっていたが、2人の表情を見る限り何とかなったみたいだな。
「順位凄い上がってたよ!」
「それは良かったな。あれから頑張ったもんな、上原」
「そうだよ! 佳夏と皆のおかげっ」
「美竹も大丈夫そうか」
「うん。赤点無かったし、英語は特に点が良かった」
「そう」
「ん…………だから、その…」
「?」
「…ありがと」
美竹は少し恥ずかしそうに視線を逸らしてそう言った。分かりやすく照れているが、何処か嬉しそうな雰囲気が溢れている。
要するに可愛かった。
それを目の当たりにして何を思ったのか、俺は無意識に…
「〜〜っ!////」
美竹の頭を撫でていた。
「「「あぁ〜!!」」」
「うるっさ」
突然の大声に驚き、とっさに美竹の頭に乗せていた手をどけてしまう。その時、美竹が「あっ」と小さく呟いた事に俺は気が付かなかった。
「何してるのかなぁ!」
「す、すまん美竹…つい」
「……………別に、いい…」
「ズルいよ!」
「…羽沢も美竹を撫でたいのか?」
「……けー君って頭わるーい」
「はぁ? 俺の順位見てみろよ」
その後もあーだこーだと言い合って、何故か俺が全員の頭を撫でる事で解決した。
結果も見終わったので、揃って教室へ戻ろうとした時の事。
「また氷川さんが1位だね」
「あの人凄いよね」
「ずっとトップ成績なんでしょ?」
「天才ってやつ?」
「いーなー」
そんな会話が聞こえてきた。場所は2年のテスト結果が張り出されている場所。
「(ヒカワさんって……氷川さん?)」
俺の知っている氷川さんは花女の生徒だから、恐らく他人だろう。そう思って「今日はパフェ食べ行かない?」とか言ってる上原に適当に相槌を打ちながら歩いていると、張り出されている2年のテスト結果の紙の先頭に視線が向く。
そこに書かれている名前は。
1.氷川日菜
「(氷川………ひな?)」
この人が噂の"氷川さん"か。Roseliaの氷川さんと苗字が同じ。偶然か?
まぁ偶然だろう、と勝手に自分で決めつけ、視線を前に戻すと、とある1人の女生徒とすれ違う。
制服のネクタイとスカートは2年生の証である紺色。ライトブルー(?)のようななんと言えばいいのか分からない髪色で、若干ウェーブのかかったショートヘア。そして、何処かで見た事のあるような顔。
俺は一瞬足を止め、通り過ぎた彼女を目で追った。
「どうしたの?」
「…………いや、なんでも」
別に用はない。ただ少しだけRoseliaの氷川さんに似ているような気がしたと言うだけだし、いちいち言うことでも無いだろう。
俺はまた歩き出す。
俺は知らなかった。
今すれ違った彼女こそ、Roseliaのギタリスト、氷川紗夜の双子の妹であり。Pastel*Paletteのギタリストでもあることを。
その事を俺が知るのは、もう少し後の話である。
◇◇
おまけ
CiRCLEにて。
「佳夏はテストどうだったー?」
「まあ悪くはなかったです。今井先輩は?」
「アタシもいつも通りーって感じかな」
「そっすか。……そういえば俺、見ちゃったんですけど」
「? 何を?」
「湊先輩の順位」
「あ、あぁ〜……。あちゃぁ〜」
「何の話をしているの?」
「あ、友希那」
「この前のテストの話です」
「…そう。リサ、早く練習を始めるわよ」
スタスタスタ…
「逃げましたね」
「逃げたね〜」
主人公の過去編を作ろうと思ってたんですけど、かなり世界観が変わると思うので正直迷ってます。
皆様の意見などありましたら感想ついでにお願いしたいです。スミマセン。