こんな小説でも気に入って頂けている思うと感涙に咽び泣いてしまいます。
ありがとうございます...。
久々の雨の日。
今日の授業も終わり、ただいま放課後。
朝から雲行きが怪しかったので一応傘を持参した訳だがやはり予想的中。昼頃からパラパラと雨が降り始めていたことにに気づいた時は「やっぱりな」と、少し優越感に浸っていたりした。
今日はCiRCLEでのバイトも無いし、帰りに何か夕飯のおかずでも買って帰ろうか。
しかし、雨というのは昔から苦手だ。靴下は雨で染みるし、傘をさしてもそれなりに服は濡れるし。そんなこんなで好きになれない気候のひとつだったりする。
だからと言って天相手に文句を垂れたところで何か変わる訳でもなく、とぼとぼといつもより少し下を向きながら下校する。
あぁー...、もう靴下が...。
雨は昼間より強くなっていた。
◇◇
「おかず何ししようかなぁ〜...」
商店街の大通りをダラダラと歩きながらそんなセリフを吐く。
正直なところ、先週末のショッピングモールでの買い物で、おかずを作ろうと思えば家で作れる。が、なんだか今日は気分が起きない。何か具体的な理由がある訳でもないんだが、なんかこう...起きないのだ。やる気が。
きっと雨のせいだろう。陽の光が射さない、いつもよりほんの少し暗い視界が、俺の気分まで暗くしているのだ。きっとそうだ。
なんて、天にしてみたらあまりにも理不尽で言いがかりにも程がある恨みのようなものを抱きながら歩いていると。ふと、とある店が目に入った。
「...北沢精肉店」
店名を声に出す。そうだなここがいい。
この街に引っ越してきてからよくこの店にはお世話になっている。特にコロッケが上手い。前に自分でコロッケを作ったことがあったのだが、ここの
「お! らっしゃい坊主」
「うす。どうも、おっちゃん」
「今日も買ってくかい?」
「はい、今日もコロッケ3つで」
「あいよ! 毎度ね」
店口にいる活気溢れる男性。この人がここの主人だ。
何度か通っているといつの間にかここの主人とも仲良くなっていたりする。俺も"おっちゃん"なんて呼んじゃったりして。
初めてこの店に来た時に「お前さん見ない顔だな」なんて言われた時にはびっくりしたものだが、経緯を話すと商店街についていろいろと教えてくれた。マジでいい人。
ほんと、この商店街はいい人が多い。
「しっかし、雨ってのは参るな」
コロッケを袋に移しながらおっちゃんがそんな事を呟く。
「やっぱ客が来ないからっすか?」
「まーなぁ...。それに俺、雨って嫌いなんだよ」
「同士っすね」
「はははっ! そうか坊主もか」
「まぁ」
「それになぁ...あんま外出してる人もいねーみたいだし?」
「雨、結構強くなってますしね」
「だからまあ...暇になるんだわコレが」
坊主が来てくれて良かったわ。なんて言って歯並びのいい口をニッと開きながら笑顔を見せてくれる。おお、まるで太陽のような笑顔。熱すら感じる...!(?)
「はぐみもまだ帰ってねぇしなぁ」
「今日もソフトボール?」
「うんにゃ。この雨だしなぁ...多分休みなんだが」
「ふーん...」
はてなんだろう...。何か別な用事があるんだろうけど、この雨だし少し心配だ。変な事に巻き込まれてなければいいんだが...。
なんて考えていたら。
「あ! けいけいだ! いらっしゃいっ」
無駄な心配だったと安堵する。話題の人物がちょうど帰ってきたのだ。
「おう、また買いに来たよ」
「おかえりさん、はぐみ」
「ただいま、とーちゃん!」
パシャパシャと小走りしながら店の中へ。するとものの数秒でエプロン姿になり、おっちゃんの隣へ来ると腰に手を当てて"えっへん"って感じで立つ。分かるだろ、"えっへん"って感じ。そうそれだよ。なんか可愛い。
彼女は
あと、地元のソフトボールチームのキャプテンらしい。
ちなみに"けいけい"は北沢が付けた俺のあだ名。気づいたらそう呼ばれてた。
「いらっしゃい! けいけい」
「それさっき聞いたよ」
「何買ってく? ウチはコロッケが美味しいよ!」
「もう買ったし、ここのコロッケが美味いのは知ってるよ」
「そうなの?」
「そうなの」
「はぐみ、今日はやけに遅かったじゃねぇか。この雨だしソフトボールの練習無かったんだろ?」
「うん! 今日はこころん
「友達か?」
「うん! はぐみね、こころん達とバンド組んだんだよ!」
「「...バンド?」」
兄ちゃんに教えてもらうんだぁ、と付け足す。
バンドって、やっぱ楽器を使う方だよな。ならガールズバンドか? もしかしたら普通のバンドかもしれないが、北沢が通う"花咲川女子学園"は
しかし意外だ。北沢はバンド活動に興味を持つ子には見えなかったんだが...。
「バンドってアレか? ギターとか使うヤツ」
おっちゃんが北沢に聞く。
「
「よくわかんないのかよ...」
「でもなんか面白そうだったから!」
「「......」」
たぶんって言っている辺り、本当によく分かっていないのだろう。大丈夫なのか北沢...。
「まぁいいや。はぐみがやりたいってんならそれでいい」
いいんだ、おっちゃん。
「ありがと!! とーちゃん!」
わーいい笑顔。流石おっちゃんの娘。雨なのにここだけ晴れているかのような感覚。
「おっと、悪いな坊主。待たせちまって」
「あ、どうもっす」
おっちゃんからコロッケを受け取る。いいんだよおっちゃん、俺も忘れてたし。
......あれ?
