初投稿から誤字脱字のオンパレードでした。
報告ありがとうございますm(_ _)m
今回は挿し絵も入れさせて頂きました…。
ショッピングモール。
それは、飲食店やスーパー、被服屋、雑貨店、美容院からはたまた医療施設まで入居する大型商業施設である。顧客吸収率は高く、土日祝日ともなれば沢山の客が足を運ぶ。家族連れだったり、恋人と一緒だったり、1人きりだったり…。
俺は今、ショッピングモールに来ている。1人でだよこの野郎。
この街に来てはや2ヶ月。この街にとっては新人住民である俺だが、実はこのショッピングモールもつい最近できたばかりの新人ショッピングモールだったりする。何故だろう、少し親近感。
……言って気づいたが、新人ショッピングモールってなんだ?我ながら意味不明だ。
新しくできただけあってやはり内装は綺麗だ。オープン記念キャンペーンみたいな垂れ幕も所々に見えるし、出来たてホヤホヤなイメージだ。実際出来たてのホヤホヤなのだが。
それに客の数が異常だ。新しくできたショッピングモールなのだから、興味本位で足を運ぶ客が多いのだろう。新設された商業施設なんかじゃよくある事だが……にしてもこりゃあ本当に多いな。
それに今日は土曜日。休日ということがブーストをかけているというのもあるのだろう。
とりあえずブラブラと歩き回る……つもりだったが、全然ブラブラできないことに困惑する。それ程までに人が多い。通路は広い筈なのに真っ直ぐ歩けず、視界に入るのは人、人、人。立ち止まることは許されず、人混みという津波に流されていく。
今足踏まれたんだが…。
生活用品の買い出しも兼ねてショッピングモールに寄ってみたが、今日は来るべきではなかったかもしれない、と後悔の念が人波と共に押し寄せてくる。でもここまで来て帰るのも何だかイヤだしなぁ…。
そんな事を考えながら、何処にあるかも分からない食品売り場を探す。多分このまま流されていればいつかは目的の場所に着くのではないか?と、希望的観測に身を委ね、色々な店を眺めながら移動することはや20分。未だに食品売り場は見当たらない。
案内板を見れば良かったのでは?と思うかもしれないが、案内板の前には同じように現在地を知ろうとする人がたむろしていて見えそうにない。同じ事を考えている人は多いらしい。
また足踏まれた。
◇◇
更に15分後、何とかショッピングモール内のスーパーにたどり着く。
まさかここまで時間がかかるとは……、だがまあいい、着いてしまえばコッチのもの。買うもの買ってさっさと帰ろう。何かもう疲れたし…。
ていうか足めっちゃ踏まれたし。
食材と、それから猫用ちゅーるをカゴに入れてレジへ向かう。
引っ越し直後は日本のスーパーがイギリスのスーパーとどう違うのか少し心配していたものだが、
今までそんな大量の買い物などしたことないがな。
食材の入ったエコバックを引っさげスーパーを出ようと思ったのだが。
「…………………」
目の前には人々の往来。目まぐるしい程の人という人が通路を移動している。まるで川だ。この中に再度飛び込もうと思うと億劫だが、入らないと帰れない。あーめんどくさい。なんとか収まってくれないだろうか…。
スーパーの出入口で立ち尽くしながらそんな事を考える。
「ふぇ……」
今何時だ?……11時かぁ…あ、昼のね?
いや俺は一体誰に弁明をしているんだか……。
「ふぇぇ…………」
そろそろ帰ってしょうゆにエサあげないと。今回の買い物だってちゅーるのストックが切れたのを今朝になって知ったのでここまで買いに来た次第だ。
「ふぇぇ…………」
普段なら近くのコンビニとかスーパーで買い出しを済ますのだが、軽い気持ちで来るもんじゃないな。新設の施設なら
「ふぇぇぇ…………!」
…………さっきからなんか鳴き声が聞こえる。というか鳴き声なのか?
