「なぁ佳夏。"Pastel*Palette"って知ってるか?」
「ピクルスバレット?」
「ピクルス嫌いにはたまったもんじゃないな。"パステルパレット"。まさか、知らないのかよ」
「知らん」
「はぁ…」
「は、え? なになになに?」
「お前、それでも男か? ちゃんと付いてるのか?」
「何が、とは聞かないが。ん? もしかして俺喧嘩売られてたりする??」
「Pastel*Paletteってのはな、今話題のアイドルバンドなんだよ」
「…………はぁ、アイドルバンド」
アイドルでバンド? アイドルが楽器を持つのか? T〇KIOみたいな?
「そう、コレコレ」
優太がスマホの画面を見せてくる。そこには鮮やかな衣装を着た5人の少女が写っている。………ん?
「あ、この人知りあ━━━━━」
それ以上、俺は言葉を発さなかった。否、発せなかった。具体的な理由は無い。何故か言わぬが吉だと本能的に思ってしまった。……いや、理由は何となく分かる。
「………………」
「……………………………お前、もしかして」
「………………」
「…………この中に知り合いがいたりしないよな?」
聞かれた。これはどう考えても俺のミスだ。俺は見た。俺が失言してしまいそうになったあの瞬間。一瞬にして奴の顔から笑顔が失せたところを。そして理解した。この言葉は奴にとって地雷だと。
俺がこれからできることは全力でしらばっくれる事。
「ハハッ、ソンナワケナイダロ?」
「…………だよな」
「トウゼンダヨ」
「…まぁお前にこんな超絶可愛いお知り合いがいるわけないよな」
「ハハッ」(ミ〇キー風)
何故かディスられた。舐めるな、いるかもしんねーだろうが。ていうか実際いたし。
まあその事をコイツに言う訳にはいかない。何されるか分かったもんじゃないから。
「まぁいい……それで、どうだ??」
「どうって………へぇーて感じだよ」
「……はぁ…………」
「何なんだよ」
「やっぱ付いてねーだろ」
「はっ倒していい?」
「よく見ろ」
「…あん?」
画面を寄せてくる。
「超可愛くないか?!?!」
「うるせぇよ」
耳元で叫ぶな。唾飛んでんだよ。
たしかに全員アイドルなだけあって凄い可愛いとは思うが。
「可愛いだろ」
「何でお前が自慢げに言ってんの?」
「可愛いって言え」
「………………………カワイー」
「よし」
(マジで何だコイツ)
「それで? サブカルパレットを俺に見せた理由は?」
「確かにサブカル要素はあるが違う。Pastel*Paletteだ。お前わざと間違えてんだろ」
「いいからはよ話せ」
「落ち着けって、そう急かすな。お前が今の一瞬でパスパレの虜になってしまったことには同情するが…」
(ウザっ)
「そんなお前にこのアイドルバンドの素晴らしさを説いてやろうと思ってな。有難く傾聴しろ」
「別にいらんしそんなの」
「まずこのバンドなんだがな? 「聞いてる?」実はつい最近デビューしたばかりの新人なんだけど、「おいちょっと待て」デビュー早々に楽器の当て振りがバレる、なんて騒動があってな━━━━━━━━━━
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━━━━━━━━━━ってな感じで。世間の批判を乗り越えた、今をトキメク素晴らしいアイドルグループなんだよ。分かったか? 分かったなヨシ。それじゃあ次にメンバーを一人一人紹介していくんだが「ごちそうさまでした…」おいてめぇ。何さらっと昼飯食ってんだよ」
「今日は卵焼きが上手くできたんだよ」
「聞いてねぇし」
「食べるか? ってもう無いけど」
「知っとるわ。いやそんなことより、ありがたい俺のパスパレ愛をBGMに何優雅に弁当食ってんだよ」
「むしろ昼休みによくもまあ延々と喋ってられたな。お前がくっちゃべってる間に俺は弁当を食べ始めて食べ終わったわ」
「俺も昼飯まだなのに」
「知らんがな」
「まぁいい、メンバー紹介は次回だな」
次もあるだと? 御免蒙るんだが。
「こっからが本題だ」
「は?」
今までのが前置きなのかよ。長すぎる。20分は使ったぞ? 昼休みの半分近くを使って前置きの説明とか…メンバー紹介も聞いてたらもっと長かったってこと…?
