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アルバイトを店長が自腹で…「くら寿司」労基法違反の疑い

「週刊文春」編集部

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「実は、バイト代とは別に、店長からポケットマネーを渡されて働いたことがあります。当時は『会社には内緒だぞ』と言われたのですが、今思うとあれは……」(元アルバイト・Aさん)

 小誌が4月28日号で報じた山梨県甲府市にある「無添くら寿司」の店長・中村良介さん(仮名、享年39)の焼身自殺。その後、数々の告発が寄せられ、パワハラなど同社の過酷な労働環境の実態が明るみに出つつある。

中村店長は車に乗って自ら火を放った

 くら寿司は東証プライム上場の一大回転寿司チェーン。組織の中で特に弱い立場に置かれているのが非正規雇用のアルバイトだ。

 

 高校時代から3年間、広島県の店舗でバイトをしていたのが冒頭のAさんだ。

「17歳の時にはバイトの統括リーダーになっていたので、店長不在時の現場責任者を任されていました。多忙を極め、23時を超えて勤務していたこともあります」(Aさん)

 そんなAさんが明かす。

「2015年、高校2年の春頃でした。その日は9時〜17時のシフト。退勤時刻の直前、店長に呼ばれて3000円を渡され、『あと3時間だけ雇われてくれ』と頼まれた。私の時給は900円。100円高い金額を提示されたので、残業することにしたのですが、勤務時間は10時間を超えました」

 自らも会社に雇用されている店長が自腹を切ってバイトに給料を支払う――ノルマ達成のため自社商品を購入する“自爆営業”ならぬ“自爆雇用”と言える行為だが、同様のケースは全国の複数の店舗でもあった。

 13年から21年末まで群馬県の店舗でバイトをしていたBさんが明かす。

「バイトを始めた当初は専門学生でした。親の扶養から外れないよう、年収が103万円を超えないシフトで希望を出していたんです」

 15年10月頃、Bさんは年収を調整するため出勤を控えていた。すると、店長からこう頼まれたという。

「僕が君を雇うから、シフトに入ってくれないか?」

 Bさんが振り返る。

「103万円を超える分は自腹で払う。コッソリ働いてくれ、と。断りきれずに応じてしまいました。通常の勤怠管理はしていません。勤務日と時間を紙に書いて店長に渡し、1万2000円を受け取りました。複数のバイトが店長のポケットマネーで働いていました」

 労働事件に詳しい旬報法律事務所の佐々木亮弁護士はこう指摘する。

「店長の“自爆雇用”を会社が黙認していたとすればかなり悪質。『知らなかった』では済まされません。店舗に適切な人員配置がなされていない証拠です。

(Aさんについて)18歳未満の未成年者を22時以降に勤務させること、一日8時間・週40時間以上働かせることは労働基準法に明確に違反しています」

 なぜ身銭を切るのか。

 ある店長経験者は「『人件費を抑えろ』という会社からの圧が強く、店舗が慢性的な人手不足に陥っているから」と説明する。

 くら寿司の店舗数は567。それに対して従業員数は1万8524(21年10月末時点)。同じ規模の他社と比較すると、「スシロー」は店舗数626に対し、従業員数は4万7869(同年9月末時点)。「はま寿司」は店舗数530に対し、従業員数は3万5157(同年3月末時点)。つまり、くら寿司は競合2社の約半数の人員で店舗を運営していることになる。

創業者の田中邦彦社長(くら寿司HPより)

 前出の店長経験者が語る。

「人手不足を上司に相談しても怒られるだけ。だから自腹でバイトを雇う。他店の“応援”を呼べば交通費も立て替える。店長の年収は手取りで430万円程度。ギリギリの生活です」

 くら寿司本社に店長の“自爆雇用”について聞くと、〈これまでにご照会のような事項に関する当社への情報提供や通報等はございません〉〈店長個人としてのアルバイトの採用等の権限も義務もありません〉などと回答した。

 くら寿司は22年10月期の連結純利益が前期比51%増の28億円になる見通しと発表している。

source : 週刊文春 2022年5月26日号

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