「おっちゃん、コロッケ1個多いよ」
「なに、引き留めちまった詫びさ」
「...なら、貰っときます」
こういう所が商店街の人から愛される所以なんだと思う。かっこいいかよ。
俺は傘を広げて挨拶する。
「ありがとうございます。また来ますね」
「おう!」
「待ってるねー!」
北沢親子に見送られ、俺は商店街を離れた。
◇◇
商店街を出てから数分、そろそろ家に着く頃だ。コロッケサービスの効果か少しだけ足取りも軽くなる。ありがとうおっちゃん。これからもどうぞよしなに...。
早くも夕飯を楽しみにしながら歩いていると。
ドンッ
曲がり角で何かとぶつかった。
「ぅおっ」
「いたっ!」
「あ、
すぐに人だと理解する。
幸いにも互いに転ぶことはなくなんとか耐える。俺はぶつかった相手を確認すべく、傘を傾け視線を向けると。
2人の少女だった。
1人は私服の金髪のツインテール。もう1人は北沢と同じ花咲川の制服を着た茶髪の猫耳...猫耳???
なんだその髪型はどうなってんだ?? この雨でよく崩れないな...あぁいや、そんなことよりっ。
「すみませんっ、大丈夫ですか?」
「こ、こちらこそすみません!!」
「怪我はありませんか?!」
「あぁ、俺は大丈夫です。そっちは?」
「私達も...」
「大丈夫です...」
「本当にごめんなさい...!!」
「いや、怪我がないなら良かった...」
お互い怪我が無いようでひと安心する。
しかし、この2人の出で立ちは少し変だ。この雨の中なのに傘をさしていない。つまるところずぶ濡れなのだ。
それに何か黒い物体を抱えている。それなりに大きく、2人で物体の両端をそれぞれ抱えていた。
コレは.........もしかして、ギターケース?
まぁそれが合っているかは分からないが、合っていてもなくても、なんで傘もささずにこんな物を運んで(?)いるのだろうか。謎が多いぞ。
とりあえず聞いてみるか...。
「えっと...何か大変そうですけど。大丈夫ですか...?」
「えと、その...ちょっと諸事情ありまして...」
「私、ギター壊しちゃって...」
「ちょまっ、香澄...!」
「すぐに治しに行かないとっ!!」
「ギター...」
予想的中。やはりギターケースらしい。
軽くまとめると、ギターが壊れたから急いで修理に出すために傘もささずに出てきたと言うことだろう。
しかし、壊れたから治すというのは分かるが、なんでわざわざこんな雨の中を...? 余裕のある日で良さそうだが......。いや、きっとそのギターは、猫耳少女にとっては今すぐにでも直したいくらい大切な物なのだろう。
それに彼女の顔は酷く悲しそうだ。今にも泣き出しそうで、何時ぞやの松原さんを連想してしまう。...なんかゴメン松原さん。
...ギターか。修理するなら楽器店だが、ここから1番近い楽器店まではそれなりに距離がある。そこまでギターケースを抱えながらこの雨の中を走っていくのはなかなかにハードだ。
見て見ぬふりは...出来ないな。
「...ちなみにそのギター。どのくらい壊れてます?」
「え? ......えっと、弦が切れてて...」
「...他は?」
「私あんまりギターに詳しくなくて、よくわかんないんですけど...とにかく、ギターを落としちゃったんです...!」
...落とした、か。もしかしたらネックがダメになってるかもしれないが。確認しない事にはわからないな。
こんな雨の中で開ける訳にもいかない。
なら......。
「あの...