「この子。このピンクの可愛い子」
優太はスマホに映るピンクの子を指さす。
「その子が何さ」
「実はこの子、
「はぁ」
「だから会いに行こう」
「は?」
「会いに行こう!」
「お、おう…………行ってらっしゃい」
「お前も来るんだよ」
「…はぇ? ナンデ?」
「…1人じゃ、はずかしい…って言うか…」
(うっわキモい……」
「あんだと?」
「やっべ、声に出てた…」
「とりあえず今日の放課後は暇だろ? お前」
「………たしかに暇だけど…」
「なら行こう」
「いーよ別に…そんな目的でいくのもその人に迷惑だろ?」
「うるせェ!!! いこう!!!!」
「この状況でそのセリフは聞きたくなかった」
昼休み終了のチャイムが鳴る。
ちなみに優太は昼飯を食べれなかった。
◇◇
「……………あら? 蘭ちゃんどうしたの? 俺のこと見つめちゃって!」
「……………」
「もしかして、ついに俺の魅り"ょぐほぁあ"あ"っ」
「(コイツのせいで佳夏を昼休み誘えなかったじゃん…!)」
◇◇
放課後。
「いざ行かん」
「………」
俺たちはその丸山さんという人が働いていると噂されるファーストフード店へ向かった。
優太の足取りは妙にキビキビと、まるで新大陸を探しに行くコロンブスの如く生き生きとした顔で歩を進める。女子1人に会いに行くだけでこの笑顔。余程そのパスパレ(?)ってアイドルが好きなのだろう。
しかし相手がアイドルだからと言って、アルバイト中に(そもそもアイドルがバイトしていいのか?)会いに行くというのはどうかと思う。
その重度のパスパレ愛で優太が丸山さんを困らせないか心配だ…。
正直に言って…
「やめといたほうがいいんじゃないか…」
「何を今更」
「まだ引き返せる」
「会いたくないのか? お前」
「別に俺はいいし。そもそも相手からしたら迷惑なんじゃ?」
「俺はそんじょそこらの迷惑ドルオタとは違う。ファンとしての礼儀も弁えてるつもりサ☆ 飯ついでにひと目見るだけさね。けど…」
「…けど?」
「あわよくばお近づきに………とは考えてる」
(うわぁ…)
「考えるだけにしておけよマジで」
「無理強いはしないさっ」
「ほんとにござるか?」
「信用ないなぁ」
「何時ものお前を見てればな」
「どう言う意味?」
「まんまだよ。つかその丸山さんアルバイトなんだろ?」
「おう」
「その人が今日シフト入れてるかわからんくね?」
「あぁ、だから今日いなかったら明日も行くつもりだ」
「その執念キモイぞ。ちなみに明日は俺バイトだから1人でどーぞ」
「ぴえん」
「最近知ったんだが、ソレもう死語らしいぞ」
「マジンガーZ?!」
「もっと古いの持ってくんな」
なんて駄弁りながら歩いていると、件のファーストフード店が見えてきた。
ていうかマ〇クだった。
「ココだ、駅前のマ〇ク」
「マ〇クだったのかよ」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「ファーストフード店としか」
「そだっけ。まぁいいだろ」
「まぁ問題は無いけど…日本のマ〇クは初めてだ」
「なーる」
イギリスでも頻繁に行きはしなかったが。日本のマ〇クとの違いはあるんだろうか? 少し気になる。
2人揃って店の外から中を覗き込む。
「人は……以外といるな」
「別に混んでないしすぐ食えるだろ」
「ちなみに丸山さんはレジ担当?」
「らしい」
「ほーん」
「見えるか?」
「いや、分からんし…」
目力凄っ。血走ってんじゃん。
「とりあえず入らね?」
いつまでも覗き込んでたら通報されそう。絶対に嫌だわそんなの。いるかもわからないアイドル探しで警察のご厄介は御免だ。しかも俺はただの付き添いだし。
「フゥ〜〜っ……そうだな」
「え? 何、緊張してんの?」
「とーぜんだろ」
「えぇ…」
別にひと目見るだけなんだろ? お前にはあのレジの列が握手会の列にでも見えてるんじゃないのか?