通路を歩く人達の声が大きくて何処から聞こえているのか分からない。
「ふぇぇぇ…………!」
……やっぱり聞こえる。というか近くなってる気がする。
気になって、俺は辺りをキョロキョロ見回す。
1人の少女が目の前でウロウロしていた。
薄水色の明るい髪色で、ゆるふわした感じの……この髪型は何と言うのだろうか。サイドテールなのだが、襟足は下ろしている。生憎とオシャレには疎いものでよく分からない。
恐らく歳は俺とさして変わらないくらいであろうその少女が先程から聞こえる鳴き声の音源であろう。ほら、なんかふえふえ聞こえる。
「ふぇぇぇ…………!」
「………………」
両手を胸の前に置き、妙に縮こまりながら若干挙動不審な様子で目の前を右往左往する彼女。その顔は分かりやすく怯えていて、落ち着き、なんてものは家の玄関にでも置いて来たのではなかろうかと思う程にぎこちない足運び。
……まぁ十中八九絶賛お困り中なのだろうが、声をかけるべきか否か。突然話しかけて不審者に思われないだろうかと少し心配になる。もし今ここで悲鳴などあげられようものなら俺はここであらゆる悔いを残して散れる自信があるぞ。うん。
きっとこの思考は、ほぼ女子校同然の羽丘で女子相手に気を遣いすぎる生活を送り続けているが故のものではないだろうか。羽丘での生活が、俺の女性に対する気の遣い方の難易度を底上げしているようだ。
ネガティブな感情が、"声をかける"と言う行動を思考の領域で押し留めてしまっている。
要するにチキンなのだ。我ながら情けない。
「……………………………………よしっ…!」
「…………ぁ」
うじうじと悩んでいると、目の前の少女はスマホの暗い画面を確認すると、怯えから決意の表情に変わり、なんと濁流のような人の流れに自ら入っていく。
勇者だと思った。どう考えても俺より落ち着きがなかった彼女が、俺よりも勇気ある行動を起こした。その事実に困惑と後悔を覚える。
情けない男だという自覚はあったが、それを明白にされたようで居心地が悪くなる。罪悪感にも似た何かが俺を襲う。
人の波に飲まれて、ものの数秒で彼女は見えなくなった。
……帰ろう。
そう思って、先程の少女より数分遅れて人混みに突入する。あわよくば、もう会いませんように。別に彼女に対して何かがある訳では無い筈なのにそう思ってしまう。
ちょっと自己嫌悪。
だがもう会うことも無いだろう。これだけの人の中のたった1人だ。きっと何百、いやもしかしたら何千人分の1の確率だろう。
俺はまた人波に流されていく。はてさて、今度はショッピングモールから出るまでどれ程の時間がかかるのやら……。
◇◇
とか思っていた時期が俺にもありました。
……っていうセリフを1度は使ってみたかった。
1度は使ってみたかったセリフ第4位(当社比)を言えた喜びを噛み締めたかったが、実際その通りの状況になると別に喜べたりはしない。
俺はまだショッピングモールを出れていない。
「ふぇぇ………! ここ何処ぉ…」
でもって例の彼女と再会する。
しかもこれは2回目ではない。4回目だ
スーパーを出てからの俺はとりあえず人の流れに身を任せて移動を始め、あれからかれこれ15分近くは経過していた。そしてその間、例の彼女とは現状も含め3回見かけている。
2回目はコスメショップの前、3回目は靴屋の前、そして今、彼女は本屋の前でビクビクしている。
こんなにも見かけるものなのか。
回数を重ねる毎に彼女の様子がどんどん悪いものに変わっているように見えて、なかなかに心配になってくる。縮こまって困り顔なのは変わりないが、先程とは違い、そこに涙目まで追加されてしまったようだ。
「ここ何処ぉ…」と言うセリフから、彼女が一体何に困っているのかが何となく分かった。
恐らくシンプルに迷子なのだろう。
俺も似た様なものだとは思うが、恐らくその気になれば直ぐに出られるものと高を括っている。たぶん、おそらく、だったらいいなぁ…。
「…ふぇぇ…………」
「…………」
『困ってる人がいたら助けるべきよ。その優しさがいつか、回り回って自分に還ってくるから』
「あの……」
「ふえぇぇっ!!??」
「スミマセッ」
近ずいて声をかけると叫ばれた。
思いのほか声が大きく、脊髄反射的に謝罪をしてしまう俺。やっぱりなんか情けない。
「だ… 誰、ですか…?」
怯えながら少女が聞いてくる。なんかいじめてるみたいな空気を感じ、罪悪感からか、1歩下がってから弁明する。
「いえその…、先程から何度か見かけてて……」
