- 配信日:2022.01.04
- 更新日:2022.04.07
オープンイノベーション Open with Linkers
オープンイノベーション事例 ~ 大阪ガスの成功事例を徹底解説 〜
この記事は、リンカーズ株式会社が主催したウェビナー「実践的オープンイノベーション」を書き起こしたものです。
該当のウェビナーでは、リンカーズ株式会社 Open Innovation Evangelist 、一般社団法人 Japan Innovation Network 常務理事の松本 毅 氏に「大阪ガスのオープンイノベーションの実例」についてお話いただきました。
松本 毅 氏
リンカーズ株式会社 オープンイノベーション・エバンジェリスト
元 大阪ガス株式会社 オープンイノベーション室長
一般社団法人 Japan Innovation Network 常務理事
◆ 目次
・ オープンイノベーションを日本で成功させるための 3 つの要素
・ オープンイノベーションの「インバウンド型」と「アウトバウンド型」
・ オープンイノベーション室の役割
・ オープンイノベーションの実現に重要な4つの枠組み
・ イノベーション推進リーダーがやるべきこと
・ オープンイノベーション実践のための予算確保の重要性
・ オープンイノベーションの自前主義はやめる
・ オープンイノベーションで上流から下流への全過程を実施
・ オープンイノベーションの「見える化」の重要性
・ 保有する技術のビジネス化
・ 「 新規テーマの創出」
・ 大阪ガスのオープンイノベーションの活用事例
・ 大阪ガスのオープンイノベーションの成果
日本のオープンイノベーションの課題
私は、「オープンイノベーション」の普及活動についてはリンカーズを通じて実施していますが、 Japan Innovation Network ( JIN ) では ISO 56002 / ISO 56000 シリーズ であるイノベーション・マネジメントシステム( IMS )の、導入・普及を図っております。
その為に IMSAP (イノベーション・マネジメントシステムアクセラレーションプログラム)のサービスを提供しています。ISO 化(国際標準化)された イノベーション・マネジメントシステム( IMS )には、オープンイノベーションにも共通する部分があります。
日本における現在のオープンイノベーションの課題は、スマホに例えるなら「最新のアプリに飛びつくものの、全く成果が出ない」状況と言えます。
これはアプリに課題があるのではなく、スマホの OS が古い。古い OS では最新のアプリを導入しても成果が出ないという問題です。
OS に相当する部分のアップデートに世界が合意した最新のイノベーション・マネジメントシステムを導入する必要があります。 Japan Innovation Network( JIN )の西口代表理事の作成した「日本のオープンイノベーションの現状課題~古い OS に最新のアプリを導入 成果が出ない」は現在の日本のイノベーション、オープンイノベーションの状況を上手く表現しています。
例えば最近の流行ですと、「出島」を作っている企業が多いようです。しかし「御社は何の目的で出島を作ったのですか?」と質問すると、なかなか答えが返ってきません。
このようなことからも、私は「これからは目的のないオープンイノベーションはやめましょう」ということを企業に伝える活動をしております。
そしてオープンイノベーションで成功確率の高い仕組みを作りが必要だとも伝え続けています。
それには 2019 年に世界で初めて国際標準化がなされた ISO 56002 / ISO 56000 シリーズであるイノベーション・マネジメントシステム( IMS )に則してオープンイノベーションの仕組みを創り、活動することが大切です。
オープンイノベーションは試行錯誤のプロセスに則って行う
オープンイノベーションも、上記の図にある試行錯誤のプロセスに則して実践するできだと私は思っています。
つまり「どういうイノベーションによって、どういう価値を生み出すか」という目的を明確にしながら、「機会をしっかり特定する。」
つまり新たなテーマを設定するということです。
テーマについては「コンセプトを創造する」こと、ここではビジネスモデルをしっかり描くことが大切です。
また「コンセプトの検証」が重要です。
これは検証せずに「ソリューションの開発・導入」をして失敗するケースが多いからです。これらのプロセスを行ったり来たりの試行錯誤をしっかりやるべきだと私は考えます。
「イノベーターの活動」を支えるためには、「組織の状況」をしっかりと把握して全体をマネジメントする「リーダーシップ」とイノベーターを支援する「支援体制」があることが必要です。
私はオープンイノベーション推進には「支援体制」が最も大事だと思っています。
この役割を果たすのがオープンイノベーション推進者であったり、オープンイノベーション室であったりします。全体をしっかりマネジメントできる組織体制ができていないと、いくら仕組みを作っても起動しないのです。
オープンイノベーションを日本で成功させるための 3 つの要素
日本でオープンイノベーションを成功させるには、3 つの要素が必要です。
【オープンイノベーションを成功させるには、3 つの要素】
・トップの本気のコミットメント
・イノベーション推進チーム/機能
・現場のやる気
まず「トップの本気のコミットメント」。
それを引っ張り出すのがミドルの役割で、「イノベーション推進チーム・機能」が当てはまります。
ミドルの頑張りが、日本のオープンイノベーションには重要なのです。トップを説得して,“本気のトップダウン”に持ち込むこと。
しかしこの 2 つだけでは成功しません。
もう 1 つ「現場のやる気」も当然必要です。
現場の技術者や研究者の“意識改革”もミドルの役割です。