「「え?」」
2人揃って首を傾げる。
「俺の家すぐそこですし。もしかしたら、俺でも修理できるかもしれません」
「いや、でも...」
「......」
ツインテ少女の方が軽く睨んでくる。まぁそりゃそうだよな...見ず知らずの人に「家上がってく?」なんて言われりゃあ俺も怖い。"修理できる"なんて、都合のいい嘘の可能性だってある。
「この雨でそのまま楽器店まで行くのは危ないし、大変でしょう?」
「...そうですね」
「何か
「??」
「......」
猫耳少女の方は疑問符を浮かべているが、ツインテ少女の方は意味を理解してくれたらしい。少し考える様子を見せる。
正直断ってくれても全然構わない。その時は傘を渡すなりして別れるつもりだ。しつこい男は嫌われるらしいからな。
「...
「.....................わかりました。
自分より他人の心配か、優しい子なのだろう。
「...でも(手出したらすぐ通報してやる)」
「...えぇ(わかってます)」
「???」
「それじゃあ...よろしくお願いします」
「あっ! よ、よろしくお願いしますっ!!」
「はい。それじゃあこっちです」
少し早歩きで先導する。警戒心からか、少女2人は少し離れて着いてくる。
雨はまだ止みそうにない。
◇◇
1分も経たずに家に着き、玄関を開ける。
「どうぞ」
「お邪魔しますっ」
「...お邪魔します」
恐る恐る入る2人、まぁそうなるな。
「んにゃ〜ん」
「ん、ただいま」
玄関を開ける音で気付いたのだろう。ウチの猫であるしょうゆがこちらへやってくる。コレもいつもの事だ。
「猫ちゃんだぁ〜!」
猫耳少女が笑顔を見せ、さっきまで暗い顔から一気に晴れる。凄いなしょうゆ。それとも猫耳少女の方が気分屋なのだろうか。きっと猫が好きなのだろう、そんな髪型だし。
「少し待っててください。タオル持ってきます」
少女2人を玄関に待たせ、急いでバスタオルを取りに行く。いやー先週タオル洗濯しておいてよかったわ。
「コレ使ってください」
「ありがとうございます!」
「どうも」
それぞれにタオルを渡してリビングに通す。
さて、まずどうしようか...。
「...その...シャワー、使いますか?」
2人の服はびしょ濡れだ。このままでいさせるのは気が引けるが...。
「いいんですか!」
「おい香澄...!」
想像以上に食いついてきた。
「え、えぇ、...服は洗濯機回して乾燥機もかけましょう。俺がやる訳にもいかないんで、そこら辺は任せることになるんですけど...」
「ありがとうございますっ!」
「...はぁ」
ため息をつくツインテ少女。う"ぅ...なんか悪いことしてる気分に...。覗くなんて絶対しないので...!
「換えの服は...男物しかないんですけど、俺ので良ければ使ってください。扉の前に置いておくので」
「......(一応携帯持ってくか)」
ツインテ少女の睨みが増す。これ以上は言葉より態度で示すべきだろう。
「その間にギター見ておきますね」
「お願いしますっ!」
猫耳少女がガバッと頭を下げてくる。ちょっとびっくりした。
浴室を教えて2人と別れる。
「......さて」
リビングに戻った俺は2人が運んできたギターケースをゆっくりと床に置き、濡れないように上からかけられていたカバーを外す。
大きな星のマークが目立つケースだった。
見たところもうケースから壊れているな。グリップの部分が外れていて、落とした衝撃だろう、角の方は割れていた。恐らくケースはもうダメかな...。一応応急処置だけしておくか。
次にギター本体とご対面。
黒いギターケースだからか、妙に映える赤が特徴の変形ギターが目に映った。この形は確か...