「…………」
「凄い、困ってるみたいだったんで……、その…」
「…………………」
「心配に、なって……」
「…………………………」
「声を、かけたしだい、です……ハイ」
「…………………………………」
あぁ……、本当に情けない。どんどん声のボリュームが下がっていき、それに比例するように顔も俯いてしまう。今俺は床しか見えていない。
しばしの沈黙。これ程までに重たい沈黙は久しぶりだ。俺の行動で彼女を更に困惑させてしまったかもしれないと思うと嫌な汗がにじみ出るようだ。
やはり…、声をかけるべきでは━━━━━
「ぁ、あのっ…!」
「……?」
彼女の呼び掛けで思考が遮られ、俺は顔を上げる。
「ごめんなさいっ…。その、心配してくださったのに私、声なんてあげちゃって…」
「え? ……あ、いえっ。こちらこそ急に声かけてすみません……」
「本当、ごめんなさい……」
「こちらこそすみません……」
「「…………」」
お互いに謝罪を繰り返し。
「…………ふふ」
「…………はは」
お互いに小さく苦笑する。
◇◇
「整理すると…… 友達とショッピングモール内のカフェに行こうとしたけど、途中ではぐれてしまい」
「……はい」
「『カフェに再集合』という連絡を受け、カフェを探すもいっこうに見つからず」
「………はい」
「スマホの充電も切れて友達とも連絡が取れなくなり、途方に暮れていた……と」
「…………はいぃ…」
彼女の説明を整理するとこういうことらしい。
「ちなみにその友達さんと別れてからどれくらい経ってます?」
「えと…、多分20分くらい、です」
「連絡がとれなくなったのは?」
「確か15分前くらいに、スーパーの入口辺りで…」
あぁ…、あの時か。
「その友達さんも迷ってるかもしれませんね…」
「
友達さんの名前は千聖さんというらしい。
「私がちゃんと千聖ちゃんについて行っていれば良かったのに……」
「まぁこの人混みですし…」
「それもあるかもしれませんけど。そもそも私、凄く方向音痴で……」
「はぁ………」
「1人で来れる自信がなかったから、忙しい千聖ちゃんにわざわざついて来て貰ったのに……私…」
「……なるほど」
そう言うと彼女は俯いてしまう。
この人混み+方向音痴の合わせ技でこうなってしまったと…。そうなると再会は時間がかかりそうだ。
ここまで聞いてしまって「そうですか頑張ってくださいね」と言ってこの場を離れるほど人間腐っているつもりはない。
ならばする事はひとつ。
「あの、一緒に探しませんか?カフェ」
「え?」
「ここまで首突っ込んでおいて別れるのはなんなちょっとアレですし…」
「………」
「俺なんかで良ければ手伝わせてください」
「…………えと…」
俺の提案を聞いた彼女は少しの間考える素振りを見せると。
「そ、その……。こちらこそ、よろしくお願いします……///」
顔を赤くしながらそう言った。
…………なんだろう。彼女の仕草を見ると妙にソワソワする。ただのカフェ探しの提案をしただけなのに、愛の告白をした後みたいじゃないか。
したことないけどな、愛の告白。
とりあえず善は急げだ。
「それじゃあ行きましょうか。まずは現在地を確認しないと…」
「はいっ……。ぁ、あのっ!」
俺が移動しようとすると、彼女は俺の上着の袖をチョンと摘んでくる。
なんスかそれ。可愛いいんスけど。
「あ、いえっ。そのぉ……」
「……」
「こうした方が、もうはぐれないかなって……//」
「…………」
恥ずかしさからなのか、彼女の声は次第に小さくなる。
あまりの仕草の可愛いさにしばしフリーズする俺。
「…………うぅ…////」
彼女の突然の行動に対しての動揺からか、俺は間抜け面のまま彼女を見つめてしまう。
すると彼女の顔はどんどん赤くなっていき……。あ、カワイイ。
…………はっ!そうじゃなくてっ
「そ、うですね…。それじゃあどこか適当に掴んでおいてください。」
「はい……//」
厳かにいけぇ俺!女子1人くらいエスコートできなくてどうする。
千聖さんなる友達も待たせているかもしれない。急がねば…。
2人で人混みに紛れていく。
◇◇
着いた。なんとか案内板を確認できて良かった。
2人で行動を開始してからおおよそ10分。案外あっさり着いたので安堵する。まぁその間に4回ははぐれそうになったのだが……。
目の前には綺麗なカフェ……、オープンしたてなら当然か。店名も彼女から聞いた通りで間違いなさそう。
「あ、千聖ちゃん!」
「……!