「失礼します」
コイツっ。入店扉を開けながら「失礼します」なんて言いやがった。職員室かよ。どんだけ緊張してんだ? 恥ずかしいからそういうのやめて欲しい。
店内は至って普通のマ〇クみたいだ。…と思ったが、アレだ、タッチパネルが無いんだな。イギリスじゃあわざわざレジに並ばなくても置いてあるタッチパネルで注文が出来た。マ〇クに限らず、口頭での注文は緊張してしまう質なので、タッチパネルがあったのは俺としてはありがたかったんだがなぁ…。日本の導入はまだなのか?
なんて考えていると妙に優太が静かな事に気づく。優太の方に目を向けると。
「……………」
目は見開き口は半開きの状態で固まっていた。何してんだコイツは。
とりあえず俺は他の客に邪魔にならない所まで優太を退ける。
「おいどーした」
「………佳夏。緊急事態だ」
「はん? いなかったのか? 丸山さん」
「いや、いた」
「だったらよかったじゃん。緊急事態って何さ」
「もう1人いる」
「は?」
「超絶可愛い女子がもう1人いるぞ」
俺はレジに視線を移す。そこには2人の女子がレジ対応をしていた。1人はピンクの髪をポニテにした可愛らしい女子。多分この人が丸山さんかな? ポニテ好きな俺としては素晴らしいの一言です。そしてもう1人、薄水色のサイドテールで襟足を下ろした………あれ?
「…………………あ"ぁ〜…」
知り合いだった。
「彩ちゃんは言わずもがなだか、あのサイドテールの子もクソ可愛いぞ。そうだよな??」
「……そうだな」
「やっべぇ…思わぬ収穫だぜ」
急にテンション上げてきたな。鼻息荒いぞ。
優太が言った超絶可愛い女子というのはこの前俺も知り合ったばかりの松原さんである。まさかこんなところでバイトをしているとは。世間って意外と狭いのかもな。
だが優太よ、お前は知らないだろう。
「ヨシっ並ぶか」
「おう行ってら」
「? 佳夏は行かないのか?」
「あー…、俺は今はいい…」
「…なんで?」
なんで、って…。そりゃあこの後の展開を容易に想像できるからだろ。
俺は松原さんとは知り合いだ。それ以上でも以下でもないし、ただ1度お茶した程度の中だ。別にやましい事などありもしない。それ自体は問題はないのだろうが、優太がそれを問題無しと判断するか否かが問題だ。昼休みの一件を鑑みるに、恐らく優太に"松原さんと知り合い"という事実を知られるのはあまり宜しくない。絶対めんどくさいことになる。ぜっったい。
だから俺はレジに並ぶのを躊躇っているのだ。並ぶとしても丸山さんの方に並べばいいののだろうが、松原さんもレジ担当。しかもすぐ隣のレジ。不安の芽はできるだけ摘んでおきたい。
「いーから行こうぜ」
「…いいよ先に並んどいて」
「緊張しちゃった時の為にお前を連れてきたのに」
「1人でなんとか頑張れ。お前ならできる」
「……妙に頑なだな。何かあるのか?」
ちっ。変に鋭い奴め。
「別に何も」
「なら行こうぜ」
「………」
うーん、これ以上の否定は奴からの疑いを深くする一方だろう。仕方ない、バレないことに賭けるか。
賭け事は苦手なんだけどな…。
俺は「わかったよ」と言ってレジへ向かう。
「緊張するぅ」
「恥ずかしいから声に出さんでくれ」
俺達は丸山さんのレジに並ぶ。俺は優太の後ろの最後尾に着いた。
優太の前にいる客が一人一人減っていくのを確認する。残り2人。少し気になって、優太の顔を確認すると分かりやすく緊張していた。告白前の男子生徒かよ。
数分して優太の番が来る。
「いらっしゃいませ!」
「は、ひゃいっ」
おいやめろ。何面白い返事してんだよ。しかも"ひゃい"って。
しかし丸山さん。アイドルなだけあってなんとも可愛いらしいスマイルだ。優太が緊張する気持ちも理解できる。
「ご注文はお決まりですか?」
「はっ、え、えー……っと」
「……?」
ほら、丸山さん困ってるぞ。
「えー、━━━━━のセットでお願いします」
「かしこまりました。店内でお召し上がりですか?」
「は、ひゃいっ」
また言ってら。見てるコッチが恥ずかしいからさ…。
注文も終わり、優太は脇へズレる。次は俺か。
「いらっしゃいませ! ご注文お決まりでしたらどうぞ」
「…━━━━━セットで飲み物はシェイクのMで」
「かしこまりましたっ、店内でお召し上がりです…か?」
「はい」
「……………」
「……?」
ん? なんか丸山さんがコッチ見てる。というか見つめてる。何だ? 変な事…言ってないよな。顔に何かついてるか?