日本に必要な事は,本気のトップダウンと現場のやる気を引き出せるミドルの存在です。ミドル・トップ & ダウンこそ日本で成功する「オープンイノベーション」推進だと考えます。
トップの本気のコミットメント:ミドルの創意工夫によって導き出す
私がオープンイノベーションを始めた当時、尾崎社長から「イノベーションの仕組み・システムを創れ」というこの言葉を頂きました。
その背景には、一冊の本が関わっています。「ゲームの変革者(ゲーム・チェンジャー)」という本です。筆者のラフリーさんというのは、P&G の CEO に就任した 2000 年にクローズドイノベーションからオープンイノベーションに見事シフトさせた方で、その変遷を本書に書いています。
私は尾崎社長の秘書を通じて、この本を読んでもらいました。さらに尾崎社長だけでなく役員たちや部門長たちにも、その後出版された「オープン・イノベーションの教科書」を読んでもらいました。
トップの本気のコミットメントを引き出すには、ミドルがこういった創意工夫をしながら「オープンイノベーションがなぜ大事なのか」「我が社になぜ必要であるか」ということを伝える必要があるのです。私はトップを説得しようとこの本を読んでもらいましたが、説得する方法は様々です。
尾崎社長が 2009 年に 新たな経営ビジョン「 Field of dreams 」 を発信し、私に「オープンイノベーション室を作れ」と言ったのが 2010 年 4 月。その 7 月には全社員に「ゲーム・チェンジャーになれ」と言いました。この本を読んでもらったことがかなり効果的だったように感じます。
「イノベーション推進チーム・機能」: オープンイノベーションに乗り出すまで
私がオープンイノベーションをなぜ始めたかというと、 2008 年に社長に就任した尾崎裕社長が、新しい経営ビジョン( Field of Dreams )で「これから大阪ガスはオープンイノベーションにより迅速で効率的な技術開発を行う」という宣言を出したことがきっかけです。
当時、尾崎社長は私にこう言いました。
「エネルギー競争激化の中で、大阪ガスにイノベーションが全く興っていない」
「仕組み、システムがないからだ」
「イノベーションが興る仕組みを作れ」
そこで私は、オープンイノベーションの仕組み作りに専念し始めました。それについては、後に触れさせていただきます。
「現場のやる気」:プロセスを評価し挑戦する風土を高める
2009 年 6 月に尾崎社長は、ある雑誌のインタビューで「プロセスを評価し、挑戦する風土をもっと高めたい。社員がどれだけチャレンジしたかを評価したい」と答えていました。
イノベーションの議論の中で「新事業をやる時に、どこまでリスクが認められるのか」という話題が非常に多いです。しかし当時の尾崎社長は、プロセスをしっかり踏んでいれば、大きなリスクを取ってでもチャレンジするべきだと言っていました。
実際、アメリカのシェールガスの初期のプロジェクトで大きなの損失を出しても果敢にチャレンジしたことを社長が高く評価しました。これにより若手のプロジェクトメンバーは奮起して、その後大成功したという事例もあります。
オープンイノベーションの「インバウンド型」と「アウトバウンド型」
大阪ガスのオープンイノベーションにおいて、私は Henry Chesbrough (ヘンリー・チェスブロウ)が提唱した「インバウンド型」「アウトバウンド型」 2 つの流れを取りたいと考えていました。
(下に続く)
【参考】
チェスブロウが提唱したオープンイノベーションについての話は、リンカーズが掲載している「オープンイノベーションとは? ~ 技術の価値を最大化する事業開発 ~」の記事をぜひ参照してください。
まずはインバウンド型から始めて、後にアウトバウンド型も実践するという流れです。
インバウンド型というのは、徹底して外部のアイデアと技術を活用するという手法です。
これを実現するには、社内のほぼ全ての技術者・研究者が抱えている課題やニーズを掘り起こす必要があると考えました。そうしなければ、外部のパートナーも真剣にシーズを提案してくれず、成功確率が高まらないと予想したからです。
徹底的なニーズの掘り起こしのために行ったのが大阪ガスの有名な「キャラバン制度」です。キャラバン制度については後述します。
その後、アウトバウンド型を実践。大阪ガスの強い技術を外部に思い切って公開することにより、新しい外部のパートナーと新しい事業創造を行うという 2 つの流れを作りました。
オープンイノベーションのプラットフォーム作りを開始
社外のパートナーと新しい事業創造をするには、掘り起こされたニーズに対するシーズを探す強み、つまりプラットフォームがないと実現は難しいでしょう。
そこで私は膨大オープンイノベーションのプラットフォーム作りを始めました。
大学、大手・中堅企業、公的研究機関、海外、ベンチャー、中小企業との強靭なネットワークを作るのに相当な労力をかけました。これができたのは、私が大阪ガスの人事部門の子会社で立ち上げた、 MOT ( Management of Technology 「技術経営」: 技術力をベースにし、研究開発の成果を商品・事業に結び付け、経済的な価値を実践的につけること)の教育ビジネスに関わる講師の方々が、様々なシーズを紹介してくれたからです。
しかしこれでは俗人的になってしまいます。そのような経験値がない方が同じようなプラットフォームをゼロから作るのは難しいと思います。
そこで大阪ガスは 2014 年からリンカーズの活用を始めました。
リンカーズが持っているプラットフォームをフル活用し、リンカーズの強みをうまく分析しながら課題・ニーズに最適なプログラムを活用する。
このようにしてオープンイノベションを自前主義でやるのではなく、オープンイノベーションの活動こそオープンイノベーションでやるという方針に大きく切り替えたのです。