店の前まで行くと、例の友達を見つけたのか俺を追い越して駆け出していく彼女。
進路の先にはもう1人の少女。見た目的に歳はやはり俺達との差はなさそうで、綺麗なブロンドの髪を腰辺りまで伸ばした少女だった。なんとなくだがオーラを感じる。
金髪の少女は待ち合わせ相手を見つけると、安心したように笑顔を見せ、花音と呼んだ少女と手を合わせる。
「もう…。本当心配したんだから…」
「うぅ…、ごめんねぇ。ごめんねぇ千聖ちゃん……」
「えぇもういいわ。合流できて良かった。……でもどうやってここまで? 彷徨ってたの?」
「ううん! あの人に案内して貰ったの」
「あの人?」
少女達より2、3歩後ろで見守っていた俺に2人は顔を向ける。水色髪の少女は笑顔なのだが、金髪の少女は、俺の顔を見ると少し顔を分かりにくいレベルで顰める。……なんか怖いんだが、俺何かしたかなぁ……。
「……どうも」
一応挨拶する。すると金髪の少女は俺の前まで来ると先程までとは違い、爽やかな笑顔で話しかけてくる。
なんというか、
「私の友達がお世話になりました。助けてくださり、ありがとうございます」
「いえ…まぁ、成り行きですので」
「それでも感謝します」
「えと…、どういたしまして…」
小さくお辞儀をして感謝される。なんだか品を感じる所作だと関心してしまう。いや何様だ俺。
ここまで言われるとなんだか気恥しい。俺も美竹と同じか?
だが、とりあえず目的は達成した。
「お二人とも合流できたみたいで良かったです。…それじゃあ俺はこの辺で失礼しますね」
「え、あ!ちょっと待ってくださいっ」
「花音?」
帰ろうと背を向けた俺に対して、水色髪の少女がまた俺の袖を小さく摘まんで引き止める。
いやだからそれは反則なんよ。
「その…、一緒にお茶しませんか? お礼もしたいですし」
「花音…」
「えっ?いやぁ、お2人の時間を邪魔するのはしのびないというか…」
「大丈夫です! ……千聖ちゃんもいいでしょ…?」
「……えぇ、花音がいいのなら」
「ぅーん……」
どうやらもう一方はあまり乗り気ではなさそうだ……。やっぱりなんか怖い。
すると水色髪の少女は俺の顔を見ると。
「ダメ、ですか…?」
「俺で良ければご一緒させていただきます(早口)」
いやぁ、ね?断ろうとは思ったんですよ。でも、ね?上目遣いで頼まれたら、さ?もう断れんのですよハイ。
やっぱ反則なんスよ。
「ありがとうございます!」
俺は少女に手を引かれてカフェの中に入っていく。
「…………(あの花音が……)」
◇◇
「どうかしましたか?」
4人席に2対1の対面で座る。ちなみに1が俺。
席に座った直後、金髪少女がそう聞いてきた。
「実は俺、カフェに入ったことなくて。ちょっと緊張してます」
「なるほど」
「そうなんですか? 凄く落ち着いてるように見えますけど…」
「よく言われます。そう見えるだけですよ」
俺はカフェ初心者だった。別に苦手という訳ではなく、ただ単にその機会がなかっただけだ。むしろ静かな雰囲気が良さげだったので、いつかは行ってみたい場所のひとつでもあった。
初めてカフェに入った喜びと不安を感じていた俺。それに金髪少女は気づいたのだ。結構鋭い人なんだろう。
「ご注文はお決まりでしょうか」
そんな事を考えていると、店員さんが来た。
「アッサムティーをひとつ」
「私はディンブラで」
少女2人組はスラスラと注文する。なんだディンブラって、聞いたことないぞそんなの。
さすがに慣れているのだろう。なんかそういうのオシャレでかっこいい。
「貴方は?」
「え? あぁー…」
マズい。こういう店に慣れていないからどんなのを注文すればいいのか分からない。メニューを見てもカタカナばかりでどんなモノなのか想像できなさそうなのばかり。てかできない。
ここでいい感じに注文できたらかっこいいのだろうが、初カフェでそんな器用な事ができるはずもない。それに、もたついて2人を待たせるなど論外。
ここは無難に。
「俺はカフェオレで…」
「かしこまりましたぁ」
そう言って営業スマイルで去っていく店員を見送ると、俺は小さく息を吐き、背もたれに体重を預ける。いつだって注文の時間は緊張してしまうものだ。
「……ふふ」
「?」
金髪少女は俺を見ながら何故か小さく笑った。なんだろうか、何かしてしまったか?