「.........ランダムスター」
星型を引き伸ばしたような形のエレキギター。
まさか本当にコレを使っている女子高生がいるとは...こんなの使っているのなんて高○晃くらいしか知らないぞ。中々の物好きかもしれないなあの猫耳少女。
俺の中で猫耳少女に対する印象があやふやになる。
...まぁいい。とりあえず損傷具合を確認だ。
見たところ弦が2本ほど切れているだけのようだが、もしかしたら中の配線もやられている可能性もある。それは音を出して確認するか。換えの弦は確か━━━
「......」
俺は久々にやるギターの修理に、少し懐かしさを感じていた。
「有咲〜! 一緒に入ろ!」
「はぁっ?! ぜってー嫌だ!」
「えぇ〜いーじゃんいーじゃ〜ん」
「うぜーっ! くっつくな! 私は待ってるから先入れよっ」
「恥ずかしがるなよ〜!!」
「いやぁぁああぁぁぁっ!!////」
...なんかギャーギャー聞こえるが、気にしない方がいいよな。
◇◇
「......こんなもんかな」
弦の張り替えも終わり、とりあえず見た目は大丈夫そうだ。後は音だな...アンプと繋いで音を確認してみよう。ノイズなんかが混じってなければいいんだが...。
俺は自分の部屋から小さいアンプを持ってきてギターと繋げる。コレを使うのも久々だな。
〜♪
チューニングを終え、ドレミから始まっていろいろな音を出してみる。
「大丈夫そうだな...」
一通り鳴らしてみたが音は綺麗だ。中の配線は何ともなさそうだな、ひと安心。
俺は適当にジャカジャカと変なフレーズを意味もなく引いていると。
「治りましたかっ!?」
「うおっ」
いきなり扉を開けて猫耳少女が入ってくるのだからびっくりする。どうやら風呂から上がって来たらしい。
後ろにはツインテ少女もいる。2人ともそれぞれ俺のパーカーを着ていて(俺の私服はパーカーがほとんど)、風呂上がりだからだろう、少し頬が赤く蒸気している。
物凄くどうでもいい話だが、俺は女子がダボダボのパーカーを着ている姿にグッと来るタイプの人間だ。つまり今の2人はなかなか...いい感じだ(小並感)。
本当にどうでもいい話だな。
閑話休題。
「あぁ、ちょうど今音を確認してました」
「...どうでした?」
猫耳少女は恐る恐る聞いてくる。
「大丈夫ですよ。幸い弦の張り替えだけで良かったみたいだし。音も綺麗に出るので問題なしです」
「......よ」
(よ?)
「よ"がっだあ"ぁぁ〜っ...!!」
猫耳少女はヘナヘナとへたり込む。よっぽど心配だったのだろう。
「あの...ケースの方は?」
ツインテ少女が聞いてきた。
「ケースはもうダメですね...」
「そうですか...」
「一応応急処置で使えるようにはなってますけど、見てくれがアレなんで、新しいのを買うことをオススメします」
「あ、ありがとうございますっ」
「ありがとうございます!!」
俺はギターを猫耳少女に返す。
「うぅぅ...! 落としちゃってごめんねぇっ」
彼女はそれをギュッと大事そうに抱えながらそんな事を呟く。
一件落着かな。
「本当にありがとうございますっ!! あ、そういえば自己紹介まだでしたね」
言われて気づく。そういえばそうだな。
「私、
「...
「林道佳夏です」
猫耳少女は戸山さん、ツインテ少女は市ヶ谷さんと言うらしい。
「もしかして佳夏さんってギター経験者ですか?」
「え?」
「ギターの修理とか慣れてるみたいですし」
「ま、まぁ。多少は...」
急に真剣な顔になる戸山さん。
「実はお願いがあるんです...!」
「か、香澄?」
「おね、がい...?」
なんだろうか、一体何を要求されるんだろうか。俺がしてやれることはそんなに━━━━━
「私に、ギターを教えてくださいっ!!!」
...なんじゃと?
まさかの要求に内なるお爺さんが出てきてしまう。
「...それは━━━━━」
俺が言葉を続けようとした時。
ぐうぅぅぅぅぅぅ...
「.........」
「.........」
「........................香澄、お前...」
突如鳴った腹の虫の出処は戸山さん。三者とも仲良く固まってしまう。
とりあえず...
「......えっと、...コロッケ、食べますか?」
戸山さんは頷いた。
◇◇
チーン
北沢精肉店オススメのコロッケを温め直し、2人に渡す。
「わ、私は大丈夫です」
市ヶ谷さんは渋ったが。
「いただきまーす! ...んん〜♡」
「.........」
「超美味しいぃ...!!」
「......い、いただきます...」
顔を少し赤くしながらコロッケを受け取る。分かるよ。戸山さんめちゃくちゃ美味そうに食べるよな。
俺も食いたくなってきた。
......うっま
さすがおっちゃん。相変わらず最高。
話を戻そう。
「それで...えっと、ギターを教えてほしいって話だけど...」
「(モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ)」
「あ、飲み込んでからで大丈夫ですんで」
「(ごくんっ)私! キラキラドキドキを探してて...!」
「.........は?」
「はぁ...(...始まった)」
なんだそれは。キラキラドキドキ? オノマトペすぎてわからんぞ。ギターの話はどこへ行った...?