「…あの、何か?」
「へ? あ、いえっ! 申し訳ありませんっ!!」
「…??」
あたふたし始める丸山さん。なんか可愛いな…じゃなくて。どうしたんだろうか。まあ聞くつもりはないけれど。
俺も脇にズレる。
「なんか彩ちゃんあたふたしてたけど、…お前何した?」
「何もしてない、はず」
「…ホントかぁ?」
なんだその目は。なんもしてないって…多分。
とりあえず松原さんには気付かれなかったみたいだな。少しほっとする。珍しく賭けに勝った。
俺達は注文の品を受け取りカウンター席へ移動する。
◇◇
「しっかしホント可愛いかったなぁ…彩ちゃん」
「もうそのセリフ30回は聞いたんだけど」
「おしいな、32回だ」
「何で自分で数えてんの?」
あれから30分近く経って、俺達はダラダラと喋りながら残ったポテトをちまちま噛じっていた。
ここのポテト美味いな。
「それでどうよ、推しと話せた感想は」
「可愛いとしか言えん」
「そればっかだな」
「あとめっちゃ緊張した」
「あぁ、キモイぐらいにな」
「お前、俺への当たり結構キツくね?」
日々の生活の中でお前への配慮なんて必要ないと判断したんだよ。
「あともう1人の女子ともお話したい」
十中八九松原さんのことだろう。
遠くを見るような目でそんなことを言う。
「あの人もアイドルなのかもしれん!」
「かもな」
思ってもないことを言ってしまう。
「しかし俺のアイドル情報網の中にあんな子いたか?」
「なんぞそれ」
「ふっ。俺は気になったアイドルは全て把握している。それなりにマイナーなグループでもな」
「へー」
「おいおい、興味無さそうだな」
実際無いのだからその通り。だがしかしその執念には素直に関心する。
「お前はもう少しアイドルの素晴らしさを━━━━━」
あぁ、また長い話がはじまるかな。……と、そう思った瞬間。
「あ、ほんとに居た…」
後ろから声が聞こえた。
その声には優太も気づいたらしく、俺達は反射的に後ろを振り向くと…
「こんにちは、林道君。この間ぶり…かな?」
どうやら結局、賭けは俺の負けらしい。
トレイに飲み物を乗せた松原さんと丸山さんがいた。
2人とも先程までのバイト服ではなく花咲川の制服だ。シフトの時間が終わったのだろうか。
「………ども」
「うん。隣いいかな? 彩ちゃんも一緒なんだけど…」
「大丈夫っスよ」
「ありがとうね」
「ありがとっ」
「いえ…」
「……………」
「……………」
「………………………おい、佳夏」
「……………」
「……説明、してくれるよな?」
油断していた。レジさえ乗り切れば良いと思っていた俺を、一体誰が責められよう。
◇◇
「とりあえず自己紹介かな? 初めましてっ、まんまるお山に彩りを! "Pastel*Palette"ふわふわピンク担当、丸山彩です!」
カウンター席に座りながらビシッと決める。なんかちょっとアホっぽいのが可愛い。いや失礼かて。
流石アイドル。自己紹介はお手の物って感じだ。
隣で優太が小さく手をペチペチ叩いて拍手してる。嬉しそーだなぁ…。一応俺もしとこ。
あ、てか髪下ろしちゃってる。さっきまでのポニーテールじゃないのは少し残念だが、下ろしてても…いいね。
「私は松原花音です。宜しくお願いします」
松原さんは短く自己紹介する。丸山さんみたいな可愛い感じの自己紹介をする松原さんを見てみたくなったが口には出さない。
ふと松原さんは俺に「君は知ってるよね」みたいな視線を向ける。ちょっち恥ずかしいっす。
「俺は林道佳夏です。羽丘の1年です」
「お、俺は日並優太と申しますっ! 同じく羽丘の1年でしゅ!」
「……ぷふっ」
優太の噛み噛み自己紹介に思わず丸山さんが吹き出す。良かったな、推しに笑って貰えて。本望だろ?