「あぁいえ、ごめんなさい。気にしないでください」
「はぁ……」
「そういえば自己紹介がまだでしたね。はじめまして、私は
「あ、私は
「林道佳夏です。よろしくです」
「花音を連れて来てくれてありがとうございます。この子よく迷子になるから心配で……」
「千聖ちゃん…! うぅ…その通りだから何も言えない…// 私からもありがとうございます! 声をかけてもらわなかったら私どうなっていたか……」
「いえそんな。合流できて良かったですね」
手を貸した身としては安堵できる結果を出せたようでホント良かった。
ホッとしていると白鷺さんが聞いてくる。
「もしかして学生さん?」
「そうですね、高1です」
「あら、年下なんですね」
「ということは…」
「私と千聖ちゃんは高校2年生なんです」
「なるほど。なら、敬語なんて使わないでいいですよ」
あまり年上に敬語で話されるのは落ち着かないので、と付け足しておく。
「…そう?ならそうさせて貰うわ」
「ええ」
「よろしくね、林道君」
「こちらこそ」
そう言った直後、それぞれが注文した飲み物が運ばれて来た。
◇◇
「へぇ、イギリスから…」
「えぇ、2ヶ月前にここに来たばかりなんです」
「凄いね。イギリスかぁ、何か憧れるなぁ」
「そうかしら」
「千聖ちゃんは違うの?」
「んー…。実は私、昔イギリスに家族旅行したことがあったのだけど…、あまりいい思い出がないのよ」
「それは、また…」
「何かあったの?」
「それは………。お茶の席でする話ではないわね。忘れて」
「…………」
「?……千聖ちゃんがそう言うなら」
ちまちまカフェオレを啜りながら談笑していると、俺がイギリスから来たという話をした直後の事だった。
なんだか少し暗い雰囲気を感じる。これは……なんかダメだ。話題を変えていこう。そういうことができてこそできる男というものだ…と思う。違う?
「そういえば、お2人はよくカフェに行くんですか?」
「そう見える?」
「えぇ。お2人共いろいろと言動に迷いがなかったので、それなりに慣れているのかなと」
「うん。私達、カフェ巡りをするのが共通の趣味なの」
「カフェ巡り、ですか。なんかオシャレっすね」
「ふふ、ありがとう」
「最近できたショッピングモールだからね。ここのカフェが気になってて2人で来たんだ」
「ここら辺のカフェはだいたい回ったんじゃないかしら」
「そんなに…?」
「まぁその。あまり遠出はできないから…」
「あはは……」
「…? それはどういう……」
「まあそれはどうでもいいのよ」
(はぐらかされた…)
「しかしカフェ巡りですか。俺もやってみようかな…」
「いいと思うわよ」
「うん! お店よって雰囲気も変わるからきっと面白いと思うな」
「近場でオススメとかってあります?」
「そうね…羽沢珈琲店、とかかしら?」
「そうだね。あそこはコーヒーも食事も美味しいしね。私達もよく行くし」
「あぁ……」
羽沢珈琲店……羽沢の家、だよな。店を見たことはあったけど、まだ入ったことはなかったな。
「あら、知ってるの?」
「その、友人がそこの娘さんで。名前だけは知ってたんですよ」
「つぐみちゃんと知り合いなのね」
「知ってるんですか?」
「行きつけだから」
それもそうか。
「ということは貴方、羽丘の1年生なのね」
「そうっす」
「そっか。つぐみちゃんも羽丘だもんね」
「意外な縁ですね」
「たしかに」
その後も俺達は所々で茶を口にしながらいろんな話をした。
◇◇
「ディンブラって初めて聞いたんですけど」
「そうなの? 美味しいよ。スッキリしてるから飲みやすいし」
「ディンブラは『最も紅茶らしい紅茶』と言われているくらいだものね」
「さすが...。詳しいですね」
「伊達に紅茶を飲んでないわ」
(千聖ちゃん...。凄いドヤ顔)
◇◇
「えっ、女優さんなんですか?」
「えぇ、まぁね」
(やっぱり知らなかったのね...)