「実は私、小さい頃に"星のコドウ"を聞いたことがあって...」
「????????」
更に謎ワードの追加。今度はなんだ、ホシノコドウ? さっぱりすぎてわけがわからないよ。
話を理解していないのは俺だけなのかと心配になり、市ヶ谷さんに視線を向ける。
「.........」フルフル
無言で首を横に振る。良かった...良かったのか? とりあえず話を理解していないのは俺だけでは無いらしい。
しかし、いかんせんキラキラドキドキやら星のコドウやらがどうやってギターに繋がるのかが分からない。
とりあえず話を聞いてみる。
.........
......
...
ざっと聞いた内容を掻い摘んでまとめると。...幼い頃に満天の星空の下に聞いた"星のコドウ"。その時に感じたキラキラドキドキをもう一度探すため高校に入学。ひょんなことから聴いたバンドの演奏に同じ
そういうことらしい。
「ということで...ギター教えてっ!」
「...なるほど」
話を聞く中で互いに同い年という事が判明。敬語は要らないとの事でタメ口になった。
「さっきギター鳴らしてたけど、凄い上手だった!」
「...それは私も思った」
褒め言葉をいただいた訳だが...。
俺がギターを教える、か。俺は他人に教えられる程のギターの腕は無いのだが...いや、必要なのは上手さじゃないな。俺に無いのは自信だ。ギターを他人に教えるなんて経験は1度もない。
正直、あまり乗り気にはなれないのだが...
...男なら応えてこそだろう。
「基礎くらいなら、俺でよければ教えるが...」
「本当にっ!?」
ズイっと近付いて来る戸山。近いって。
「あ、あぁ」
「ありがとうー!!」
「うわっ」
急に俺の両手を掴んで振り回す。痛い痛いもげるもげる。いきなり掴んで来たものだから"うわっ"なんて言ってしまった。なんかゴメン。
「良かったじゃねーの」
「うん! うんっ! .........って有咲、何してるの?」
スマホを操作する市ヶ谷に視線を向ける戸山。
「
「...出品?」
「オークションで売るつもりだったんだよ」
「...ソレを壊したのか戸山」
「も、申し訳ない...」
縮こまる戸山。忙しないやっちゃな。
「そのギターはお前にやる」
「え、いいのっ?!」
「だから...540円」
「ゴヒャクヨンジュウエン?」
はて? みたいな顔する。ちょっと可愛い。
「オクの取り下げ手数料! 30万はおまけしてあげる」
「あ、有咲ぁ〜...!」
30万のおまけて。とんでもねぇ額だぞ戸山。...大事にしろよマジで。
「大事にしろよ?」
俺と同じ事を聞く市ヶ谷。
「うんっ!」
戸山即答。
「...じゃ。ほれ、540円」
「ちょっと待って。お財布〜..................あ」
「「?」」
首をギギギと音を鳴らしてゆっくりと市ヶ谷に顔を向ける。
「......300円しかない」
「...やっぱ売る」
「ダメぇーーっ!!」
早速ギター喪失の危機到来。あまりの急展開に思わず俺もため息が出てしまう。
しゃーない。
「残り240円は俺が出すよ」
「佳夏君...!」
ギターを教えると言った手前、早々にギターを失うのは避けたい。何、240円くらいどうって事ない。
「あまり香澄を甘やかすなよ林道」
「まぁまぁ。戸山もこのギターが気に入ってるみたいだし、早々に無くすのは可哀想だろ」
俺は全国のギター初心者を応援します。
「ありがとう佳夏君っ!!」
だから近いって。あと腕ブンブンしないで。
とりあえず戸山を離して。
「ほれ240円」
「......いーよ別に」
「あら?」
拒否られた。
「......えっとアレだ、コロッケ代でチャラ! ってことで...」
「コロッケ...」
若干プラマイゼロにはなっていないような気もするが、おそらく市ヶ谷は何かにつけて受け取らない気だろう。
やっぱりコイツ。
「優しいんだな、市ヶ谷」
「なっ...?!///」
急に顔を真っ赤にする市ヶ谷。照れてるのか? 可愛いヤツめ。
「そ、そんなんじゃねぇし! ただ林道から金取るのは気が引けるから仕方なくってだけ!」
ははん。さてはコイツ、ツンデレだな。
「有咲ぁありがとー!」
「林道に感謝しろよな」
「うん! ありがとう佳夏君!」
「わかったって。ほら、ギター教えて欲しいんだろ?」
「うんっ、よろしくお願いしますっ!」
◇◇
あれから30分。チューニングから始まり、ドレミの音を出してみたり、ローコードを教えたりなどなど...。
でもってこの戸山、なかなか上達が早い。多分すぐに人並みには弾けるようにはなるんじゃなかろうか。
「しかし戸山」
「ん?」
「なんでランダムスターなんて選んだんだ?」