「ご、ごめんねっ…! そっか羽丘なんだ2人とも。私たちは花咲川の2年生なの」
「先輩なんスね! よ、よろしくお願いしまっす!!」
「うんっ、よろしくねー」
「お、俺っ! パスパレのファンなんです! いつも応援してますっ」
「え! そうなの? ありがと〜! これからもよろしくね♪」
「うす!」
俺と松原さんを挟んでそんなやりとりをする。
ちなみにカウンター席なので俺達は横一列に座っている。左から優太、俺、松原さん、丸山さんの順だ。
「2人はクラスメイト?」
松原さんが聞いてくる。
「そっすね」
「ドルオタ仲間です!」
サムズアップで優太が答える。
「そうなの?」と聞いてくる松原さんに「勝手に言ってるだけなんで無視して良いですよ」と即座に答える。優太の中で何故か俺はドルオタ仲間に分類されているらしい。
「それで…」
急に優太が冷めた視線と共に俺に聞いてくる。
「お前、松原さんとはどーいう関係なん??」
だから目ぇ怖いって。
「別に…ただちょっと知り合っただけだ」
「前にショッピングモールで林道君にちょっと助けて貰ったの」
「そういうこと」
「ほ〜〜〜〜ん…」
「何疑ってんだよ…。松原さんが言ってんだから信じろよ」
それを聞いて理解したのか、優太はそれ以上聞かずにほぼ中身のない自分の飲み物をズズッと飲んだ。
「ところで、なんですけど…松原さん」
「ん? どうしたの?」
「俺がいた事、いつ気付いたんですか?」
俺はさっきから気になっていた事を聞いてみた。レジでは恐らく気づかれていなかった。カウンター席にいた時だとしても背中越しだし、ここはレジからは見えない。
でも彼女はこう言った。「ほんとに居た」と。つまり俺を見つける前に俺がいることを知らされていたのだろう。しかし、だとしたら誰に?