「千聖ちゃんは子役時代からやってたんだよね」
「花音、その頃の話はちょっと...」
「凄いっすね...。でもなんとなく納得できます」
「そ、そう?」
「はい。なんかこう...オーラがあるというか」
「それはなんとなくわかるかも」
「すげー尊敬します」
「ふふふ。だって、千聖ちゃん」
「......//」
「松原さんもそういうのやってるんですか? こう...芸能活動的な」
「ふぇっ!? わ、私?」
「はい」
「私はそういうのじゃないよっ」
「そうですか...」
「それにほら、私って千聖ちゃんみたいに綺麗じゃないし...」
「「そんなことない(でしょ)(わよ)」」
「ふえぇっ?!!///」
◇◇
「小さい頃からイギリスにいた割には日本語が流暢よね」
「
「やっぱり英語はペラペラ?」
「Well, it's normal for everyday conversation.(えぇまあ、日常会話くらいなら)」
「凄い...。なんて言ってたの?」
「"花音が凄く可愛い"って」
「ふえぇぇっ!!!??////」
「...言ってないっすね」
「///...もうっ! 千聖ちゃんっ!!」
「ふふふっ♪」
◇◇
「犬ですか」
「そう、レオンっていうの」
「ゴールデンレトリバーなんだよね」
「へぇ...(なんか似合うな)」
「写真もあるわよ...ほら」
「おお...、可愛いっすね」
「可愛い〜!」
「ありがとう。貴方はペット飼ってないのかしら?」
「俺すか。ウチは猫がいますね」
「へぇ...! 猫ちゃんかぁ...。名前はなんていうの?」
「しょうゆ、です」
「...醤油?」
「しょうゆ」
「しょうゆちゃん...って、変わった名前ね」
「なんで調味料なの...? 」
「色がそれっぽいから、らしいです」
「らしいって...貴方が命名者じゃないの?」
「付けたのは俺の親友です」
「なんというか...ちょっと変わった感性だね...」
「ちょっとどころか結構変わった奴ですけどね」
そんなこんなでなかなか話題も尽きず、2時間は居座ったと思う。お互い昼食もまだだったみたいなのでついでに済ませる。
2、3回程紅茶のおかわりをした空のカップを見て時間を確認する。そろそろ午後2時になろうかという時間。これ以上長居するのも店に迷惑かな。
「...そろそろ出ますか。長居するのも店に迷惑かもですし」
「そうね、なかなか話し込んでしまったわ」
「うん! なんかあっという間だったね」
それぞれ会計を済ませ、店の外へ。相変わらず人混みは凄いが、カフェに入る前よりか減っているように見える。...やっぱ気のせいかも。
この後ちゃんとショッピングモールから出られるだろうか。
なんて考えていると。
「林道君、この後予定はあるかしら」
「...はい?」
「私達、この後服屋とかを見て回ろうと思っているのだけど」
「? ......はあ」
「貴方も一緒にどう?」
まさかの提案だった。しかも白鷺さんの方から。最初こそ警戒されてたみたいだが、カフェでのやりとりで多少は馴染めたのか...? しかし、いきなり踏み込んで来たな。
美少女2人のショッピングに同伴と、なんとも魅力な提案をされた訳だが...。
「誘いは嬉しいけど、今日はもう帰ります」
「やっぱり何か用事でも?」
「実は5時からバイトでして...」
「あら...それは残念」
そう、今日もCiRCLEでのバイトがある。それさえなければこの提案に肉を目の前にしたライオンの如く食いついたのにチキショー。
まぁ今日にシフト入れたのは俺なんですけどね。何やっとんねんバイト初日の俺。
「すみません...」
「いいえ、こちらこそ無理言ってごめんなさい」
「バイトなら仕方ないね。それじゃあここでお別れ、かな...?」
あぁ松原さん。そんな悲しそうな顔をしないでくれ頼むから。これ以上はバイトをサボることも視野に入れてしまうじゃあないか。新人スタッフとして、日が浅いうちからサボるのは褒められたことじゃない。...なんなら日が浅くなくても褒められない。
「それじゃあせめて、連絡先交換しない?」
「...いいですけど」
「わ、私も...! ......充電切れてるんだった...」
「オススメのカフェ、いろいろと教えてあげる」
「なるほど...。ありがとうございますっ」
まさかの提案Part2。こんなところで女子と連絡先を交換することになろうとは...。しかも美少女2人組から。断ることはむしろ罪じゃないか?