俺は気になっていた事を戸山に聞く。
「ランダムスターって?」
「そのギターの名前」
「おお...かっこいい!」
知らんかったんかい。
「選んだ理由かぁ...。なんかこう...運命を感じたの!」
「...なるほど」
アイツも似たようなこと言ってたな。そういうものなんだろうか。
「そのギターって珍しいのか?」
市ヶ谷が聞いてくる。
「ギターが珍しいというより、ソレを選ぶ人が珍しいって感じだな。ランダムスターは癖のある変形ギターだからな。ソレを選ぶ人は何も考えて無い奴か、もしくは変人か」
「変、人...」
「はっ、香澄は前者だろ...。いや両方か...?」
「私変態じゃないよ!」
「そこまで言ってねーよ」
「変態じゃないよね?」
「知らんがな」
俺に聞くな。
「変形ギターって言うんだ、こういうの」
「あぁ。よく見るストラトキャスターやテレキャスターとは違って、ビジュアル重視の見た目が変なギターは大体
「まぁ見た目は派手だよなそのギター」
「というか、見た目の派手さが唯一にして最大の魅力、かな?」
「...なるほど」
「まぁ、まず初心者が選ぶギターではないな」
「だそうだよ」
「私はコレがいい!」
「さいですか」
「だって"スター"だよ?」
「?」
「私、星が好きなのっ」
「星?」
星のコドウうんぬんの繋がりか?
「そう! この髪型も星型でしょ?」
「.........」
「.........」
ゑ??
「え、は? ...それって星なの?」
驚愕の事実が発覚。戸山の髪型、アレは猫耳では無かったのか...!
市ヶ谷も俺と同じく目を見開く。...いやお前も知らんかったんかい。
「猫耳じゃないの?」
「星だよ! どう見ても」
猫耳だろ、どう見ても。
...ていうか今気づいたが、風呂上がりでまたその髪型にセットしたのかよ。
「セット大変なんだから」
だろうな。
「ね! そんなことよりさっ」
「なにさ」
「何か曲弾いてよ」
「...俺が?」
「佳夏君が!」
いきなりだな。まぁいいけど。
戸山からギターを受け取る。胡座をかいて弾こうと思ったのだか、このギターは胡座だと弾きにくいな。俺はソファに移動した。
「あまり期待するなよ」
「期待してる!」
「聞いてた?」
目をキラキラと輝かせながら俺を見つめる戸山。やめい、恥ずかしいわ。...おい市ヶ谷、ニヤニヤしながら見てんじゃねぇよ。
「...ふぅ」
一息置いてから、ギターの弦にピックをかける。
〜♪
とりあえず思いついたおそまつなフレーズを好き勝手弾いてみた。
「.........こんな感じ、かな」
「凄い凄いっ! かっこいい!!」
「上手いじゃんか」
ギターでかっこいいなんて言われたのは初めてだ。
「そうか?」
「なーに照れてんだよ」
「うるさいぞ市ヶ谷」
「ホント凄かった! 誇っていいよ!」
「おめーは何様だよ」
市ヶ谷にツッコまれる戸山。
「私も早く上手に弾けるようになりたい...っ!」
「今直ぐには無理かもだが、戸山ならそのうちこれくらいできるんじゃないか?」
「ホントっ!?」
「近い」
本当最近の女子高生ってどうなってんの? すぐくっ付いて来るやん。
「あぁ、戸山なら大丈夫だろ」
「私、頑張るね! でもまず何から練習したらいいの?」
「...そーだな。コード覚えながら"きらきら星"でも練習すればいいんじゃない?」
俺も最初はきらきら星からだったし。
コイツ星好きみたいだし、丁度いいだろ。
「きらきら星...! それがイイ!!」
ほら食い付いた。
「教えて!」
「はいはい」
◇◇
ピー ピー
「何の音だ?」
「あぁ、乾燥機が止まった音だな」
あれから数十分。戸山のきらきら星マスターに向けて練習に付き合っていると乾燥機が終了のブザーを鳴らす。
「時間もいい感じだし、そろそろ練習も終わりだな」
「えー! もうちょっとやりたいっ」
「えーって言われても。後は自分で練習しな」
「......」シュン
分かりやすく落ち込む戸山。うーん、罪悪感が出てくるが仕方の無いことだ。いつまでも家に置いてはおけない。
自分で招いておいてアレだが。
「親も心配するだろうし、な?」
「...泊まっちゃだめ?」
「ダメ」
何を言い出すかと思えばこの子ったら。泊まるだと? 今日会った人の家に泊ろうとするその行動力は凄いと思うが、流石に危機感無さすぎではなかろうか。少し心配になる。
市ヶ谷も額に手を当てて呆れた様子を見せた。
「香澄、帰るぞ」
「もう少しだけっ! 練習させて有咲っ」
「ダメだ」
「嫌だぁ!」
「駄々こねんなっ!」
ほら着替えるぞ。と、戸山を引き摺りながらリビングを出ようとした時。
ぐうぅぅぅぅぅぅ...