「気づいたというか…、彩ちゃんに教えてもらったの」
「丸山さんに?」
はて、俺は丸山さんとの面識は無い。レジで顔合わせはしたが、俺の事なんて知らないはず…どうやって教えてもらったと言うのだろう。
「それはねっ、花音ちゃんから林道君の事を聞いてたからなの」
「俺?」
「そ。頬に傷のある優しい男の子、ってね」
「ふえぇ…// あ、彩ちゃん…!」
「確証はなかったけど、もしかしたら〜って花音ちゃんに言ったの」
「傷って……あぁ」
俺の右頬には切り傷がある。2センチ程のわりかし目立つ傷だ。数年前についた傷だが、どうも悪目立ちしてて嫌だ。普段は髪で隠れて目立たないが、なまじ傷のサイズが大きいので全てを隠すことは出来ていない。
松原さんにはバレていたのか。
「ごめんね林道君。嫌な覚え方しちゃって…」
「いや全然、気にしないでください。むしろ覚えて貰えてこの傷も喜んでますよ」
「…ふふっ、そう……? (…やっぱり優しいね)」
「ええ」
これは嘘では無い。本当に覚えて貰えて光栄だ。初めてこの傷に感謝したかもしれない。よくやった。
そんなことを考えていたら、松原さんが何か思い出したのか丸山さんに話しかけた。
「あ、そうだ彩ちゃん」
「ん? どうしたの花音ちゃん」
「林道君って千聖ちゃんとも知り合いなんだよ」
「え?! 千聖ちゃんと?」
「うんっ、この前3人でお茶したんだっ」
……………ハッとする。何故気づかなかった。松原さん経由で俺が白鷺さんと知り合いだということがバレる可能性があることに。
刹那、感じる殺気。俺の右側から禍々しい恨みの念のようなものを感じる。恐怖からか、俺は
「ふ〜〜ん」
「………」
「ふ〜〜〜ん」
「………」
「ふ〜〜〜〜ん」
めっちゃコッチ見てる。やべぇ。俺、こいつに殺されるかもしれない。と、この時の俺は思った。
目ぇ血走ってんじゃねーか。やべぇやべぇ(語彙力)
優太に、俺が白鷺さんと知り合いだという件についてめちゃくちゃ聞かれたが、途中から面倒になって適当に流して終わらせた。
その後、俺達は小一時間くらい談笑して、外が暗くなりきる前に解散となった。
たまにはマ〇クもいいねっ。
◇◇
男組は駄弁りながら帰路に着く。
「お前……抜け駆けは許さん」
「抜け駆けて…。別にたまたま知り合っただけだし」
「だとしても羨ましいわちくしょう」
「お前も今日知り合えたんだからいいだろ」
「まーな。今の俺は機嫌がいい。そうじゃなけりゃお前のこと殴ってたかもしれん」
怖ぁ…。暴力反対。
「…………あ」
「…? どした」
優太がふと立ち止まった。何か忘れ物か?
「連絡先聞きそびれた…!」
「……」
さすが、安心と信頼の下心だぜ。思ったよりくだらない忘れ物で呆れる。
唸る優太とは途中で別れ、我が家に着く。
「んにゃ」
「ん、ただいま」
〜♪
ん?
家に着くのと同時にメッセージアプリの受信音が鳴る。誰からだろう。
彩『林道君。今日はありがとね! またお話できたらいいな』
丸山さんからだった。しかし俺は丸山さんと連絡先は交換していないはずだが…。
彩『花音ちゃんに教えて貰っちゃった!』
なるほどな。
彩『ごめんねっ、迷惑だったかな…?』
まさか。
佳夏『いえいえ、むしろ光栄です。俺こそ今日はありがとうございました。楽しかったです』
彩『本当!? 良かった! またお店に寄ってね』
佳夏『是非』
彩『あとね? 明日の夜はパスパレのラジオがあるから、良かったら聴いてね!』
その後可愛らしいスタンプが送られてくる。可愛い人だ。
まさか丸山さんとも連絡先を交換してしまうとは。人生何があるか分からんな。
「にゃん」
「あぁすまん。すぐご飯作るから」
ちなみに翌日のラジオでの丸山さんは、それはそれは噛み噛みで面白かった。
◇◇
「んふふ♪」
「あら、やけにご機嫌ね彩ちゃん」
「あ、千聖ちゃん!」
「何かいい事でもあったの?」
「うん! 友達が昨日のラジオを聴いてくれたみたいでね、褒めて貰ったのっ」
「そう、なんて言われたの?」
「えっとね、『丸山さんの個性が出てて良かったと思います』…だって〜!」
「そ、そう…(それは褒められているのかしら…?)」
「あ、そうだ。この人、千聖ちゃんとも知り合いだって花音ちゃんが言ってたよ?」
「え? 誰かしら…」
「名前は━━━━
━━━━━"林道佳夏"君!」
「えっ」
ポニーテールが好きです。
マ〇クはいつもシェイクのストロベリー頼んでます。
あとポニーテールが好きです。