美竹達ともまだ交換していないのに。
白鷺さんとの連絡先を交換し終える。
「千聖ちゃん。後で私にも送ってね...!」
「えぇ分かってるわ」
「...それじゃあ俺はこれで。カフェ、ご一緒できて嬉しいかったです」
「こちらこそ楽しかったわ」
「私も楽しかったよ。あと、助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。...それでは」
軽く会釈してその場を離れる。またこの人混みに紛れるのか...。ため息と共にそんな思考が過ぎるが、だが、素敵な女性2人組と優雅にお茶したスーパー俺なら、こんな人混みなんぞそよ風のようなものさ...!
きっと今の俺はスーパーの前にいたあの時の俺より、少しだけ胸を張って歩くことが出来ていると思う。
さっそく足を踏まれるがな。
◇◇
花音が連れて来た彼。...いや、連れてこられたのは花音の方だったわね。
どうせ弱っている花音に漬け込んだチャラい男だろうと思って見たけれど、案外と普通な人だった。オシャレしていた訳でも無さそうだったし、少し大人びた雰囲気だったけど、"The無難''って感じの青年だった。...これは少し失礼かしら。
それに何かと話しやすかった。適度に話題を広げ、相槌を打ってくれる。表情の変化は分かりにくいけれど、ソワソワしていたり、楽しそうにしていたのは何となくでわかった。カフェが初めてなんて、少し可愛らしいところもあるし。注文の時にも緊張していたみたいでちょっと笑ってしまったのは申し訳なく思う。
それに、イギリス話のくだりで雰囲気が少し変わった時、...まぁ変えてしまったのは私なのだけど。彼はすぐに話題を変えてくれた。女優だと知った時も、無理に仕事について聞いてくることはなかった。もしかしたら、プライベートだからその手の話題を避けてくれたのかも。そういう気遣いのできる人でなんだか少し安心した。
初め彼に対しては警戒していたけど、話をしてみればいつの間にか気を許していた。私らしくない気もするけど、別に悪い気はしない。
...ただ、花音の誘いには乗っておいて、私の誘いには断りを入れたことに対しては少し不満がある。バイトがあるから仕方ないとはいえ、なんだかモヤモヤを残した感覚。
まあ、花音のあの誘い方で断れる方がおかしいわね。私でも無理だわゼッタイ。
「どうしたの? 千聖ちゃん」
そんな事を考えながら服を眺めていると、花音から声をかけられる。いけない、ボーっとしていたかもしれないわ。
「なんでもないわ、少し考え事をね...」
「ふふふ。もしかして林道君?」
「...へっ?!」
まさか花音に当てられるとは思ってもなかったからか、女優にあるまじき上擦った声をあげてしまう。恥ずかしい...。というより、何故動揺しているのだろう私は。
「ま、まぁね」
「千聖ちゃん楽しそうに話してたもんね」
「それは花音も同じでしょう」
「そうかも。なんか、気づいたら気を許してたって感じで...えへへ」
花音も同じだったようでなんだか少しほっとする。
「今度出かける時は林道君誘ってみる?」
「...それも、いいかもね」
「うん!」
「でも意外だったわ」
「?」
「花音があそこまでして彼を誘うなんて」
「あ、あはは...// 今思うと大胆なことしたなぁ私」
「ホントよ。びっくりしたわ。あの奥手な花音がねぇ」
「うぅ......///」
林道佳夏。また会うことがあれば、今度は2人きりで話してみたいものね。
それに、彼の顔......どこかで.........
◇◇
「たでーまー」
「ゔにゃあっ!」
「うわっ! 何さ何さ」
「ぅゔー...!」
「?......あ、しょうゆの昼飯...まだだったな......」
「に"ゃあ"!!」
「痛ったぁ!!」
こういう挿絵って二次創作的に大丈夫なんですかね...。
大丈夫そうなら続けるしダメそうならこれきりかもです。
あ、読んだ感想とか貰えると嬉しいです(o^^o)