なんかデジャブ。
「.........」
「.........」
「........................戸山、お前...」
「え、私じゃないよ?」
「え」
俺でもない。
するってーと残る人は...。
「...///////」
あ"ぁーこれは。結構恥ずかしいやつよな。
市ヶ谷は顔をこれでもかと赤くしながらプルプルしている。
そうだな...。
「............夕飯、食べてくか?」
「いや、そこまで「食べるっ!!」.........」
「了解」
久々に他人との夕飯。少し張り切ってしまいそうな自分がいた。
◇◇
2人の着替えも終わり、俺も夕飯の支度を終える。今日の夕飯は...。
「ほい」
「おぉ...」
「ハンバーグだぁ!」
そう、ハンバーグ。夕飯のメニューとしては定番だろう。我ながらよく出来たと思う。
「それじゃあ...」
「「「いただきます(!)」」」
「どうだ?」
「凄く...」
「美味しいっ!!」
ほっとする。よかった、まだ腕は落ちていないようだな。
「その...悪いな、ご馳走になって」
市ヶ谷が申し訳なそうに言う。
「いいって。それに...」
「皆で食べた方が美味しい!」
「そういうこと」
笑顔で戸山が言ってくれた。それを聞いた市ヶ谷は少し恥ずかしがって、でも少し嬉しそうに。
「そっか...//」
ぐぅ可愛い。初めは警戒心MAXみたいだったが、少しは気を許してくれたのかもしれない。だとしたら俺としては嬉しいかぎりだ。
そこからは互いに他愛ない話をした。楽しい時間は直ぐに終わると言うけれどその通りだ。気付けば食べ終わっていて、3人で片付けをする。
「香澄は食器を拭いてろ」
「私も洗うよ?」
「ギターの次に皿まで落とされたらたまったもんじゃないし」
「ぐぅ...」
容赦ないな市ヶ谷。戸山はブーブー言いながらも拭いている。
「2人とも悪いな、手伝ってもらって」
「これぐらいは当然」
「うん! ハンバーグ美味しかったし!」
「お前はおかわりしすぎだったけどな」
「有咲だってしてた」
「べ、別にいーだろ!」
仲良いねキミら。
「うん!!」
「良くねぇ!!」
どっち?
そんなこんなで片付けも終わり、夜も遅くなっていたし、家まで2人を送る事にした。暗い夜道を女子だけで歩かせるのは気が引ける。
雨はすっかり上がっていて、綺麗な星空が見えていた。
◇◇
「私はここでいいよ!」
家を出てから10分程で戸山の家の近くに着く。意外と近いみたいだ。
「佳夏君、今日はありがとう!」
暗がりだが、明るい笑顔でそう言ってくる。
「あぁ、ギター上手くなれるように頑張れな」
「うんっ、
「おう...............おう?」
え、"また"? まだ教えなきゃいけないの?
「次はいつがいいかな?」
「え」
「あ、連絡先交換しようよ!」
「え」
「これ私の連絡先ね!」
怒涛の勢いで戸山と連絡先を交換する。
「戸山、ちょっと待って「それじゃあねー!」.........くれないんですね」
俺の制止もどこ吹く風。一瞬で見えなく程の距離まで離れてしまう。足速いな。
「アレが戸山香澄だ」
「...なるほど」
何となく分かってはいた。戸山が結構人の話を聞かないタイプの人間だということを。考えるよりまず行動...って感じだしな。行動力の化身かよ。
住宅街のど真ん中で俺と市ヶ谷は立ち尽くす。
「...行くか」
「ん」
次は市ヶ谷の家まで送ることになる訳だが...。
「......」
「......」
戸山と別れて数分。ここまで市ヶ谷との会話はゼロ。さっきまでは戸山が会話を回していたのだが、その重要な立場を担っていた人間が消えた今、コミュ力の低い俺から会話を広げる勇気はない。
しょーじき、気まずい。
戸山、お前はスゲェやつだよ...。さっきはバカにしてごめんな。
こういうところは俺も戸山を見習うべきだろうか...。
「.....................なぁ」
「え......何だ?」
うだうだと考えていると市ヶ谷から声をかけられた。まさか相手から声をかけられるとは思ってもみず、少し反応が遅れる。
「えと.........その...」
「...?」
妙に歯切れが悪い。...なんだ、何かしてしまったか?
少し身構えていると、またしても意外な言葉を続けた。
「なんていうか...その、......悪かったな...って」
「??」
「ほら、せっかくギターの修理も風呂も、晩飯まで用意して貰ったろ? けど私は最初、林道の事...その、結構警戒してたっつーか...」
「あぁ......」
「正直はじめはいつでも通報できるようにしてた」
だろうな。俺は別にそれを悪い事とは思っていないが...。
「それが普通だと思うぞ」
「そうかもしれないけど...。まあ、それが言いたかっただけ」
「そう...。こっちこそ何かすまんな。少し強引だったかもしれない」
「いや、いいんだよ。あのままだったら香澄に風邪を引かせてたかもしれないし...」
戸山のことをあーだこーだ言う割には、やはりコイツ。なんだかんだでかなり戸山のことを大事にしてるんだな。
「やっぱり市ヶ谷って優しいのな」
「ち、ちげーしっ!」
「照れるなよ」
「照れてねー!!」
暗がりでよく見えないが、きっと市ヶ谷の顔は真っ赤なのだろう。
その話題をきっかけに市ヶ谷との会話は思いのほか弾んだ。戸山との出会いとか、昔はピアノやってたとか、学校の昼食は一緒に食べてるとか...。やっぱ仲良いだろ。
「......ここだ」
話しながら歩いていたら市ヶ谷の家に到着...って。
「......でかくね?」
「そうか?」
そうだろ。
市ヶ谷が家と言って指さした場所にあったのは、なんというか...家と言うより、広い敷地を持った"屋敷"だった。地主かなんかか?
うわ庭広っ。
「ここまででいいか?」
「うん。............あのさ」
無事送り届け、俺も帰ろうと思った時市ヶ谷に引き止められる。
「んぇ?」
「...これ、私の連絡先」
「お、おう......なんで?」
意外だった。まさか市ヶ谷から連絡先の交換を求めてくるとは。
「ほら。
「あぁ」
「ギターの練習付き合うならウチになるだろうし、来る時は連絡してくれると助かる」
「...なるほどな」
そういうことなら受け取っておこう。
「それじゃあ...............今日はありがとな」
最後にそう言い残し、市ヶ谷は家に入っていった。
やっぱ優しいな。
◇◇
「たでーまー」
家に到着。今日はなんだか色々あったな、しかも初めて我が家に人を入れてしまった。
「んにぁ」
「お前も大変だったな」
しょうゆも戸山に捕まってもみくちゃにされてたし。大変だったろう戸山の相手は。
頑張ったご褒美に、としょうゆを撫で回してやる。
その後、俺は風呂と洗濯を済ませ自室に戻る。特にすることも無く、なんの気無しに机の上にあるノートパソコンを開くとメッセージが届いていることに気付く。
何処からだろうと見てみると、"RinRin"さんからだった。
RinRin『K-naさん。今日はインできますか(*¨*)?』
K-na『大丈夫ですよ。今からします?』
秒で返信が返ってくる。相変わらず早い。
RinRin『はい、お願いしたいです(o^^o) 今日は聖堕天使あこ姫さんもいますので』
K-na『りょかい』
丁度暇してたしお誘いに乗ろう。
俺はRinRinさん達に合流すべく、"Neo Fantasy Online"、通称"NFO"にログインした。
リクエストとかってどうやって募ったらいいんですかね?
何か知っていましたらこっそり教えて頂けると嬉しいっす。うす。
あとコロッケ食いたい。